退屈な、会議。
松本警視の長い話。
仕事で疲れた頭は、長い話についていけず、ぼんやりしている。
やっと、会議が終る。
佐藤は、ふと、自分の手元の資料を見る。
無意識のうちに書いてしまったいたずら書き。
何で、こんなの、書いてしまったんだろう?
自分でも、不思議な気がする。
わずかばかり、頬が熱くなる。
と、頭上から、声。
「長かったですね、会議。あ、佐藤さん落書きなんかして」
慌てて、隠そうとする佐藤の手から高木は資料を取り上げる。
「まだ、書きかけですか。でも似てますよね。
これ、松本警視でしょう?」
確信をもった笑みの高木に、佐藤は、一瞬返事が出来ない。
白鳥が横から覗き込む。
「大胆に、デフォルメされてますね。
でも、よく松本警視の特徴を捉えてます。
佐藤さん、結構似顔絵、御上手なんですね」
ありがとう、ええそうなのよ、
と、うなずきながら佐藤は資料を取り返す。
そして一人で会議室を、出て行く。
佐藤は、一人、シュレッダーの前にたたずんでいる。
もう一度、自分の書いた絵を見る。
そして小さくため息をつき、資料をシュレッダーの中に放り込む。
資料は、あっという間に、細い紙切れの集まりになってしまう。
“今の、私の気持ちみたい”
佐藤は、ふと、はじめて幼稚園に入った年の父の日の事を思い出す。
“大好きなお父さんのために、一生懸命書いた絵。
ぴかぴかの黄色いリボンで、丸めた絵をしばったっけ。
開いた時、お父さんがどんなに喜んでくれるかと、胸をわくわくさせて”
佐藤の視線は過去を見つめた。
“あのあと、布団の中で泣いてたら、
お母さん、お父さんをこっぴどく怒ってた。
『父の日のプレゼントに幼稚園で書いて来る絵といったら、
父親の顔に決まってるじゃない!
そんな事も、推理できないで、あなたそれでも刑事なの!』
お父さんは、全然反論しなかった。
それから一週間。
今同じ仕事をしてるからこそ分かる。
お父さん、すごく無理して、仕事を定時に終わらせたのね。
毎日、御土産持って帰ってくれた。
おもちゃに、本に、ケーキ。”
“あのころと違って、私はもう大人。
泣いたりなんかしないわ。”
そう思いつつ、佐藤は憂いに満ちた笑みを浮かべて、細切れになった紙を見た。
“そう、あなたにも、分かってもらえなかった。
あの絵は、高木君。あなたを書いたのよ”
(おまけ)
佐藤の、憂いに満ちた様子を、たまたま通りかかった目暮警部が気づいた。
その後、佐藤刑事を呼び、何か悩みでもあるのか、と親身に話し掛けた。
しかし、佐藤刑事は、何も言わない。
同僚刑事にそれとなく聞いてみても、心当たりはないという。
目暮は、妻にも相談してみた。
二人の結論は、「仕事疲れ」
目暮は、仕事のスケジュールをしばし考えた。
休みを申し出ている者で、取り消しても良さそうな理由の者は・・・。
目暮は、自分の休暇を返上し、高木刑事に一日分休暇を返上させ、
佐藤刑事を、2,3日、ゆっくり休ませる事を決意した。
(おしまい)
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