第011話 クラン
モトヤとジュンは右も左も分からず無我夢中に闇の中の草原を駆け抜けた。
そして前方にちょうど良い茂みを見つけそこに隠れる。
「おいモトヤ! 隠れても意味ないぞ! レーダーがあるんだぞアッチは。俺達がクランに所属する限り、奴等のレーダーはどこまでも俺達を追い続ける!」
「わかってる」
「じゃあどうして?」
ジュンの顔は紅潮していた。ホラフキンの死を知った連中がいつモトヤ達に追いつくか分からないからだ。先ほどのホークマンの説明を聞く限り、クランレーダーがあれば永遠にモトヤとジュンを追跡する事が可能だった。なのにモトヤは茂みに隠れるという選択をとったのだ、その選択にジュンが疑問を抱くのも当然と言えば当然と言えた。
モトヤは自分の視界の右上あたりを見て細かく何度も頷く。
「よし、やっぱりな、思った通りだ」
「?」
「ジュン、自分の視界の右上見てみろよ」
「あ? おう」
ジュンは自分の視界の右上を見た。
そこにはHP、MP、SPという項目がある……だがそれだけだ。
「で? 見たけど?」
「ないだろ?」
「なにが?」
「所属クラン名とクランマークだよ」
「なに??」
ジュンはもう一度そこを見た。確かにそんなものはない……でも正直元々こんなところにクランのマークやらクランの所属が表示されていたかどうかを思い出せない。
「あったけ? そんなの」
「あったんだよ」
ジュンはモトヤの反応が気になる。何を落ち着いているのかと。
「だからそのマークが消えてたら、なんだっていうんだよ」
モトヤはジュンの思考の鈍さに少々イラついた。
「分からないか? マークが消えてるってことは、もう俺達は竜虎旅団に所属していないってことだ。だからもう奴等のクランレーダーで俺達を探す事はできない」
「え?」
ジュンはもう一度視界の右上を見てそんなモノがあったかどうかを思いだそうとする……が、やはり思いだせない。ジュンは自分の記憶の曖昧さを恨んだ。だが、もしもモトヤの記憶違いや仮説が間違いであるならば、クランレーダーを使い竜虎旅団は自分達を追跡してくるかもしれない。となると曖昧な記憶を頼りにジュンは答えを出したくなかった。
「待てモトヤ、もっと確実にクランを抜けたという証拠がほしい」
「どうやって?」
「そういやオプションからクラン脱退ボタンを押して……みたいな事言ってたよな」
「言ってた」
「それだ」
ジュンは急いで自分のオプションを操作し、クランという項目を発見した。でもクランの脱退なんていうボタンはない……代わりにあるのは……。
「クランの作成ボタン?」
「やっぱりそうだジュン。クランの脱退ボタンが無くてクランの作成ボタンがあることこそが、もうクランのメンバーじゃないという証拠にならないか」
「……そういわれると……そうかもしれないが……」
ジュンは半分くらいは納得したのだが……どうも1つ引っかかるので、その疑問をモトヤにぶつけてみた。
「待て、でもなんで俺達はクランを抜けた事になっているんだ? ホークマンの言ってる事と違うじゃねーか、確かクラン脱退ボタンを押さなければ俺達はクランを脱退できないハズだよな? なんでその手順を踏んでいない俺達がクランを脱退できたんだ?」
ジュンの疑問は最もなことだった。確かにクラン脱退手続きをしない限りクランに所属したままになるはずなのだ……なのに何故自然と脱退できてしまっているのか?
「たぶんクランリーダーのホラフキンが死んだからだ」
「なに?」
「ジュン、とりあえずまだ仮説段階だけど言うぜ? このクランに入る時、皆ホラフキンに向けてクラン申請したよな? つまりさ、なんていえばいいのか、ハブみたいなものでさ、ホラフキン自体がハブとなってクランの他のメンバーは繋がっていたんじゃないかな?」
ジュンは、いまいちモトヤの言っている事が理解できない。
「つまり、どういうことなんだ?」
「だから……ホラフキンというハブが死ねばクランという繋がりも無くなる。その時点でクランは消滅する。クランが消滅すれば当然クランレーダーも無くなるし、クラン自体がないのだから俺達はクランを脱退しているのと同じ状態になる」
「なるほどな……」
ジュンはやっと納得がいった。つまり運よくホラフキンが少数でジュン達に戦いを挑んで殺されたことが、自分達が逃げ切れた要因だったのだ……。
「まぁそれはそうとして、回復しとかねーと危ないないなジュンも薬草持ってるだろ? 使っとけ使っとけ」
モトヤはアイテムの項目を呼び出すと最初から支給されていた薬草をムシャムシャ食べる。なにせHPが残りわずかだったのだ、不測の事態に備えHPを回復させなければならない。
モトヤの行動をみてジュンも真似て薬草をムシャムシャ食べる。
そしてモトヤはHPがどれほど回復したかHPメーターを見たところで気付く。
どうもモトヤの目にはそのHPメーターの最大値が上がったように見えているのだ。
次にモトヤは視界の左上の数字を見た。
「……レベル2になってる」
モトヤは視界の左側にいくつかの項目のあるなかのステータスの項目を開く。自分の以前のデータをモトヤは覚えているわけではなかったのだが……心なしか数字が上がっているように感じた。そのステータスの一番下に『次のレベルUPまでの経験値ポイント3』と書いてあった。
――ポイントってなんだ……まるでゲームだな……あ、いや……そういえばゲームだったな……これ……。
ジュンがなにやらニヤニヤしている。
そして自分のレベルを指さしてきた
モトヤは驚いた。
「レベル3!? ジュン……いつのまに……」
「結構殺したしなぁ」
「ジュンはサクッと言うなぁ……シリアルキラーっぽくて若干恐いわ」
ジュンはモトヤの発言にムッとする。
「んなもん、相手が向かって来たんだ。しょうがねーだろ」
「でもジュン、よくそんなに倒せたな」
「まぁな、職業が戦士っていうのもあるかな。どうもこの職業はMPとか魔力とか技術以外の全てのメーターが高いらしいしさ。それに俺、元剣道部員だったしね。なんていうか……剣の扱いが分かるって言うの? そんな感じ」
モトヤは思った。ただの元剣道部員じゃねーだろと……お前は中学の中体連でもトップクラスの実力の持ち主だったじゃねーかと。
「ジュンに竹刀持たせたら勝てる奴なんて滅多にいねーよ」
ジュンが笑った。
「まぁそうかもしれねーな、でも高校の剣道部じゃそうでもなかったぜ……うちの高校って剣道の部員多いから上から4番目くらいだったかな……辞める前の話だけどな……まぁでも二刀流でやるなら俺に敵うヤツなんて誰一人いなかったけどな」
「は?」
「剣道あるあるさ。剣道部員って絶対に一度は二刀流で遊ぶもんなんだよ。もちろん顧問の先生の前ではやらないけどな。自主練の時とか二刀流対二刀流で部員でトーナメント組んであそんだりするんだよ。そこで俺は最強だった。俺は剣道強いつっても普通の剣道じゃ部長とかにはまるで歯が立たなかったよ……でも二刀流なら俺は最強だったんだ」
「じゃあさっきエルメスから剣をもらったのも?」
「ああ、二刀流ができると思ったんだ。で思った通り、やっぱり二刀流は最強だ」
ひょっとしてコイツこのキャッスルワールドの中でかなり強い方なんじゃね?
「なぁジュン! とりあえず隣町行こうぜ! いつモンスターに襲われるか分からん場所でダラダラ話したくない」
「たしかに」
こうして二人は隣町を目指すのであった。