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恋の魔法

作者: 尚文産商堂

先輩に誘われるままに、私はこの村に来た。

「アルケード村ね。おじいちゃんたちは元気かな」

魔法高等学校の1年生が終わった私たちは、図書委員の先輩で、私の両親の出身地に住んでいるという先輩のところへ遊びに来ていた。

近くまでは魔法で飛んできて、それから先は村の方向へ向かって歩き続けてきた。

だいたい1日でつく道のりだ。

「住所ここだね」

友人の鈴木珠子(すずきたまこ)が、表札の名前を確認しながら言った。

「こんにちは、誰かいますか」

扉をノックして、私が声を中に向かってかける。

すると、家の裏から声が聞こえてきた。

「こっちこっち。裏に来て」

「分かりました」

先輩の声だったので、安心して家の裏へと回る。


裏庭には、小屋が一つとそのすぐ脇に巨木が育っていた。

さらに木の上には家がひとつある。

先輩はその木の家から呼んでいた。

「ようこそ。ツリーハウスへ」

「ここに住んでるんですか」

私と珠子の後ろについてきた伊予葎(いよりつ)生井幺子(いいちいこ)が、上を見上げながら言った。

「そうだよ。こっちに帰っている時には、ここが俺の家。あ、ちょっと待ってて」

先輩が一旦窓から姿が見えなくなると、せり出している床の一部が動き出した。

「ここがエレベーター。自動じゃなくて手作業で上り下りするけどな」

「これ、全部先輩が作ったんですか?」

私が、上から降りてくる先輩に聞いた。

「ところどころは親に手伝ってもらったけどな。いまじゃ、俺一人が管理してるよ」

ゆっくりと私たちがいるところへ降りてくると、2畳ほどの大きさのところに箱をいくつか載せていた。

「この箱は?」

魔法を使って、全ての箱を一人で手を使わずに持ち上げる。

「ああ、上にあった物の一部。たまに掃除しておかないとさ、虫とか出てくるから」

虫と聞いて、幺子が青ざめていた。

「あれ?幺子って虫嫌いだったっけ」

私が聞くと、無言でコクコクと何度もうなづいた。

仕方ないので、上に行くのは、先輩と私と珠子だけで、葎と幺子は本家の中で待つことになった。


「広いんですね」

「魔法で多少は広げているけどね」

先輩のツリーハウスの上には、30センチぐらいの高さの机と、山のような本と、掘りごたつと、冷蔵庫と、コンロでできていた。

鍋がいくつか置いてあって、中からいい香りがしている。

「スープ作ってみたんだ。飲んでみるかい」

「いただきます」

珠子が先輩に答える間に、私は部屋をざっと見た。

「綺麗ですね」

「そうかい、それは嬉しいな」

先輩は嬉しそうに言いながら、お椀をどこからか持ち出して、私たちにスープを差し出してくれた。

「ありがとうございます」

私たちはそれを受け取って、一口飲んだ。

コンソメの風味が一気に突き抜けていく。

他には何も入っていない。

「コンソメですね」

「そうさ、他には何も入れてない、交じりっ気なしのコンソメさ。3日間煮込んで作ったからな」

「三日間もですか」

そういわれると、すばらしい深みとコクが現れる。

印象というのは、情報量によって変わると授業で教わったが、その通りだ。


私はそれから虫がツリーハウスの中にいないことを確認してから、幺子と葎を入れた。

それからは、いつものような感じだ。

今日は先輩のところへ泊めてもらうということにしているから、私たちもここで寝ることになる。

ツリーハウスを広げて、どこからか布団を出して、私たちと一緒に寝れるようにした。

「どうする、いつ寝る?」

先輩が私に言ってくる。

「そろそろですかね」

すっかりと夜も更けている。

どうやら話し過ぎたようだ。

灯がゆっくりと消えていき、中は真っ暗になった。

窓から、月の光がほのかに入り込んできている。

「それで、これからどんな話をする?」

葎が私たちに聞く。

みんな布団に入っているはずだけど、まだ眠くない。

「どんな話がいい…例えば、恋話(こいばな)とか」

提案者は、声から聞くに、幺子が言ったのだろう。

端っこから、ゲフンゲフンとせき払いの声が聞こえてくる。

「パジャマパーティーの定番だよね」

私もそれに答えた。

先輩のことは、今は無視することにした。


誰が好きだとか、あの人が好きだとかを話している間に、私が話す番になった。

思わず小声で話してしまう。

「私の好きな人…そうねえ、やっぱし先輩かな」

「先輩って、今横で寝てる先輩?」

「言うわけないじゃない」

私は闇の中でも、恥かしくなっているのがはっきりと分かる。

先輩は、ゆっくりと寝息を立てている。

話すなら、今しかないだろう。

「なんかね、図書委員で、配本とかのミスとかをカバーしてもらっていると、信頼できる人って感じがしてたの。それに、いろいろ良くもしてもらったし…」

「で、いつの間にか好きになっていたっていうことか」

「そうなの」

誰かの声に、私は答えた。

「…もしかして先輩?」

「そうだよ」

私のすぐ後ろから、間違いなく先輩の声が聞こえてくる。

あわてて横に寝ているはずの珠子をつついていると、あわててタヌキ寝入りをしたようだ。

裏切り者と心の中で罵ってから、私は寝返りを打って先輩へと向いた。

かなり暗いから、先輩の顔は見えない。

「なに、俺のことが好きなの?」

「…はい」

「そうなんだ」

先輩の表情は分からない。

でも、喜んでいる声だった。

先輩とはそれから数分間話した。

それから、ゆっくりと瞼を閉じて、ゆっくりと夢の中へと落ちていった。


「…おはよう」

まだ珠子たちは眠っている。

すでにパンと目玉焼きができていた。

「おはようございます、先輩」

「おはよう、早田(さわた)さん…いや、桜、かな」

言いなおしてくれたあとの名前で、私は急に胸がキュンとした。

魔法であってもできない魔法。

恋の魔法にきっとかかったのだろう。

そして、それはきっと、一生とく事ができないお呪いだ。

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