「ねぇ君はいつまでココに居るの?」
その声は頭のすぐ上から。
いつもの聞きなれた声。
「他の皆はとっくに旅立っていってしまったのに、君はずっとそのままで。一体いつまでココに居るつもりなのかな?」
見上げた先には一匹の白い蛇の子。
「こんな場所に一人で居てもつまらないでしょ」
一本の木。
ソコに身を寄せる少女と蛇。
それ以外何もない…世界。
「こんな何もない所で君はいつまでこうしてるんだい?」
世界の名はエデン。
始まりの地、神々の楽園とも言われてる世界。
飢える事無く。
老いる事も無い。
敵は存在する事無く。
危険に晒される事も無い。
ただ穏やかに…
ただ在り続けられる場所。
嘘は無い。
それら全ての言葉は間違ってない。
でも…
決してココは楽園でも理想郷でもありはしない。
皆忘れているのだ。
自分たちが何故この地を旅立ったのか。
そう…
……たった…1人を除いては。
エデン子ちゃん。
ボクが勝手にそう呼んでる女の子。
と言っても心の中でだけ。
なんとなく口に出すのが恥かしくて…
「ねぇ蛇さん、誰もが望みを持って生まれてくるんだって言ってたよね」
基本ボクの言葉を聞くだけなエデン子ちゃんから珍しくの問い掛け。
それは以前聞かせたこの世界の在り様の一つ。
「なら蛇さんにもあるんでしょ、望み。私たちと同じでさっ」
ただ続けられた言葉は思いもしなかったもの。
「でもでも蛇さんもずっとココに居るよね。蛇さんこそいつまでココに居るの?」
言い切ったとばかりに満足気に見上げてくるエデン子ちゃん。
しかしボクは静かに首を横に振る。
「いいや、君たちとボクは違うんだ。君たちは望みを持ち、ソレを成し遂げるべく生きる定めを持ち。ボクはそう…導き見送るのが定めなんだ」
見上げるばかりの彼女に…
ボクは自身の無機質な瞳に…それでも笑みを浮かべて。
「だからもしボクに望みがあるのだとしたら…君たちの旅立ちを見送り、無事望みを果たせる事を祈っている事かな」
ボクはずっとそうしてきた。
旅立つ背中を見送ってきた。
その無事を祈りながら。
彼らの向かう世界が決して彼らの想うままの世界ではない事を知ってても。。
「だからボクは君に旅立って欲しい。君自身の望みを求めて欲しい。後は君だけなんだから」
初めての言葉。
他の誰もは何を言うまでもなく自ら旅立って行っていたから。
でも…
この子は望んだ。
ボクの望みを聞きたいと。
だから答えた。
今までしてきた事を。
それこそがボクがココに居る理由だから。
「でも…私が居なくなっちゃうと蛇さん一人ぼっちになっちゃうよ。寂しくないの?私なら寂しくて泣いちゃうよ」
いいの?本当にいいの?
繰り返し尋ねてくるエデン子ちゃんにボクは優しく答える。
「良いんだ僕はずっとそうしてきたんだから。これからの事は……そうだねまたそうなってから考えるよ」
優しい優しいエデン子ちゃん。
ボクはこの子と同じ手があればと思った。
そうすれば優しく頭を撫でて上げられるのに…と。
「さぁそろそろ食べな。この実を食べれば君は君の望みを満たすための旅路へと行くことが出来る。僕のことは気にしなくて良いから」
1人残る事となるボクを心配してくれた優しい子。
その気持ちの暖かさを感じながら…
ボクは…
大木に生る果実の
最後の一つを
そっと彼女の手の中へ落とす。
「………」
じっと手の中のソレを見つめるエデン子ちゃん。
見守るボク。
そして…
「………シャリッ」
…一口。
これでお別れ。
間もなくこの子もこの世界から消え、新たな世界へと生れ落ちる事となるだろう。
いままで通り。
これまで見送り続けてきた他の皆同様。
シャリッ…
シャリリッ……
小さな口でゆっくりと。
その実を口にしていく。
そして…
…シャリ…
最後の一口。
これでこの子も…
「…なんで」
信じられないままに呟く。
目の前には変わらずニコニコしてるエデン子ちゃん。
「どうして?君は旅立つんじゃなかったの?」
こんなこと在り得るはずがないのに。
「本当に…君には望みが無いの?」
言い様の無い気持ちがボクの中に広がる。
でも…
エデン子ちゃんは変わらぬ笑みを浮かべて。
「望んだよ。ちゃんと望んだよ。私が望んだのは蛇さんと一緒の世界。一緒にいろんなものを望む世界」
その小さな手をボクへと伸ばす。
「だから一緒に行こっ。ココが何も無い世界なんて嘘だよ。信じられないもん」
だからソレを捜しに…
微笑みそう語るエデン子ちゃん。
その腕に…
ボクは…
躊躇い…
…でも…
しっかりとこの身を巻きつけた。
「…うんっ行こっか」
私たちは旅に出る。
旅は私たちにきっといろんなものを見せてくれるだろう。
それで良い。
それが良い。
そうすればきっとこの子も自分の望みを見つけられる。
見送るだけなんて。
そんな事もう言わせない。
そんな事の為だけに…
私はあなたをこの地に求めた訳じゃないんだから。
ねっ蛇さん。
「そうだキミの名前教えてよ」
「…えっ?」
「そう言えばボクキミの名前知らなかったな〜って」
「あはっそういえば私も。えっとね私の名前は……」 |