挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
おさない、かけない、しゃべらない 作者:真木あーと

第五章 暗殺者とハーレム王

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

17/18

第三節 首都の別れ

 王への謁見の日。
 俺たちは緊張の面持ちで王城へと向かった。
 卿が揃えてくれた立派な服装で、卿の後に続き、王城の門をくぐる。
 さすがに緊張する。
 俺だけでなく、ユキも緊張しているし、あのファルカですらほんの少し緊張しているように思える。
 無理もない、この国で一番偉い人に会いに行くのだ。
 その人の一存で国を動かせる人に会うのだ。
 それこそ俺たちが気に入らなければ、一言で俺たちを処刑出来る様な立場の人だ。
 まあ、さすがに師匠の信書と、アランヴェート卿の口添えがある俺たちをいきなり処刑することはないだろうが、こちらには口の悪さで競い合っているユキとファルカがいる。
 こいつらが王のご機嫌を損ねないとも限らない。
 いや、それ以前に何故こいつら謁見について来ているんだろう。
 謁見は俺一人いれば済む話のはずなのだが、この二人は絶対について行くと言って聞かなかったのだ。
 それでも俺は王に失礼があってはと止めた。
 だが、「仲間との別れくらい、付きあわせてくれよ」などとあのファルカが寂しげに言うので、俺は何も言い返せなくなった。
 こいつら、メシュとの別れの段になって、いきなり感情的に叫んだりして王に失礼なこと言いかねないんだが、まあ、仕方がない。
「次の方は控えへ!」
 謁見の間の入り口から、そんな声が聞こえる。
 いよいよだ。
「さて、行くか」
 アランヴェート卿が立ち上がり、俺たちも続く。
 入り口の前で卿が止まる。
「わが名はソネメル・ジグルフォン・アランヴェート。カルス・バザメマル殿の王様への信書を携えた使者を王に謁見させていただきたく参った」
「バザメマル殿の……! あ、いや、失礼、では中へ!」
 入り口を守っている男は、師匠の名を聞くと驚くが、すぐに任務を思い出し、中に誘導する。
 俺たちは謁見の間に入り、卿の真似をして膝をついて頭を下げる。
 その合間にちらりと王を見たが、俺が想像していたよりも相当若く、青年とも言える年齢の男性だった。
 俺たちのいる場所よりも数段高い位置にある玉座に着いている王。
 目つきは鋭く、だが、口元には余裕の笑みが浮かんでいるその風体は、戦士たちを束ねる若き将軍と言った風情でもある。
「久しぶりだな、アランヴェート殿。軍の方は相変わらずか?」
「はっ、皆元気にやっております」
「それはよかった。俺も王などにならずに、ずっと軍にいたかったんだがな」
「ご冗談を。王がいなければこの国は治まっておりません」
 王はが笑う。
 状況は分からないが、王の卿に対する尊敬がうかがえる。
 今の会話から察するに、王は王子の頃、軍の中にいたのだろう。
 しかもお飾りの王子じゃなく、一軍を統べる将軍だったと思われる。
 まあ、風体も喋り方もいかにもな兵隊出身という感じである。
 軍にずっといたかったというのも本音だろう。
「ところでバザメマル殿という名が聞こえたが、彼に何かあったのか? まさかまた奴らが嫌がらせでもしているのか?」
「いえ、あやつらも王直々に厳命されてはもう何も言いません。バザメマル殿は健在のようです」
「ふむ……私があと、五年早く王になっていたら、引退などさせなかったものを。惜しい人だった」
 王は静かに眼を閉じる。
 心から残念に思っているのだろう。
 この王は師匠の味方のようだ。
 この人なら頼りになる。
 メシュも、安心して託せる。
「この者達が、そのバザメマル殿からの信書を持って来ております。この男はバザメマル殿の一番弟子だそうです」
「おお、そうか!」
 王が嬉しそうに立ち上がり、玉座を下りてくる。
「王!」
 玉座の周囲にいた者達がその行動に慌てる。
「ちょっと立ってみろ」
 王は俺のそばに来ると、俺を立たせ、腕や胸を叩く。
「おう、基本はしっかり出来てそうな筋肉だな。手合わせしたいところだが、俺も軽々しくそれが出来ん身になってしまった」
「は、はあ……」
 異常なくらい気さくな王に、俺はどう対応していいのか分からず、困った。
 助けてくれるかと思っていたアランヴェート卿も、笑っているだけだ。
「アランヴェート殿、彼の強さはどのくらいか分かるか?」
「まだ試しておりませんが、彼を軍に入れて欲しいとバザメマル殿に頼まれているため、まずは腕を見るつもりではおります」
「そうか。ではその時には是非呼んでくれ」
「王様! 今の王様にそのようなお時間は」
「黙れ、これは軍事に関わる一大事だ。この国の命を守る大切な優先事柄だ!」
 王が一喝すると、従者も下がる。
 俺の腕試しが、いつの間にか大事になってしまっていた。
「で、信書はこれか?」
 王は俺の手から信書を取って言う。
「は、はい」
 王は信書を開く。
「王! 直に受け取られては困ります! まずは我々が呪いや罠がないかを検分して──」
「黙れ! バザメマル殿がそのようなものを送りつけるわけがないだろう」
 王は信書を読みながら、ゆっくりと玉座に戻る。
「私を狙う、組織だと?」
 王の表情が変わる。
「ふむ……子供をさらい、調教して暗殺者(アサシン)に育て上げるか。捨ててはおけんな」
 そう言いながら、王の表情は怒りの中に少しだけ歓喜が混じっている。
 ああ、この人は根っからの戦士だな。
 戦える敵が出来てわくわくしてるんだろうな。
「分かった。備えることにしよう。アランヴェート卿、よろしく頼む」
「はっ!」
「それで、元組織の暗殺者(アサシン)と言うのは誰だ?」
 来た。
 ついにこの時が来てしまった。
「彼女、です」
 俺は横にいるメシュを指す。
「そうか。ここに連れて来たと言う事は、大丈夫なのか?」
「はい。彼女は、命じられれば人を殺しますが、普通の女の子です。表情も声も魔法で封印され、感情表現さえも許されていませんが、普通の女の子です」
 俺は抑えていた感情が噴き出しそうになるのを何とか必死に押し留めていた。
「ですから、王国の力で封印を解いて、普通の女の子として生活させてあげて下さい。まだ、生活を何も知りませんが、教えれば出来るようになると思います。その子はもう安全です。暗殺者(アサシン)なんかじゃありません!」
 だが、俺の口は止まらなかった。
 俺がメシュと共に生きてきたのはこの旅の間のほんのひと時だけだった。
 けれど、俺は、俺たちはその間に、代えられない物をお互いに与え合ってきたと思う。
 ここで別れるのは初めから分かっていた事だ。
 だからせめて、メシュの幸せを願って、出来る事は全てしたいと思った。
「──分かった。任せろ」
 その感情を理解してくれたのか、王は穏やかに笑い、俺に約束をしてくれた。
「おい、あの子を連れて行ってやれ」
 王が従者に命じる。
 従者は一礼をすると、メシュの元に来て、その手を取る。
 メシュはちらり、とこちらを見る。
 俺は、一つだけ頷く。
 メシュは立ち上がり、従者と共に奥の間に向かう。
 さっきまで隣にいたメシュが、城の向こう側へと消えてしまう。
 中々会うことも出来なくなるかも知れない。
 手を握ったり、背負ったり、一緒に寝たり、そんな事はもう出来なくなるかもしれない。
 普段、メシュが何かをしてくれたわけではない。
 ただ、近くにいただけだ。
 でも、それだけで心が和んでいた。
「メシュ!」
 俺は立ち上がった。
 王の前であるのに、立ち上がった。
 メシュは俺を振り返り、こちらを見る。
 アランヴェート卿も、ユキやファルカ、従者、王ですらも俺の行動に驚いて、注目する。
 しん、と静まる謁見の間。
 従者の一人が俺を恫喝しようとするが、王が止める。
「ちゃんと……ちゃんと、みんなの言うこと聞くんだぞ? でも、嫌な時は、ちゃんと首を振るんだぞ? ちゃんと一人で寝て、ちゃんと食べるんだぞ?」
 どうして立ち上がってまでそんな事を言ったのか分からない。
 ただ、もう一度だけメシュの顔を見たかっただけなのかも知れない。
 メシュは俺をじっと見つめると、いつものようにこくこくと頷く。
 そして、従者に伴われて、最後にもう一度だけこちらを振り返ってから、奥へと消えていった。
「失礼、しました……」
 俺は非礼を詫びて、ひざまづく。
 全く、ユキやファルカの心配しといて、結局大声で叫んだのは俺かよ。
 自分の未練がましさに情けなくなる。
「いや、構わん。そういう熱い奴が俺は好きだからな」
 王が笑う。
 だが、それ以上俺は何も聞こえなかった。
 俺の頭の中には、メシュとの思い出がどんどん浮かんできた。
 さっきまでは何も思い浮かばなかったのに、いなくなってしまった今になって、次々と浮かんできた。
 この短期間に、これ程まで深い絆があったものかと驚くほどだった。
 もう、メシュは会えない。
 俺は、ファルカが言った通り、死ぬほど後悔する日々を送る羽目になった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ