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バディーズ フォーエバー!!
作:絵爾久万



1)


 金曜日のこんな時間帯に、優先席を必要とする人は少ないのだけれど、優先席に座るとなんだか気がひける。
 そりゃあ、目の前に足元のおぼつかない老人や、松葉杖をついた人、エクスペクティング・マザーが立てば、席を替わってあげる心の準備はいつでもできている。
 気がつけばの話しだけど・・・。
 そんな訳で、優先席に座るときはいつも、うつむき加減に座ってしまう。

 そう、あの日もそうでした。
 すごく、疲れていたんです。仕事が立ち仕事だから。その日は成人の日で、朝は7時から夜9時までガッツリ働きました。
 12時間タチッパだったから膝から下はもうパンパンで、針なんか刺されたら、針先が折れ曲がってしまうくらいでした。
 しかも、重たい荷物だって持っていました。ネイル・アートの道具一揃い、カット用シザー、メイクアップ用化粧品...etc.
 お店では自由に使わせてもらえないから、自分専用のやつをいつも持ち歩いているんです。見習いだから仕方ないんです。美容師です。
 
 なんじゃ、ぐぉりゃあ?
 まず、眼に入ったのはヒョウ柄のぴったりフィットしたヒールの高いタイトなブーツ。なかなかお眼にかかれない代物。
 私の目の前に立った。とりあえずこのブーツじゃ、席を替わる必要はないだろう。一安心。
 膝上の紫色のスカート。ジョーゼットの不揃いの裾と、ヒョウ柄のブーツの間から骨ばった膝小僧が覗いている。間違いなく二十代の膝小僧ではない。
「そう、だから・・・。最初はね。あれ、ローン組んでさぁ・・・。そんなに高額じゃないから、いいかなって」
 お水系独特のかすれ声。こういう声出す人に限って声量もある。
「へぇ・・・」
「足つきのやつは、高いよ。でも、使いやすいしね」
「ああ・・・」
「台の上とか載せて使えば安定感もあるし・・・あれも大きいし」
「あれって?」
「あれ。ほら、あの、入れる所」
「ああ」
「そうそう・・・。入れてもいいし、入れなくてもいいし、付属のもの付け替えれば、直接入れなくても、表面撫でるだけでも、かなり気持ちいいよ」
「やばいんじゃない?それ」
「千賀ちゃんも使ってるって、言ってた。バスケやってんじゃない?あのこ。あのこったってもう40過ぎてるけどね。ガハハハ・・・」
「・・・・・」
「普段、なーんにもしない人だからね。あの家は旦那が買ってやったらしいよ。いい旦那だよね。私もローンまだ残ってるんだけどね・・・」
「いいじゃん、別に」
「まあね。それより、あれ持ってきた?」
「持ってきたよ。あたりまえじゃん」
 ヒョウ柄ブーツの隣りには、紺のプリーツスカートからスラっと伸びた生足が2本。今時珍しい膝丈だ。大きなバッグを肩に担いでいる。
 これは高校生?この2人・・・、親子?そんな感じではない。なんとなくだけど。それにいったいあれって何?
 私は2人の足元を見ながら、更に会話に耳を傾けた。
「はぁ・・・」
 高校生が、深い溜息をついた。
「でも、まあ30万くらいだから。後、2回位かな?残りは」
 ドアが開き、乗客が降りて行くと、入れ替わりに外の冷たい空気が車内に立ち込めた。
「はぁ・・・、いい風。もう、なんか春の匂いがするよ」
「効果はかなりあると思うよ。高いからね、やっぱり。目尻の小じわが減ったもんね。ほら、こんとこ・・・」
 ちらっと見上げる。派手な化粧をした中年の女。茶髪の巻き毛。まさにヒョウ柄のブーツにお似合いの顔。
 地黒のたるんだ肌に塗った白いファンデーションが、地肌の汚さを更に強調している。上唇の縦ジワの間に、粉がよりになって埋め込まれている。
 更に悪いことにヒゲの処理をしていない。口紅は黒さを引き立てる、明るいオレンジ。最悪だ。

 高校生は、隣りの女の話には全く興味を示さず、手櫛で長い髪をサッと梳き、つり革を持つ腕に顎を載せ
「その前知らないからね」
 言葉少なに答えた。なんて愛想のない子なんだろう。
 今時珍しい長い黒髪。蒼白な顔に唇の赤みが際立っている。今時珍しく手入れをしていない、きりりとした凛々しい形のいい太い眉。めっちゃ美人だ。
「でも、年よりは若く見えるでしょ?」
「年も知らないし・・・」
「あら、そうだった?ふふ・・・」
「ところで桜子さんって、いったいいくつなの?」
「それにしたって春はまだでしょう?」
「ふぅ・・・」
 高校生はつり革に持たれて、物憂げにため息をついた。
「はぁ・・・」
 それに合わせて、ヒョウ柄ブーツの桜子という女も溜息をついた。

「はぁ・・・」
 つられたように、私も小さく溜息をついた。 


‥2月は忙しいんだ。仕事も忙しいし、昇格試験の論文も仕上げなきゃならないし。会ってる暇なんてないよ。

 今度いつ会える?って聞いたら、ひろりんが言った。
 別れ際にキスをしようとしたら、グロスがつくからやめろよって。

 忙しい、忙しいって。会いたければ、好きだったら、無理にでも時間作って会えるはずじゃない。
 好きじゃないんだな。私のこと。まあ、それは最初からわかってるいけど。自分の都合のいい時だけ、相手をしてくれればいいだけなんだよ・・・。

 でも、私は気まぐれなひろりんのために、週末はいつも空けておく。だって、いつ、ひろりんから明日会える?って突然メールが来るかもしれないから。
 でも、もしそう言われたとしても、私はうん。だなんてすぐには言わない。絶対言わないつもり。
 そんな、いつでもほいほい付いていくような、安っぽい女だって思われたくはないから。

 そう思っていたら、昨日メールが来た。
 明日会おうって。明日は仕事忙しいから会えないって言ったら、じゃ、もう当分会えないかもって言うもんだから、そのまま断ったら、もう、本当に一生会えないような気がして、こんなに疲れてるのに、こんなに重たい荷物持ってるのに、私は今、ひろりんの家に向かってる。
 バカだな私って。

 ああ、ほんとに、なんだか春の気配。物憂げな振りして、意外と感性鋭いのか。
 高校生のくせに・・・


                    ―つづく―












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