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  大根と王妃③ 作者:大雪
書き溜めの最後です♪
第18話

抑えに押さえつけられた火山が爆発するかのように、一気にあふれ出した黒いもの。

それが憎悪であり、果竪に向けられていると気付いた時には刀を突きつけていた筈の刺客が動いた。

あっと思った時には刺客は前に身体を傾けていた。
声を出す間もなかった。胴体から離れた首がゴロゴロと果竪の方へと転がる。
顔が、頭の後ろが何度も位置を変える。
そして、何度目かでようやく顔の部分が上を向いた時だった。

白く濁った瞳がカッと真っ赤に染まったかと思えば、それは醜く変貌する。
口は割け舌が延び、綺麗に切られた首から蛸の足のようなものがいくつも生える。
その足の一つが刃物へと変化する。大きく鋭い鎌。

「果竪、逃げて下さいっ」

叫ぶが果竪は苦しげに呻くだけで動こうとしない。
蓮璋は走り出す。


鎌が果竪へと向かって振り下ろされる。

果竪――

そして

肉が割かれる衝撃と共に、目の前が真っ赤に染まった。

バシャッと何かが顔にかかる。
ヌルッとした液体。

ついで、独特の臭いが鼻を突く。

前にも何度か嗅いだ臭い。
ごく最近もその臭いを嗅いだ。

段々と頭が澄んでくる。
その臭いを嗅ぐ度に、頭痛は治まり靄の掛かった思考がはっきりとしていく。

これは

この臭いは

果竪はぼんやりと手を頬に当てる。
ふと、自分の身体に何かが覆い被さっているのに気付いた。
それは全体重で自分によりかかっているせいかとても重かった。
背中に硬いものを感じ、自分が地面に倒れている事を知る。

(どうして……私、地面に倒れてるの?)

ぼんやりと考えながら、果竪は頬に当てていた手をゆっくりと目の前に翳す。

ピチャンと、垂れてきた赤い滴。
最初、それが何か分からなかった。

「え……」

手が赤い。
赤い液体が手から落ちる。

まるで血のような赤

――いや、違う

これは



でも――自分のではない。
果竪はほぼ反射的に上半身を起こした。
それに伴い、自分の上に覆い被さっていたものが胸元までずり落ちる。
重たくて、少し硬いそれ。
視線をずらし、端から端まで見て、ようやくそれが何か分かった。

「あ………あ………いや……いやぁぁぁぁぁぁっ!」

切り裂かれた背中から大量の血を流す蓮璋の姿に、果竪は悲鳴を上げた。

永い永い悲鳴が夜空に木霊し吸い込まれていく。
果竪の中に記憶が一気に蘇る。

向けられる憎悪に苦しんでいた自分。
襲いかかろうとした刺客。
蓮璋の逃げろという声を思い出す。けれど、身体は動かなかった。

間もなく空を切る音と、蓮璋が自分に覆い被さる感触を感じた。

そして肉を切り裂く音が

聞こえた

青ざめた顔、力のない身体。
ダラリと下がった手が地面を打つ。
その背中から今もあふれ出す大量の血は地面に流れるも吸い込みきれず赤い河を造る。

死という言葉が果竪の脳裏を過ぎった。
このままでは蓮璋が死んでしまう。

「れん、蓮璋、蓮璋っ!」

どれだけ揺さぶっても蓮璋は起きない。
血が流れるに従って、身体から温度が失われていくようだ。
果竪は悲鳴をあげながら蓮璋の名を呼ぶ。

「蓮璋蓮璋っ!――き、傷の手当てをしなきゃっ」

蓮璋の背中に手を当て力を込める。
だが、すぐに違和感を感じた。

「力が………弱い?」

何時もよりも力が出ない。

「どう……して?」

何度も意識を集中させるが、変化はなかった。
果竪の中に焦りが生まれる。

――どうして

自分の力は弱い。
それは分かりきっていたことだ。
一般の神に比べれば、その力は10分の一もあるかどうか。
だが、それでも大戦時中は後方支援組として仲間の治癒にも携わっていた。
大怪我は治せなかったけど、それでも切り傷ぐらいは直せた。
夫が腕に深い切り傷を負った時も、頑張って頑張って直した。

なのに、今のこの力は深い切り傷どころか浅い傷も完治させられないだろう。

どうして?どうして?どうして?

この前に術も何も使っていないから消費したとは考えられない。
いや、自分の力だけでは満足に術も発動させられない。

では――

力が落ちた?

こんな時に?!

「そんな、こんなって!!」

それでも諦めずに力を込める。
だが、血の流れは止まらない。

蓮璋――

マダイキテルノカ

ぞわりと脳裏に声が響く。
バッと顔を上げれば、それは居た。

先程自分の元に転がってきた――刺客の生首だったもの。

「お前は……」

オマイガイキテルカラコウナル

「何ですって……?」

オマエガイキテルカラ

オマエサエイナケレバ

オマエサエ

再び聞こえてくる怨嗟の声。
それに再び果竪は飲み込まれそうになる。
溢れる憎悪に果竪が悲鳴をあげる。
瞬間、腕を強く握られた。

「え?」
「か……じゅ」
「蓮璋?!」

治癒の術が聞いたのだろうか?
蓮璋の目が開いていた。

「蓮璋!待っててすぐに」
「はや……く…にげ…」

ドンッと衝撃が襲う。

「え?」

背中に当てていた自分の両腕ごと、蓮璋の背を貫く触手。
蓮璋が血を吐き、動かなくなる。

「蓮璋?」

ウルサイコバエダ

ぼんやりと視線をずらせば、生首が笑っている。
その口から出た舌が自分達を貫いた事を知った。

「蓮璋……」

コレデジャマモノハイナイ

コンドコソホウムッテクレル

「蓮璋」

グイっと舌が引き抜かれる。
吹き出した血は自分のものか、それとも蓮璋のものか。

虚ろな眼差しで、果竪は生首を見る。
ふと、生首に別のものを見た。

それは、生首に被るようにケタケタと笑う憎悪に満ちた女の姿。
美しいけれど、酷く禍々しい。そしてその笑い方が気に障る。

オマエガイナケレバコウハナラナカッタ

生首が言う。
だが、果竪は女の方を見つめていた。
自分達をあざ笑い、耳障りな笑い声を出す女。
見ているだけで腹が立つのに、何故か目がそらせない。

脳裏でもう一人の自分が囁く。

あの女は危険

危険って何?危険どころか腹立たしいぐらいだ。
杖を振り回しながら女はケタケタと笑い続ける。
そして気付く。女の唇が笑い声とは別に何か音を紡いでいることを。
そしてそれが生首から聞こえる言葉と一致している事を。

シンデシマエ

生首から聞こえる声と同じ言葉を女が紡ぐ。
ああ、あの女だ。あの女が生首を通して憎悪を向けてきているのだ。

自分達を襲った刺客も、きっとあの女が。

あの女が、蓮璋を――

サアシネ

シンデシマエオウヒ

トモニ

ヨミジヲワタレ

そうして生首が新たな攻撃を仕掛けようとした時だった。

「さない」

まるで地獄から這い出る悪鬼のような声音だった。
もし、蓮璋の意識があれば瞬時に飛び退くような禍々しい声音が果竪の唇からもたらされる。

そして――憎悪に染まった瞳と共にそれは紡がれた。

「絶対にユルサナイっ!!」

それは生首に言ったのか、ゆらりと見える女に言ったのか分からない。
だが、どちらも自分達に害を為す者。
蓮璋を傷つけたものへ果竪は憎悪の言葉を吐いた。

それまで静まりかえっていた場が一気にざわめき出す。
激しい突風が果竪を中心に生まれたかと思うと、続いて果竪達を光の帯が幾重にも取り巻く。

その帯は次第に紋様を描き、周囲に幾つもの光の柱が果竪立ちを取囲むように現れる。

目を向く生首と浮かぶ女。

アイツガ

アイツガ

アイツガ蓮璋を酷い目に遭わせた!!

果竪は憎悪で血走る瞳を見開き叫んだ。

「許さない、コロシテヤルっ!!」

その瞬間、果竪の周囲を取り巻いていた風と光が爆発するように円状に広がっていく。
突風は木々をなぎ倒し宮殿の硝子を全て破壊する。柱に罅が入り、庭に咲き乱れる花は風に浚われ蒼空へと舞う。
あちこちから悲鳴が上がり、破壊される音が響き渡った。

それは、水鏡から事を動かしていた女にも襲いかかっていた。
水鏡からあふれ出す光と風に女は悲鳴を上げる。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

光と風が女を襲う。
それに飲み込まれた瞬間、女は一際大きな絶叫を上げた。

自分の中で何かが激しく乱れる音が聞こえる。
床に転げ回り、耳を塞ごうとした女だったが何かがボトリと落ちる音が聞こえた。

「あ……」

それは自分の腕だった。

「な……なぜ…あぁ!」

身体がどんどん崩れていく。
それはあっと言う間に全身に及び、美しい容姿は見る影もなく破壊されていく。

拒絶するように悲鳴を上げ続ける女。
けれど、最後には悲鳴を上げる喉すらも崩れる。

――――様ぁぁぁぁぁ

声にならない叫びを残し、女の姿は消えた。

水を失った水鏡の器だけを残して

ユルサナイ

ユルサナイ

ピクリとも動かない蓮璋を抱き締め、荒ぶる心のままに果竪は流れに身を任せた。

誰かが何か叫んでいるのが聞こえる。
けれどもう何を言っているのか分からない。

そんなこと、もう――

――めて!!

「っ?!」

強い叫びに息を呑む。
弱まる力。弱まる風と光。
だが、すぐに力を取り戻す。

風と光は更に強さを増し、終には王宮の結界を消滅させる。

そうして果竪から放たれたそれは王宮を越え王都、そしてその周辺まで及んだ。

その日、凪国各地で異変が起きる。
他国と比べ、凪国には魔界から侵入する魔物の数は比較的少ないものの、それでも辺境の地には多く居た。
だが、それら魔物の姿が突如襲った光と風によって消滅してしまったという。

そして――王都では、刺客に襲われた王妃が意識が戻らないという報せが駆け巡るのだった。
え~~、今回で書き溜めの最後です。

とりあえず、大量放出してみました♪


誤字脱字があったら連絡よろしくお願いします。
そして、今まで誤字脱字の報告をして下さった方、どうも有り難うございます。
まだ修正をかけられていませんが、近いうちに必ず!!


そして、もし宜しければ感想を頂けると本当に励みになります♪


なるべく早くまた続きが書けるように頑張りますね♪

また、アンケートの方もありがとうございます!!



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