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~それは城を奪い合うデスゲーム~  作者: りんご
第Ⅰ章 キャッスルワールドへようこそ
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第018話 5月30日 バルダーエリア 雨(1)



 西暦2060年5月30日。

 その日は雨がふっていた。いや、この始まりのエリアであるバルダーエリアでは、そういう天候設定だった。


 モトヤは「りっちゃんと一緒」のコテージの自室にいた。そこには部屋ごとに備え付けの机がありモトヤはその机の上でなにやらペンを走らせ“ある作業”をしていた。そのモトヤの横には客室から椅子をわざわざこの場所に移動させ、そこに座わり険しい顔でモトヤを監視するように眺めるりっちゃんがいた。

 もうこんな状態でモトヤは3時間ほど過ごしていた。

 モトヤは不意に窓から外を見る。外は雨が降っているようだ。


「外を見る暇があるのか? モトヤ」


 いやに迫力のある野太いりっちゃんの声がモトヤの静かな部屋に響く。


「い、いえ」


 モトヤはそう答えるしかない。またモトヤは机の上での作業に戻った。ノートに情報を書くという大事な作業に。


 何がおこっているのかというと、モトヤは一人だけノートを全く書いてない事をりっちゃんに察知され、クラン「りっちゃんと一緒」のコテージの中のモトヤの部屋でりっちゃんとマンツーマンでノートの書き方や心構えの愛の説教を受けていたのだ。


 正直、モトヤはうんざりしてるが、りっちゃんの説教は終わりそうにない。


「いいか! ノートを書くと言うことはだな! それだけで皆の役にたってるんだ! なのにお前はなんだ! お前は怠け者だ! もっと世の中の発展のために貢献するという正義の意識をもて!!」


「違う!! そんな文面で売れると思ってるのか! もっとなぁ買った人が、100ゴールドで買ったけど本当に素晴らしい情報だったなぁ……お得だったなぁ……と思わせるような文章を書くんだ! いいな!?」



 その日のりっちゃんの指導には熱がこもっており、モトヤはそれを適度に聞き流しつつ知っている情報をノートに書き込んでいった。


 そしてモトヤは知っている情報を一通り書き終ると“どうだ”と言わんばかりにりっちゃんの前にノートを置いた。りっちゃんは置かれたノートに目を通す。


 ――どうだ! 完璧なノートだろネカマ野郎! 素晴らしい情報ばかりだろ? どうだ! 見たが! 特に罠を張ってモンスターを捕える情報なんて高値で取引される価値があるだろ!? それにこれも俺が発見したぞ! 他の職業の人には見えずらかったり聞こえづらかったりするモノも魔物使いの俺にはハッキリ聞こえる。これは恐らく魔物使いの裏特性だろ! こんな凄いこと書いてあるノートなんて他にないぜ!


 モトヤは心の中で勝ち誇った。なぜ心の中かというと、もちろん口にだせないからだ。

 その時である。りっちゃんが小刻みに震えだしたのだ。


 ――なんだ? まさか俺の凄すぎる情報に涙してるのか?


 モトヤから見てりっちゃんの顔はノートに遮られ見れない。すると、りっちゃんの声が聞こえてくる。それは一定のリズムを刻んだ声だった。


「こっ……こっ……こっ……」


 ――こ? 「こ」とは何だ?


 りっちゃんはゆっくりとノートを机に置く。その間にも「こっ……こっ……こっ……」というりっちゃんの声が聞こえてくる。だがその言葉の全ては次の瞬間に分かった。


「こっ……こっ……こんなもんが売れるか馬鹿野郎!! モトヤ!! テメェ世間をなめてんのか!!」


 予想外の答えが返って来たことでモトヤは動揺するが、そんなモトヤに対しりっちゃんはノートの書き直しを命じた。


「1時間後にノートの書き直し作業の再開だ……それまで少し何で書き直しになったのか頭を冷やして考えろ」


 モトヤはコテージの広間の片隅の椅子で自分の情報の何がいけなかったのかを考えた。するとそこに「りっちゃんと一緒」の中でトップクラスの情報を売る男とされる【テン】がモトヤの隣の席に座りモトヤに語りかけた。


「りっちゃんさんから大目玉喰らったんだって?」


 モトヤは素直に自分の情報の何がダメだったのかテンに聞いてみた。


「テンさん……俺はかなり良い情報を書いたつもりだったんですけど……。何がダメだったんでしょうね?」


 テンはそのモトヤのセリフを聞きながらモトヤにノート見せるように言った。モトヤはテンの言葉にしたがい自分が情報を書いたノートを渡した。テンは文章を読みだしてから1分ほどで「わかったぞ」と言い、モトヤにノートを返した。モトヤはテンが何が分かったのか気になり質問した。


「テンさん……何が分かったのか教えて下さい」

「うん。モトヤ君……君はね……読み手の事を全く考えていない。1分ほど読んだけど僕の頭は既に混乱している。君の文章は君にしか分からないようなことがあまりにも多すぎるんだ。それに説明も不十分だ。例えばここに“モトヤスペシャル”とだけ出てくるけど……一体それが何なのかという説明がない。これじゃ読んでる人は訳が分からないよ。今度はそういう事に気をつけて書いてみな」


 テンさんは超いい人だった。モトヤは自分の何がダメなのか分かった気がした。


「テンさんありがとうございます!」

「いやいや、同じクランの仲間として当然の事をしたまでさ、モトヤ君も頑張ってね! ジュン君も今日は買い出しに行くとか言って張り切っていたしね。二人とも頑張ればいい」


 ザッザッザッ


 そういえばモトヤは今日コテージでジュンを見かけていなかった。


「あれ? テンさん……ジュンが買い出しって……あいつボコタの街に行ったんですか?」


「ああ、聞いてないのモトヤ君?」


「ええ、りっちゃんさんとマンツーだったので。しかし、俺に一言あっても良かったのになぁ……。買ってきてほしいアイテムもあったし……」


「なんでもボコタの街で質の高い装備品がないかチェックするんだってさ。ジュン君は戦士だからね、前衛職である以上装備品には拘りたいんだろうね」


 戦士とはそういうものなのかとモトヤは思った。よくよく考えるとモトヤは“モトヤスペシャル”や“戻りナイフ”などの小道具は充実してきたが、未だに装備は初期装備のままだった事に気がついた。


 ――そろそろ俺も何かしら装備を充実させないとマズイかもな……。


 ザッザッザッ


 ――ん?


 モトヤが感じた不思議な音をその場にいたテンも同時に聞いた。モトヤとテンは顔を見合わせた。


「何の音ですかね? テンさん」

「なんだろうねモトヤ君……。これは雨の音かなぁ?」


 二人はその場で動かずに聞き耳をたてた。すると雨音に混じり、確かに何かが聞こえる……。何かを踏む音……足音だろうか? だがそれは確実に一人の足音では無く、大人数の足音のようであった。


 ザッザッザッ


「テンさん……これはまさか足音ですか?」

「そのようだ……大人数のね」


 一気にモトヤとテンの緊張が高まる。大人数で移動していると言うのは戦闘目的であることが多い為だ。ターゲットはここでは無いのかもしれないが、もしも「りっちゃんと一緒」がターゲットにされたのであればこんな少人数のクランでは太刀打ちできないのだ。


「モトヤ君! まずはりっちゃんさんに報告だ!」


 そのテンさんの声にこたえたのは野太い声だった。


「その必要は無い、今聞いた」


 モトヤとテンが振り返ると、そこには仁王立ちした美少女「りっちゃん」の姿があった。


「テン、モトヤ、武装を整えろ」


 りっちゃんの凛とした声にモトヤとテンは首を縦にふる。そしてりっちゃんはコテージ内に響き渡る大声で皆に戦闘の準備を伝える。


「おい野郎ども戦闘の仕度をしろ! 今すぐにだ! 遅れた奴のケツには俺が特別に特大の棍棒ねじこんでやるからな!!」


 すぐにコテージ内のメンバーが集まってきた。そこにはジュンの姿はない。買い出しに出ている為だ。

 コテージ内の扉の内側で全員が戦闘の構えをした。

 モトヤはメンバーを見渡した。りっちゃん以外はどうもおどおどした表情をしていてる。

 それはモトヤも同じであった。

 正直、今は足音が遠くに通り過ぎていく事を祈るしかない。


 ザッザッザッ

 …………。


 足音はコテージの手前で止まった。これはつまりターゲットはクラン「りっちゃんと一緒」であることを意味していた。


 扉の手前の先頭に居たりっちゃんはメンバーに喋る為に顔をクルッとまわし後ろを向いた。そして一言こういった。


「お前ら覚悟決めろよ」


 そのりっちゃんの言葉はモトヤにはまるで死を覚悟しろよと言っている様に聞こえた。

 そしてりっちゃんはコテージの内と外を隔てる扉を開けた。

 そこには40人規模の人々がいた。


 モトヤ達はその40人に飛びかかろうとするが、りっちゃんが手を横に広げその行動を制止する。


 ――なんでだりっちゃん! 敵には先手必勝だろ!


 モトヤが非難する目つきでりっちゃんの方を見ると、りっちゃんは無言であごを前に突き出す。それは“前を見ろ”というジェスチャーだった。

 りっちゃんに促されモトヤは前方の40人を見た。


 ……。


 その40人は“鷹のマーク”を掲げた旗を持ったまま、その場から一歩も動かず戦闘の構えもとっていないのである。モトヤはてっきり、りっちゃんが扉を開けた直後から血みどろの戦いになることを想定していたのだが……どうも想定とは違うようだ。

 りっちゃんはこの様子を十分に確認したあとにクランを代表して喋った。


「お前達はなんだ。ここに何か用なのか?」


 しかし何故か40人の人々は押し黙ったまま、その場にたちつくす。

 その様子を見たりっちゃんが更なる言葉をなげかけようと口を開くが、その時、40人の人々の奥の方から男の声が聞こえてきた。


「くくく、相変わらずうるせー美少女オッサンだな」


 その声は聞き覚えのある声だった。

 40人が一斉に左右に開く……。その先からゆらゆらゆっくりと足を運ばせ姿を現したのは竜虎旅団でエルメスを抹殺したホークマンだった。


 ――ホークマン!!


 りっちゃんが再び喋る。


「何の用だホークマン!」


「くくく、まわりくどいのは苦手なんで単刀直入に言うぜ。今、仲間が欲しくてなぁ! お前らのような糞クランに所属してる奴等を勧誘しに来たのさ」


「……」


 ホークマンがモトヤの方をみた。


「久しぶりだなモトヤ……お前にも言ってるんだぜ? 俺のクランに入れよ。この【 鷹の団 】にな……なぁにお前のことはもう許してやるって決めたから安心して入れよ」


 この発言にモトヤは感情をあらわにした。


「許すってなんだ? 許すって! テメェに殺されかけたのはこっちだぞホークマン!」


 モトヤの発言にホークマンは笑った。


「くくく。ああ、知ってるぜ、あの舐めた裏切り者の完全平和主義者のエルメスを庇って殺されかけたんだもんな。あんなアホと一緒に逃げたお前が悪いのさ。俺とホラフキンはお前がこっちの仲間になる気なら許す気でいたのによ……。あんな裏切り者と一緒に逃げやがって」


「りっちゃんさんコイツは危険だ! 以前にエルメスっていう仲間を謀略によって殺している」


 ホークマンはこの話に触れられたくないらしく、この話を制止するようにモトヤに向かって叫ぶ。


「おいおいモトヤ! テメェの戯言(たわごと)なんて誰が信じるんだよマヌケ野郎」


 モトヤはこの話をジュン以外の人間には話していなかったが、この話にりっちゃんが反応し、ホークマンを睨みつけた。


「ホークマン……お前……仲間を殺しやがったのか?」


 ホークマンがニヒルな笑みを浮かべる


「さぁな……モトヤは元々虚言癖があってな……ありもしない事をいうのさ……。ただ、さっきモトヤが言った事が仮に本当だったとしよう……。もしも俺が謀略を使ってエルメスを殺したとする。それの何が悪い? エルメスは俺達を皆殺しにしようとしていたんだぜ? 本人に自覚が無かったとしてもそうなんだよ。平和を謳って俺達に武装解除を迫っていただろう。もしもそんな状況になったら、他のクランの餌食になることは分かりきってるぜ! そんなヤツを殺して何が悪い。俺こそが後ろにいるこいつ等の命を救ったのさ。俺はただ大悪党を殺しただけだ」


 この話を黙って聞いていた、りっちゃんが激怒する。


「ホークマン! お前みたいなヤツは一番信用できねぇ!! 別に何があったかは分からねぇが、仲間を殺すのはご法度だろうがよ! そんなヤツに俺のクランメンバー達を引き渡す事はできねーな!」


 りっちゃんの言葉を聞くとホークマンは笑いだす。


「くくく、ははは! 相変わらずズレてんなオッサン! 俺が仲間にすると決めたんだ、もう決定事項なんだ。お前達にある選択肢は2つだけだ。俺の仲間になるか、鷹の団の経験値になるか、このどちらかだ……。まぁいい、結論は先延ばしのすることはできる、なぁブリント?」


 そうホークマン言われると、ホークマンの傍らにいたブリントと呼ばれる縦長の白い帽子をかぶった女の子が嬉しそうに頷く。


「はい、ホークマン様」


 ブリントはニッコリした笑みを保ったまま右手の人差指と中指ピタっとくっつけ雨が降っている雲に向かって、その二本の指を突きあげる。


 ――なんだ?


 とモトヤが思った瞬間だった。突然、りっちゃんの体が消えた。


【りっちゃんと一緒】のクランメンバーの緊張が一気に高まる。



 ――何をした??


 各々武器を構えるが、半ばメンバーはパニックに陥っていた。いきなりクランリーダーであるりっちゃんの体が消えたからである。それに何がおこっているのかもモトヤ達には理解できなかった。


 そして次はメンバーの仲間の「出雲さん」の体が消える。


 ――何がおきてる? 何がおきてるんだ!?


 パニック状態のモトヤ達の姿を見てホークマンは満足そうに微笑む。


「くくく」


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