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「それにしても、高校生の悠麻ちゃんと、こんな形でお友達になるとはね」
「お友達?」
「でしょ?」
「バディ・・・」
「バディ?何よそれ?私がナイス・バディーだって?」
「仲間。友達より結びつきが強いんだよ」
「仲間?バディーか・・・なんだかいい感じね」
桜子さんは嬉しそうに微笑んだ。
「バディーズ・フォーエバー!」
高校生の悠麻ちゃんはそう言って、拳を握り肘を折り曲げると桜子さんの目の前に差し出した。
「バ、バディーズ・フォーエバー!」
桜子さんも見よう見真似で拳を作り、悠麻ちゃんの前に差し出した。2人の肘は、力強く交差した。
…なんだよう。この2人の燃え上がる闘志は。まるでこれから戦に出かける戦士じゃないか。
「あーん、重てぇやこいつ・・・」
「何も、そんなもの持ち歩かなくたって」
「一生に一度の真剣勝負だ。生半可な決意じゃないからね」
「それりゃ、そうだけど・・・一生に一度の真剣勝負、ずいぶん早くきちゃったわね。高校生だってのに・・・」
「あれ?桜子さん。何言ってるの?まさか、決意鈍ったんじゃないだろうね」
「そんなわけはないわよ。私だって、まだローンの残ってる美顔器持ってきてるんだから」
いったい何を始めるんだろ?この2人・・・
ああ、やっぱり帰ろうかな。このままひろりんの家に行ったって、やることはひとつ。明日は、土曜日。ひろりんは休みだけど、私は明日も仕事。
朝方までセックスして、セックスして、セックスしまくって、どろどろになって私は寝不足のまま、また重たい荷物を持って出勤だ。そう、私は絶倫ひろりんの欲求を満たしてやるだけの女。
ひろりんは精神的な繋がり、たとえば愛だとか、癒しだとか、そんなものを私に求めやしない。決して求めやしない。
休みの日に2人で遊園地行ったり、映画みたり、買い物したり、ドライブしたり、お日様の下で、そんな普通の恋人同士のような付き合いがしたいんだ。
でも、ひろりんが私に会ってくれるのは夜だけ。そして、ひろりんが私に要求するのはセックスだけ。
私はベッドの上で一晩ひろりんのオモチャになる。ひろりんが、卑猥な言葉を吐けと言えば、私はえげつない言葉をいくらでも吐くし、ひろりんがえげつない行為を要求すれば私はいつだってそれに応じる。髪を掴まれ激しい前後運動にも堪え、オエッってなったって、涙が出たって・・・。
動物にだってなるし、お惣菜にだってなる。年末のパーティーの後呼ばれたときは、残りのオードブルを身体中に飾られ、ワインをジャブジャブ掛けられた。
私がひろりんに夢中だってこと、ひろりん良く知ってるから、あいつはいつも上位にたって私に命令する。それがいやなら帰れって。
でも、私はそんなひろりんが大好き!冷たくされれば、されるほど燃え上がるってもんよ。一晩だけでも、ベッドの中のひろりんはステキで、私を思い切り愛してくれる。一晩だけの擬似的恋愛ごっこ。私はその一晩に命をかける。
「あんたがさ、スーパーヤマニの喫煙室で、見覚えのあるライター使って火を点けたの見て、そりゃもうびっくりしたわよ。日本には数本しか輸入されていないグルジアのレア物だもん。しかも名前入りよ。私があいつにプレゼントしたやつだってすぐにわかったわよ。バカみたいに高かったんだから。美顔器なんかと比べ物にならないわ。まだ、ローンだって残ってるんだから」
「はは・・・バカじゃん」
「人のこと言えないでしょ?」
「お金は使ってない」
「あんたまだ若いからね。そのうちわかるわよ」
「わかりたくないね」
「あんたの30年後、見てみたいもんだわ」
「30年後?生きてる?ギャハハハ・・・」
「失礼しちゃうわね。生きてるわよ!ネットに公開されっちゃった、あんたの透けパン姿は永遠に残るでしょうけどね」
「消させたよ。あたしの目の前で・・・、チックショー!!」
「Web上で一旦公開されたら終わりよ。誰が何処で保存してるかわかりゃしないでしょ。あの元イケイケ女優のAVだって、未だに売られてるわよ。もう、20年は経ってるっていうのに。あんたのだって平成史の美少女名鑑なんてのに載せられたりしてね。フフフ・・・」
「やめてようーっ!」
悠麻ちゃんはひどく興奮し、両手で耳を塞ぎ、その場にしゃがみこんだ。肩に抱えていた大きなバッグが、バタンと倒れた。
向かい側に座り、さっきから大きな音を立てて、ガムをクチャクチャ噛んでいた男の頭を直撃した。
‥‥いい気味だ。
私は思った。
桜子さんが急いでバッグを拾い上げ、男に謝った。見た目は派手だが意外と、情の深い人なのかもしれない。
男は眉間にシワを寄せ、無言で更に大きな音を立て、ガムをクチャクチャさせた。眉の濃い、顔のでかい男を見ていたら、悪いのはこの男ではないのだが、殴りたくなるほど無償に腹がたった。
「ほら悠麻ちゃん。立ちなよ。今からそんな弱気でどうするの?その怒りを向ける相手は私じゃないだろ!」
「別に・・・」
悠麻ちゃんはすっと立ち上がり、またバッグを抱えた。
「別に弱気になんてなってないよ」
「わかるわよ。あんたの気持ち、あんたの年頃じゃ、あんなことされたら死にたくなるさ。あんた生きてるだけでもえらいよ」
「・・・・・」
「あたしはさ、言いたかないけどさ・・・」
「言わなくていいよ」
悠麻ちゃんが言った。
「ワニ・・・ってさ。言われたときは愕然としたよ。別に容姿のこと言われるのはかまわないけどさ。ワニって何?両生類?」
「爬虫類」
「まだ、ダチョウって言われた方がよかったわよ!」
「ダチョウ?あははは・・・」
「皮剥いでなめしてバッグ作ってやろうかって、あの最中に言わなくたって、うっぅぅ・・・・・」
桜子さんが泣き始めた。
「やめなよっ!!」
悠麻ちゃんが大きな声で叫んだ。周りの乗客が2人に注目した。
それから2人は黙り込んだ。
どうやら2人の会話の概要がなんとなくつかめてきた。2人の間には同一の男が介在しているらしい。
その男が高校生と中年女の両方に致命的な屈辱を与えたらしい。高校生から中年女まで相手にするなんて。ずいぶん許容範囲の広い男だ。
いきなり腿が振動音を捕らえた。コートの右ポケットから、携帯を取り出し、受信トレイを開いてみる。
ひろりん
Re:Re:Re:Re:ひろり〜ん♪
やっぱさあ、今日取りやめ。
帰っていいよ。
なんか、疲れちゃってもうだめなり。
寝るぽ。
ガガーーーーーーン!!!
たった4行の文字の羅列・・・
たった4行の文字の羅列が、こんなに人を狂わせる事ができるなんて。私の身体は怒りのためガタガタ震え出した。
自分から呼び出しておいて。私が仕事終わって、そっちに向かうっていうメールだって送ってるのに、取りやめ、帰っていいって・・・。いったいあいつの神経どうなってるんだ。
私のこと、出張風俗嬢かなんかと勘違いしてやしないかい?私の心は煮え繰り返った。
目の前の2人の女を怒らせた男も、大股広げ無駄にガム噛む男も、私を悩ますひろりんも、世の中には害虫が多すぎる。
♪♪ 熊谷ぁ〜熊谷。 次はぁ、熊谷でえ〜す♪
車内アナウンスが流れた。
「着いたよ。降りるよ」
ヒョウ柄の桜子さんが、ドスの聞いた声で言った。
号令をかけられたように、悠麻ちゃんが姿勢を正した。
もうすかっり2人の会話に入り込み、影響を受け過ぎてしまった私は一緒に降りる以外に方法はなかった。
ひろりんにフラれ、行き場を失った私は、重たい荷物を抱え2人の後に続いて、よろよろと電車を降りた。
‥つづく‥
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