殺人伽祭
そこに迷いなんかない。
手にしたナイフを藍色の着物の少女に、俺は喉元に突き付けた。
俺はその光景をただ見下す。
そこに在るのは闇と少女だけだ。
少女の黒瞳に感情というものは存在しない。
ナイフの切っ先が少女の喉元に触れる、銀色のナイフは冷たく、月光が反射して輝いていた。
(……!)
そして着物の少女に、俺は喉元目掛け、そのナイフを振り下ろした。
『――っあああぁぁ!!』
叫び声というより悲鳴に近いその声を、気づいたら俺は出していた。悲鳴と共に視界に飛び込んできたのは学生寮の俺の部屋。
見渡しても当然少女など居らず目の前にはただ机が在った。
……くそ、またあの夢だ。
最近この夢を良く見る。初めに見たのは一ヶ月くらい前であったろうか、友人が飛んできた記憶がある。その友人というのがなんとも大袈裟に騒ぐものだから他の生徒も俺の部屋に傾れ込んで来たのを今でも覚えてる。まぁ、憎めない奴なんだが。
朝ごはんを食べても、学校に行くまで些か時間があるようなのでテレビの電源を着ける。
芸能人の誰が結婚しただのプロ野球のどこの球団が勝っただの、いつもと同じ内容だ。もう消そうか、と思っていると、あるニュースが俺の目を奪った。それはこのような内容だった。
――深夜零時。会社員の女性(25)がバラバラに惨殺された。凶器は間違えなく刃物で、ナイフや包丁なんかだと言う。犯人は未だ捕まっておらず現在も街に潜伏中。
というもの。普通ならスルーしてしまうところだがさっきの夢でどうも刃物というのに引っ掛かった。それがもしナイフだとしたら、関係があるのだろうか……。
登校時間が来たようなのでテレビを消し、制服に着替える。制服は紺色のブレザーなのだが、なんせ今は夏だ。ワイシャツでいい。下は灰色のズボンを穿き、ベルトを閉める。
学校の鞄を手に握り、俺は寮を後にした。
藍坂高等学校の2年生である俺の教室は2階にある。態々(わざわざ)職員室のある階になくても、と思いながら会う先生に挨拶を交し、教室へと入っていく。
例の友人とも挨拶を交し、席に着いた。
『おはよう、隼斗』
後ろから話しかけてきた女生徒は湖堂姫夏、俺の幼馴染だ、漆黒の短髪の姫夏は当然女生徒のため下は灰色のスカートを穿いている。その容貌から多くの男子生徒に慕われている、俺には関係ないが。
ただ、漆黒の短髪というのは俺にはどうも気に食わない。あの着物の少女も漆黒の短髪だった。一度姫夏を疑った事があるが、そんなわけないと思いすぐに止めた。
『隼斗、今日は夏祭りだね』
すっかり忘れていた。今日は市の夏祭りで確か6時からだったと思う。まぁ、行くには行くのだが、せめて姫夏が藍色の着物で来ないことを願おう。
近場の噴水で会ったあと、俺達は屋台やらが立ち並ぶ神社へと移動した。
赤い鳥居を潜り灰色の百八の階段をのぼると、二つに分かれるように屋台が並んでいた。
『すごい人の量だね』
『そうだな』
と、俺は適当に答えると辺りを見回した。人ごみの中に居ると目眩がしそうでならないので一旦人ごみを外れる。
まぁ、姫夏は後ろについているだろうから俺は勝手に人ごみをはずれ、一息入れる。目の前で、人が流れて行く様を見ていると頭が痛い。
ふと、後ろを振り返ると姫夏が居ない、まぁそのうち会えるだろうと思った俺は、一人悠然と歩を進めることにした。
そのまま少しの時がたち、俺は人ごみに流されている。先刻から姫夏の姿を見ていない、どこに行ったのだろうとさすがに心配になった俺は姫夏を探すことにする。
まずは屋台の裏、社の後ろ、といろんなところを探したが見つからない。
突然頭痛が襲って来る。どこか休むところはないかと俺は辺りを見回す。花火はまだ上がっていない。
屋台の裏、ココはだめだ。余計に頭が痛くなる。
階段、ココもだめ。
岩陰、ココなら大丈夫だろう、と俺は裏側に回る。
すぐそばに、藍色の人影が立っていた。
鮮やかな藍色の着物は、赤い斑紋で汚れていた。
少女のすぐ前にあるモノが、赤い液体を噴水のように吹き上げている。そぅ、その紅い液体を吹き上げるモノは、人間の死体だ。
『―――――』
声はでない。
その、藍色の着物の少女は姫夏。
意識が、綺麗に真っ白だ。
死体は今まさに命途切れたか。あれほどまでに勢いよく血が流れるのは生きたまま動脈を切らないと駄目だ。
少女はじっと、死体を見つめる。
そして、血に塗れた少女の口元は歪んでいる。
顔だけをこちらに向け、涼やかで、落ち着いた笑みを浮かべて、少女の唇はゆっくりと動き出した。
『ごきげんよう』
母性めいた笑顔で、少女はそう言った。
『綺麗でしょ?』
少女は死体を見下す、いやそれは死そのものだ。
『最近の事件も私よ?』
いつもの姫夏より冷酷だった。声なんて出ない、これから目撃者である俺を殺すのだろうな。
『――あ……あぁ……』
少女は冷酷に微笑み、ゆっくりと俺に近付いて来る。
『――あ……あぁ……』
それしか声がでない。目の前の殺人鬼、それは紛れも無く俺の幼なじみの姫夏で、その少女は確実に俺に近付いて来る。
『……怖い?』
どうせ恐怖感で俺の唇は動かないのだろうな。
意識が遠退いていく。少女が近付いて来る。
立っていられないほどの恐怖感、俺は地に仰向けに倒れた。
倒れ込む俺の上に、少女がのしかかってきた。
そこに迷いなんてない。
少女は俺の喉元にナイフを突き付けた。
ただ哂う。
そして、少女は手にしたナイフを振り落とした。
『――っあああぁぁ!!』
――目覚めるとそこは血の海で、少女は頭、腕、胴体、足。バラバラだった。
『馬鹿な……俺が……』
ナイフを手にしていたのは俺だった。その手に、しっかりと握っていた。
俺にこんな人間をバラバラにする勇気も技術もあるわけがなく、ましてや逆に俺を殺そうとしていた相手を。
『俺が……殺人鬼か……』
無理矢理そうこじつけていた。どう考えたらそんな答えになるのだろうか。
ただ、俺にはなぜかそれが真実としか思えなかった。
少女の死体を見つめながら、俺は手にしたナイフで自分の首筋を切り付けた。
頚動脈から滴り落ちる血液。薄れゆく意識の中、血だまりをみながら、俺は哂っていた。
かなり滑稽になってしまいました。なんだか分からんし酷いですね……
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