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気がつけばいつもそこに君が
作:やくも



Last Day(7):「君」がいる。「此処」にいる。それだけで、もう……




 俺達四人は揃って浜辺へと下りる階段に座っていた。
 もう間もなく、自国は夜の八時を迎えようとしている。
 ちょうどその時間になると、祭りの前夜祭メインイベントである花火大会が始まる。
 浜辺を中心とした海岸通にはすでに多くの人々が場所取りにやってきており、俺達もその中の一部だった。
 あれから俺と七星はもうしばらく昔話を続け、その後二人で祭りの中に戻っていった。
 ちょうどそのとき、健二と瀬口の二人とも合流し、四人で祭りを見て回ることになった。
 合流直後の健二がやたらとズタボロだったのが気になったが、まぁどうせいつものことだろう。
「健二、あと何分?」
「んー、あと五分ってとこかな」
 浜辺ではいくつかの人影があちこちを動き回っている。
 おそらく、実行委員関係の人が花火の最終調整をしているのだろう。
「花火かぁ……」
 と、隣の七星がふいに呟いた。
「花火がどうかしたのか? 七星」
「ん、別にどうってわけじゃないんだけど。ただ、こうやって花火を見ることなんて、年に一回のこのお祭りのときくらいかなぁって」
「確かに、そうかもね。今じゃ結構、こういう小規模なお祭りってなくなってるって言うし」
 言われてみればそんな気がしてくる。
 子供の頃は家の庭でも花火をしていたような記憶があるけど、最近じゃそういうことはめっきり少なくなっていた。
 それが俺達の体や心の成長に伴うものなのか、そうでないのかは分からない。
 だから今は、少しだけ心が弾んでいた。
 もっと幼かった頃、どんな些細なことに対しても興味や好奇心を当たり前のように抱いていたように。
「……まだ少し時間あるし、私ちょっと飲み物でも買ってくるよ」
「え? おい葵、時間っていってももうちょっとしか……って、イデデ、耳を引っ張るな耳を!」
「いいから、アンタも来る。七星と来栖君も何か飲む?」
「ああ、それじゃ俺はコーヒーを頼む」
「私は紅茶がいいな」
「オッケー。ちょーっと人ごみで時間取られるかもしれないけど、気長に待っててね」
「おい、時間食ってたら花火が終わっちまう……イデデデ、だから引っ張んなっつーの!」
「ハイハイ、黙ってついてくる。んじゃ、ちょっとばかし行ってくるね」
「分かった。分かったからまず耳を離せ。千切れるから、マジで」
 そういい残して、二人は人ごみの中に紛れていった。

 残された俺と七星は、二人の姿が見えなくなるまで小さく笑っていた。
「葵ってば、無理に気を使わなくてもいいのに……」
「……だな。今のは正直、健二相手だからこそ通じたようなもんだろ」
 言いながら、俺達は浜辺に向き直る。
 夜風に乗り、潮の匂いが微かに運ばれてくる。
 空はいよいよ夜の色一色に塗り潰され、顔を出す星々も一際多くなっていた。
 半分より少しだけ欠けた月が、揺れる波間にポッカリとその姿を映し出している。
 やがて、何の前触れもなく打ち上げ音が響いた。
 空を仰ぐ。
 夜空の真ん中に、夏の花が咲いた。
 続けざまに、いくつもの花火が打ち上がる。
 咲いては散る、光の花。
 それは人の一生に比べれば、あまりにも短すぎる儚い命。
 まさしく、真夏の夜の夢。
 それでもその花咲く一瞬は、誰かの心に残るだろう。
 誰かの目に映るだろう。
 誰かの記憶になるだろう。
 そしていつの日か、語られる思い出になるだろう。
 ふいに、俺の手の上に七星の手が重なった。
 横を見ると、花火のせいか、わずかに紅潮して見える七星の頬。
 それでも七星は、笑ってた。
 だから俺も、笑い返してみる。
 ギュッと、重ねた手を握り返す。
 その手の中に、数え切れないほどの過去と今、そして未来を握り締めて。
 背負うものもある。
 決して楽な道のりにはならないだろうさ。
 だけど。
 守るものも、見つけたから。
 もう、一人じゃない。
 手を取り合って歩いていけるよ。
 いや、歩いていくよ。
 どこまでも、どこまでも…………。

「葵達、どこまで行ったんだろ……」
「だな。もうすぐ最後のやつになっちまうぞ……」
 周囲の人だかりに目を向けるが、夜の暗さで二人の姿を見つけることはできない。
 ふと俺は、そのときになってようやく思い出した。
 上着のポケットの中から、MDプレイヤーを取り出す。
 中にはもう、一枚のディスクがセットしてある。
「七星、これつけて」
 イヤホンの片方を七星に手渡す。
 七星は訝しげな表情を見せたが、俺は構わずに促す。
 そうして俺と七星は、イヤホンを片方ずつ耳につける。
「隼人、これ……」
 七星の言葉には答えずに、俺は小さく笑ってMDの再生ボタンを押す。
 イヤホンをつけたのだから、音楽を聴くに決まっている。
 ただし、その曲は……。
「七星、この曲知ってるか?」
 音楽に耳を傾けながら、俺は聞いた。
「……ううん。知らない曲。でも、いい曲だね」
「だろ? 俺が一番好きな曲なんだ」
 タイトルはフリープルーム。
 日本語で言えば自由の羽根。
 数年前、恋愛ドラマの主題歌として歌われていた曲。
 ぶっちゃけ珍しいものでもないし、すごい売り上げを記録したわけでもない。
 平凡と言えばそれまでの、どこかにはありそうな曲。
 それでも、俺にとっての特別な曲。
 そしてこの曲にはもう一つ、カップリングになっている曲があった。
 演奏が終わる。
 トラックが二曲目に移行し、演奏が再開される。
 そこから流れる曲は……。

「……あ」
 七星が呟く。
 それもそのはずだ。
 だって七星は、この曲を誰よりも知っているはずだから。
 時間を忘れるくらいに視聴して、とても嬉しそうに笑みを浮かべる曲。
「七星さ、あの中古CD屋でいつもこの曲を聴いてたんだよな」
「隼人、知ってたの?」
「今日の昼間、その店に行ってた。そのときにマスターから、少し話を聞いたんだ」
「……そっか、あのお店に行ってたんだ」
 俺が昼間、マスターに言われてこの曲を聴いたときは本当に驚いた。
 なぜなら、ヘッドフォンの向こうから流れてきた曲は俺の大好きなフリープルームだったのだから。
 しかしそのまま曲を聴いていると、カップリングの曲にトラックが移行したのだ。
 そして流れ出した曲が、この曲だった。
 聴いたことのない曲。
 でも、七星が時間を忘れるくらいに好きな曲。
 俺はそのまま、静かに曲に耳を傾けた。
 そして曲の終わる頃、どうして七星がこの曲を聴いていたのか、その意味が分かった。
 俺から言わせれば、それはずいぶんと恥ずかしい理由だったけど。
 それでも七星にとっては、何よりも大切な意味があったのだろう。
「お前がこの曲を好きな理由って、これだったんだろ?」
「……さすがにバレちゃったか。って、笑わないでよ! 私だって結構恥ずかしいんだから!」
 さらに顔を赤くして、七星は言った。
 まぁ、俺だって結構恥ずかしいんだけどさ。
 お互い様ってことで、いいだろ?



 それは。
 幼すぎた少女にとっての、唯一の真実。
 自分を救って、父親を奪った少年の話。
 悲しくないと言えば嘘になる。
 だけど、少女の傍にはいつも少年がいた。
 寂しくないと言えば嘘になる。
 だけど、少女の傍にはいつも少年がいた。
 だから少女は、幸せだと思うことができた。
 たとえ世界が少年を許さなくても、少女は少年を許すだろう。
 そこに、理屈なんて何一つ必要ない。
 あるのは、たった一つの真実。
 あの燃え盛る炎の中、自分の身を省みずに駆けつけてきてくれた少年がいたこと。
 嬉しくて涙が出た。
 悔しくて涙が出た。
 悲しくて涙が出た。
 全てが終わって、少女は父親を失い、自分を得た。
 全てが終わって、少年は自分を失い、少女を得た。
 それでも少年は、少女を守ったことを後悔なんてしていない。
 代償として、その両手が生涯血の色に染まったままだとしても。
 きっと、後悔することなんてないだろう。
 だから。
 少年がその想いを持ってくれている限り、少女の想いも変わらない。
 どんなことがあっても、決してその想いは変わらない。
 あの日、少女を助けにきてくれた少年は……。

 少女にとっての、世界でたった一人のヒーローだったのだから。



 演奏が終わる。
 最後のフレーズがエコーのように遠ざかり、俺は停止ボタンを押した。
 フリープルーム。
 その曲のカップリングとなった曲の、タイトルは……。

 ――君だけのヒーロー。


やたらと更新だけが早いペースで終わりました。
本作はこれで完結となります。
最後までお付き合いくださって、どうもありがとうございました。
もう少し書き足そうかなという部分も多々あったのですが、悩んだ末にここでひとまずの終了とさせていただきました。
とはいえ、続編などのこともまるで考えていませんので、やはりこれはここで一つの区切りを迎えるべきなんだろうなと思っています。
それでは最後になりますが、最後まで読んでくださった方は、よろしければ適当に感想の言葉でも添えて評価していただけると幸いです。
現在連載中の「千年の冬」ももうすぐ完結を迎える予定ですが、それが終わったら今度はファンタジーかSFのジャンルに挑戦してみようかと考えています。
機会があれば、ぜひご覧ください。
それでは、この辺で失礼します。













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