プロローグ
年末の予定は?
──大晦日の晩にはそっちに帰ると思う。でも元旦の夜には京都に戻るよ。
忙しいんだね。おじさんもおばさんも寂しいんじゃない?
──いや、俺がいなくてせいせいしてるさ。
そんなことないよ。きっと心配してるって。
──どっちでもいいよ、そんなこと。じゃあ、大晦日の晩、零時に。
うん。わかった。ねえ、ねえ、何回目かな? 零時のメール。
──六回目だろ?
そっか。もうそんなになるんだ。でもさ、加賀屋君。あたしとなんかメールやってる場合じゃないでしょ? 彼女に叱られない?
──別に。もしいたとしても叱られないし、いなければ尚さら叱られないし。
そんなもんなんだ。
──澄香は? 彼に叱られないのか?
だから、そんな人いないって言ってるでしょ。
──会社の……あの人は?
彼には興味ないの。ただの同期だから。
──じゃあ、誰か忘れられない人でもいる?
かもね?
──おやすみ。
ちょ、ちょっと、加賀屋君。それはないでしょ?
──おやすみ。
すねてる。絶対すねてる。
──スネテナンカイナイヨ。おやすみ。
毎日繰り返されるメールだけが、あたしの真実。
電話で話すことも、二人だけで会うこともないけれど。
彼とのメールだけが、あたしの生きてる証し。
高校の同窓会があるってホント?
──ああ。今月末にあるらしいぞ。
へえ、そうなんだ。二年ぶり? いやもっとかな?
──三年ぶりじゃないか? 澄香は行くんだろ?
うん。行くよ。加賀屋君も?
──仕事の都合によるかな? 月末イタリアに出張が入ってる。長引けば無理だな。
ええ! いいなイタリア。じゃあおみやげはパスタで。
──よし。わかった。
それと免税店であのブランドバッグも。
── ……わかった。
あと、高級時計も。
──おやすみ。
あっ、また怒った。
──おやすみ。
絶対怒ってる。
──オコッテナンカイナイヨ。おやすみ。
出張のたびにおみやげをねだる。
すると、それを写真に撮ってメールに添付してくれる。本物が届くことはない。
だって、これはゲームだから。彼とあたしだけの、密かなゲーム。
どこまでも続くかくれんぼ。
そしてそれは、決して叶うことのない……夢物語。
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