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~それは城を奪い合うデスゲーム~  作者: りんご
第Ⅰ章 キャッスルワールドへようこそ
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第013話 SP

 モトヤ達は草原から運よく隣町【 ボコタ 】につき町の路地裏に二人でしゃがんでいた。

 二人とも疲れきっていた。竜虎旅団と戦い、草原でモンスターを切り抜けやっとこの隣町に辿りついたのだ。モトヤは一刻も早くどこかに泊まりたい。そんな気持ちでいた……。だがジュンはある疑問を口にする。


「俺さ実は前から気になってたんだけどよ。これなんだよ、コレ!」


 ジュンが右上の方を指さした。

 モトヤは即座にジュンの行動にツッコミを入れる。


「いやいや、お前の視界に映るものはお前にしか見えねーよ」


 ジュンは頭を手でかきながら苦い顔をし、何とか言葉での表現を試みた。


「だからあれだよ。視界の右上にHP、MP、SPって表示があるだろ?」

「うん。で?」

「SPってなんだよ?」


 そう言われるとモトヤもハッキリとしたSPの機能を知らない事に気がついた。

 うん? あれ? そういえば何かな? う~ん……。 S……スタミナ?


「そりゃスタミナポイントじゃね?」


 モトヤは、さも“知ってて当然でしょ?”という感じの答え方をした。これに対するジュンの反応は鈍かった。


「ふーん」

「脳筋野郎は学がないなぁ」


 勝ち誇ったようにいう和泉智也の態度に杉原淳二は若干うんざりする。この二人は高校受験を経て同じ学校に通っているのだ。世間から見れば和泉智也と杉原淳二なんて同等程度の学力にすぎない。


「いやそうじゃなくて、なんかこれ回復してなくね? って事を言いたかったんだよ。確かホラフキンのクランに入る前は満タンだったんだよ。この緑色のメーター……」


 モトヤは自分のSPと表示されている部分のメーターを注視する。ジュンに言われると何やらそのような気もしてくる。頭の中にある微かな記憶で“このゲームを始めた時は全てのメーターが満タンになっていた”ような気がしていたのだ。だがどうだろう? このSPという緑色のメーターは、緑色の部分が今にも無くなりそうだ。


 ――なんだろう? 何か非常にまずい気がしてきた。


「こんな時は説明書だな」と言ったモトヤはオプションから説明書の項目を呼び出し、更にその中で『SP』の項目を呼び出すと、それを声にだして読む。


「え~なになに? 『SPとはスタミナポイントの略称です』ほら見ろ! 脳筋! やっぱり俺が合ってた!」


 しかめっ面をしたジュンが早くしろ、と言いたげに頭の横で指をクルクルまわす。これは“巻きで”(早くしろ)というジェスチャーだ。


「チッ、え~『最初は空腹ポイントにしようかと思ったのですが、ハングリーの頭文字はHなのでHPが2つ並ぶと変だという理由でSPという名称にさせていただきました。結論から言うとSPがゼロになると死にます。空腹で死ぬという事です。くれぐれも皆さんはSPがゼロで死ぬという間抜けな死に方は止めて下さいね。それはそれで面白くはありますが(笑)』……以上説明書の説明終わり……」


 モトヤとジュンはしばしお互いを見つめあう。

「……」

「……」

「ぎゃああああああああ死ぬうううううううううううううううう」

「やべええええ、このメーターもう限りなくゼロに近いんだけど」とジュンが言った。


 モトヤは若干にパニックになりながら食べ物をジュンに催促した。


「食べ物! 食べ物! ホラなんかあるだろ! なんか!」

「モンスター倒してゲットした素材やアイテムに何かないか調べて見ようぜ」

「それだ! ジュン冴えてるじゃん! え~~と、項目! 素材!」


 モトヤは素早く左側の項目から素材と書かれた項目を呼び出す。


「……マッチ棒、バウントハントの目玉、木炭、紙」


 モトヤは素材の項目に見切りをつけアイテムの項目を呼び出す。


「人生スキル発動棒、緑の髪飾り……」


 ――マジかよ! まともな食べ物が一個もねえ!


 次にモトヤはジュンに食べ物がないかの確認をする。


「ジュン! なにか食い物は……」


 そこには左手をまるでETにあいさつをするみたいに人差し指が一点を指し続け直立不動で静止するジュンがいた。


「モトヤ……、俺はアイテム無しだ……」

「……」


 モトヤは目をつぶり、考える。何か方法がある筈だ、と。すると、閃いた。


「なぁジュン! バウントハントの目玉はひょっとしたらイケるじゃね? 肉食動物だって目玉食べるだろ?」

「よし! やってくれモトヤ」


 モトヤは左手の人さし指で素材欄の中からバウントハントの目玉をとりだす。すると、モトヤの手のひらにバウントハントの目玉がコロンと落ちた。何とも言えない微妙な気分になった。これを本当に食べるのか、と思った。こんなものを……。モトヤは不意に自分の家で食べた目玉焼きを連想する。


 母さん。目玉焼きってよく作ってくれたよね? だけどこの目玉は違う気がするんだ。何と言うかもう……違う気がするんだ。でも食べるよ! 男だ! というよりこれはデータだ! ゲームの中のデータだ! 別に本物の目玉を食うわけじゃないんだ! やってやれ!!

 モトヤは目をつぶり、鼻をつまみ、大きく口をあけた。


 パクッ


 口の中に目玉の味が広がった。

 ――この目玉……本当に目玉っぽい味がする。オエエエエエエエエエエエエエエエエエエ。


 モトヤは、吐きだしたい気持ちを必死におさえて目玉を無理やり飲み込む。

 やった! やったぞクソ! 畜生! なんてクオリティだ! 目玉の味まで再現するんじゃねえ!!

 モトヤは最悪の気分で視界の右上に映るSPを表示する緑色のメーターを見た。


 モトヤのSPのメーターはピクリとも動かなかった。


「どうだった??」

 食い入るように一連の行動を見つめていたジュンは、待ちきれないと言った様子で“目玉を食べた”行動の結果をモトヤに聞く。それに対しモトヤは溜息混じりで答えた。

「ダメだ! 目玉じゃSPメーターは回復しねぇ畜生」

 ジュンは分かりやすく肩を落とした。


「やっぱりダメだったかぁ……。ほとんどのRPGでもダメだしな……」と言ったジュンにモトヤが反応する。


 ――あ? やっぱり?


 モトヤはジュンの胸ぐらを掴んだ。

「てめぇ!! そういう事は早く言えよ! 変なもん食っちまったじゃねーか!」

「分かった! 分かった! ごめんって! いやぁ何事も実験かなってさ。とりあえずこれでハッキリ分かった。普通のRPGみたいにちゃんと食事として認識されているモノを食べないと効果がないんだな、やっぱり」


 モトヤがイライラするなか、ジュンが素敵な提案をした。


「レストランだ! そこなら確実に食い物があるぜモトヤ! 確かここくる途中の街の入り口付近にあったよな?」

「それだ! 行こうぜ! さすがゲーマー」


 そしてモトヤ達はレストランに直行した。2人合わせて120Gしか持たないが、きっとなんとかなると信じて……。



「お二人で700Gになりまぁす! 前払いになりまぁす!」


 レストランの綺麗な女性ウエイトレスNPCが丁寧かつ大きな声でおっしゃった。もちろん、モトヤ達に向けた言葉である。

 モトヤとジュンは顔を見合わせ、その後モトヤがウエイトレスに聞いた。


「ごめん、この店で一番安いヤツ2つと言ったんだけど」


 この店は、メニュー表に価格表示がなく、メニュー表を指を指すか、具体的な条件をNPCウエイトレスに話すか、そのどちらかでしか注文できない。なぜこんな設定にしたのだろう? すっごく分かりずらい。

 とりあえずモトヤ達が求めたものは安さだった……。120Gしかないのである。当然の選択だ。そこで店で一番安いメニューを求めたハズだった……そう……ハズだった。


「ええ、その通りですよ、350G×2で700Gですよね? 前払いになります!」


「あ、あの」


「前払いになります!」


 モトヤとジュンとまた顔を合わせた。さっきのホラフキンとの激闘を生き抜いたのに、まさか腹が減って死ぬ事になるとは、そんなことありえるのかと……もう二人とも涙目である。

 モトヤは思わず叫んだ。


「銀行で限度額いっぱいまで借りときゃ良かった!!」


 ジュンも同意見である。ただこのボコタという街には銀行が無い。ボコタの街の入口に“街の地図”の看板が立ってあり。そこに何も表示されていなかったのだ。同じものは始まりの街にもあったが、そこには銀行が表示されていた。つまり銀行がある街とない街があるのだ。銀行でお金を借りる為には始まりの街まで戻らなればいけなかった。

 だが、モトヤとジュンは今日そこから命がけで逃げてきたのだ。今更戻るなんてことはできない。


 またモトヤが叫ぶ。


「頼む! 誰か食べ物恵んでください! 全財産さしあげます!! お願いします!!」


 通りの人は無反応であった。

 モトヤは思った。溺れる者は藁をもつかむというが……今は気持ちが切実に理解できる。

 乞食みたいになったとしても生き延びたい! そう思えた。


「食べ物がほしいのか?」


 物凄い野太い男の声がした。その方向を振り向くと髪がピンク色の物凄い美少女キャラがいた。

 あれ? 男の声がしたんだが? どこにいるんだ? モトヤはその美少女キャラから視線を外しあたりを見回す。だがどこにもそれらしき男がいない。不思議に思いながらもまた顔を元の位置に戻す。どうにかしてこれを乗り切らなければいけないのだ。


「いらんのか?」


 やはり野太い声は後ろの方から声が聞こえる。もう一度振り返ると、そこにいるのはやっぱりピンクの美少女キャラであった……。


 ――あれ? んー? ん??


「ほしいんだろ? 食べ物」


 今度はハッキリと見えた。その美少女の口が開いたと同時に男の野太い声がしたのである。


 ――おいマジかよ……。ネカマってヤツだコレ。音声変えれねーのかよ。音声くらい変えてやれよ。これは流石に残酷だろ。


 だがとりあえずモトヤは食べ物がほしい。モトヤ達はうなずくと差し出されたパンをほうばろうとするが、突然引っ込められる。


「俺のクランに入るならパンをやる」


 モトヤとジュンは先ほどクラン関係で痛い目にあったばかりである……。だが背に腹はかえられない! 今死んだらどうすることもできないのだ。


「いいだろ? ジュン、ここで死ぬよりはマシだ」

「だなモトヤ、入ろうこのクランに」


「クランに入ります!!」(モトヤ・ジュン)


「よし良く言った、食べろ」


 そう言われるとモトヤ達は差し出されたパンを貪りつくように食べ尽くす。するとSPメーターが4分の1程度まで回復した。その後、約束通りクラン登録をし、モトヤ達はこのネカマについていくのであった。




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