バディーズ フォーエバー!!(9/9)PDFで表示縦書き表示RDF


バディーズ フォーエバー!!
作:絵爾久万



9)


「さ、桜子さーーーーーん!!!」

 悠麻ちゃんが冷蔵庫の陰から這い出してきて、桜子さんの上に取りすがって叫びました。桜子さんはピクリともしませんでした。首のまわりには血の海が広がっていました。
 私は恐ろしくて、ただ身体中ガクガク震わせているだけでした。

 それからタマミはひろりんに近づいて行くと、ひろりんを貼り付けにしている壁に刺さった3本の矢をチェーン・ソーで、バリバリとぶち切りました。
 支えを失ったひろりんは、壁からゴロンと床に落ちました。

 今度はタマミは、ガーターベルトに差してあったムチを引き抜き、床の上に転がったひろりんに向かって、ビュッっと、ひと振りしました。びくともしませんでした。当然です。すでに息絶えているのですから。
 タマミは何度も何度も、ひろりんをムチ打ちました。

 するとどうでしょう。死んだはずのひろりんが、立ち上がったではないですか。いったい・・・・。
「グゲッグゲ・・・・ゲロゲログェ!!!」
 ひろりんは、口からどろどろした緑色の液体を吐きました。

 私と悠麻ちゃんが呆然と、その成り行きを見ている中、タマミはひろりんを肩に担ぎ上げました。右手にはチェーン・ソー、左肩にはひろりん。
 そしてタマミは、人型に裂けた壁の隙間から、悠然と立ち去って行ったのです。
「グ・・・グオ・ノウ・ラミハ・・・ラサデオ・グベギグァア・グッツゲロゲログッバイ・マタンキュー・」
 立ち去る瞬間、ひろりんはタマミの肩の上でこっちを睨み、緑色の液体を吐きながら、何やら呪文めいた言葉を残して行きました。
 
 一瞬の出来事でした。

 私と悠麻ちゃんは、呆然とその場に立ち尽くしました。


 暫くして我に帰った私たちは、血の海の中で倒れている桜子さんの名前を何度も呼びました。
「桜子さーーーん!!!死んじゃだめだよう。バディーだろう?」
 悠麻ちゃんの眼には、涙が溢れていました。大きな涙の粒がぼたぼたと落ちました。
「桜子さーーーん!!!」
 私も桜子さんの名前を呼びました。
 悠麻ちゃんが桜子さんの身体を抱き起こし、しかっりと抱き締めました。
 その身体に首はありませんでした。
 私は、恐る恐る桜子さんの背中側に回りました。

 なんと言うことでしょう。
 桜子さんの頭はチェーン・ソーで首を切断され、皮一枚で繋がっていた頭が後ろにぶら下がっていたのです。
 頚椎や食道、気道がぷっつりと切断され、かろうじて首の後ろの皮一枚で繋がっていたのです。当然呼吸も心臓も停止していました。
 悠麻ちゃんは、そのまま静かにまた桜子さんを寝かしてあげました。

 私たちは仲間を失った悔しさと哀しさで、いつチェーン・ソーを唸らせて戻って来るやも知れぬ、SM嬢タマミの恐怖に怯えながらも、暫くは立つこともできず、泣きくずれていました。

 
 何時間そうしていたことでしょう。

 悠麻ちゃんが、突然、身体を起こして言いました。
「生き返ったんだよ。ヤツは・・・」
「うん・・・」

「なんで?」
「一旦は死んだ・・・」

「でも、確かにアイツ自分で起き上がったよ」
「うん。間違いない。私も見た」

 賢い悠麻ちゃんは暫く黙ったまま、じっと何かを考えている様子でした。

 私には今日起こった全てのことが夢のようで、何も考えることはできませんでした。

「ペス・・・・」
 悠麻ちゃんが言いました。

「はっ?」

「ペスだ!ペス」

 悠麻ちゃんは突然立ち上がり、ペスの元へ歩いて行きました。ペスはガスレンジの上に置かれた鍋の中で、既に息絶えておりました。

「ペス・・・」
 悠麻ちゃんがペスに呼びかけると、ペスの尻尾が動いたのです。ペスは死んではいなかった。
 悠麻ちゃんはペスを抱き上げ、桜子さんの元へ連れてきました。ペスは嬉しそうに尻尾を振り、桜子さん身体の上に載せられました。

 悠麻ちゃんは、通学バッグの中から、熊谷の駅で買った御家宝の残りを持ってくると、細かくちぎり桜子さんの太腿にそれを塗りつけたのです。
 御家宝はペスの大好物です。ペスは喜んで桜子さんの太腿にへばり付いた御家宝の粉をペロペロと舐めました。

「噛め!」
 悠麻ちゃんが号令をかけました。すると、ペスは「うぅぅ・・・」と唸り、桜子さんの太腿にガブリと噛み付いたのです。
 そして、太腿に付いた御家宝の粉を全てなめ尽くすと、力尽き、また桜子さんに寄り添い死んだように眠ったのです。


 ところがなんと驚いたことに、それから、数分も経たない内に桜子さんの両手の指がピクピクと小刻みに動きはじめたのです。
 続いて、両足もガクガク動きはじめました。

 そして、両目を大きく開けたのです。その眼は真っ赤に充血しておりました。右目の下は硫酸でケロイド状になり、片耳は落ち、青黒い恐ろしい形相でした。まるで、ゾンビのようでした。いえ、一旦死んだ桜子さんはゾンビとして生き返ったのです。足元にゾンビ犬を従えて。

 桜子さんは自力で起き上がろうとしました。上体を起こしましたが、頭がガクンと後ろに折れました。
 桜子さんの背中側にいた私には、頭が逆さになってぶら下がっているのが見えました。桜子さんは私と眼が合いニコッっと笑いました。私はぞっとしました。しかし、友好的な笑顔でしたのでホッとしました。

「仕方ない、取り合えず間に合わせに貼り付けておこう」
 悠麻ちゃんがガムテープを持ってきて、桜子さんの首にぐるぐる巻きにし、私はそこに成人式で使ったダチョウの羽のショールの切れ端を巻いてやりました。

「ぐっがるるるる・・・・」
 ゾンビー桜子は、もう、うまくしゃべる事はできませんでしたが、そう言って嬉しそうに、にっこり微笑みました。


「桜子さんもゾンビー桜子として生き返った。そして、私たちには強い見方ゾンビー犬ペスがいる。三人と一匹。もう何も怖いものはない!」
 隊長が言いました。

 私たちはグラスにワインを注ぎ、改めて強い結束の乾杯をしたのです。

「バディーズ フォーエバー!!」
  
「バディーズ フォーエバー!!」

「バディーズ フォーエバー!!」

「バウ・・・ワウ・・・」

 桜子さんの、首に巻いたガムテープの隙間から、飲み込んだ赤いワインがだらだらと染み出していました。


「奴らをこのままにはしておけないだろう・・・」

 賢い悠麻ちゃんは、また何か新たな策を考えているようでした。




     第1話【熊谷の戦い】    完














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