私を殺したのは誰ですか?
降霊ゲームというものをご存知だろうか?
最近僕の周りで話題になっているこれは、当然テレビゲームの類ではない。
言うなればそう、あの有名なゲーム。こっくりさんを想像して貰えば、どんな感じなのか伝わるのではないだろうか。
これは名前の通り霊を降ろすゲームである。
こんな事をゲームにするなんて実に罰当たりな気がするが、まぁこういった類は昔からあるものだからあまり気にしない事にする。
ゲームのルールは、まず前提条件として三人以上である事。この時人数の上限は特にない。
人が集まったら全員で軽く手を繋いで輪を作る。
それができたら、順番に質問をしていく。質問内容は大きく二種類。
一つは、○○したのは誰ですか?という類のもの。
もう一つは、YESかNOで答えられるもの。
この二つを交互に行い、自分が該当している場合やYESの場合は右手をギュッと握る。その際絶対に自分が握ったと名乗り出てはいけない。
そして隣の人に手をギュッと握られたら、その反対側の手をギュッと握る。
そうする事で全員が手をギュッと握る事になり、誰が答えたのか分からないという状況が出来上がる訳だ。
とは言え、ここまではまだ準備段階。
これを繰り返す事七回目でようやく準備が完了する。
七回目の質問は決まっていて「私を呼んだのは誰ですか?」となる。
このタイミングでは絶対に最初に手をギュッと握ってはいけない。
そうなると、普通ならば隣の人に手をギュッと握られるなんて事は起こるはずがない。しかしこれは”降霊ゲーム”である。
もし成功していると、ギュッと手を握られるという現象が起きるという話だ。
見事成功したら、後は同じように質問を繰り返せば良い。
普段なら絶対に隠しておきたいような事も、霊の力で聞き出す事が出来るらしい。
そして思う存分楽しんだ後は、しっかりと降ろした霊を帰す必要がある。
最後の締めとして「私を殺したのは誰ですか?」と質問し、誰も手をギュッと握らなければ無事に終了となる。もし、ここで誰かが手をギュッと握ってしまったら失敗。
次の人がもう一度YESかNOで答えられる質問をして、その後で再び「私を殺したのは誰ですか?」と質問すればいい。
これは何度失敗してもいいが、必ず終わらせなければいけない。
仮にしっかりと終わらせなかった場合は、ゲームに参加した誰かに霊が憑いたままになってしまうという話である。
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「私を呼んだのは誰ですか?」
その質問にギュッと手が握られた。
誰かのいたずらだと分かっていても思わずドキリとしてしまう。
「おい、誰だよ!?」
山田君は怒った風を装っているが、その顔はどこか楽しそうだ。もしかしたら彼がやったのかもしれない。どうやら先を越されてしまったようだ。
「まぁまぁ、もしかしたら本当に降りて来たのかも?」
そう言ってこの話を持ってきた立石さんが笑う。
真面目そうに見えるのに、彼女はこういったオカルトじみた話が大好きなようだ。
今回このゲームに参加しているのは僕以外に六人。
順番に山田君、立石さん、佐藤君、立花さん、稲垣君、田中さん、そして僕だ。
みんなの顔を見れば、楽しんでいるのが山田君、立石さん、佐藤君、稲垣君の四人。立花さんと田中さんは僕と同じように少しだけ不安そうな表情をしているように感じる。
とは言っても途中で抜け出す勇気はないから、当然最後まで続けるけどね。
だけどまぁ、なんというか。
降霊ゲームなんて物騒な名前のくせに、皆の質問は下ネタや恋愛絡みがほとんどだ。
「山田は包茎ですか?」
佐藤君の質問にギュッと手が握られる。
「おい、てめぇ!」
「答えたのは霊だから」
「まぁまぁ、楽しくやろうよ」
「ちっ、俺の順番楽しみにしてろよ」
「りょーかいっ」
弄られた山田君が苛立ちを露わにして佐藤君が飄々と答える。そこに稲垣君が仲裁に入る。いつものお決まりの流れで自然と笑いが起きた。
しばらくそうやって楽しんでいたのだけれど、いつの間にか違った質問が混ざるようになってきた。
「××君は成仏できましたか?」
反応なし。
「××君が会いたい人は誰ですか?」
ギュッと握られる。
「××君は虐められていましたか?」
ギュッと握られる。
「××君を虐めたのは誰ですか?」
ギュッと握られる。
「××君は虐めた人を恨んでいませんか?」
反応なし。
「××君が復讐したいのは誰ですか?」
ギュッと握られる。
「おい、やめろよ」
「そうだよ……」
稲垣君が情けない声を出し、田中さんがそれに続く。他の女子二人もそれに頷いた。
「おい、ちょっと待て!おかしくないか?」
「何がだよ?」
山田君に佐藤君が聞き返した。
「いや、だって誰があいつの質問してるんだよ?」
「えっ……」
山田君の言葉にみんなが固まった。
「冗談だよね?ねっ?」
田中さんは今にも泣き出しそうだ。
「だって誰が質問したのか覚えているやついるか?」
山田君の問いに誰も答えられない。
「終わりにしよう」
佐藤君の質問に全員が頷いた。
適当な質問を織り交ぜて、さっさと終わらせる事になった。
「私を殺したのは誰ですか?」
ギュッと手が握られた。
「おい!ふざけんなよ!」
「まぁまぁ、怒るなって。でも冗談でもやめろよ」
半ギレ状態の山田君を佐藤君が宥めつつ、全員に牽制した。
でも……。
「私を殺したのは誰ですか?」
再びギュッと手が握られ、山田君だけじゃなく、佐藤君も苛立ちを表に出し始めた。
さすがに佐藤君がキレたらヤバイ。
それは皆の共通認識であったため、すぐに終わるはずだった。
だけど……。
「なんで終わらないんだよ……」
稲垣君が唖然と呟き、女子達は皆泣いている。
「今度こそ」
そう意気込んだ次の質問。
「ここにいるのは××君ですか?」
あり得ない質問だった。
誰がしたかもわからない。
ただ、ギュッと手が握られていた。
全員が唖然としていた。
「マジでふざけんなよ」
稲垣君も完全に泣声になっている。
「ちょっと待って!順番で回ってるんだから誰が言ったか分かるでしょ?」
立石さんが泣きながら怒鳴った。
「そうだよ!さっき田中さんだったから、今は山田くんのはずだよね?」
立花さんが後に続く。
「え?俺は次なんだけど……」
山田君のその言葉に全員がギョッとした表情で僕の方を見た。
突然の事に僕はビックリだ。
「なんだよ。誰もいないじゃねーか。ビビらすなって!」
佐藤君が渇いた笑いを漏らす。
「でもおかしくないか?」
と稲垣君。
「何がだよ?」
山田君は非常に不機嫌だ。
「だって六人なんだから、YES,NOか誰ですか?の質問のどちらかしか回ってこないはずだろ?どう考えても交互に回って来てたんだけど……」
「もういやー!!」
ついに耐えきれなくなったのか、田中さんが悲鳴を上げて走って行ってしまった。立花さんがすぐに後に続いて走り出す。
「ちょっと待てよ!」
山田君が怒鳴るけれど残念ながら手遅れだ。
いつの間にか立石さんと稲垣君もいなくなっていて、残ったのは山田君と佐藤君と僕の三人。
「仕方ないから帰るか」
「ああ」
不機嫌な山田君を佐藤君が宥めて歩き出す。
そんな二人の後に僕もしっかり憑いて行く。
だってせっかく呼んでくれたんだから。
ああ、これから楽しみだなぁ。