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78/112

その78

 お昼ごはんももう少しかかるみたいで、折角なのでその間に姉さんと会話を続け、先に俺たちだけで互いの運命の人を軽く紹介することになった。


「えっと、小日向(こひなた) (ゆい)です」


 どこか緊張した様子でそう口にしたのは姉さんの運命の人で小日向さんと言うらしい。

 小柄な体つきで顔も随分と幼く見え、綺麗というよりは可愛い系の人で全体的にどこか小動物のような雰囲気を放っている。


「そんで私がそこのアホの姉の冬華(とうか)よ」


 続いて大層失礼なことを口にしたのは本人がいうように俺の姉その人だ。

 顔はまあまあ整っていて、本人の強気な性格がそのまま顔にでたかのようなキリッとした目つきが特徴的で、ショートヘアーと合わさってややボーイッシュ。

 そんなある種対称的な二人はまるで姉御とそれを慕う人見知りの少女といった印象だ。


「えー、どうも。弟の雄二です。ダメな姉をよろしく頼みます」

「誰がダメな姉だ、誰が」

「そうです! 冬華先輩は全然ダメな人なんかじゃないです!」


 仕返しに俺も少しばかり意地悪な事を言えば、それが冗談だと理解しているのだろう、わざとらしくムッとした感じで姉が抗議してくる。

 実際、姉弟同士の軽い冗談だったのだが横で聞いていた小日向さんは大きく身を乗り出して敵意を含む目でこちらを睨んできた。

 ……なるほど、彼女もクセの強い部分があったらしい。


「愛されてますなあ」

「当然よ。なんたって運命だもの」

「へえー。あ、小日向さん冗談でも姉のこと悪く言ってすいません」

「え……あ……っと、わ、私も勢いでごめんなさい」


 図らずも姉がしっかり愛されている事を知れてなんとなしに安心である。

 そうしてのほほんと姉と会話しているのを見て小日向さんも落ち着いたみたいで、こちらの謝罪を素直に受けとると再び小動物のように縮こまってしまう。


「さて、自己紹介の続きってことでこちらが俺の彼女で――」

「将来的にはお姉さんの妹になります、笹倉由美です」

「笹倉さん!?」

「……あら、随分と積極的な子みたいね」


 流れを戻して笹倉さんの紹介に移れば、彼女は何を思ったか大胆な宣言をして俺たちを驚かせた。

 確かに俺たちの間でも将来的に絶対に結婚しようと話はまとまっていたけれども、まさかこうして笹倉さんから堂々と宣言されるとは。

 本当なら俺から宣言するつもりだったのに……と、なんだか負けた気分であるが、それ以上に嬉しいとも感じていた。


「ははは、雄二も隅におけないようだ。ねえ、みっちゃん?」

「ええ、本当に素敵な子です。もちろん小日向さんもうんと素敵ですよ?」


 そうしてひとまず姉への簡単な紹介が終わったところで、いつの間にか姿を消していた父さんと、料理を終えたのだろう母さんがそれぞれ焼きそばの乗ったおぼんを持ってリビングへとやってきた。

 その際の口ぶりからどうやら二人も先程の笹倉さんの発言を聞いていたらしい。

 ……ふむ。

 もともとそこまで心配していなかったけど笹倉さんは俺の家族皆に好印象を持ってもらえたみたいだな。

 まあ、女神だからそれも当然だろう。

 そうして一人満足げに頷いていると笹倉さんがなにか言いたげに身を寄せてくると小声で話しかけてきた。


「……ねえ、新城くん。あの人が新城くんのお母さん……なんだよね?」

「うん。どうして?」

「いや、だってすごい若いから……」


 どうやらやってきた母さんを見て少し驚いたらしい。

 確かに見た目だけは大学生にすら見えるほど若いからな、母さんは。

 笹倉さんには以前に両親が共に四十二歳って伝えていたしその事前情報だけだと驚くのも無理はない。

 なまじ父さんが年相応に老けているから一緒に並ぶと余計に若く見えるし。


「聞こえてますよー? もう、私だって陽輝ようきさんと一緒に年を取りたかったのに」


 そんな、世間からは大層羨ましがられそうな体質を持ちながらも当人としてはむしろ不満なようで若いとか言われると母さんは少し不機嫌になる。

 なんだか父さんと同じ時間を生きていないように感じてしまうらしい。


「ははは。僕はずっとかわいいみっちゃんといれて嬉しいけどね。まあ、僕ばかり老けてかっこ悪くなっちゃうのは申し訳ないけど」

「もう、そんなこと! 若い頃の陽輝さんも素敵だったけど今だって昔に負けないくらいかっこいいんですから!」

「そう言ってくれると嬉しいなあ。ならいつまでも僕と一緒にいてくれるかい?」

「当然ですよ!」


 そして今目の前で見せられているように、母さんが不機嫌になると即座に父さんが宥め、所構わず惚気けやがるのが我が家の日常でもあった。

 仲睦まじい両親の姿はある種微笑ましく、それ以上に鬱陶しい。

 だからこそ母さんの外見の話題は俺も姉さんも控えていたりする。

 まあそれもきっかけの一つに過ぎず、控えても別のことですぐに惚気けるので意味をなさないのだが。

 しかしこうなると両親は二人の世界に入り込んでしまう。

 戻ってくるのを待ってもいいが、あいにくと腹の虫が空腹を訴えている。

 美味しそうなソースの匂いが目の前から漂っているのだから無理もない。

 であれば、ひとまずは空腹をなんとかしよう。

 尚もイチャつく中年バカップルは放っておき、姉さんと一つ目線で合図を交わすとそれぞれおぼんを奪取して焼きそばを机に並べ、先にいただくことにした。

 ……結局、両親が二人の世界から帰ってきたのは俺たちがゆっくりと焼きそばを平らげた後だった。





 それから少し経ち、両親も焼きそばを食べ終わり食器もすっかり片付けられたリビングで俺たちは顔を合わせていた。

 というか、焼きそば食べる前に先に顔を合わして挨拶するべきだったのではとも思ったけど……まあ、その辺家族揃って緩いからなあ。


「さて、順番が逆だったかもしれないけど僕がこの子達の父親の陽輝ようきって言います」

「母親の美香みかです。なんて、私達の名前なんてどうでもいいですよね」

「いえ、そんなこと。ええと――」

「私は――」


 まずは二人がそう言って話を切り出すと続いて笹倉さんと小日向さんが改めて挨拶をした。

 それを父さんも母さんもニコニコと笑って聞いていてその様子は親しみを感じさせるものである。

 そんな柔らかい応対に笹倉さんも小日向さんも少し照れていたが、次第に落ち着いた表情になっていった。 


「いやあ、それにしても冬華はともかく雄二がこんな綺麗な子と結ばれるとはね」

「ちょっとおバカな子でしたから心配でしたけど」

「アホな弟でごめんねえ」


 それからいくつか雑談を交わしたところで両親と姉から唐突にディスられる。何故だ。

 しかも全く見当ハズレである。

 なので俺も軽く鼻で笑って流したのだが、


「確かに新城くんはおバカですよねえ」

「え!?」


 と、まさかの笹倉さんまでもがそれに同意したので心底驚いてしまう。

 え、いや、俺のどこが!?

 などと内心慌てていたのだが、続く笹倉さんの言葉に不意を突かれた。


「でもそれも含めて好きになったから問題ないですよ。それに決める時は決めてくれますから」

「っ!」


 こ、この女神様ときたら!

 すぐ落として上げるんだからな!

 そんな笹倉さんの言葉に両親も感心したみたいで一際やさしげな笑みを浮かべた。


「うん。君ならうちの雄二とうまくやっていけそうだね」

「ええ、どうか私達の子と一緒に幸せになってくださいね?」

「はい!」


 どうやら笹倉さんは完全に受け入れられたらしく、父さんたちの言葉に彼女も嬉しそうに返事をした。

 まあ俺もこうして打ち解けてくれてなによりだ。





 と、それで終われば綺麗な話だったのに俺の親ときたらそう簡単に綺麗に終わらせてくれないらしい。

 穏やかな笑みを浮かべたまま、


「ところで、二人はもうやっているのかい?」

「別にそれはいいけれど、避妊はしっかりするのよ?」


 と、和やかなムードに突然セクハラめいた爆弾を投げ入れるのであった。

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