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かくれんぼ
作:大平麻由理



13.再会


 土曜日の夕方、予約していたヘアサロンから帰って来た澄香は、部屋のクローゼットの前で今夜の同窓会に着て行く服をあれこれ吟味していた。
 週の初めに大寒を迎え、今は一年中で最も寒い時期でもある。
 襟に取り外しの利くファーがついたニットのセーターと、裾にフリンジがとってある膝丈のスカートを組み合わせ、白いカシミア混のコートをはおる。
 メイクもナチュラルに薄めに仕上げた。マスカラだけはしっかり二度塗りを忘れなかったが。
「よし。神戸風お嬢様ファッション、完成!」
 澄香は鏡に向ってそう叫ぶと、カットしたばかりのマロンブラウンの髪のカール具合を確かめ、母親のお下がりのモノグラムで人気のフランス製のショルダーバッグを持って玄関に向った。
 ブーツを履き終えるとちょうどいいタイミングで携帯が鳴る。
『もしも〜〜し。あたしぃ』
「あっ、マキ? ごめん、ちょっと遅れるけど」
『わかった。じゃあ駅でね。ねえねえ今日はかがちゃん来るの?』
「う、うん。多分来ると思うよ。昨日出張から帰って来たばかりだから、昼の新幹線でこっちに向うって」
『ふ〜〜ん。出張と重なるから今回の幹事は無理って聞いてたからさあ。そうなんだ。来るんだ。それにしても澄香。相変わらず詳しいね、彼の動向』
 澄香はマキに秀彦とメールをしていることはそれとなく話してある。
 あくまでも、たまに……ということを強調してではあるが。
「たまたま昨日メールして聞いただけだから。マキが思ってるような深い意味はないわよ! じゃあ後でね……」
『はいはい。全く変んないわね、澄香も。いい加減素直になんなさいよ。なんなら今夜も一席設けてあげようか? かがちゃんと』
「結構よ。余計なことしないでね。じゃあ!」
 澄香はマキの次の一言を待たずに通話を切ると、バス停に向って走り出した。

 今夜は高校三年の時のクラス同窓会。
 一年に一度、学年全体の同窓会があるが、今回は三年ぶりのクラス同窓会だ。
 大学を出て二年目を迎え、浪人して大学に入ったクラスメイトも、ほぼ全員就職してサラリーマン姿が板についてきた頃だろう。
 院生もこの春からは社会人になる。

 今回は学生時代の同窓会よりワンランクアップした北野にあるイタリアンレストランを借り切って、事前にマキが奔走して企画した同窓会になる。
 澄香もそんなマキを手伝って、昨夜は出欠の確認のメールで大忙しだったのだ。
 で、今も集合時間の一時間前から会場に赴き、座席や料理の最終打ち合わせに付き合っていた。
 出席予定は三十人。相変わらずの高出席率で、幹事もやりがいがあるというもの。
 ブライダルプランナーをしているマキは、ただのクラス同窓会といっても手を抜かない。
 カトラリーの数から、飾られている花の色合いまで計算しつくされたその会場は、さながら結婚披露宴のパーティー会場のようでもある。
 澄香のこの日の役割は受付だ。
 会費の徴収と、結婚の遅かった鬼教師黒川のベビー誕生のお祝いの寄せ書きをしてもらうことが澄香の仕事。
 大きめサイズの色紙の真ん中に今夜の同窓会の集合写真を貼るスペースを空けて、周囲にカラーペンで一言ずつメッセージを書いてもらうのだ。
 会費の一部を、出産祝いのベビー服代に当てる。それは、神戸の老舗ベビー服メーカーに勤めるクラスメイトが用意してくれる予定になっている。
 十分前になるとクラスメイトが姿を見せ始めた。
 大抵、誰であるかはわかるが、たまに卒業後初めての出席だというあまり交流のなかった男子などは、誰だっけと首をかしげることもある……。
 その昔、秀彦の名前と顔が結びつかなかった前科のある澄香にとって、それはある意味、当然の結果でもあるのだが。

 メンバーがほとんど揃い、グラスワインで乾杯と言う時、マキが澄香の耳元でささやく。
「かがちゃん、遅いね。来ないのかな?」
 澄香もずっと気になっていたのだが、さすがにマキには悟られるのはやばい。今気付いたとでもいうような顔をしてとぼけてみせる。
「そういえばまだだね。遅れるのかな?」
 マキが澄香のそばを離れた隙に、そっと携帯を盗み見る。
『今、新神戸。会場まで走れば十五分もかからないだろうから。じゃあ、後で』
 秀彦からだ。着信時刻は十分前。
 澄香は、みんながそれぞれに歓談を始めたのを隠れ蓑に、そっと会場を抜け出した。
 レストランを出て北側の大通りを東に行ったところが新神戸駅だ。
 ここ北野周辺は夕方の六時を過ぎてると言うのに、まだ人の波が途絶えない。
 北野坂にはイルミネーションが灯り、恋人達の週末を優しく彩る。
 駅南側のルミナリエが十二月に開催され、終わったあとも、北野坂のライトアップは続いているのだ。
 澄香は大通りに出たところで、なつかしい人影を探した。
 スポーツバッグを片手に、ブルゾンとジーンズ姿のよく知った人物がこちらに向って走ってくるのが見えた。

 秀彦だ。

 澄香は手を振った。肩に掛けただけのコートがずり落ちそうになるのも気に留めずに。
「ごめん。遅くなった」
 肩で息をしながら特上の笑みを浮かべる目の前の秀彦に、澄香が言えるのはこれだけ。
「みんな待ってるよ。会費、五千円、よろしくね」
 遠距離恋愛風味の二人には、それがたとえ久しぶりの再会であったとしても、ぬくもりを確かめ合うことは許されない。
 澄香を抱きしめかけたその腕を不自然に元にもどす秀彦には、もうすでに笑顔はなかった。



 
  







   





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