挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
劇的アフター 作者:本堂まいな
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

7/25

ガキ大将ストーカー被害 1

「書店で本を読んでいると、いつも後ろから手が伸びてきて、私の前の本を取って行くんだ。白いトレーナーに黒いシミが付いてる服の人。いつも同じ腕」

「それっって……ストーカーじゃないの!?顔は見たの?」

「ううん。3日目くらいに、変だなって思ったんだけど、7日目過ぎる頃には怖くなって振り向けなかった」

「そりゃ…怖いわよね…」

 自分が同じ目に遭ったら…と想像しその恐怖を共感する。

「この人、1週間以上服を洗ってないかもって………」

 しかし続く真琴の言葉に

「そこじゃないでしょっ!」

 思わず大きな声で突っ込み、注目を集めてしまった。

 中学以来の友人が、ストーカーの被害に遭っている。
 しかし本人全く危機感がない。
 そもそも、背後から連日同じ腕が伸びてくる話も、私から尋ねてそういえばという感じで話し出したのだ。

 今日は先月の真琴の誕生日を祝うために、ちょっと格式高いケーキ屋で待ち合わせした。
 始まったばかりの新生活の話をしていると、真琴の携帯が頻繁に震える。
 急用なのかと思ったが、真琴は画面を確認する様子も見せない。

「何か最近、知らない番号から頻繁に着信がある。1日50件くらい来て、どうしようかな~って思ってる」

 困ったと言いながら全く焦っていない声。
 1日50件は間違い電話にしても異常すぎる。他におかしな事がなかったかと問うと、本を読んでいると連日背後から同じ腕が伸びてくる、と。


 それって…ストーカーじゃないの。
 着信を頻繁にしてくる人間と、本屋の人間は同一人物?

 だとしたら危ない。
 携帯番号を知られていて、接触もしていると言うことだ。本屋から後をつけて住んでいる場所も知っているかもしれない。

 正体の知れない相手から付け回されていると言うのに、当の友人はケーキうまーと言いながら幸せそうな顔をしている。

 この危機感が全くない困った子は鬼塚真琴と言う。
 私と真琴の出会いは、中学校だった。私と真琴は、学区が違うのでそこが初対面になる。だから私は小学校の頃の真琴を知らなかった。

 中学で初めて見た真琴は、車椅子に乗っていて、始終不満げなぶすっとした顔をしていた。 
 新しいクラスメートと仲良く出来るように、努めて明るく振る舞う子が多い中、真琴は1人浮いていた。
 そんな真琴は、新しく友達も作れずに1人でいた。
 かといって寂しそうという感じはなく、時折来る粗野な感じの男の子たちと騒いで、益々クラスの女子から浮いていた。 

 私も真琴を遠巻きに見て、距離を掴みかけていた。外見は男の子なのに、女子の制服を着ていて、非常にアンバランスな印象だった。
 あぁ、変わった子なんだな、友達にはなれそうにないと判断した私は、真琴に近づくのをやめた。

 数ヶ月して行われた席替えで、真琴の後ろの席になった。仲の良い子の側になりたかったが、公正なるくじ引きで行われたので文句は言えない。

 友達がいない真琴は、いつも本を読んでいた。
 友達が少ない子が、時間つぶしで本を読むのは珍しくはないし、今まで気にしたことがなかった。
 けれど後ろの席になったので真琴が読んでいる本が見えてしまった。

 戦隊物の超百科。5才の男の子が読むような絵本。
 その本にはヒーローが乗る戦闘機の解説書が載っていた。

 真琴は熱心に熟読したあと、自分が乗っている車椅子を見て、何やら思案顔。
 それから真琴はノートに何かを書き出した。利き腕ではない手で書いているので、分かり辛いがおそらく、車椅子カスタマイズの図解。

 それを見た瞬間、ダメだ、この子危ないって思った。

 それから困っている時は手を貸すようになって、真琴は年よりもずっと幼いことが分かった。
 真琴の言動に驚かされることはあったけど、ヘタに染まっていないから、手を貸せばあっさりと女子中学生のやり方に馴染んだ。

 真琴はもとより影響を受けやすく、好奇心一杯で新しい事をやりたがる子だ。
 女子中学生としては当たり前のようにやってきた事も、真琴には目新しいことだった。

 活発な真琴は、自由に動けないのが不満で時折しゅんとしたような、むすっとした不機嫌な様子もあったけれど、あれは天が与えた運のように感じる。

 中学生にもなれば、男女差は歴然としてくる。
 4月生まれの真琴は、小学校の頃はその生まれの早さで成長をリードしていたが、その成長期も小学校で終わりを迎えていた。

 男の子に混じって遊んでいた真琴は、その怪我を境に私を初めとする女の子と遊ぶようになった。
 男女の体格の差や意識の差、目に見えない隔たりを感じることなく、ジレンマに陥ることなく、真琴は自然女の子にシフトした。

 女の子だからこうしなければならない、女の子だから男の子とサッカーをしない、喧嘩をしないとかではなくて、怪我をしているから出来ない。
 怪我をしているから男の子たちが仲間に入れてくれない。
 そのまま女の子とカラオケに行ったり、買い物したり、映画を見たりして遊ぶのが当たり前になって、自然に受け入れた。

 もし怪我がなければ真琴のことだ。そのまま男の子に混じって遊び、けれど限界を知ることとなっただろう。

 私は中学の頃から、服や小物のアイテムから、ヘアアレンジやメイクまでお洒落に興味があって、その頃の女子として早熟だった。
 真琴の髪をアレンジしたり、こっそりネイルをしたり、顔の手入れを教えたり、元からの素材があったのかもしれないが、真琴はどんどん女の子らしくなっていった。

 遊びの1つとして誘ったお菓子作りに、真琴はびっくりするほどのめり込んだ。
 お小遣いの全てお菓子の本や材料につぎ込み(今までは水鉄砲とか爆竹とかに使っていたらしい)料理をするような子と仲良くなるようになり、真琴の雰囲気は柔らかくなっていった。

 真琴は意図してなかっただろうけど。

 お菓子を作るのは、繊細な気遣いが必要だ。
 少しのグラムの違いでも温度の違いでも、味に出てしまう。些細な事に気付けるスキルは無意識の普段の行動にも出てきて、真琴はそういう面でも可愛い女の子になっていった。
 それは結果的に良い事だし、自分の力が大きいと自負もあるのだが、いかんせん中身が追いつかなかった。

 物事が上手く流れただけなので、真琴は自分が可愛い女の子だと言う自覚がない。

「当分本屋には行かない方が良いと思うわ。それで何かが解決するわけじゃないと思うけど一応。それからバイトは…遅くなった時は誰かに迎えに来てもらえないの?家族か…それかほら、最近帰ってきたお隣君」

「洸のこと?」

 最近の真琴からのメールは、洸という名前が出る頻度が高い。
 洸と映画を見に行った、洸と新しく出来たアウトレットに行った、洸とサクラ祭り行って屋台で色々食べた。
 専門学校で出来た友達も多少は出てくるが、洸という名の頻度は圧倒的だ。

「そのお隣君ってどんな感じの子?」

 ストーカー解決の糸口を探して行き詰った私は、頼りになるのかとそのお隣君に探りを入れた。

「洸?洸は…あ、写真があるよ」

 真琴はごそごそと手帳を漁り、一枚の写真を取り出した。
 その写真には元気一杯、腕白ボウズといった感じの少年と、情けない顔で泣いている小さな男の子が写っていた。

 腕白ボウズは擦り傷が出来た顔をむっすーとさせ、いーっとばかりに歯をむき出しにしていた。
 軟弱そうな男の子は泣きながら、5という旗を持たされていた。
 バックから察するに、運動会のようだ。

「こっちが私で、こっちが洸」

 腕白ボウズを私と指差し、軟弱ボウズを洸と指差した。

「これはねー小学校3年生の運動会の時の。洸と私で二人三脚をしたんだけど、洸が遅くて、しかも転んで。引き摺るようにゴールしたんだけど、断トツのビリ。もう悔しくて、旗を振り回して、5位はやだって言ったんだけど先生に怒られて。転んだ時に擦り傷作った洸は、泣きながら旗を持たされてたな~」

「……この子がお隣君か…」

 頼りないの一言に尽きる。
 見るからにいじめられっ子で、気弱そうなのが写真からでも分かる。

 真琴と一緒にいる時にストーカーに襲われたりしたら、生まれたての小鹿のようにガクガクと怯えた挙句よろよろと逃げていきそうだ。

 結局、対応策は浮かばないままその日は真琴と別れた。真琴自身が気にしていないので、私まで釣られて脱力してしまった。
 何度もチカチカ着信告げる点灯を、警告と受け取るべきだった。

 それから数日、決定的にやばい事件が起こった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ