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~それは城を奪い合うデスゲーム~  作者: りんご
第Ⅰ章 キャッスルワールドへようこそ
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第015話 モンスター(1)


 モトヤの賑やかな声が林に響き渡ってゆく。


「倒したモンスターを仲間にできるって書いてあるけど。つまり最後の一撃は魔物使いで攻撃しろってことなのかな~?」


 ジュンは、やや苛立ちを募らせた表情のままモトヤの言葉に反応した。


「んなこと俺が知るかよ……」



 ジュンの言い分はもっともだ。

 魔物使いのモトヤが知らない事を戦士のジュンが知っているわけがない。




 モトヤはかなり浮かれていた。恐らくこのキャッスルワールドから現実に戻れないと決まったあの日以来一番テンションが高いかもしれない。

 そんなモトヤを溜息交じりで見てるのがモトヤの親友である杉原淳二こと「ジュン」だった。

 二人は今クラン「りっちゃんと一緒」の本拠地であるコテージから50~60mほど離れた林に来ていた。そこは大小のモンスターが生息し、モンスターを倒すのにうってつけの場所だった。そんな場所にモトヤはジュンを強引に連れ出し、モンスター討伐に付き合わせていた。ジュンにとってはいい迷惑であった。


「そういや、お前の戦士のスキルって何が発現していた?」


 モトヤは何気なくジュンに聞いてみた。


「別になにも発現してないよ」

「そうなのか?」

「むしろたった数度の戦闘で二つスキルが発現する方がおかしいだろ」


 言われてみるとそうかもしれない、とモトヤは思った。

 あんな糞スキルを掴まされ運が悪いと先ほどまで思っていたが、ほんの少し見方を変えるだけで、こうも気分が上向くのだから、心と言うのは不思議なものだ。

 その時、ギュルルル、という不快な唸り声がどこからか聞えた。


 ――モンスターか?


 素早く左右の気配を探ると、くちばしだけがやけに長い鳥が空中を滑空しこちらに突っ込んでくるのが見えた。


「ジュン! 前方!」

「分かってる」


 そう言うと、ジュンは折り畳んだ腕を素早く二度振り、鳥の右羽根の部分を斬り落とす。舞いあがろうとした鳥は重力に引かれ勢いよく地面に激突した。もうこうなればこちらのものである。

 モトヤは、もがく鳥の上に馬乗りになり、首を根もとから断ち切った。

 これでモンスターは倒した筈である。


 ――さぁどうだ? 仲間になるか?


「……」


 モトヤとジュンはその場にジッと立ちつくし、モンスターを見守る。しかし、特段変化など無かった。その鳥は羽と首が切り落とされたまま、微動だにしなかった。

 二人は顔を見合わせた。


 「まぁ一匹目だしな」とモトヤは言った。「次だ。次」


 今度はトカゲのようなモンスターが背後から迫ってきた。驚いたモトヤはでたらめに剣をふるい、トカゲの胴体を十字の傷をつけた。トカゲは一瞬ひるむ。その隙にジュンがトカゲの頭を顎から一刀両断にした。


 ――どうだ?


「……」





 この日、同じ作業を繰り返し、モンスターを合計12匹倒したが一匹たりともモトヤの仲間になることはなかった。


 翌日


「ジューンくーん、今日もいくよー」

「その小学生が学校行く前に迎えに来るみたいなノリで来るなよ」

「いいから行くぞ」


 しかし、この日もモンスターは仲間にならなかった。

 その翌日もそのまた翌日も同じ結果であった。




「ひょっとすると根本的な何かを間違えてるのかも」


 今日のモトヤはジュンを連れずに「りっちゃんと一緒」の皆が寝泊まりするコテージの周りをウロウロしていた。完全に行き詰った為である。


 するとりっちゃんが話しかけていた。


「おお? モトヤじゃないか、どうしたこんな所でウロウロしてるんだ? 悩み事か? 悩み事もノートにしっかり書けよ。何が売れるか分からんからな」


 こいつは……。

 そうだ!!


「りっちゃん!」 


「タメ語かよ……。目上の人には“さん”をつけなさい。“さん”を」


 ――ちゃんの後にさんをつけるのか?


 モトヤは多少戸惑ったが、本人が言えという事もあり、そのデタラメな用法を使う事に決めた。


「りっちゃんさんは情報を売る商売をしてるんですよね?」


「まぁな」


「りっちゃんさんは魔物使いの情報をもっていたりしないんですか?」


 このモトヤの質問にりっちゃんは顔を曇らせ首を横に振った。


「残念ながら無い。あったらお前に教えている。お前は我がクラン初の魔物使いだからな。ただウチのクランには魔物使いの情報が無いが、よその情報屋は扱ってるかもしれない」


「じゃあ、その情報屋を俺に紹介してくれませんか?」


 このモトヤの言葉を聞きりっちゃんは苦い顔をし、空を見上げる。情報クランの一員が他の情報屋から情報を貰うという行為について考えているのかもしれない。そして数秒の沈黙のあとに出てきた第一声がこれだった。


「いいけど、お前の情報は売るなよ? 買うだけにしろ。お前の情報はここ【 りっちゃんと一緒 】で売れ! いいな?」


 こいつのガメツさはマジで半端ないな。


「わかりました」




 そして後日りっちゃんが仲介人となり【 情報屋 でん助 】を紹介してもらった。



 でん助の店はボコタにある。モトヤ達とりっちゃんが出会った街だ。そこのメインストリートに面したところに店を構えている。モトヤはその大きな店「でん助の情報堂」を見上げながらこれだけ短期間にでん助という人物がどれだけの情報を売ったのかを考えた。


 りっちゃんとは違ってプロの商売人なのかな? モトヤの中ではりっちゃんはいつ商売をしているのかどこで情報を売っているのか不透明な部分があった。まぁいい。とにかくモトヤはモンスターの情報を得る為にその大きな店の扉をあけた。すると、モトヤの来訪を既に待っていたかのように玄関口付近に頭をそり上げた(坊主と表現してもいいかもしれないが)眼鏡の中肉中背の男がいた。男の頭の上にはネーム表記があり【でん助】と表示があった。


「始めまして。でん助さん、モトヤです」


 モトヤの挨拶に呼応するようにでん助もモトヤに対し挨拶をした。


「どうも、でん助です。あなたの話は聞いてますよモトヤさん。竜虎旅団のホラフキンを葬った男としてね」


 え??


「なぜ知ってる? という顔つきですね。私は情報屋ですよ? ホットな情報は常に仕入れています……。で、情報をお買いになられるとか……」


「そうだ、魔物使いの特性に関する情報を買いたい。どうも、何故かモンスターが仲間にならないのでね……。他の方法があるのか、それともただ単に仲間にできる確率が低いのか……、そこを知りたいんだ」


「なるほど……」


そういうとでん助はモトヤを店の奥へと導き、何やら本をパラパラめくり調べ始め、次に左手を細かく動かし始めた。


「えーっと……。はい、あなたの探す答えがありますね。なるほど……」


やっぱり、あったか! ここにきてよかった。


「200Gになります」


言われたとおりにモトヤは200Gをでん助に差しだす。この金は昨日まで血眼になって倒したモンスターの素材を売って手にした金だった。そのことにより今モトヤは700Gを所有している。


「確かに……。では私の手を握ってください」


「え?」


「情報を伝えるのです」


 なんだそれ?



 モトヤは半信半疑ではあったがデン助の手を握る、するとデン助の手が発光しはじめた。


 うお? なんだ?


 そして数秒後でん助の手が発光を終えると、でん助はモトヤの手を離した。


 一体なんだったんだ?


「モトヤさん、御自身のオプションにあるメモ帳を開いてください」


 モトヤは言われるがままオプションの項目の中のメモ帳を選択する。そこには見覚えのない文章が並んでいた。


「これは一体?」


「私の人生スキル 【 伝える手(メッセンジャー) 】 です。この手がUSBケーブルみたいな役割をし、相手に私の情報を渡すことができるのです。逆は不可能ですが」


「これが人生スキル……」


「人生スキルを見るのは初めてですか? まぁこんな事をしなくても紙にメモしたり口頭で伝えればいいという事もありますが、これは私の店を利用してくれた事に対するサービスと捉えて下さい。口頭で伝えると忘れる事があるし、紙にすると他のものに見られる心配がある。あなたにとって今回の情報は見られる心配などしなくてよいものかもしれませんが、情報の種類によっては秘匿が必須であるものもあります」


「とりあえず何度も見返せるところはありがたい」


「そう言っていただけると幸いです。あ、そうだこれはサービスですが……捕まえたモンスターを呼び出す際はステータス画面を開きながらモンスターの名前を叫ぶのだそうです。なので発音は正確にしてくださいよ」


「ありがとう、でん助! じゃあ、行くよ」


「またの御来店を」


 情報屋でん助の店から出ると俺は早速メモ帳を開き、先ほどの保存データを呼び出す。


『魔物使いの特性、モンスターが仲間になる時とならない時の件について==全く同じ魔物を使い数十回の実験の結果、魔物が仲間になる時とならない時において明確な違いがあることを確認した』


『端的に言うと魔物を攻撃する際に体のどこか一部分が欠ける攻撃や心臓や首をおとすなどの弱点攻撃をした場合においてはゲームのいうところの「倒す」には入らず「殺す」という分類に入るらしく、そういった攻撃方法ではモンスターは仲間にならない。モンスターにはそれぞれHPが用意されており体の一部が欠ける攻撃や弱点攻撃をせずにHPをゼロまで減らすとゲーム中の「倒す」に該当しモンスターがある一定の確率で仲間になる』


『ちなみに「殺す」方法で仲間になる例は300件あまりのデータを調べた結果1件も確認できず、現段階では「殺す」方法でモンスターを仲間にできないと結論付ける』


『もう一つ。モンスターが仲間になるために他のパーティーメンバーの攻撃だけで仲間になるかという検証について、結論から言うと仲間にならない事が判明した。魔物使いはターゲットのモンスターを仲間にするためには何らかのダメージを与える事が必要である。現在どの程度のダメージ与えればいいかという所については結論が出ておらず、いくつかの説がある段階で推測の域を出ない。ただ“最後に攻撃しなければならない”もしくは“最初にダメージを与えなければならない”という巷で囁かれているようなルールは確認できず、これらの情報に関してはデマだという確証を得た……。更にモンスター固有情報に関してであるが……』


『モンスターの固有情報についは別情報になります。もしも知りたければ、何でも知ってる情報屋 でん助におこし下さい。常に安心・正直・適正価格での情報の販売を行っております』



 最後に宣伝を入れていきやがった【 伝える手(メッセンジャー) 】はむしろこっちの為なんじゃないの? (笑)


 ただ200Gをかけただけの見返りはあった気がする。なるほどね、大体ジュンの最初の攻撃で腕やら足やらが切断されていたモンスターばかりだったわ。



 今度こそ!


 そう意気込み、モトヤはボコタの街から1kmほど東の山間に進んだところにある「りっちゃんと一緒」の山荘に戻るのであった。




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