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おさない、かけない、しゃべらない 作者:真木あーと

第二章 長い夜と秘密の朝

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第三節 湖の朝

 さすがに豪華なベッドは寝心地がよく、俺はぐっすりと眠れた。
 朝の陽射しがまぶしい。
 とは言え、まだまだ早朝と言ってもいい時間だ。
 飯を食って旅の準備を始めるにはもう少し時間に余裕がある。
 そんな朝の時間。
 まあ、起きてしまうと、二度寝が出来ない性分なので、このまま起きてしまう事にした。
 そう言えば、昨日あれから寝てしまったが、ユキやメシュはちゃんとベッドで寝たんだろうか?
 気になったので、二人のベッドがある入口の方へと行ってみた。
 昨日のこともあり、ユキが下着姿のまま布団ひっくり返していないとも限らないので、まずは遠くから様子を見ながら近づいた。
「あれ?」
 どうも人の気配がないように思える。
 俺はベッドまで近づいてみる。
 ベッドには誰もいなかった。
 二つとも、使われた形跡はあるが、既にもぬけの殻だ。
 ユキもメシュもいない。
 どこか行ったのか?
 それとも何かの悪戯か?
 それとも……?
 俺は軽装だけして部屋を出た。
 俺を置いて飯を食いに行った可能性もある。
 昨日のあれのせいで俺を恨んでる可能性もあるからな。
 まずは飯が食えそうなところを探してみよう。
 そう思って宿を出ようとしたら、昨日の使用人に出くわした。
「なあ、俺の連れに会わなかったか?」
 俺はとりあえず聞いてみた。
 もしかして出て行ったのを見ているかもしれない。
 場合によってはいい店があるか聞いているかもしれない。
「あの二人なら、町のそばの湖に行かれました。私がご紹介しましたので間違いありません」
 湖? 何でそんなところに行くんだ?
 風景を眺める趣味があいつらにあるとも思えない。
「とにかく、湖だな?」
 とりあえずは行って確かめよう。
 俺は使用人を背に、湖に向かおうとする。
「あ、お待ちくださいませ!」
「?」
 慌てる使用人に呼び止められるので振り返る。
 使用人は次の言葉を言おうとして少しだけ考える。
「……ああ、あなた様なら、いいのかも知れませんね。ごゆっくり」
 よく分からない事を言われて今度は送り出された。
 全く意味不明だが、とにかく行くか。
 俺は宿を出て、町のそばにあるらしい湖を探す。
 まあ、それほど手間もなく探す事が出来た。
 本当に村のすぐそばにあったからな。
 湖はそれなりに広く、水は澄んでいた。
 おそらくこの町の生活を支えているのだろう。
 そんな湖の周囲は木や草が生い茂っていて、水辺は近くて遠かった。
 何とか細い道を見つけて奥に入ると、ユキの声が聞こえる。
 やっぱりここにいるんだな。
 メシュも多分一緒にいることだろう。
 俺は奥へと向かう。
「おい、お前ら、何で俺を置いて──」
 俺が文句を言いながら湖のほとりへと入るが、二人の様子と状況に言葉が止まる。
 確かにユキとメシュはそこにいた。
 ユキはきょとん、とした顔で俺を見ている。
 さして変わった事はない。
 薄汚れていたユキの金髪は、朝日にきらきら輝くくらいに綺麗になっており、彼女の白い肌に張り付いていた。
 メシュの漆黒の髪も、綺麗に光り輝き、その真っ白な肌に映えた。
 俺がこれまで見てきた二人の中で、もっとも綺麗な姿だ。
 二人とも一糸纏わぬ姿で水浴びをしていたのだ。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 ユキが物凄い勢いでしゃがみ込む。
「わ、悪い!」
 俺はとっさに後ろを向く。
「なんで来てんのよ! 馬鹿っ!」
「悪い、本当に悪かった!」
 女が男に黙って湖に行けば水浴びをするのは常識に近いことなんだろうが、女と生活をした事のない俺には、そこまで気が回らなかった。
「今すぐ帰る!」
「急ぎなさいよ! ……え?」
 ユキが意外そうな声を上げると、水音がして、何かが岸に上がってきて、こちらに向かって来た。
 ユキの攻撃かと思い、ここは甘んじて受けようと思っていた俺の目の前に、メシュの顔があった。
 もちろん、顔の下は何も身に着けてはいない、メシュの未成熟な肢体があった。
「な、なななな!?」
 俺が反応に困っていると、メシュは俺の手を掴んだ。
「『どうして一緒に入らないの?』じゃない! 早く戻って来ないと襲われるわよ!」
「襲うかっ!」
 とはいえ、全裸のメシュに全く隠す様子もなく目の前に立ってられると、とても困る。
 俺はたまらず目を背ける。
 そして、目を背けた先の視界にいるのは、ユキ。
「見るなぁぁぁぁっ!」
「今のは不可抗力!」
 そう言いながら、俺はダッシュで湖を後にした。
 部屋に帰るとすぐに戻って来たユキに、思いっきり殴られた。
 何度も何度も殴られた。
 ユキの息が切れるまで殴られた。
「はあっ、はあっ……今日は、これくらいにしておいて……って思い出すなぁぁぁっ!」
 再び殴られる。
 いやだって、仕方がないだろう。
 さっき全裸を見てしまった女の子が目の前にいたら、どうしても思い出してしまう。
 それを止める手段を、俺は知らない。
「思い出すなっ!」
 ユキを見れば思い出し、目を閉じればユキの全裸が。
「思い出すなっ!」
 声を聞けば、ユキの裸を……。
「思い出すなっ!」
 そんな状態が延々続き、俺の顔が腫れ上がるまでにさして時間はかからなかった。
 それからも延々殴られ続けた。
 何回殴られたかは覚えていない。
 五十回までは数えたが、面倒になってそこでやめた。
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