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~それは城を奪い合うデスゲーム~  作者: りんご
第Ⅰ章 キャッスルワールドへようこそ
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第019話 5月30日 バルダーエリア 雨(2)


 ――りっちゃんと出雲さんが消えた!? 何故だ?


 この現象をりっちゃんと一緒のメンバーとして見ていたモトヤはすぐさま視線をホークマンへと移した。ホークマンは何やら満足そうにニヤニヤと笑っている。モトヤはこのホークマンの表情を見て、もうすでにホークマンは何らかの攻撃を仕掛けていると確信した。となるとモトヤが選択できる手段は一つしかなかった。


 モトヤは左手で素早くステータス画面を開きモンスターの名前を叫んだ。


「一角セェェェル!!」


 モトヤがそう叫ぶと眼前の野原にモトヤから発せられた青い閃光が照らし出され、そのまばゆい光の中から二本の前足を高く上げするどく息を吐く一角セールが姿を現した。


 この間にもクランの仲間が次々と消えていった。

 この状況でモトヤはテンと目が合あった。


 「テンさん!」モトヤはこう叫ぼうと思い口を開こうとするが、それよりも一瞬早くテンの叫ぶ声がモトヤに伝わった。


「モトヤ君!! 逃げろ!!」


 テンの声がモトヤに伝わったのとほぼ同時にテンの体が消えた。

 モトヤはテンの残像に様々な感情が湧き上がるが、その感情は一つの答えを導きだした。


 ――この場からいち早く離脱しないと危険だ!!


 モトヤは一角セールの角を左手で握りしめ、これにまたがると一角セールの尻を激しく叩き“逃げろ”と叫んだ。一角セールはモトヤを乗せ一目散にホークマンとその手下達から遠ざかるように走りだした。


 ホークマンは仲間のブリントに叫んだ。


「ブリント!! 何をしているモトヤを逃がすな!!」


 ブリントは苦虫を噛み潰したような表情をし「わかってますよ。ただ用意した“不思議な銀紙(キャンディキャンディ)”はもう尽きたので、新たに生み出さないと」と言った。


 ホークマンはブリントに“早くしろ”と催促した。ブリントは指示通り“不思議な銀紙(キャンディキャンディ)”を生成するために自分の右手を前に伸ばし何やら唱えはじめた。


 一角セールに乗ったモトヤの驚異的な視界にブリントの奇妙な行動が映る。ブリントは右手を前に伸ばし、右手をまるで扇ぐように左手をくねくねと動かしはじめたのだ。


 ――なんだ? あの女は何をしている? 左手で右手を扇いでいるのか?


 モトヤは更にブリントの奇妙な行動に目を凝らす。するとブリントの右手の手のひらから銀紙のような折り紙くらいの大きさの紙がわき出る様に出現したのだ。ブリントはその銀紙を左手でつまみ上げると空中に放りなげた。すると、その銀紙は空中で停止し、その場で浮いている。モトヤはこの様子を見てなにやら不安な気持ちなってきた。


 ――あの紙はなんだ? なぜ空中に浮いているんだ?


 この一連の動作が終わると次にブリントはモトヤの方を見てきた。モトヤはブリントと目が合う。ブリントはモトヤの方を見てクスリと含み笑いをしてきた。この笑みにモトヤは背筋がゾクっとした。


 ――これはやばい、何かやばいぞ。


 気づけばブリントは人差し指と中指の二本の指をくっつけモトヤの方を指さしてきた。すると、空中で浮いたままになっていたハズの銀紙が突如動き出し、モトヤめがけて猛スピードで迫って来たのだ。


 ――確か、りっちゃんが消える前も、あの女はああやって人差し指と中指をくっつける動作をしていた。多分あの銀の紙……、あれがヤバイ!


 銀紙の速さはモトヤの想像以上の速さでグングンとモトヤ達と距離を詰めてくる。

 モトヤは一角セールに叫ぶ。


「一角セール! もっとだ! もっと速く走るんだ!」


 一角セールは更に首を縦ふり懸命に逃げようとする。しかし銀紙との距離はどんどんと狭まる一方だ。

 次の指示をモトヤがしようとした時、銀紙はすでにモトヤのすぐ後ろまで迫って来ていた。


 ――やばい!!


 モトヤは体をねじらせ、その銀紙を回避した……。だが、銀紙は一角セールの首あたりに付着してしまった。

 すると一角セールがその銀紙の中に吸い込まれるように小さくなってゆく。銀紙はどんどん小さくなる一角セールをくるむように巻きつき、ちょうどキャンディーのように両端をねじったみたいな形に変化した。


 一角セールが突然足下から消えたことで、モトヤは物凄いスピードで顔面から地面に突っ込んでしまう。


 ズザァアアアアア。


 ――みんなあんな状態にされたのか? みんなキャンディみたいに銀の紙に包まれたのか?


 モトヤは泥の沢山ついた顔で振り返り、鷹の団の様子を観察する。すると鷹の団の兵士達は真ん中が膨らんでいて両端をねじった銀紙みたいなモノを草むらから拾い集めているではないか。


 ――あれはりっちゃんが消えたあたりだ……。となると間違いない! あの銀紙だ! あれに触るとキャンディーみたいに銀紙にくるまれて小さくなるんだ!!



 モトヤを仕留めそこなった様子を遠目で見ていたブリントはその場にへたり込み、不思議な銀紙(キャンディキャンディ)が不発であった事と、もうMPの限界によりこれ以上不思議な銀紙(キャンディキャンディ)を生成できない事をホークマンに伝えた。


 ホークマンはそのブリントの報告を聞き舌打ちをした。


「チッ、しかたねーな」


 ブリントは先ほど生成した残る最後の不思議な銀紙(キャンディキャンディ)をまだ健在であるりっちゃんのクランメンバーに向けてなげつけた。これでモトヤ以外のメンバーは全員、銀紙にくるまれて手にひらに収まるほどに小さくなってしまった。


 残ったのはモトヤ一人だけになった。

 この様子を見ていたモトヤは鷹の団から遠ざかるように走りだした。モトヤは走ってこの場から離脱するつもりでいたのだ。

 兵士達はモトヤが逃亡する様子を黙って見ていたのだが、そんな兵士達の頭をホークマンが叩き、そして叫んだ。


「何をボーっとしている!! 行け! モトヤをつかまえてこい!!」


 兵士達はそのホークマンの号令に従い一斉にモトヤに向かって走り出した。モトヤは既にコテージから離れた木がまばらにある地帯に到着している。そこはコテージから離れれば離れるほど木々が深くなっておりモトヤのゆく手は雑木林のようになっていた。


 モトヤは振り返り兵士達が追いかけていることを確認する。周りは雑木林に囲まれ視界はあまり良くなかったが、それでも兵達が追いかけてくる光景がハッキリと見えたモトヤは更に全力で逃げた。


 モトヤは自分で発見した魔物使い固有の特性が真実であるという事を実感していた。その特性とは魔物使いは他の職業よりも目と耳が良いという特性である。

 良いというのは、目は遠くまで見渡す事ができ、耳は小さな音まで聞く事ができるという事だ。


 モトヤは走りながら追いかけてくる兵士達が何を言っているのかを聞きとるために聞き耳を立てる。すると兵士達の喋り声が雨音やら枯木を踏む音やら色んな音に混じりモトヤの耳へと聞こえてきた。


「ボスはああ言ってるけど、別に死体でもいいんだろ?」

「さぁな、ただ経験値にするやつは次の戦いでしっかり働けよ」

「まぁいいさ、ホークマンへの報告は抵抗されたんで()りました。で、いいだろ」


 ――聞こえてんだよ! クソ野郎共が!


 モトヤはこの言葉を聞き、より一層逃げきる決心を固めた。モトヤを追いかけてきている鷹の団の兵士達は全員で15~6人近くいる。この人数に囲まれればその瞬間に命はない。滅多刺しになって死ぬのみである。そうならない為にも逃げ切るしかないのだ。

 モトヤには逃げ切る為の勝算があった。一角セールの背中にのって逃げたこれまでの距離のアドバンテージがあるかぎりそうそう差は埋まらないと確信しているのだ。


 ――多分直線距離で100mくらいの差はある! 走る速度が同じくらいであれば逃げ切れるはずだ。


 モトヤは木々に何度もぶつかりそうになりながらも懸命に逃げた。だがモトヤの頭を唯一つの不安要素がよぎる。モトヤはコテージからそう遠くない場所でモンスター狩りをしていた為にこの先へ行った事がなかったのだ……。なのでこれから逃げるであろう地形について何も知らない。


 ――なぁに、ずっと同じ地形が続いているだけさ。


 モトヤは地形に関し楽観的に考えていた……。少なくともどんどんと木が深くなっているのだからこの先も木々が深くなるだけだと考えていた。それどころか木々がもっと深くなって“森”になっていれば、木の陰に隠れ、追手をまくつもりでいた。


 モトヤは追手の姿を頻繁に見る為に、数秒に一回は後ろを見ながら走る。足場が悪い為にそのたびに転びそうになるのだが、兵士の姿を見ることは非常に重要な為に止めるわけにはいかない。そして何度目かの後ろを振り向いて兵士達の姿を確認した時にある事に気付いた。


 ――距離を詰められてるのか? 兵士達が近づいたように見えるぞ……。


 モトヤの“逃げ切る事ができる”という勝算の大部分は鷹の団の兵士達とモトヤが同じ速度で走るという事を前提に成り立っている部分があった。もちろん根拠となる数字は無い。モトヤがただ何となく人が走る速度なんて同じくらいだろうと思い込んでいるだけだ。言ってみればその思い込みこそが勝算の大部分だったと言ってもよい。


 ――同じ道を通っているのに距離が縮まっているという事は俺の方が走る速度が遅いのか?


 モトヤはそれを確認するためにもう一度兵士達の姿を見ようとする。その瞬間、横に伸びた木の根っこに足をつまずき転倒してしまった。この転倒が大きかった。最初の距離のアドバンテージが100m程といっても、たかが100mである。人が全力疾走していればすぐに追いつく距離なのだ。

 兵士達とモトヤの距離が一気に縮まった。


 ――しまった……やっちまった……。後ろを気にしすぎてとんでもないミスをやらかした……。マズイ……死ぬ……。


 モトヤは体を起こし、なんとかまた走りだした。この兵士達に捕まれば殺されるのだ。

 モトヤの耳に兵士達の声が聞こえた。


「おい! そこだぞ! モトヤはそこにいるぞ!!」


 モトヤは再び振り返る。その距離は60mほどだろうか? だがさっきよりも圧倒的に近づいているのだ。


 ――追いつかれるかもしれない。


 モトヤはここまで近づいた距離を見てそう思わざるを得ない。ただ戦いを選択するわけにはいかないのだ……。この兵士たちをどうにかできるわけがないのだから。


 ――だがこの兵士達をどうにかしないと命はないかもしれない……。


 そんな嫌な考えにモトヤの頭は支配される。既にモトヤの周りには逃げ切れない気配が濃厚に漂っていた。


 兵士達の大声が後ろから聞こえてきた。


「いけええええ!! モトヤはすぐそこだぞぉおお!!」


 モトヤは再度振り返った。その瞬間30人以上の兵士がほぼ一列になりモトヤめがけて全力でダッシュしてくる姿がモトヤの瞳に映しだされた。それはモトヤの中で“ある姿”に変換され映しだされた。


 ――“バケモノ”……。黒くデカイ……バケモノ……。


 兵士達は黒の身なりをし、その服装は統一されていた。そのせいか、モトヤの瞳には彼らが単一の黒くデカイバケモノに映しだされたのだ。


 ――死ぬ……。こいつに飲み込まれれば……俺は死ぬ!


 瞬間とんでもない悪寒がモトヤの背中を走った。

 体は死を濃厚に感じていた。


 だがそんなモトヤの目に炎が宿った。

 絶望だからこそ感じる攻撃的な衝動が全身を覆い、それは“あるアイデア”をモトヤの頭にもたらした。一見すると自爆ともとれそうな破滅的なアイデアを……。




「絶望――

――ならやってみる価値はあるよな!!」



 そう言った後にモトヤは何かを口ずさみはじめた。

 モトヤの体がうっすらとだが光りはじめたことを追いかける兵士達はまだ知らない。


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