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おさない、かけない、しゃべらない 作者:真木あーと

第三章 悪い奴と口の悪い奴

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第四節 顔は可愛い敵

 さて、事実から言おう。
 朝起きたら、俺の周囲に女の子が三人ほど下着に近い姿で眠っていた。
 ああ、俺はそれを地獄だとかきついとか辛いとか思うほど不健康な男ではない。
 女の子の体温だとか、特有の甘い体臭だとか、寝息に混じるか細い声だとか、密着してくる柔らかくすべすべの肌とか、それを幸せでないと言えるほど、俺は達観してはいない。
 だが、だからこそ困ることもある、ということだけは覚えておいて欲しい。
 分かるだろうか、俺には可愛い愚息がいる。
 この子はそもそも朝になったら自己主張をするし、こんな状況下にあれば、その自己主張は並大抵じゃない。
 これは仕方がないことだというのは、男性諸君なら誰もが分かってくれるだろう。
 だが、それを理解してくれる女性というのは少ない。
 いや、もう少し大人の女性なら男の生理現象くらい理解してくれるだろう。
 だが、俺にしてもまだガキであり、俺より歳下と思われるユキやメシュ、えーっと、確かファルカだったか、この子らが理解できるとも思えない。
 まあ、メシュはそもそもが理解できないと思うが、この状況は大いに顰蹙ものだと思う。
 更に、この三人のうちの一人がユキだ。
 ユキに心を読まれるというのはかなりきつい。
 俺は聖人君主ではないので、こんな状況になれば、心の中はとても穏やかとは言いがたい事を考えている。
 こんな心の内をユキに読まれるのがかなりきついわけだ。
 人の心読めるなら、この程度の事で怒るなよと思うが、何故かやたらその手の事に関しては厳しい。
 ユキ自身についていやらしい事を考えるのはもちろん、他の女のことでもいちいち厳しいのだ。
 しかし、俺自身はそんな考えを止められないし、止めたいと思わない。
 そればかり考えているのはどうかと思うが、時にはそんな事を考えたいこともある。
 それを許してもらえない。
 この辛さというのは分かってもらえるだろうか。
 そして、もう一つの困りごと。
 俺の右隣りで熟睡するファルカとかいう女の子をどうしようか、扱いに困っている。
 ぎゅっと俺に抱きついて来ているし、俺に従順なんだが、どうにも口が悪いし恐らく性格もいいとは思えない。
 俺のハーレムという、実在しないものに加わった気になっている以上、このままだと旅について来かねない。
 正直ユキだけでも手を焼いている現状に、これ以上厄介事を抱え込みたくはない。
 ユキはまだ戦闘力があるから、いざという時には役に立つが、この子は恐らくただ口の悪い詐欺と窃盗者だから、戦いは出来ないだろう。
 昨日の夜、ユキにあっさり取り押さえられた辺り、強いとも思えない。
 あと、もう一つ困りものなのは、この子、妙にスタイルがいい。
 歳は多分俺より下で、ユキと同じくらいだと踏んでいるんだが、彼女よりも背は少し高いし、ただただ細身軽量のユキとは違い、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる、バランスの取れた女の体をしている。
 ユキやその真似をするメシュと違って下着で寝ないのが唯一の救いだ。
 軽量で胸のないユキとはえらい違い──。
「いてててててっ!」
 左腕から強烈な痛みを感じる。
「ユキ、起きてたのか」
 俺は左隣の、更に左にいるユキを向く。
 俺の左側にはメシュが寝ている。
 ユキがいるのはその向こうだ。
「起きてたわよ。人が寝てると思って、好き勝手想像して!」
「いてててててててっ! やめろ!」
 間にメシュがいるので、殴るなどは出来ないからだろう、ユキは腕をつねって来るのだが、これが思った以上に痛い。
「なによ、ティルの馬鹿! 女たらしのハーレム野郎!」
「何怒ってんだよ! それが誤解だって分かってるだろう!」
「うるさい! 馬鹿ティル!」
 そんなやり取りをしていると、間にいるメシュは当然起きるし、反対にいるファルカまで目を覚ました。
「んん……あれ? ここどこだ? あ、ご主人!」
 恐らく俺の事と思われるご主人という呼び名を言うと、ぎゅっと俺の腕にしがみついて来る。
「おはよう、ご主人。今日からよろしくな」
 口調とは違い、少し照れた目で、可愛い少女の表情で、胸を腕に押し付けながら言われると、色々な事を忘れて、こちらこそと言いたくなってしまう。
「いてててててててっ!」
 反対側から思いっきりつねられる。
 もうそっちの相手をするのも面倒だ。
「なあ、ファルカ、だったけ?」
「ああ、どうしたご主人?」
 とても素直に返事をするファルカ。
 この子の地は一体どれなのかさっぱり分からない。
「昨日忍びこんでいきなりハーレムに入ると言ってそのままなんだけどさ、いきなり俺について来ちゃまずいだろ?」
 冷静に考えると、この子は昨日この部屋に忍び込んできた泥棒で、捕まえてそのままハーレムの一員になるとか言って残ったんだ。
 この子にも家があるだろうし、継母はいないかもしれないが家族もいるだろう。
「何でだよ? ハーレムって女を拉致して奴隷にすんだろ?」
 さも当たり前のようにそう言うファルカ。
 まあ、確かにハーレムってのはそんなところもあるのだろう、その世界は一切知らないし、知ることもないだろうが。
「うん、何から話そうか。とりあえずご両親が心配してるだろうから一旦帰りなさい」
「親なんていねえぜ? いたらこんな事やってるわけないだろ?」
「…………」
 そう言われると、とても困る。
「今まで、誰に育てられて来たんだよ?」
「んー、二年くらい前までは、どっかのオヤジに仕事のやり方とか教えてもらって売上いくらか渡してたけど、どっかの奴らに連れてかれて帰って来なくなったな。それ以来ほとんど一人だ」
 この子が荒んでるのは、そうやって生きて来たからかな。
 ある意味メシュと同じで環境の犠牲者なのかもしれない。
「何同情してんのよ。これまで一人で生きて来れたんだから、これからも一人で生きていけばいいじゃない」
 ユキに、若干冷たい声で言われる。
 確かにメシュみたいな、放っておくとどうなるか分からない上、シュカレメルスに回収されかねないってわけでもなく、これまでと同様、放っておいても勝手に一人で生きていくだろう。
 けど、昨日も思ったんだが、この子の生き方ではいつかろくな殺され方をしないだろう。
「何だてめえ。ご主人の寵愛を欲しいために魅力的な俺を入れないつもりかよ? この醜いチビメスブタがよっ!」
「な、何てこと言うのよ、この……えっと……」
 ユキはファルカ以上の汚い言葉が出て来ずに言葉に詰まる。
「言いたいことあんならさっさと言え、このクサレ○○○!」
「ひ、ひどい……! うわーーーん!」
「落ち着け、お前ら」
 ファルカに飛びかかろうとしていたユキを止める。
「ファルカも、もう少し穏やかな言葉を使えよ。その言葉はお前には似合わな過ぎる」
 ファルカの顔は、本当に可愛い。
 仕草も洗練されているので、女の子としてはかなり魅力的な子だろう。
 そんな彼女の口汚い罵りは、俺を女性恐怖所症へと陥らせてしまう。
「分かりました、ご主人様♪」
 ファルカはにこやかに笑う。
 さっきまでと同一人物とは思えないくらい穏やかな女の子の表情と言葉。
 俺は女の子というものを信じられなくなりそうだ。
「そちらのあなた、ユキさんでしたか? ごめんなさいね」
 ファルカはにこやかな表情のまま、反省のかけらも見せずにユキに言う。
「……心では全然そんな事思ってないんだけど」
 ユキが疑いの目でファルカを見る。
「? どういうことですか?」
「ああ、こいつは人の心が読めるんだ」
「そうでしたか。それは凄いですね」
 心が読める、と言えば大抵の人間は一度は驚き、恐れるものだが、ファルカは全く物怖じせず、先ほどと同じ態度で笑っていた。
「……この子、心の中でひどい口調で罵ってるよ!」
 ユキが涙目で叫ぶ。
「そんな事ないですよ、こんな程度で」
「ひっ! 口では絶対言えないようなこと思ってる! この子怖い!」
 ユキが震えだす。
 一体何を考えているのか分からないし、知りたくもない。
 そんな怯えているユキを、メシュは背中を撫でてしばらく慰めていた。
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