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第二話 魔王

  それから俺たちは王座近くにある絨毯の敷かれた段差に腰をかけ、お互いの空白を埋めるように何時間も話を交わした。それは忘れかけていた、幸せな時間だった。

魔王と話をしていくうちに、少しづつ、少づつだが確かに俺の中に何かが埋まっていく。

それが、とても心地良かった。


 俺を知ったのは勇者として召喚されてたその日、千里眼の能力を持つ『魔眼』を通して見たのが最初だったと嬉しそうに魔王は語った。

初めて見たときは胸を雷撃魔法で打たれたようだったと、自分で言うのも少し恥ずかしいが。

どうやら世間で言う、一目惚れというやつだったらしい。

その話をしたときの魔王はとても恥ずかしそうにモジモジとしていたのが印象的だった。


「でも、私は魔王でマコトは勇者でしょ? 会うことなんてできない。だから、ずっと見ていたの……」


「何だか、恥ずかしいな」


 少し恥ずかしくなって、照れを隠すようにポリポリと頬をかく。


「ごめん……」


 そう言って魔王がうつむく。

その仕草が余りにも可愛く、庇護欲を駆り立てる。


「いや、いいんだよ。気にしてないから」


「……ありがとう」


 魔王の頬が赤く染まる。

その姿に俺の鼓動が少し早くなった。


 少しの沈黙の後、お互いの距離が近くなる。

あと、ちょっと近づければ唇と唇が触れてしまう……そんな距離へ。

魔王は肩を少し震わせながら目を閉じ、顎をあげた。



「まおーさーまーっ! まおーさーまーっ!」



 けたたましい声と共に扉の向こうから、給仕服を着た黒髪を結った少女が勢いよく走ってきた。



「マモン」



 魔王が邪魔が入ったのが不服そうにその少女に声をかけ……あっ、こけた。

お、立ち上がった。なんか変なポーズつけてる。

こっちに来るみたいだ。


「おーおー、勇者殿の顔がこの城に入ってくるときと違いますのぉ。上手くいきましたね! 魔王さま」


 マモンと呼ばれる黒髪の少女が満面の笑顔で答える。


「魔王さまは、いつも勇者殿だけを見ていましたからね」


「やめなさい、マモン」


 魔王がすごく恥ずかしそうだ、それをマモンがニヤニヤと見つめる。


「申し遅れました。私、魔王4帝が一人、不滅のマモンです。どうぞ、お見知りおきを」


 マモンは両手でスカートの裾をつまみ、軽くスカートを持ち上げて礼をした。

不滅のアモン。魔王軍最高幹部で大陸の兵士なら誰でもその名を知っている。

ベルゲア平原での戦いで、七千の軍相手にたった一人でその軍を壊滅させた事が彼女の名を一躍有名にさせた。

戦いぶりが凄まじかったのか、今でも兵士の間でその話題はのぼる。


「勇者のマコトです、よろしく。あの……、魔眼のラミアさんを倒してしまいすみません」


「大丈夫よ、ラミアは放っておいてもそのうち復活するわ、それに人族とは戦争中なのだからマコトが気にすることじゃないよ」


 魔王が告げた答えに少し驚いた。意外と魔族の死は軽いらしい。


「そうです、ラミアは自分の強さに過信して調子にのっていましたからね。ちょうど良い薬です」


 マモンがまるでプンプンと擬音がつきそうな表情で頬を膨らます。

腰には手を当てていた。その姿は魔王軍最高幹部と言われなければ、あどけない可愛らしい少女にしか見えない。


「それなら、いいが」


「はい、いいのです」


 少し、魔眼のラミアがちょっと可哀想になってきた。

復活したときは優しくしてあげよう。


「ところで勇者さま。魔王さまとご一緒になられるということは、私は貴方さまの家臣も同じ。何なりと申しつけください」


 マモンが仰々しく臣下の礼をする。

その姿は学芸会で演技をする女児を見ているかのように思えた。

それを、魔王はニコニコとした笑顔で見ている。


「なら、一つ頼まれてくれないか」


「なんなりと」


「王都への転移扉を開いてほしい」


「王都へですか?」


「帰っちゃうの? ……マコト」


 寂しそうに俺の袖を引っぱり上目使いで見つめる。

俺は安心させる為に魔王の頭に手をおいて、優しくその艶やかな髪をなでた。

魔王は、それを嬉しそうに目を細める。


「いや、違うよ。少し確認したいことがあるんだ」


「言ってね、マコトの敵なら私が全て消してあげるよ」


 魔王が握り拳を作りながら、とても良い笑顔で言った。



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