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劇的アフター 作者:本堂まいな
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子分退化論(後編)

「焼きたてのクッキーってすごく美味しくて、少し冷めてもそれはそれでさくっとして美味しくて。びっくりした。本当に美味しくてびっくりした!」

 目がキラキラ輝いている。好きなものを好き~って全力で語る女の子って良い。
 可愛さ倍増。

「それからその子の家に通うようになって、その子と仲良くなったの。お菓子作りに足はあまり使わないから、不自由だけとその子と一緒に色んなの作った」

 確かに材料をテーブルに出してくれれば何とかなりそうだ。
 基本使うのは両手だからなぁ。

「完治してからもずっと夢中だった。手順とか焼き方とか変えるだけで同じ材料使っても出来上がりが全然ちがくて。あ~こうした方が良かったな、この間の方が良かったかなとか調べながら作ってた」

 熱々のパウンドケーキとか、アップルパイとか。
 冷蔵庫で一晩寝かせたプリンとかムースとか。
 手作りジャムにスコーンとか、オレンジピールを練りこんだマフィンとか。お酒に漬け込んだレーズン入りのブランデーケーキとか。紅茶の葉っぱごと使ったサブレとか。

 ゴルはきゃーきゃーお菓子の名前を羅列していた。それいつまで続くんだ?
 さっきの骨折った話はあっさりだったのに。
 木から落ちた、捻挫。穴に落ちた、骨折。所要時間10秒。

 
 お菓子の話、既に1分経過。
 無意味な身振り手振りが可愛いから、別に良いけど。
 でもこれからパスタとピザメインのイタリアンだってのに、お菓子が食べたくなってきた。

「ゴルが作るお菓子、食べてみたい~」

 激しく同意。
 試行錯誤と努力の結果って言うか、お菓子作るの大好きって気持ちが込められていて美味しそう。

「そんな期待されるようなものじゃないけど…」

 今まで話していた勢いが消えて、照れたように顔を赤くした。ゴルは上気した頬に両手を当てて、でも食べてくれるなら今度作ってくるとかボソボソ呟く。

「お、俺も食べたいっ!」

 追随して言う男がいたが、お前が食べたいの菓子じゃないだろ。
 あからさまな下心が透けて見えている。
 ゴホンとわざとらしい咳払いをして、ゴルが話を続けた。

「お菓子作りに夢中になる前は車椅子で戦闘ゴッコに参加してたから、怪我が悪化して完治が遠のいていたんだけど、その子とお菓子作るようになって、一緒に行動するようになって怪我の治りが早くなった」

 中学生で戦闘ゴッコやってたの?…誰とやっていたのか気になるところだ。

「怪我が治ってからも、その子がお菓子作りに飽きてからも、ずっと夢中だった。今も好き。多分ずっと好きだな」

 今も好き、多分ずっと好きだなって台詞を、俺に向かってリピートプリーズ。

「えーっと、だからパティシエを目指す事にしました。終わり」

 最後は簡潔に締めくくった。
 しばしの沈黙の後、女子から不満の声が上がった。

「えー!それで終わり?恋という名のスイーツが登場しなかったんだけど」

「そこが一番聞きたいのに~!」

「ちょっと!なんでゴルがそんなに可愛くなったのか、結局分からなかったじゃん」

「甘みが足りないー。この人のためにゴルの名は捨てるの、真琴になるわ、胸きゅん!みたいな展開はなかったわけ?」 

 ゴルは語りきったとばかりに、うーんと伸びをしていた。
 そんなゴルに批難の嵐。
 主に女子から。

「え…?何か駄目だった?」

 キョトンとするゴル。駄目も何も、肝心な情報が抜けてるじゃん。

「パティシエ目指すきっかけは分かったけど、何でそんなにゴルが変わったのか分からなかった!」

「そこが要でしょ!」

「きりきり白状しろっ!」

 更に責められるゴル。
 え?え?と言いながら首を捻るゴル。

「その怪我を境に友達が変わったからかなぁ?遊び方とか、行く店とか、今までと全然ちがくて、最初びっくりしたし。トランプって手裏剣みたいに使うんじゃなくてゲームするもんなんだ、とかさ」

 いや、多分びっくりしたのゴルの友達だよ。ババ抜きしようとして配ったカードを手裏剣にされたら、ババじゃなく度肝抜かれるよ。
 俺、上手い。俺、自画自賛。

 とりあえず、物足りなさを感じながら、ゴルの話は一段落した。
 それから、昔話、今の話、これからの話をして盛り上がった。
 楽しい時間はあっという間で、お開きの時間になった。
 もう少し話したがったが、明日の事を考えるとそういうわけにはいかない。ニートの俺以外は。

「じゃ、1人3000円ご負担お願いします」

 それぞれに渡されるお札を確認する。
 野口さんが3人、ぴったり。樋口さんが1人、野口さん2人のお返し。
 ちょっと!福沢さんは止めてよ。計算が難しくなる。
 えーっと福沢さんが1人だと野口さんが7人。

「さっきから思ってただけど、ゴルの持ち物って可愛いよね」

「私も思ってた。その財布もそうだけど、靴とかバックもさり気に洒落てる」

「あ…お菓子作りを一緒にやってた子が、今でも仲がいいんだけどお洒落なんだよね。流行とかのリサーチ凄いし、雑誌のチェックも欠かさないし、お店とか沢山知ってる。連れて行ってくれるお店、良い!って思うの多くて」

「え?例えば?どこどこ?」

 女子がお洒落のことで盛り上がっている。ゴルに店の名前を聞いて、早速スマホで場所を確認している。
 そんな女子から少し離れたところで、野郎たちが何やらもちゃもちゃやっている。

「今日は俺がゴルを送ろう」

「いや、俺の方が良いと思う」

「いやいやいや、俺だろ。俺が一番近いはず。ゴルの家、どこだか知らないけど」

「俺が送るよ。送るって言うか家が隣だし」

 そう言った男が、みんなにどつかれている。一斉にどつかれても、ふらつきもしない。

「ってかさーナチュラルに流したけど、野田はどうしてそこまで変われたんだ?」

「身長は遺伝かな。他は、空手を習ってたくらい」

「空手でミニマム泣き虫野田がそこまで変われるもんなの?」

「マジで?俺も空手やっときゃ良かった。やればイケメンになれたのに」

「いや、空手で顔、変わんなくね?」

「体鍛えたのって、苛められないためだろ?強くなってゴルにやり返そうって?復讐とか」

「いや、復讐とまでは…」

「でもあれだろ?野田にとってゴルは、自分を苛めていた嫌な奴だろ?関わりたくないよな?話したくないだろ?良し、俺に任せろ」

「うん、野田は隅で控えていたまえ」

 野郎共が暑苦しく、まだもちゃもちゃしている。
 俺は、それを尻目に会計処理。ってか誰だ!100円玉10枚出したの!野口を出せ、野口を。

「ねぇねぇ、ゴルのそのピアスはどこの?」

「うわっ!気付かなかったー可愛い。生クリームつきのイチゴのピアス?見たことない!」

「可愛い~今流行のフェイクスイーツアクセだよね?同じシリーズでマカロンがあれば欲しい!どこで買ったの?」

「あ…これ、先週の私の誕生日に洸がくれて……お店、洸に聞いてくるね!」

 きゃっきゃしていた女の子たちと、もちゃもちゃしていた野郎たちの視線が集まる。
 これどこで買ったの?と自分の耳を指差すゴルと、そのピアスを触りながら答える男に。
 ピアスって言うか耳と髪、触ってない?
 ゴルの髪を耳にかけて、ピアスを見るその男。ピアス見なくたって、お店分かるじゃん。

 お前~触りたいだけだろ!

 じゃあ、俺たち帰るからって言いながらゴルを店の外へ連れ出す男。
 スマートなエスコート!むかつく、リア充爆発しろ。心の中で呪ってやりたいけど、俺は今、会計で手一杯。
 何か1000円足りないんだけど。もう一度数えるか。

「じゃあ、錦戸。幹事ありがとな。またな」

 と俺に挨拶して、ゴルと一緒に店を去る男。会計で余裕がない俺は、礼儀として軽く右手を上げる。

「ちぇーやっぱり、駄目か~」

「ま、女はゴルだけじゃないし」

「数時間前までは、ゴルは女じゃないしって言ったのにな」

 まぁ、ゴルのあの変わりっぷりには俺もびっくりだった。
 ところで、結局あの男が誰だか分かんなかったんだけど。誰、あのイケメン。
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