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  銀のMaZe 作者:fatum
序章
一生遊んで暮らせる金、崇高なる地位、羨望の眼差し。
そんなものを望んだ覚えもなければ、今後欲しいとも思わない。
望むのは、毎日大量に出されるレポートの締切が伸びないかとか、朝起きたら出来上がってないかとか、そんな取るに足らない些細なこと。
けれど私は、そんな現実逃避を本気で期待するほど、純粋でもなければ夢見がちでもない。

大学から徒歩三分のこのアパートで一人暮らしを始めて早三年。
カン、カン、カン、と上り慣れた階段を上り、疲れた溜息をつきながら目的の扉の前に立つと、専門書でずっしりと重い鞄の中を漁る。

(資料集めてたらすっかり遅くなっちゃったな。ったく、実験多すぎだっつーの。)

心の中で一人ごちながら、小さな鈴のついた鈍く光る鍵を取り出すと、夜の闇に眼を凝らして鍵穴にさす。ガチャリと開錠の音がし、外した鍵を持ったまま冷たいドアノブに手をかけると、手前に引いた。

瞬間、唖然とする。

「どこ、ここ…」

目の前に広がるのは、自分の部屋へと続く狭い廊下…ではなく、鬱蒼と茂る森。

――芹沢硝子せりざわしょうこ、21。

これが、平凡な日常を過ごしていた私の非日常の始まりだった。


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