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~それは城を奪い合うデスゲーム~  作者: りんご
第Ⅱ章 バルダー城の戦い
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第024話 ジュン編 第一次バルダー城の戦い(1)



「この始まりのエリアの城、バルダー城に居座るのは“ベストコンボイ”なんていうふざけた名前の野郎共だ! トランスフォーマーかよ! 俺達はそんな野郎を木っ端微塵にしてやろうぜ!」


 ホークマン率いる【鷹の団】とアッシュボルト率いる【ジロンダン】と光宙ピカチュー率いる【ボコットケモンスター】のクランメンバー達は始まりの街の広場にて決起集会を開いていた。その壇上でそれぞれのクランリーダーが思いの丈を述べ戦意を高揚させるのである……。今ちょうど鷹の団のホークマンが壇上に昇り、全軍に向けて笑いを交えながら戦意を高揚させている所であった。


 何故戦意を高揚させる必要があったのか……それは、この3クランが合同で“バルダー城”という城を攻めるからである。この後すぐにだ。人を強大なものに立ち向かわせるには興奮状態に導き敵に向かって前進させる必要がある。決起集会のような儀式は戦意を向上させるためには無くてはならないものなのだ。あくまでも軍団を指揮する立場の人間としては……という話ではあるが。


 そして、その中の鷹の団の一員として杉原淳二こと“ジュン”は居た。




 時間を少し遡る。



 モトヤが鷹の団の攻撃によってどこかにワープした後に、ほぼ無防備のままで帰って来たジュンも鷹の団の攻撃によって捕獲されていた。つまりクラン【りっちゃんと一緒】に所属するもので鷹の団に捕獲されなかったのはモトヤだけという事になる。捕獲された後に彼等を待っていた運命はある二つの選択肢だった。


 1.殺されて鷹の団の団員の経験値にされるか

 2.鷹の団に入団し鷹の団の構成員として戦うか


 ただ、りっちゃんの処分だけは決まっていた『以前のクランリーダーは私的な影響力を持つため生かしてはおけない』という理由でりっちゃんは早々とホークマンの手により処刑されホークマンの経験値にされていた。


 そして次に処刑すべきと鷹の団の内部で声があがっていたのが“ジュン”であった。


「ジュンは俺達の団員を殺しすぎた!!」

「ジュンは大罪人エルメスをかばってホラフキン前団長を殺したやつらですよ!!」


 クランにはそれぞれの歴史がある。鷹の団に属する者のほとんどが元竜虎旅団の団員で彼等の中でモトヤとジュンは裏切り者として有名だった。また竜虎旅団内部の対決で最も団員を殺していたのはジュンだった。


「私の彼氏を殺したのもジュンです!!」


 目に涙をためてホークマンに訴えたのはヴァシリーと言われる美女だった。彼女の彼氏であるレビテンスはジュンが振り回す剣の餌食になっていたのだ。


「まぁ落ちつけよ、みんな……」


 ホークマンは皆をなだめて、ジュンが仲間であることの利益を強調した。


「いいか? ヤツは強い、そして俺達には前衛で相手を突破していける駒が必要なんだ。この世界がはじまって一ヶ月ほどになるが、俺は戦闘においてあれほど強いヤツを見た事がねー、鷹の団を強くするためにはアイツが必要なんだよ」


 キャッスルワールドが始まって以来、ホークマンは様々な人間と戦闘に及び生き抜いてきた。そのホークマンの中では戦闘に関する“あるロジック”が出来始めていた「強いヤツはレベルに関わらず最初から強い」というロジックである。

 強いヤツと弱いヤツを分ける差は何か、それはスキルでもステータスでもなく心構えと元々本人がもっている技術であるとホークマンは考えていた。

 ジュンは最初の戦闘から凄まじかった。二つの剣を使いこなしまるで豆腐を切るようにバッサバッサと人を斬っていった。誰でも最初の人を殺す時はためらいがある、だが最初の一人目を殺す時からジュンにはまるでためらいというものが無かった。そしてあの剣の技術である、何故か二つの剣を最初から使いこなし淀みなく人を斬っていった。恐らく剣道を元々やっていて、二刀流の訓練もそれなりにつんでいないとあんな動きはできないだろう。


 ホークマンはジュンが正統派の強さであると感じたのと同様にモトヤにもまた違った強さを感じていた。人をビックリさせるような意外性と常人では到底なしえないような決断力、ホークマンは城攻めをすると決断して仲間集めをする際に少なくともこの二人のどちらかは絶対に必要だと感じていた。ホークマンの職業は狩人である、遠くから攻撃するのが得意なタイプだ、だがこの後衛タイプは前衛がしっかりしてこそ力を発揮する。つまり前衛を務める事ができて前線をその圧倒的な個人の能力によって突破する人材……こういった人材をホークマンは喉から手が出るほど欲しかった。それがジュンだった。


「な? 分かったろ? 俺達が生き残る為にはアイツが必要なんだ。俺はこのクランのリーダーだ、皆を現実に送り届ける事が俺の使命なんだ。なぁヴァシリーよ、レビテンスもお前に生きていてほしいと思ってるに決まってるぜぇ? 俺はレビテンスが死んだ時を片時も忘れた事はねー、仲間というのは俺にとってかけがえのない者だしな、皆の命も、そしてヴァシリーお前の命もな。それを俺に守らせてくれや。その為にはジュンが必要なんだ」


 ヴァシリーは涙ぐむ


「うぅ……団長……」


 無論ウソである。ホークマンは仲間が死んだとかそんな事でいちいち心を動かさない。そもそも誰が死んだとか生きたとかに興味関心が無いのだ。可愛いのは我が身だけだ。ホークマンにとって仲間というのは自分がこの世界で生き抜く為の道具にすぎない、だがクランリーダーになってからはなるべくそのような所は隠してきた。リーダーにはある程度の人望が必要だからである。


「うぅ……団長のお気に召すままに」


 ちょろいな。


「よーし、じゃあジュンに会いに行ってくるわ」


 始まりの街の教会の中に地下牢がある。ホークマンはバルダー城を攻撃するために人を集める必要があった。その人々を連れてくるときに強硬に集める場面が増えるであろうことを想定して地下牢を職人に言って作らせたのだ。一時的に捕まえた人々を収用する施設として。


「よう、ジュン」


 ジュンは地下牢の中のでも特別な“独房”と言われる一人用の地下牢の中に収容されていた。そこは四方が壁に覆われた作りになっており、光が一切届かない。ここに一ヶ月も入っていれば狂い死にするかもしれないと設計者は言っていたが、“脱獄できない”という意味では最も堅固な牢であった。

 ホークマンはその中に入ると真っ暗な中、鎖に繋がれたジュンに語りかけた。ジュンは無言で独房の地下の床を眺めたままだ。


「鷹の団の皆がお前を殺したいんだってよ? ジュン」


 ジュンはニヒルな笑いを浮かべ呟いた。


「そりゃ困るな」


 その後にホークマンから返って来た言葉はジュンにとっては少し意外な言葉だった。


「実は俺も困る」


 このホークマンの言葉がジュンには不思議だった。

 ジュンはてっきりホークマンこそが自分の命を狙っていると思いこんでいたからだ。そこで思わず聞き返してしまう。


「何故お前が困る……エルメスの死の真相を知る俺達を生かしておくのはまずいんじゃないのか?」


「くくく。まぁそれはある。だがな、そんな事は些細な問題なんだよ、今となってはな。もうウチの団員の連中もキャッスルワールドがどんな世界か理解してきた。だからまぁそんな事に拘るよりは純粋にクリアの為にどれだけ戦力になるかという事の方が遥かに重要なわけだ。俺もこの一ヶ月の間、沢山の戦いをくぐりぬけてきたが、団員も俺というリーダーが必要だという事は分かっているだろうさ。その圧倒的な事実の前にはエルメスがどうだのまるで関係ないわけだ。いわゆる未来志向ってヤツさ。少なくとも団員達は好むと好まざるに関わらず、俺をリーダーとした方が生存の確率が高いであろうことは分かっている」


「だがなホークマン。俺が真実をバラセばその風向きが変わるかもしれないぜ?」


「バラすって誰が信じるんだ? まぁいい、とりあえず取引といこうじゃないか。モトヤが俺達を殺そうとしたクランとの連絡係だったという話だが……あれをエルメスに脅されてやったという事にしてやろう。そしてジュンお前はエルメス事件の事を黙っている……それならお前を助けてやろうじゃないか」


「……」


 ホークマンはそれほどジュンとは会話したことが無かったが一連の会話でジュンの性格を掴みつつあった


「くくく。ジュン。お前が選べ。ここで俺の経験値となって死ぬか、俺と共に生き残る道を選ぶのかをなぁ」


「2つ条件がある」


「おいおい、条件をお前が言える立場だと思ってんのか?」


「……とにかく条件がある。1つ。情報屋にモトヤを探すように頼んでくれ俺のメッセージ付きでな。あいつが生きているという情報がほしいし、生きてるんなら俺の居場所を伝えたい。2つ。モトヤが鷹の団まで辿りついたなら、あいつをここの団員にしてくれ、その2つだ。これを実行すると約束してくれるなら、俺は鷹の団に入ろう」


 ホークマンにとって、どちらも簡単な条件だった。それにモトヤが手に入るのであれば、むしろそれはホークマンにとっても願ったり叶ったりであった。それにジュンが居ればモトヤをコントロールすることさえ可能かもしれない。


「……まぁいいだろう。もしもクラン上限人数にクランが達していたとしても、一人脱退させてモトヤの席を作ってやる。じゃあ取引成立だな。あと情報屋に伝えるのは自分でやれよ、依頼内容が違うだのゴチャゴチャ言われるのも面倒だしな」


「……」


 ジュンは意外にホークマンが話せるヤツな事にビックリしている。てっきり自分とモトヤを憎んでいると思いこんでいたからだ。


 ホークマンは、ジュンにクラン登録願いを出させ、それを受理し、独房から出した。独房にまる2日ほど入って光を見ていなかったジュンは光が目にしみた。


「うっ」


 そんなジュンの様子を見てホークマンがおもむろに喋り出した。


「ああ、そう言や、実は団員は団長の俺とは違って、お前の処刑を望む声が多いんだわ。まぁ、そういう現状があると思ってくれ。お前はこいつ等を納得させる必要がある。そこでだ、いい舞台を用意した。3日後にバルダー城へ俺達【鷹の団】と他2クランが合同で攻める。その際に城を三方面から攻めるんだけどよ、その東側壁面からの突入部隊の指揮をお前に頼みたい」


 ホークマンからの意外な提案にジュンはホークマンの顔を二度見した。


「まて、人の指揮なんて俺にはできねーぞ」


 ホークマンが笑い声をあげる。


「くくく。突入部隊の指揮官の仕事はたった一つだ。先頭に立って敵を殺しまくる……。それだけだ。得意だろ? 殺しは(笑) お前が鷹の団にとって有益な存在であることを皆に見せてやれよ、そうすることで皆も納得する。ジュンは俺達をハッピーにしてくれる殺しの天才だってな。くくく、ははははは」



 ――殺しの天才ってなんだよ、まぁいいさ、とりあえず俺はここにモトヤの居場所を作る為にもやってやる。








 そして3日後、城への出立前に、はじまりの街の広場で3クラン合同での決起集会がはじまったのだった。


「このはじまりのエリアの城、バルダー城に居座るのは“ベストコンボイ”なんていうふざけた名前の野郎共だ! トランスフォーマーかよ! 俺達はそんな野郎を木っ端微塵にしてやろうぜ!」


「ふっふっ」


 ジュンは「トランスフォーマーかよ」の部分が面白くて鼻でクスッと笑う。


「何、笑ってんのよ」


 ジュンは声がした後ろの方を振り返る。そこには「ヴァシリー」とネーム表示のある女性がいた。


「おっと、何か気に障ったかい?」


 ジュンは軽く言葉を返す。

 ヴァシリーはその態度に我慢がならない。


「あんたねぇ、あんたは私の彼氏のレビテンスを殺したのよ? そこに対して申し訳ないとか思わないわけ?」


「レビテンス?」


 ジュンは全く覚えていない。斬り合う時に一々相手の名前など見ないからだ。印象に残った相手なら見るかもしれないが全く覚えていないという事は……とりあえず今まで倒してきた誰かなのだろう。


「そっか、君の彼氏なのか、そりゃ悪い事をしたね。まぁでも基本的に俺が殺した連中は、全員俺を殺しにきた連中だからお互い様ってことで納得してくれ」


 そう言うとジュンはクルッと前を向きまた何事も無かったかのように決起集会に参加した。ヴァシリーはそのジュンの態度にキレた。そして自分の持っている剣を抜こうとする――が、その腕はすでにジュンに掴まれていた。


「剣を抜いてはダメだ。そうなると、もう俺は君を殺すしかなくなる。そんな事はさせるな、意外と女性には優しいタイプなんだ」


ジュンが優しい声でヴァシリーに話しかけた。


「は、離してよ」


 とヴァシリーはジュンに言う。……だがジュンは手を掴んだままだ。


「もう攻撃はしないわ、だから手を離してよ」


 ジュンは後ろを振り返りじっとヴァシリーを見た。


「わかった、君を信じる」


 ジュンは手を離す。

 だが二人は尚もジッとお互いを見たままだ。ヴァシリーは諦めたように手を剣から離した。その手が離れたと同時にジュンが口を開く。


「俺を信じろとは言わない、だがもう俺達はチームの一員になった。俺はモトヤの居場所を作る為にもこのクランで頑張るつもりだ。君も剣を使うと言うことは君も突入部隊なのか?」


 ヴァシリーはゆっくりと頷いた。


「ならば、俺は君も守る」


 ヴァシリーは“え?”という顔をした。だがまた一瞬で険しい顔に戻る。その顔を確認するとジュンはまた前を向き決起集会に参加した。


 ヴァシリーの心は明らかに動揺していた。殺そうとした相手から守ると言われたからである。そんなそれぞれの複雑な事情とは関係なく決起集会は滞りなく進み、そしてそれが終わると、総勢220人ほどの軍隊は一路バルダー城に向け進軍を開始した。



 ジュンにとってこれがはじめての戦争であった。




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