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おさない、かけない、しゃべらない 作者:真木あーと

第四章 口が立つ女と口で動かす男

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第一節 背中をめぐって喧嘩

 何だかんだで、ファルカは俺たちについて来ることになった。
 色々説得は試みたのだが、全てうまくかわされてしまった。
 強固に反対していたユキだがやはり言い負かされた。
 口先で生きてきたファルカに、俺たちが敵うわけもない。
 まあ、ユキに関しては自爆としか言いようがないと思うが。
 ユキはファルカを連れて行く理由が何もない、と主張した。
 するとファルカにじゃあ、ユキ自身にはあるのか、と言い返された。
 ユキは、自分が元盗賊であり、俺によって改心させられ、自立するためについて来ている、と説明した。
 それならば自分も詐欺や窃盗は止めて改心するから、自立のためについて行く、と言ったのだ。
 そうなるとユキは何も言い返せないし、俺もこの子には改心して欲しいと思っているから連れて行かざるを得ない。
 この子をあのまま放っておけば、いつかひどい殺され方をしてのたれ死ぬ事だろう。
 そうなる前に俺が助けられるなら助けるしかない。
 そうなると連れて行かざるを得ない。
 だからこそ、承諾せざるを得ない。
 まあ、多分ファルカもあんな生活を続けていてはいけないことは分かっていたんだろう。
 だけど、生きていくには金が必要で、金のためには両親のいないファルカにはあの生活しか方法がなかったんだろう。
 ここから抜け出したい、という思いはあっただろうが、出来ずにいたところをたまたま俺たちに捕まった。
 人を見てきた彼女には、俺がお人よしって事を見抜き、そのままこいつについて行って抜け出してやろう、と思ったんだと思う。
 多分、俺がハーレム野郎じゃないって事はわかってると思う。
 ファルカは職業柄、人の性格や機微を読むのが得意だろうし、そういう頭も回るだろうから、状況を読んだりすることには長けてるだろうしな。
 まあ、少し大所帯となってしまうが、更に一人増える分にはまだいい。
 改心する気なら俺としては歓迎だし、一応俺には従順だし、特に問題も内容に思えるんだが。
 ただ、ユキとの相性は最悪と言ってもよかった。
 口の前に手が出るタイプのユキと、口が暴力以上の暴力を持っているファルカでは、何もかもが合わない。
 そもそも、ユキは最初からファルカを仲間に入れるのを嫌がっていて、何が気に入らないのか分からないが何をしても嫌な顔をする。
 ファルカには口では絶対敵わないし、口で来る相手に力で屈服させるのは、自分の流儀に反するんだろう、ファルカに暴力を振るう事はなかった。
 俺には平気で暴力を振るうくせにな。
 それでいて、何かにつけてファルカに難癖をつけようとする。
 敵わないことくらい分かっているだろうに、細かい事にもいちいち難癖をつけるようになった。
 ファルカは最初だけそれに全力で相手になっていたが、あまりの歯ごたえのなさに、つまらないと感じ始めたのか、ほとんど相手にしなくなった。
 そんな態度もユキを怒らせるのだが、ファルカは全く気にしない。
 見ている方がはらはらする妙な空気になるのは勘弁して欲しい。
 そんな中でも、状況に気づかずにいつも通りのメシュが、今は救いだ。
「ご主人、疲れたからおぶってってくれ」
 いきなりそんな事を言うと、ファルカは俺の背中に飛び乗ってくる。
「わっ、ちょっと待て!」
 ファルカはユキよりも背も高いんだが、筋肉がない分体重も軽く、しかもユキよりも背に触れる部分がかなり柔らかい。
 それは、本当に困る。
「ご主人の背中、おっきいな」
 何度も言うが、ファルカは口は悪いが、声は可愛いんだよ。
 耳元でそんな声を出されたらどうにかなってしまいそうだ。
「何考えてんのよ、ティルの馬鹿っ!」
「ぐぶっ!」
 ファルカを背負ってガードの出来ない俺の顔に拳を入れるユキ。
「そこは、あたしの場所なのに、何勝手にそんなの乗せてんのよ!」
「落ち着け、ユキ。ファルカが勝手に乗ってきただけだし、こいつも慣れてない旅で疲れてるんだよ」
「そんな足手まとい、連れてこなきゃよかったのよ!」
 ユキがファルカを指差して怒鳴る。
 ファルカはもはや相手にもしていない。
「旅ってのはな、みんなで助け合っていくものなんだぞ」
 俺は師匠の言葉の受け売りを言ってみた。
「じゃあ、そいつが何か助けてくれるの? 何にも出来ないじゃないの!」
 ユキの怒鳴りに俺はため息をつく。
 本当に、ファルカの何がこんなに気に入らないのだろう。
 そもそも、ファルカが仲間になる前、一番役に立ってなかったのは俺だったと思う。
 それでもユキは俺のことを役立たずだとか言ったこともない。
 メシュは戦闘以外では何も出来ないし不器用だ。
 役立たずとか、足を引っ張るとかいう意味ではファルカ以上かもしれない。
 そもそもユキとメシュの出会いはファルカ以上に最悪だったはずだ。
 だが、今では結構仲もいい。
 それなのに、ファルカだけは気に入らないってのは何だろう。
「何でそんなにファルカを嫌うんだよ。おかしいぞ、お前?」
「…………」
 ユキは俺の問いに答える代わりに、俺を睨みつける。
「……何だよ?」
「ティルが馬鹿だからよ!」
 そう言うと、ユキは早足で歩いて行き、向こうで立ち尽くしていたメシュの手を取ってそのまま歩いて行った。
「本当、わけが分からないな。何でファルカ嫌いと俺の馬鹿が関係してるんだよ」
 もともと、ユキの言動は分からないことも多かったがこれに関してはさっぱり意味不明だ。
「ご主人は鈍感だな。俺から見れば物凄い分かりやすいけどなー。でも、そんな鈍感なご主人は結構好きだぜ?」
 ファルカはぎゅっと、より強くしがみつく。
 別の言い方をすると、俺に胸をより強く押し付けてくる。
「あいつの事が分かるのか? いつは一体何がしたいんだ?」
「んー、それは言えねえな。俺も女だし、あんなブタ野郎でも他人の乙女心って奴をご主人とは言え野郎に教えることは出来ねえ」
 口が悪くてそっちに注意が行きがちになるが、結局のところユキに何らかの気を使ってるって事だと思う。
「ファルカはあいつと仲良くしたいと思ってるのか?」
「わかんねえなあ。俺にとって女ってのは、しかも自分に歳が近くて可愛いほど商売敵のライバルだったからな。どうしても敵として見ちまうところがあるんだよ。でも、これからご主人がそういう生活から引き離してくれるんなら、そういうのもありなんじゃねえか?」
 考えながら言うファルカ。
 そこまで自己分析が出来る奴なら、そこから抜け出すのも難しくはないだろう。
 ユキに関してはやっぱりよく分からないままだが、何かきっかけがあれば歳も同じようなものだし、仲良く出来るんじゃないか?
「ま、俺もご主人が言うなら仲良くしてやってもいいぜ?」
「そうして欲しいところではあるんだけどさ、そういうものは人から言われてするもんじゃないだろ?」
「そうか? きっかけなんてどうでもいいんじゃねえか?」
 そう言うとファルカはひらりと俺の背を降りる。
「ふう、もう元気になった。ありがとな、ご主人」
 そう言うと少し離れて歩いているユキとメシュの方へと走って行った。
 ファルカがユキに話しかけると、ユキは驚いたようは態度を取る。
 彼女の方からユキに話しかけることなどほとんどなかったからだ。
 ユキは何度か大声で怒鳴ったりしたが、ファルカの落ち着いた言葉に次第におとなしくなって行く。
 ここからは何を言っているのか分からないが、ファルカが仲良くしようとしてくれているのは分かる。
 しばらくすると、ユキがこちらに向かってくる。
 向かってくるというか、足を止めて俺が来るのを待っている。
「何だ?」
「…………」
 怒った後だからなのか、少しだけ赤い頬をしたユキがこちらを睨む。
 結局何なんだ、と思ったら俺の背後に回り、背中に飛び乗る。
「な、なんだ?」
「次はあたしの番! あいつにやったんだから次はあたしの番!」
 そんな事を耳元で叫ぶと、ぎゅと必要以上に俺の首にしがみつく。
「俺の背中はいつから順番制になったんだ」
「うるさい! そういうことになったの!」
 俺の知らないところでどういう話があったんだろう。
 ユキは話そうとしないし、反論しても俺の味方はいないだろう。
 多分この後にはメシュの順番も控えている。
 こうして俺は一日の大半、女の子を背負って歩き続ける事になった。



 その日はまだ陽も落ちないうちから、宿屋が決まった。
 まあ、ファルカの一存だ。
 彼女を連れて旅を始めたのが昨日。
 初日の夜は野宿をしたのだが、それがどうも気に入らなかったようだ。
 まあ、育ちがいい子じゃないんだが、普通に町に住んでいた女の子だから、さすがにいきなり空の下で地面に寝るってのはきつかったんだろう。
 とにかく野宿を嫌がったので町で泊ることになったのだ。
 仲間になって二日目なんだが、彼女は着実に影響力を浸透させていた。
 そしてそれは、更にユキにストレスを与えることになっていた。
「俺のいた町よりはでけえ町だな」
 町の感想を言うファルカ。
「こんな町大したことないわよ」
 無意味に反論するユキ。
「とりあえず宿に行こうぜ。俺とご主人は同じ部屋でいいからさ」
「みんな同じ部屋って決まってんのよ!」
 そんなことを取り決めた覚えはないのだが。
「四人も同じ部屋にいたら、むさ苦しいじゃねえか。お前ら別の部屋で寝ろよ」
「嫌よ! 理由はあんたがそう言うから!」
 理由にすらならない理由を大声で言うユキ。
 こういう場合、俺はどっちの味方すりゃいいんだ。
「面倒くせえクソブタだなあ、ご主人。さっさと売っぱらっちまおうぜ」
「おいおい、一応お前ら仲間なんだから、仲良くしろとまでは言わないが、せめてギスギスするのはやめろよ」
 俺は半ば呆れながら言う。
「俺はギスギスするつもりはねえぜ? ご主人が言うなら仲良くしてやってもいいんだ。だが、売り言葉が来りゃ、高く買ってやるってのは仕方えだろ?」
「何よ、あたしのせいだって言うの?」
「そう聞こえたなら、お前のクソみてえな耳も一応は飾りじゃねえんだな」
「だーかーらーやめろって!」
 俺も段々面倒になって来た。
「とにかく宿に行くぞ。四人部屋があるならそこ、なければその時に決める。いいな!」
 俺はそう言って先を歩いた。
「あ、待てよご主人」
「ちょっと、置いてかないでよ」
 二人とメシュが後に続く。
 まあ、こう見えて二人の仲は一応改善してんだけどな。
 最初はファルカがほとんど無視してたしな。
 宿は町の繁華街のそばにあった。
 ちゃんと四人部屋はあったので、そのを頼むことにする。
 いつも通り、ハーレム野郎を見る視線を浴びながら部屋に案内された。
 部屋は特に豪華でもないが、かと言ってみすぼらしくもなかった。
 ベッドはダブルのものが二つ。
 ああ、これは揉めるな、などと思った。
「じゃ、俺がご主人と寝るってことでいいな?」
「勝手に決めないでよ! そんなことが許されると思ってんの?」
 思った通り、二人が喧嘩を始めた。
「あん? じゃ、お前もご主人と寝たいってのか?」
「そ、そんな事言ってないでしょ! 勝手に決めるなって言ってんの!」
 怒るユキに交わすファルカ。
 まだ二日目にも関わらず、嫌と言うほど見て来た喧嘩の光景。
「あーもう、うるさい! お前らみたいなうるさいのと寝られるか! 今日はメシュと寝る!」
 俺は宣言してメシュを引き寄せる。
 メシュは状況が分からず俺を見上げ、ユキを見てファルカを見て、もう一度俺を見る。
「あんたも勝手に決めないでよ!」
「おいおい! ご主人ってロリコンなのか?」
「うるさい! もう決めた! さっさと飯食いに行くぞ!」
 俺はメシュを連れ、さっさと部屋を出る。
「待てよ、話は終わってねえぞ!」
「待ちなさいよ!」
 二人が慌ててついてくる。
 俺は問答無用でそのまま町へと繰り出した。
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