第1話
どこまでも青く澄み切った空。
窓から吹き込む優しい。
太陽の光は優しく大地を照らし、植物達は一斉に空へと向けて咲き誇る。
洗濯物を干すにもこれ以上ないぐらいの日である。
ああ、こんなにも良い天気だというのに自分は
カリカリカリカリカリカリ
自分は
カリカリカリカリカリカリカリ
自分は――
カリカリカリ――バキンっ!
「うぎゃぁ! もうやだぁ」
本棚で埋まる小さな部屋の机に齧り付き、黙々と書類を書き上げていた果竪はとうとう切れた。
「朝から晩まで書類書き! どんだけ書けば終るのよぉっ!」
その大絶叫に、必要な書物を運んでいた蓮璋は、思わず手に持っていた書物を落としてしまった。
バサバサと散らばった書物。
掃除が行き届いていない床から埃が舞い上がる。
「か、果竪ごほごほっ!」
咳き込みながら、蓮璋が果竪の後ろにある扉を開け放ち換気する。
新鮮な空気と入れ替わるようにして、埃が外に出て行き、ようやく一息つく。
蓮璋はいまだ暴れる果竪に申し訳なさそうに告げた。
「すいません、オレ達のせいで……」
そもそも果竪がこうして苦労するのは自分達のせい。
果竪には本当に謝っても謝り足りないぐらいである。
が、蓮璋の様子に果竪が慌てて首を横に振った。
「って違うってば! 蓮璋のせいじゃなくて、私の頭の悪さに腹が立ってるのよ」
「頭の悪さって……」
頭の善し悪しの問題だろうか?
しかし、果竪は胸を張って言った。
「これよりもかなり多い量の書類を宰相達はいつも一,二時間で完成させてるもん。なのにそれより少ないのに、まだこんだけしか進まないって……はぁ~~」
項垂れる果竪。
そんな彼女の前に積まれた書類は一㍍もの高さがある。
ってか、元々はその三倍以上の量があったのを、この三日で三分の一に減らした方が凄い。
「うぅ~~、いくら必要だからって、私の脳味噌を見てから言ってよね~~」
そう言いながら、果竪は今書いている書類を見る。
そこの一番上に書かれている文章は
凪国北方八州が一つ、鶯州の領主に関する鉱山事件について
それは、先日果竪が巻き込まれた事件の報告書だった。
今から二週間前。
果竪は王宮に戻るや否や、すぐに正規の手続きを踏み、凪国北方八州の一つ――鶯州の領主に関する悪事について報告した。
凪国は、そもそも中央の王都を中心に東西南北それぞれで八つの州ごとに別れている。
中央を除いて、合計三十二州からなる。鶯州はそのうち、北方八州に属する州で、その中では上位の方に入る領地の広さを持っている。
王宮でも、ある程度の発言件を有しており、そんな大領主が今回のような事を引き起こしたとあっては王宮側も黙ってはいられなかった。
純粋に驚く者、すぐに事態の収拾に努めようとする者も居たが、中には果竪の言う事が嘘ではないかと疑う者も居た。
果竪は王妃としてではなく、一国民として証言に立った。
そうして、数々の質問に的確に答え、どんなに意地の悪い質問に対しても冷静さを無くさず最後まで礼節を保ち相手を論破した。
特に、今は凪国の建国祭があるのだから後回しにするべきだという官吏には厳しい表情でこう告げた。
『今回被害にあった人達の中には二十年ものの間、苦痛と屈辱と恐怖を味わせられてきた人達がいます。その人達は、必死に生きながらこの苦しい時が一分一秒でも早く終る事を願い今日まで生きてきました。そんな人達にもう少し待てと言うのですか?建国祭が終るまで、その不安定な立ち位置のままに居ろと?』
たじろぐ相手に、果竪はさらに続けた。
『官吏は何の為にいるのですか? 建国祭も確かに大切な行事の一つです。ですが、それよりも今は何をしなければならないのか分かりませんか?今まで苦しんで来た人達を一刻でも早く救済し、もう苦しまなくて良いことを告げ、しっかりとした保護を与えるべきです!!』
今こうしている間にも、蓮璋達の権利は奪われ続けているのだ。
直接の脅威は去ったとはいえ、今まで苦しめられ奪われてきた権利はすぐには回復しない。
何よりも奪われ死んでいった人達は生き返らない。
その人達の権利の回復も早くしなければ。
せめてそれぐらいしか出来ないから。
そして今生き残っている人達に一刻も早く安心出来る場所を提供する必要がある。
果竪は並み居る官吏達を退け、見事に蓮璋達の自由と権利を勝ち取った。
勿論、それは果竪だけの力ではない。
今まで集めた証拠は蓮璋達の協力があっての事だし、証言には蓮璋を初めとして集落の者達や、新しい鉱山で働かされていた人達が精一杯頑張ってくれた。
更には、官吏達の多くはこの件に同情的であり、すぐに蓮璋達の権利と自由を回復するべく動いてくれた。
おかげで、本来ならば数ヶ月は必要とする今回の件は、官吏達の不眠不休の頑張りにより、わずか十日ほどで決着がついてしまったのだった。
しかし――実際に今後の救済を行うには面倒な手続きがあり、それらを申請するには多くの書類が必要となる。
今の所は仮申請という事で救済自体は行われているが、本申請とするべく、果竪が書類を書く羽目となったのだった。
そうして冒頭の叫びに戻る。
仮申請された三日前。
それから三日間ずっと本申請の為に書類を書き続けている。
正規の手続きを待っていれば時間がかかりすぎると、仮申請だけでも救済を初めてくれているのだから文句は言えない。
しかし、それにしてもこの量は多すぎる。
「オレも手伝えたらいいんですが……」
「蓮璋にも書かなきゃならないのがあるから手伝わなくて大丈夫です」
蓮璋にも、今後荒らされた領地を復興するための手続きを行わなければならない。
それに――
「私としては、次の領主は間違いなく蓮璋だと思うのよね」
現領主が死に、それに近しい者達も皆死んでしまい現在は鶯州の領主は不在となっている。
よって、次期に新しい領主が任命されるだろう。
その候補として、蓮璋の名があがっている事を果竪は知っていた。
蓮璋ならば、集落の者達も不満はないだろうし、寧ろ万々歳だろう。
きっと良い領主になる筈だ。
そして果竪の予想では、その任命が近日中行われると見ている。
たぶん、今書いている書類を出し終わり、今回の件について一区切りついた頃にでも――
「買いかぶりだと思うんですが……」
「何を言うのよ! 蓮璋ほど領主に相応しい人はいないわっ」
集落の人達を思い、その苦しみから解放する為に傷だらけになりながら証拠を見つけた。
それまでも、ずっと集落の人達を纏め上げ、励ましてきた。
これほど、民を思う人はいない。
「それに、何も才能だけで言ってるんじゃないわ」
「え?」
「蓮璋は知っているから――大切な者を奪われる苦しみを」
幸せな日常が個人の欲望によってめちゃくちゃにされる苦しみを知っているから
「そこで受けた苦しみ、悲しみ、怒り………もう二度と経験したくないほどの辛さ。それを経験した蓮璋なら、きっと前領主みたいな事はしない」
「………………」
「奪われる苦しみを、虐げられる屈辱を蓮璋は知っている。そして自分がされたからと言って同じ事をするような人じゃない。それどころか、それを知っているからこそ、同じような事をしないように自分を律する人だと思ってる」
「果竪……」
「勿論、領主に……人の上に立つという事は大変な事だと思う。もの凄い重責だと思う。一人では立てないほど苦しい時だってあるかもしれない」
でもね――と果竪は笑った。
「その時は、助けるから」
蓮璋が驚きに目を見開く。
「だから何時でも助けを求めて。私でも、他の人にでも。――ああ、勿論私も蓮璋を助けられるように毎日勉強するからね」
「果竪……」
「という事で、領主になったらまず第一の仕事は人を育てる、これしかないわね」
「え?」
「だから、一人で立てなくなった時に支えてくれるような人を育てるの。自分が信頼出来るような人を。あ、イエスマンは駄目だからね。自分が間違った時に『それは間違ってます!』ってビシって言ってくれる人。これすっごく重要だから」
「難しい事を言いますね……」
「難しいけど、そんな人が一人でもいると結構違うよ。私にもいるし」
「明燐ですか?」
「明燐もそうだね。他にも沢山いるよ。だから、私もその人達が間違ってたら止めるって決めてるの」
互いに支え合い、間違っていれば止める。
「支える時は、それこそ最後まで味方になるつもりでね――」
たとえ全てを敵に回そうとも、もしその相手が間違った事をしてないのならば自分は最後まで味方でいるつもりだ。
「――っていっても、もう私は王妃を辞めるから……この王宮では無理だけどね」
「果竪――」
果竪の言葉に冷や水を浴びせられたような感覚を受けた。
そうだ――果竪はずっと言っていた。
王妃を辞めるのだと。
蓮璋は寒気を覚える。
果竪ほど素晴らしい王妃は居ないだろう。
それは、集落の者達や新しい鉱山で虐げられていた者達も同じ思いだろう。
自分達の為に必死に官吏達に立ち向かってくれた果竪。
誰よりも民思いで、民の立場に立ってくれた。
今回、果竪が王妃として聞く側ではなく、一国民として自分達側に立ってくれたのもそうだ。
共に見聞きし、潜り抜けてきた今回の事件を上からではなく、同じ位置に立って官吏達へと訴えてくれた。
同じ事が出来る人がどれほどいるだろうか?
それこそ、甘やかされた貴族の姫君ならば不可能に近いだろう。
教養高く信念を持った姫君でさえ難しいのだ。
果竪が王妃ではなくなる
それは悪夢と同様だった。
しかし――
――王妃で居続けて欲しいとは言えない
夫である王には既に愛妾が居る。
未だその姿は見てないが、それはそれは大切にしている事が噂で聞こえてきた。
それこそ、暇を見つけては常に一緒に居るという。勿論、夜も一緒だ。
それほど深い寵愛を愛妾へと向けている。
愛妾は既に寵姫と呼ばれ、王宮内では一目どころか百目は置かれる存在となっているのだった。
そもそも、この炎水界の王族の後宮では、暗黒大戦以前と同じく、正妻である皇后や王妃を筆頭に、正妻以外の妻にはそれぞれ位がつけられていた。
上から、四夫人(貴妃、淑妃、徳妃、賢妃)、九嬪(昭儀、昭容、昭媛、修儀、修容、修媛、充儀、充容、充媛)、二十七世婦(婕妤、美人、才人)、八十一御妻(宝林、御女、采女)となっている。
勿論、下克上に昇進降格もあり、その位は王の寵愛によって大きく変わる。
しかし、実際には妃の家柄なども大きく左右する為、下の者は中々上に上がる事は困難だった。
だが、王も男。愛しい女性を何かと特別扱いしたのが本音である。
それ故に、これも大戦以前と同じだが、上記のような地位とは別に、寵愛の深さによって新たな地位が授けられるのである。
すなわち、寵后、寵妃、寵姫と――。
正妻では寵愛されている順から寵后、正妃。
側室では、寵妃、側妃。
そして妾に関しては一番上が寵姫、続いて愛妾、妾となっている。
故に、正妃でも寵愛が深ければ寵后、側室の中で一番位が低くても寵愛が深ければ寵妃、妾の中でも一番寵愛が高ければ寵姫――と呼ばれるのである。
たとえ、側室や妾内の地位がどうであろうとも……。
後宮内で最も下層である采女だとしても、寵愛が深ければ寵妃と呼ばれるのだ。
因みに、最も寵愛から遠い妃には捨后と呼ばれる忌み名もあるが、これは滅多に呼ばれる事はない。
妾ではあるが、寵姫と呼ばれているのだから、愛妾への寵愛の深さは凄まじいものがあるのだろう。
それどころか、まるで寵姫こそが王妃だと言わんばかりの扱いだとさえ耳にしている。
誰もが大切にし、真綿にくるむようにして接している。
一方、果竪は蓮璋達と同じく王宮の外れにある離宮にて寝泊まりしていた。
王妃にそんな事はさせられないと何度言っても、果竪は聞き入れずに自分達と同じ物を食べ、同じ物を来て同じ所で寝ている。
これでは、どちらが王妃だかわかりゃしない。
いや、寧ろ寵姫の方が王妃だと言っても誰も疑わないだろう。
――この世のものとは思えない美しさだって話ですからね……
男としてはちょっと見てみたい気もするが、相手が果竪にとっては憎んでも憎み足りない夫を奪った相手ともなればそんな事は言ってられない。
どうこうするといった気はないが、好きこのんでまで見る気はしなかった。
「王妃を辞めたら自由の身~~遊んで暮らしてもうハッピ~~」
歌いながら書類書きを再開する果竪に思わず脱力した。
こちらにとっては一大事、国にとっても一大事だというのに、果竪にとってはそうでもないらしい。
それもそうだろう。果竪にとっては一刻も早く王妃を辞めてしまいたいのだから。
王妃でなくなった果竪は一体どうするのだろう?
そこまで考え、蓮璋はフッと自嘲した。
どうするもこうするも、きっとどこかの空き地を開墾して立派な大根畑を開くに決まってる。
そして大根を沢山収穫して何処かの大根市場を乗っ取って大根の教祖に――
止めないとっ!!
健全な大根農家の人達の為にも果竪を止めなければならない。
蓮璋は強い使命感に燃えた。
「はぁ~~、この悪い頭が憎らしい~」
それでも書類を書く手を止めない果竪。
「ルル~~ララ~~」
「果竪って器用ですよね」
歌いながらカリカリと書類を書くなんて器用な芸当は自分には難しい。
しかも誤字脱字一切なし!!
「昔、思いきり鍛えられたから」
王妃だからと言って遊んでは居られなかった。
それこそ、宰相を始め皆がどんどん仕事を果竪へと押しつけてきた。
こんな馬鹿な子にやらせるなよと騒ぎつつ、それでも必死に辞書やら書物やらをめくって書類をかけば、誤字脱字が多いと突っ返された。
誤字脱字なし、字は綺麗に、きちんとした文章で
書類は相手に見せるものであって自分のメモではない
客観的に書けと煩く言われながら、時には泣きながら書き直しをさせられた。
王妃として即位してからずっとやってきたから……
「書類書きだけで数百年か……」
それだけ書いてりゃ少しはマシになると言うものだ。
「………凄いですね」
本当に、深窓の姫君とは違う。
正しくたたき上げられた王妃である。
にしても――宰相閣下達が……
「あ~~、早く大根の栽培したいなぁ~~」
果竪は暫く会っていない大根を思い浮かべる。
ああ大根
愛しい大根
私の心の恋人にして心の友
彼は私の事を忘れてしまっただろうか?
いや、忘れるはずがない
これだけ尽くしているのだからっ!!
「そう、私と大根の仲は誰にも裂けないわっ!」
一人で悲しんで、一人で奮起する。
それも大根の為に――蓮璋は口元がひきつるのを抑えられなかった。
「けど、本当に早く書き上げないとね――後、長くて二日」
そう言うと、果竪が表情を引き締める。
二日――
「いえ、そんなに早くは」
この書類量を見れば無理だと思う。
しかし、果竪は首をよこに振った。
「やらなきゃ駄目だよ。でないと、いつまでたっても建国祭が出来ないし」
建国祭。
この国で大きな行事の一つであり、果竪達が帰って来た日に始まる予定だった。
しかし、果竪の報告によって建国祭は開始延期となり浮いたままの存在となっている。
何故中止ではなく延期にしたのか?
蓮璋は疑問に思っていた事を質問してみた。
すると、答えは意なものだった。
「みんなが楽しみにしてるからよ」
国民みんなが楽しみにしていた行事。
それを潰すのは忍びない。
そう告げる果竪に、蓮璋は言葉を失う。
「蓮璋達の事が最優先なのは事実。でも、建国祭も大切な行事なの。この日の為に頑張って準備してきた人達がいる、この日を楽しみにしていた人達がいる。そしてなによりもこの日は一番お金が動く日でもある」
「お金――?」
「ええ。こういう行事って、一番お金が動くの。まず楽しい行事って事でみんなのお財布の紐は緩くなるし、装飾品や飲食店にも沢山お客が入る。店の方は沢山のお客を獲得する為に頑張って競いあうわ。そうすると国自体が活気づく。勿論、他国からの観光客だっているし、そうなると経済は豊かになっていくわ。みんなが沢山お金を使ってくれれば、お金の流れは大きくなり、国自体が潤う。そうすれば民に還元するものも多くつくられる」
果竪の言葉に目から鱗が落ちるような思いだった。
所謂、公共事業の一環のようなものだろう。
国が不景気になれば公共事業を行うのが一番手っ取り早い。
仕事を増やす為に。建国祭ともなれば多くの客が来る。
それらを狙って店は自分達の商品に磨きをかけ、客はそれにお金を掛ける。
そうする事でお金が勢いよく周り、ひいては経済を豊かにさせていく。
だが、それ以上に民達はこの祭りを楽しみにしているだろう。
凪国の建国祭は他国でも有名になるぐらい大きい祭りである。
「まあ……大変な思いをしてきた蓮璋達にはなんだそれ――って思うかも知れないけど……でも、他の人達も凄く楽しみにしてきたのだから、中止だけはしたくないの」
このお祭りに人生をかけている者だっているかもしれない。
それを突然中止にするのは果竪もしたくはなかった。
「そんな事……気にしなくていいですよ」
「蓮璋……」
「オレ達も思いきり楽しみにますから――さっさと自由を勝ち取って」
せっかく王都にいるのだから
笑顔を浮かべる蓮璋に、果竪も微笑む。
「うん、頑張ってさっさと楽しもうね」
その時だ。
コンコンと控えめに扉が外からノックされる。
「どうぞ~~」
果竪が声を掛けると、カチャリと扉が開く。
入って来たのは蛍花だった。
その手に、食事の載ったお盆を持っていた。
「そろそろ昼食にしませんか?」
「わ~~い! ご飯作ってくれたの?!」
「はい、他の集落の皆さんと」
「美味しそう~! よし、先に食べちゃおう!」
そう言うと、果竪は机の上を急いで片付ける。
蓮璋も手伝い、書類を安全な場所へと置き直した。
広くはない小さなの机の上に蛍花が食事を置いていく。
「きゃああ! 大根が沢山っ!」
「果竪が――いえ、王妃様が大根が好きだって聞いたから」
果竪と親しげに呼んだ瞬間、慌てて言い直す蛍花に果竪は頬を河豚のように膨らませた。
「果竪だってば」
「い、いえ、そんな」
今となっては蛍花も果竪がこの国の王妃である事は既に知っていた。
勿論、最初はまさかこの人が王妃?!と心底驚いた蛍花だったが、蓮璋達の説明もあり、果竪がどうして王妃でありながら自分と知り合う事が出来たのかを知った。
と同時に、自分がいかに不敬であったかを思い知り、ちょっとしたパニックとなった。
それこそ、そこに刃物があればすぐに自害しかねなかった。
が、そんな蛍花に果竪は王妃といっても、それはあと少しの事であり、もうすぐ王妃でなくなるのだからと告げ、今までどおりの対応を望んだ。
その説明に困惑した蛍花だったが、蓮璋から国王と王妃の仲を説明され、また王宮に来て以来聞こえてくる王と寵姫の噂から、静かに納得したのだった。
自分は果竪の味方で居る――最後まで
そう新たに決心した。
しかし――いくら王妃を辞めるからといっても、現在は王妃である。
やはり呼び捨ては難しい。
だが、それを伝えても果竪は納得しない。
それどころか――
「王妃の証も返しちゃったから、実際には既に王妃じゃないんだけどね」
そんな爆弾発言さえしてくれた。
蓮璋は既に諦めており何も言わない。
まあ、確かに果竪を止められるのは自分達では無理だろう。
だから――蛍花は諦めたように微笑んだ。
「分かりました――果竪」
「うんうん、それで良いそれで良い」
苦しゅうないと、どこの殿様だよと突っ込みたくなるような仕草でケラケラと笑う果竪に、蛍花と蓮璋も苦笑するしかなかった。
「ご飯を食べたら残りの書類も書き上げなきゃね」
「そうですね――急ぎましょう」
「私もお手伝いします」
蛍花の言葉に、果竪は嬉しそうに頷いた。
そうして始まった楽しい昼食だったが、ふと蓮璋が食事の手を止めて呟いた。
「そういえば……彼女は来ませんね」
「ん?」
「明燐ですよ」
王妃の侍女長にして、果竪の友人でもある明燐。
果竪を大切にしていた筈の彼女は、果竪が帰ってきてから一度も姿を現さなかった。
無事でいるのか、今どうしているのか、何の情報も伝わってこない。
「元気でいるわよ」
何せ、兄は宰相。
蓮璋達は今の所その事実を知らないが、あの妹大事の兄が明燐を真綿にくるむようにして大切にしているだろう。それこそ、一国の姫君よりも上の扱いをしているかもしれない。
それに、明燐は王宮の者達からも人気が高く、多くの者達から慕われている。
自ら明燐の世話をする者達がひっきりなしで続出しているだろう。
「まあ、そのうち会えるよ――蓮璋には残念かもしれないけど」
「い、いえ、オレは」
「あらあら、蓮璋様は明燐という人と何やらあるんですか?」
「それがね~」
「果竪っ!」
「大丈夫、もし会えなさそうでも私がきちんと会わせてあげるから」
「果竪………」
もう好きにして下さいと言うように項垂れる蓮璋に、蛍花が楽しそうに笑う。
そんな二人を果竪は幸せそうに見つめていた。
後ろから長く艶やかな髪を櫛ですきながら、明燐は寵姫である少女に微笑みかける。
「本当に綺麗な御髪ですわ――」
さらさらと流れる髪は櫛を通す必要がないほど。
手触りも色艶も極上ものだった。
肌は化粧など全く必要ないほどに染み一つなく、処女雪のような白さと絹の如き滑らかさ、そして瑞々しい張りを持っている。
「さあ、できましたわ――」
髪を綺麗に結わえて、特注の髪飾りをつける。
色取り取りの宝石で作られたそれは、つける者によっては軽薄な感じさえするが、この寵姫がつければ神秘的で触れがたいものへと変化する。
纏う衣装もやはり特注で、紫を基調としたそれは寵姫の美貌をより美しく映えさせていた。
誰もが息する事すら忘れる幻想的なまでの美しき寵姫がそこには居た。
しかし、鏡の中に映り込む自分の姿に寵姫は何も言わない。
ただ黙ってぼんやりとその姿を見つめている。
「さあ、陛下に見せましょうね」
明燐が促すと、その手をゆっくりと取り椅子から立ち上がった。
さらりと長い髪が揺れ、裾が舞い上がる。
優美としか言いようのない立ち振る舞い。
一歩足を踏み出すだけでも、まるで舞を舞っているかのような優雅さだった。
「では、参りましょう」
陛下の元へと――
はい、また果竪達が出てきました♪
王宮側は色々と暗雲立ちこめているけれど、蓮璋と蛍花という信頼出来る人をゲットしている果竪はきっと負けないでしょう!
次回から、王宮の面々も出てくる予定です。
そして――アンケートで大根が出てない理由ですが、これは大根を選べるようにしておくと、確実に大根が独走状態を突っ走る――という事で、ここは他のキャラで頑張ってくれと。
ですが、次回のアンケートでは大根もところどころに姿を現しますので、その時は清き一票をお願いします!
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