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秘密の戦い

作者: 尚文産商堂

プロローグ


「いいか、あいつらは闇の勢力だ。だから、俺達善の勢力は闘う必要があるんだ。分かるだろ?お前は、武器に変身できる。世界には、武器になる者と、武器を育てる育成者としてともに生活をするものの二つに分けられる。その中でも、武器になれるのはごくごくわずかな人たちしかいない。それゆえに、武器に変身出来る人たちは非常に珍しいんだ。お前は、俺らのところだ。俺らのところの誰かと一緒になる必要があるんだ」

佐津間は幼心にも分かっていたつもりだった。世界の知られざる勢力を2分する構図。善と悪。常にこちら側を善といい、相手側を悪という。それが全然違うものと気付いたのは、彼が中学生の2年生のところだった。


第1章 初めての遭遇


京橋と出会った場所は、家のすぐそばにある丘の上だった。そこは、公園になっている丘で、誰でも入れるようになっていた。佐津間は夜空を見上げるのが好きだったから、夜になると、よくその丘の頂上から、寝転がって空を見上げていた。


その日は、12時ぐらいに丘に登った。そのあと、ちょっとしてから誰かが登って来た。佐津間はちょっと起き上がって誰が登ってきたかを確認しようとした。彼女は、ちょっと驚いていた。

「君はだれ?」

「私は、京橋除子。あなたは?」

「俺は、佐津間矩類だ。君は、どちらの陣営だ?」

「私は、善の陣営よ。あなたからみたら悪になるかもしれないわね」

「じゃあ、こんなところにきちゃ駄目じゃないのか?ばれたら相当怒られるぞ」

「大丈夫だって。私達は、ここでは出会わなかった。それでいいじゃない」

「……じゃあ、先に帰るよ。また」

佐津間は彼女の返事を待たずに、その日はそのまま帰った。


翌日の昼間、再びその場所に行くと、京橋が立ってこちらを見ていた。笑っていた。

「おはよう」

「おお、おはよう…」

佐津間は結局、京橋と一緒になる運命だったのかも知れない。この二つの勢力の中にいる、珍しい子供の俺達は、自然と惹かれあった。しかし、誰かがそれを見ていたらしく、佐津間は丘に行く事を禁じられた。


「お前は、まだあいつが誰かしらないんだ」

「誰だ?」

「あいつらこそ、俺らの敵だ。悪の存在なんだ。お前は、こちら側の武器なんだ。前も言ったように武器に変化出来る能力に目覚めた人たちは、この世界の中でも珍しい。その中でも、お前はさらに珍しい分類になる。事実上、育成者なしに自力で敵と闘う事が出来る。だが、育成者がいたらさらに強くなれる。だからこそ、お前と精神の波長が近いものとが一緒になる必要がある」

「精神の波長?」

佐津間は聞いた。

「学校で聞いているはずだ。なにせ、全ての生命を構成している3要素。魂、肉体、そして魂と肉体を結ぶ糸のような物である精神。この3つがうまく作用して生命は存続できる。寿命と言うのは、肉体の中にあるエネルギーが尽きることであり、だからこそ、魂は肉体から離れる事が出来る。輪廻と言うのは、魂のエネルギーが尽きることであり、新しい魂を生み出すための原動力になる。最後まで残る精神は、全ての本能を採り入れている重要なもので、肉体と精神、魂と精神は切っても切り離せないものだ。それらが切り離された時、命は消える。そして、魂と肉体の相互にはそれぞれが出すエネルギー波がある。そのエネルギー波をうまく調節しているのが、精神の波長と呼ばれているものだ。その波長は、性格、体格、やる気の有無まで関わってくる。その精神の波長が完全に一致する人たちは、世界に自分と相手の二人しかいない。部分一致する人たちは、結構いる。だが、既にお前に完全に一致している人は、この村の中にいるんだ」

「誰です?」

「お前のいとこだ。上総雪乃は知っているだろ?お前の育成者になる者だ。すでに、この場にも呼んでいる」

後ろからカーテンを開けて、彼女が入ってきた。

「佐津間君…」

「育成者。いつの間にライセンスを取ったんだ?」

「彼女はライセンスだけじゃない。村公認の超S級育成者だ」

「いつの間に取ったんだ?」

「さあ、とりあえず行こう。ここにいたら息が詰まりそう…」

そう言って上総は、佐津間の腕をつかんでずんずん進んで行った。


「ここまで来ればいいよね…」

そこは、いつの日にか来た丘の上だった。

「あれ…誰かいる…」

その人は、隣村で争い対象の京橋除子だった。

「あの子って…もしかして」

上総はそのこのところに向かって走り出した。


「やっぱり、京橋さんじゃない。久しぶり」

「上総ちゃん!大丈夫なの…あれ?なんで、佐津間君がいるの?」

「あれ?二人とも知り合い?」

「うん…まあな」

佐津間は、ちょっと恥ずかしくなって言った。

「ふ〜ん。とりあえず、ここにいてもいいの?」

「うん、大丈夫。それよりも、ちょっと聞いていい?」

「なに?」

佐津間を気にせずに、二人だけで話を進めていた。

「あなた、協会公認の超S級育成者でしょ。あなた自身、佐津間君を育てるつもりなの?」

「ええ、その予定よ。でも、予定は常に変わる物だからね」

佐津間は、彼女達が何を言っているのかがわからなかった。

「それは、逃げ腰の常套手段よ。でも、いいわ。私が言いたいのは、私達だけで、この閉鎖世界から逃げ出さないかと言う事よ。この村にずっといたら、私達は、3人揃って争いで命を落とすことになるでしょう。それは避けたいの。だから、私達だけで、この村から逃げない?」

「そう言われても…ねえ」

上総は佐津間を見た。

「面白そうじゃん。やってみようよ」

佐津間は、何も考えずに言った。それが、この世界を揺るがす大事件に発展するなど、この時には察する事など出来なかった。


第2章 脱走


この世界の文明は、この村を中心として発展していた。向こう側の村とこちら側の村では、文明自体が変わるほどだった。しかし、それをさえぎっているのは小さな丘一つだけだった。佐津間達はその丘をあっという間に乗り越えた。


「だが、逃げ出したのはいいが、この世界って、よく知らないぞ」

「大丈夫。私達がいるじゃない。でも、敵とかが来た時には、よろしく頼むよ」

「そうだな。だが、一回も合わせないで大丈夫なのか?」

「そうねぇ…心配だったら、精神の波長を合わせても構わないね。減るようなものじゃないし」

「エネルギーは使うけどね。寝てれば大丈夫だし」

「そう言う問題か…?」

「そう言う問題」

二人同時に言った。そう言うと、むらを取り囲んでいる森の中にある、小さな空き地に出てきた。

「じゃあ、この辺りでしてみる?」

「そうね。ちょうど場所もあるし」

そう言うと、今まで背負ってきていた荷物一式を佐津間に持たせて、二人でなにやら相談をはじめた。

「おい、何を話し合っているんだよ」

佐津間は聞いたが、二人は笑って何も答えようとしなかった。


数分後、彼女達はようやく話し合いを止めて、佐津間のところに来た。

「ねえ、佐津間君の種類って何?」

上総が聞いた。

「武器の種類か?俺は剣だが…」

「剣か…」

「どんな剣?ああ、それよりもやってみた方が早いね」

彼女たちは、勝手に言い出した。しかし、このままでも何だかんだあって結局する事になるんだろうから、佐津間は先に変化する事にした。

「じゃあ、見とけよ」

それだけ言うと、佐津間を中心として光り輝く太陽のように、一瞬、空き地が光で満たされた。そして、全身をくねらせて、一本の長細い、日本刀らしい剣になった。

「これって?」

「さあ、剣の種類までは分からない。分かっているのは、これが、協力型の武器になるんだ」

「協力型?じゃあ、自立型でもあるの?」

上総と京橋で、とりあえず佐津間を持とうとした。すると、するりと上がったのは、京橋だった。

「どうやら、京橋と精神の波長は合うらしいな」

「じゃあ、私は用無しって言う事?」

「いやいや、そう言う事でもない。お前は、昔から魔法が使えただろ?」

「でも、長い間使ってないから…」

「試してみろよ」

佐津間は変化をときながら上総に言った。上総はちょっと考えてから、呪文を唱えだした。

「天にいます我らが神よ、地にいます我らが父よ、足下にいます我らが母よ。その力、少しお借りし、私に力をお与え下さい!」

呪文を言い切る瞬間に、両手を何もない方向に思いっきり突き出した。すると、瞬間的に、大きな空気の圧縮刃が出た。それは、その道筋にある全ての物を消滅させた。

「すっげーな」

佐津間は、心からの感想を彼女に伝えた。佐津間は、協力型の武器から、自立型の武器に変化をしているところだった。いったん、人間の姿に戻ってから、両腕が銃へと変化をはじめた。まず、手の先の方から徐々に、色が濃い茶色に変化を始め、徐々に、肩まで達した。その瞬間、一瞬で光に包まれて、古めのライフル銃になった。ただ、装填する必要はなかった。


「さて、これが自立型の武器になる」

「ライフル銃?でも、ボロイね」

「ぼろいって言うなよ。これでもがんばっているんだ」

「まあ、そんな事よりも、とりあえず、試し撃ちしてみたら?」

「そうだな。とりあえず、上にでも向けて…」

佐津間は勢いよく両腕から一発づつ撃った。その衝撃波は半径100m以内の全ての物をなぎ倒す勢いがあった。

「うぉ…っと。大丈夫か?」

佐津間は慌てて周りを見渡した。彼女達はどうにか伏せていてその場にいたが、その周りの森の木々は佐津間を中心としてなぎ倒されていた。

「あっちゃー…やっちまったな」

「急ごう。絶対誰か見に来る」

そう言うと、彼ら3人は、急いで荷物をそれぞれ分けて持ちあい、その場を出た。


佐津間達が出ていってから、数分後。その爆発を観測した両方の村の科学者が、同時のルートを通って、そこにたどり着いていた。

「この爆発は、自然現象じゃない」

「偶然にも、自立時にはライフル銃になる少年がいる。だが、彼は、双方の村の女子各一名とともに、忽然と消え去った」

「ここまで来て、試射をしたって言うことか?」

「そういう結論だ」

「凄まじい力だな。これがあったら、この争いに終止符が打てる…」

「そう言うことか?先に、彼らの研究を続けていくべきでは?」

「精神の波動を仲介させての攻撃は、未だに解明されていないほうが多い。彼らの力の源も、どこから来ているか未知数だ」

「だったら、なおさら彼らを捕らえるべきだ。そもそも、そうしなければ、他国のやつらが乗り込んでくるぞ」

「だったら、今から一時的な停戦が必要になる。双方とも、彼らを追うのだよ。そうすれば、戦っている分の力を、すべて追うための力に回せるだろ?」

「…村長と長老の話し合いを経て決定されるものだ。一介の科学者が決めるものではない」

「それもそうだな。これ以上ここにいたとしても、無駄か」

科学者の一行は、そこまで話し合うと、そのまま村の方へと帰っていった。


村では、共闘戦線と称して、世界中に3人のことを連絡していた。この二つの村でしか、彼らのような人型武器は産まれず、他の町や研究所とかで研究が続けられていたにもかかわらず、決して産まれることはなかった。各国は、利権や考えが交錯する中、最初に彼らを見つけようと躍起になっていた。しかし、彼らがどこに行ったか、彼らは見つける事ができなかった。


第3章 捕獲


それから、5年が経った。彼らは、独自で研究を続けていた。誰からも知られていない山の奥深く、霧が立ち込めている中で唯一晴れているところで、彼らは、修行と称する研究活動をしていた。


「…つまり、精神の波動は、各個人によって代わってくるために、人それぞれ出会う育成者が特定されているということだな。そして、武器になる人は、その精神の波動が、武器や攻撃系統に行きやすいという特徴がある」

「そう言う事ね。その上、魔法が使える人と、武器の人は、直接波動をやり取りする事ができて、武器の育成者は、魔法が使える人と武器の人の波動の調整役として、存在していると言う事ね」

「でも、やっぱ分からないのは、どうして人によって武器になったり魔法が使えたり育成者になったりするように、波動が変わってしまうかって言う事よ。そこが、これまでの中で重要な謎よ」

3人は、その空き地のような霧の切れ間の場所で、相談しながら修行をしていた。

「とにかく、3人でもう一度やってみましょう」

「そうね」

「分かった」

そう言うと、3人で正三角形を形作り、同時に叫んだ。

「共鳴開始!」

そのとたんに、周りの霧を消し飛ばすほどの強大な魔力と波動が生まれた。それを、丹念に練り上げていき、ひとつの精神波動として新しく生み出した。


「ふ〜…ちょっときゅうけーい」

京橋が言うと、佐津間と上総の放出していた波動が消滅した。

「休憩を入れるのか」

「そうしないと、私も彼女も持たないよ」

そして、京橋が最初にその場に座りこんだ。周りから、再び霧が現れた。

「結果的に、外界から遮断されているこの空間が一番なんだな」

「精神の波動自体は、電磁波と同じように、空気中を通って相手と同調したり攻撃を加えたりするからね。それを考えると、周りにそんな電磁波やそのようなものがないほうが理想的なのは、

当然の事でしょ?」

「…でも、なかなか一緒にいけるようになって来たね。前は、ばらばらでどうしようもなかったのに」

「人はみんな成長をするものだからな。それがない限り、人とは呼べないよ」

そう言うと、3人は寄り集まって、上総が黙って持って来た指導書を読みながら、研究を続けていた。

「でも、これがあってよかったね。なかったら、もっと大変だったよ」

「そうだけどな。でも、結局、共鳴できるかどうかはその人々の、波動の強弱による事が一番だからな。相手のことを理解する前に、認め合い、存在を確かにする。それをしてから、理解をする。この指導書にはそう書かれているんだよな」

「ええ、この世界の中で、唯一そのような人達が輩出する村、そこの指導書が言っているんですから、まず間違いではないでしょうね」

そう言うと、とりあえず、みんな眠ることにした。


3人が眠ってから、霧が徐々に晴れはじめた。そして、向こう側から誰かが訪れた。

「やれやれ、眠っているのか…」

その人は、3人をひもで動けなくしてから、どこかへ運んでいった。


「社長、捕まえてきましたよ」

「そうか、そこに置いておけ」

「はい」

比較的暗い部屋の中で、樫の木の机を使っている社長と呼ばれた男は、3人を目の前にしても葉巻をふかしていた。

「おい、おきろ」

すっと目が覚めたのは、佐津間だった。

「ここは?お前は?なんで俺らは縛られてるんだ?」

「お前らは、こちらの世界征服の作戦を妨げる恐れがあった。だからこそ、お前達を我が社屋へと招待したって言うことだ」

「社屋…つまり、ここはどこかの会社の中…」

「ああ、そうだ。国際企業連合総会長の、ファルミャン・クリスロールだ。名前ぐらいは聞いたことがあるだろ?」

その時、残り二人もおきた。

「う、う〜〜ん…あれ?なんで縛られてるの?」

「3人とも起きたようだな。もう一度いう、お前達は我らからすれば、目の上のたんこぶ。つまり、邪魔者なのだよ。だからこそ、お前達には消えてもらうしかない」

そう言うと、彼は、どこかに連絡を入れると同時に、3人を、床の下にある牢に放り込んだ。

「お前達にはかわいそうだが死んでもらう。我を恨むなよ」

そう言うと、高笑いだけを残して、彼自身の姿は消えた。


「いって〜」

縛られているひもは、自然とほどけたが、ここから出る事はできなさそうだった。

「どうする?殺すって言っているけど…」

「俺達は、普通の人じゃない。そうだろ?」

「そうだったわね」

「ほいじゃ、さっそく…」

俺は、自立型の武器に変化した。

「発射!」

連弾として発射すると、壁はいとも簡単に崩れ去り、外の光景が分かるようになった。

「おい、うそだろ…」

そこは、一面の海だった。後ろ側がどうなっているか分からないが、ここから逃げることは、非常に困難と言うことだけは分かった。

「…どうなってるんだ。ここは」

「ねえ、そう言えば、さっきの人は誰だったの?」

「ああ、佐津間は聞いていなかったな。彼は、ファルミャン・クリスロールって言っていた」

「それって本当?じゃあ、ここのこの状況も納得いくわ」

「どういう事?」

「ファルミャン・クリスロール。彼は、国際企業連合総会長であると同時に、世界唯一の企業国家である、ファルミャン連合の会長でもあるの。つまり、ここは、ファルミャン連合の総本部って言うことよ。場所は、太平洋のど真ん中。周囲100km四方に、人はおろか、島すらないわ」

それを聞いた時、誰かが入ってきた。

「その通りだ」

本人の登場だった。

「よく憶えているのは、尊敬に値する。さて、君達に二つの選択肢を与えよう。このまま、この場所でしぬか、それとも、我らとともに世界を制する勝者の元へと入るか」

「…相談してもいいですか?」

「ああ、いいとも。ゆっくりとしたまえ」

しかし、3人とも、相談する前から生き延びることを前提に考えていたため、相談する必要性はなく、ただ単に、3人とも同一の意見かどうかを確認するだけだった。


5分もしないうちに、返答をした。

「分かりました。あなた達のところに入りましょう」

その時、ファルミャンはにやりと笑った。

「それでは、歓迎しよう。新入武装社員達」


第4章 世界征服


それから、1年あまりが過ぎた。彼らが、ファルミャン連合に入ったことは、既に全ての人々が知っている事だった。十分に体力を養えた企業国家は、行動を開始した。


「我らが、世界を制する時がやってきた。これから、近隣諸国を我らの元へと屈させ、世界を我らの手の上に躍らせる存在にするのだ!」

ファルミャンが言った。それを聞いている人たちの中には、京橋達もいた。

「結局、私達もこの戦いに巻き込まれる事になったんだね」

「しょうがないよ。私達は、3人で一つ。世界で最も強力な兵器になるんだからね」

「訓練とか言って、いろいろな研究を繰り返しさせられた。この戦いが終わったらどうする?」

「村へ帰るわよ。当たり前じゃない。私達がいなかった間に、何か変わったとは思いにくいけど、もしかしたら、新しい人たちが増えているかもしれないからね」


その後、1ヶ月かけて、世界の8割を落とした。それほど素早い攻撃ができたのも、この企業自体の資本力が最も影響しただろうという事だった。世界中に散らばっている、育成者や武器達は、この戦いの最終地点として、出身の村を選んだ。昔からのいさかいなどは、今言ったところで無意味だった。唯一反戦の旗を翻した二つの村は、世界から見ても稀有な存在として伝えられる事になった。


「戦争が始まってから2ヶ月弱の今の時点で、残りは、お前達の出身の村だけになった」

「………」

「どうした?お前達は、あの村に戻る事になるんだ。無論、こちら側の人として、争いに行くんだがな」

2ヶ月間、牢の中で閉じ込められていた3人にとっては、外にいける事は嬉しい事だった。しかし、自らの出身の村を襲撃するために出動を要請されている現状は、到底許されるところではなかった。

「………」

しかし何事もいえないまま、彼らは本社ビルから前線へと送られた。


送られている時に道の両方を見ると、やつれている人々が、企業からの無料配給所に群れを成している光景がいくつも見受けられた。

「私達も、この中に入っていたのかもしれないんだね」

京橋が言った。

「そうだったのかもな。だが今は違う。俺達も捕らわれの身である事は変わりがないが、それでも俺らは一応不自由はない」

さめたように、佐津間が言った。護送車に乗せられている3人は外を見る事がどうにか出来る程度だった。

「やっぱり、この戦争自体がおかしいよ。なんで私達って、こんなことを手伝っているの?」

「死にたくなかったからな。死ぬのがいやだったから、俺達はファルミャンに協力した。それだけだ」

3人は、それっきり黙ってしまった。


現地に到着したのは翌日だった。

「降りろ」

車の扉が開かれると同時に、そう命じられた。3人はとりあえずその地に降り立った。そこは彼らが生まれ育った場所だった。

「こんな形で帰ってくる事になるなんて…」

いつの日にか出会ったあの丘の上に、彼らはいた。

「この村は何も変わっているようには見えないが…」

その時、左右の村から凄まじい量の屋が飛んできた。

「攻撃か…」

佐津間はつぶやくと、京橋と上総の襟首を引っつかんで、一気に飛んだ。そして、二人を左腕だけで捕まえると、右腕を変化させて、ライフルをさっきまでいた所に発射した。瞬間的に全ての矢は蒸発した。さらに、巨大な衝撃波が発生し、丘の一部分をえぐりとった。遠くから見ていたファルミャンは、驚きの表情とともにそれを見ていた。

「あれが、世界最強の3人衆の力…」

「数年前、彼らが村を離れる際、巨大な衝撃波が発生しています。小型の隕石が落下したかのような状態でしたが、真実は、佐津間矩類が発射したあの銃なのかもしれませんね…」

ファルミャンのすぐ後ろにたっていた秘書官が言った。

「彼らは敵の手に落ちてはならない。そんな事があれば、我らの世界征服計画に著しい悪影響が発生する」

「ええ、そうです…」

そうこうしている間にも、戦いは続いていた。


第5章 終結


村は壊滅状態になっていた。先ほどの一撃だけで、衝撃波が村の大半を破壊したのだ。

「やっぱり、強くはなってるが…」

佐津間は、元丘のところに降り立った。そこは、すり鉢状にえぐられていた。周りには、芝生があったのだが、緑どころか、土もどうにかあるような状態だった。

「エネルギー量を全開で発射したからな。異常に強くなったな」

その時、下から誰かが白旗をあげてやってきた。

「武器、佐津間矩類。育成者、京橋除子、上総雪乃。計3名。この村から現れた過去最強の3人組。精神の波動を魔力により補強し、3人だけで、世界を制する力を手に入れたもの達…」

「長老!」

長老と呼ばれたその人は、この二つの村で生き延びた数名の内の一人だった。

「おまえ達は、この村から追放することに決定している。前代未聞の村に対する反逆行為…」

「それは、重々承知しております」

京橋が言った。

「既に遅い。おまえ達は、これからも、その罪を背負いながら生きて行くのだ。我らは、国際企業連合の元で生き延びるしかないだろう。この戦争はこれで幕を閉じる。しかし、おまえ達の人生は、これからが本番だ。行くも地獄、帰るも地獄。おまえ達は、どう行動する?」

長老達は、それだけ言うと、白旗を掲げたまま、ファルミャン軍の方に向かって行った。


その場に取り残された3人は、話し合っていた。

「どうするっていわれても…」

「もうどうしようもないところまで来ているからね…」

「行くも帰るも同じなら、行ってみせましょこの先へ。世界がいかに朽ちようと、俺らだけは生きてやる」

「あんまりおもしろくな〜い」

その時、向こう側から誰かが歩いてきた。

「おめでとう。これで全世界を我が手中に治める事ができた。おまえ達には、褒美をやらねばなるまい」

そう言うと、手を叩いて何かをもってこさせた。それは、紙だった。

「おまえ達を、現時点をもって、軍部大臣に任命する。佐津間矩類を大臣とし、京橋除子、上総雪乃両名を副大臣とする。これは、世界連邦国終身大統領の我の命により、終身大臣とする。拒否は許されないぞ」

「…分かりました。謹んでお受け致します」

そう言うと、秘書官から手渡される委任状によって、彼らは、一生拘束される事になった。


エピローグ


それから、何年もたった。あの村は、そのまま放置され、自然のままにされている。終身軍部大臣となった佐津間は、ファルミャンの気が変わってもその地位にいられるように、終身大統領によって終身大臣又は副大臣職に任命された者は、いかなる事が起ころうとも、その人が死ぬまでその任を果たす必要があると言う内容の法律を作らせた。それによって、3人の地位は永久に安泰とされた。それをもって、ようやく彼らはとある事を起こした。


「長老達、あの村の人たちは、終身刑だって」

「俺達であの村を再興するって言ったら、どうする?」

「もしかして、私達の子孫にそれを頼むって言う事?」

「ああ、生き残っていて、自由の身なのは俺らだけだ。だとすると、俺らがどうにかして村を再興するしかないだろ?運よく、俺らは、終身大臣職に就いている。終身大統領と言えども、俺らを解雇する事はできない。一応法治国家だから、法律に従って行動しなきゃならないからな」

「それを考えて、佐津間君はその法律を作らせたのね」

「もちろん。ただ、あれ以降は、俺ら自身の手によって全ての軍を再編成するって言う大事業を行っているから時間がなかっただけだ」

「結婚に関する規定によれば、一夫多妻制になる場合は、3人までと結婚できるのよね」

「ああ、そうだ。そのうちの2人は既に予約済みだがな」

「ちょっと待ってよ。もしかして、私達と?」

「他に誰がいるんだ。俺らの子供達は、おそらく武器になる能力か育成者になる能力か、そのどちらかを持っているだろうから、村を再興するには最適なんだ」

京橋は、考えてから言った。

「ふ〜、しょうがないわね。でも、私の体もいたわってよ」

「あいよ」

それだけ言うと、結局3人は結婚した。


それから、1000年後。3人の子孫は、軍部大臣直轄部隊として、編成されていた。彼らは、この国の中で最強の部隊と言われるほどになっていた。そして、今日もこの国のどこかで、彼らは働いていた。3人の遺志を受け継いで、世界最強と言われた3人に追いつこうとして。

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