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ネクロマンテック・マザー(前編)
作者:カトラス
本作品をヒッチコックとユルグ・ブットゲライト監督に捧げます。夏ホラー2007参加作品
 ある暑い夏の日、僕は時々見る悪夢にうなされて目を覚ました。
 僕のパジャマは悪夢のせいで掻いてしまった寝汗がぐっしょりと肌にこびりつき不快である。ベッドのシーツも、あまりの恐怖のために失禁してしまったのだろうか濡れていた。
 僕を朝から嫌な気持ちにさせる夢の内容は、数年前におこった夏の日の忌まわしい出来事……
 僕にとっては忘れてしまいたい出来事なのだが、こうして時々、夢に現れては僕を苦しめる。夢の中では、両親が激しく罵り合っていて、僕は両親の喧嘩している部屋のドアの隙間から、こそっと覗き見ていた。父さんが激しく母さんを罵倒していて、どうしてこんな事するんだ! とか子供の教育によくない! と父さんは唾をとばしながら、わめいていた。母さんは黙って聞いていたが、突然、近くにあったスタンドライトで父さんの頭を殴ったのだ。ドスッと鈍い音がして、父さんの頭から血が噴出した。そして、ピクピク痙攣している父さんの首をネクタイで絞めだした。母さんは物凄い形相をして、ベッドのふちに足をかけて思いっきり踏ん張りながら、父さんの首を締め上げる。僕はそんな事をしたら、父さんが死んでしまうからやめてよと思ったが、怖さのあまり声も出ないし、母さんが怖かったので何も出来ず、ただ父さんが口から血の泡を吹いて死んでいくのを見ているのが精一杯だった。父さんの死体の傍らには、僕が最近飼いだした猫が無惨にも腹が裂かれて横たわっていた。
 
 僕は汗で濡れてしまったパジャマを着替えると、仕事に行く支度をした。さっきの悪夢のせいで、僕の心臓は、まだバクバクしている。僕は気分をおちつける為に、アイスコーヒーをグラスに注いだ。コーヒーを飲みながらテレビをつけると、天気予報をしていて予報官のおじさんが今日も暑くなりますので十分な水分補給をして熱中症に注意してくださいといっている。そのあとに週間天気予報で、ここ一週間は夕方にかけて大気の状態が不安定になりやすいので、昼間晴れていても、突然の夕立ちによる落雷や雷雨にお気をつけてくださいとのことである。僕は連日の暑さのためで、多少夏ばて気味なので涼しくなるなら雨ぐらいだったら降ってもかまわないと、その時は思っていた。コーヒーを飲み終わって、気分が少しおちついた僕は、母さんに朝のあいさつをしてから、仕事にいくために、自宅をあとにした。

 僕の名前は根黒ねぐろ 技一ぎいち 独身で、今は母さんと二人暮し、仕事は定職に就かず、近くの工場で今は派遣の仕事をしている。歳はちょうど今年の夏で三十歳になったばかりである。夏生まれの僕だが、僕は夏が大嫌いだった。
 僕が夏が大嫌いな理由は、一緒に住んでいる母さんがひどく暑がりな為である。
 僕と母さんは京都に住んでいるのだが、京都というところは、四方が山に囲まれている盆地に街が建てられているので、熱が山によって外に逃げず、くぼ地に建てられている市街地に熱がこもるので、実に夏場は暑いのだ。暑さが苦手な母さんの為に、我が家では室内の温度は年中15度と決まっている。夏場以外なら、この温度を保つのは、さほど難しいことではないのだが、京都においては夏場に15度を保つのは至難であった。
だから、我が家では母さんのいる居間にはエアコンが三台置かれていて、一日中フル稼働している。全くもってして、電気代がバカにならないのだが、暑いと母さんの機嫌が凄く悪くなるので僕はいたし方なく思ってるわけである。僕は母さんのご機嫌を損ねてしまって、今は冷蔵庫の中でバラバラになって眠ってる父さんのようになりたくないのだった。父さんをバラバラにして、冷蔵庫の中に入れたのは僕なのだが、それには理由があって、父さんを絞殺してしまった母さんは、しばらくの間、死体を処理しないで、死んだ父さんと性行為をしていた。父さんは、さすがに死んでから二日ほどしてから、体が腐り始めてきて、異臭を放つようになっていたが、母さんはおかいまいなしに、父さんの死体と戯れていた。さすがに、これでは近所の住人に異臭で通報されると思った僕は、母さんをなだめて風呂場で父さんの体を切断して、冷蔵庫に入れた次第である。
 父さんがいなくなってからというもの、母さんの欲求は僕にむけられた。僕は週に、三回ほど母さんの夜の相手をしないといけない。最初の頃は、さすがに母さんと性行為を持つことに、僕は抵抗を感じていたが、今ではまんざらでもなかった。まんざらでは無いのは、性行為をしている時は親子関係ではなく、恋人のように母さんと接することが出来る。そして、性行為が終わると母さんは、僕のふだん思ってることや悩み事を聞いて、的確なアドバイスをしてくれる。僕はそんな優しい母さんが大好きだ。

「おい、根黒さん。ボケッとしてるんじゃないぞ! 考えごとしてる暇があったら手を動かせ! 根黒さんのせいでラインが停まるじゃないか!」
 僕は仕事中、母さんの事を考えていたら、工場の正社員に怒鳴られてしまった。僕を怒鳴りつけてるのは、田辺といって、見た感じ二十四、五歳そこそこの若造である。なにかにつけて、僕に因縁をつけてくる嫌なやつだ。特に夏場になってからは工場に冷房が無い為に田辺は暑さのためか、常にイライラしていてなにかにつけて僕にあたりちらす。僕は母さんとの生活費と毎月多額の請求がくる電気代を稼ぐために我慢してるのだが、いい加減、田辺にはこりごりしている。
「なに、反抗的な目をしてるんだ! 嫌ならいつでも辞めろ! 根黒さんの代わりはいくらでもいるんだぞ!」
 そう言って、田辺は僕の頭を軽くこつくと、自分の作業場に戻っていった。
 毎日、毎日繰り返される辛い日々だが、これも、母さんの為だと思って我慢した。しばらくすると、田辺がまたやってきて、今度は残業してくれないかと言ってきたが、今日は母さんと性行為する日だったので、丁重に断ってやった。田辺は舌打つしたが、田辺自身忙しかったのか、文句も言わず戻っていった。そうこうしているうちに、作業終了を意味するチャイムがなって嫌な仕事が終わった。僕は早々に作業着を着替えると、一目散に工場を後にして自宅に戻った。

 自宅に帰ると、すっかり汗と油で汚れてしまった体をシャワーで洗い流すと、母さんのいる居間にいった。
 居間のドアを開けると、物凄い冷気を感じた。とても夏とは思えない環境だった。エアコンの稼動音がブォーンブォーンと部屋中に響きわたっている。
「ただいまぁ、母さん」
「おかえり、技一。今日もお仕事ご苦労様」
 母さんは優しく笑顔で迎えてくれた。そして、僕のおでこに軽くキスをしてくれた。それを、きっかけにいつものように僕と母さんは愛し合った。僕は仕事でのストレスがたまっているのが原因なのか、いつもより激しく母さんと愛し合った。
「いいわ、いいわぁ、技一もっと激しくしてぇ〜」
「はぁ〜はぁ〜、母さん、母さん、僕もう我慢できない」
「いいのよ。技一、母さんにあなたの温かいものちょうだい」
「かぁ、母さん、いくぅ……いっちゃうよ」
 そうして、僕は母さんの中で果てた。
 性行為が終わったあと、僕は母さんに思い切って悩みごとを打ち明けた。
「実はね、母さん悩み事があるんだよ」
「いったい、どうしたの?」
「うん……」
「なんなんだい? 母さんは黙ってる子は嫌いだよ」
「うん……僕、会社でいじめられてるんだよ。それで、もう仕事にいくのが辛くて、辛くて」
 僕は母さんに田辺の事を細かく話した。
「お前みたいな、優しい子をいじめるなんて、ひどい奴だね。母さんがそいつを懲らしめてあげるよ」
「母さん、懲らしめるって? 何するの?」
「全く意気地のない子だね。いいから、今度、適当な理由をつけて、そいつを家につれてきなさい。
そしたら、全てが解決するのよ」
「うん。わかったよ母さん」
 母さんは一体、田辺に何をするのだろうか? ただ分かってるのは、母さんが僕の悩み事を聞いてから、ニタニタ薄ら笑いをうかべている状況から判断して、田辺はただでは済まないことは事実であろう。

 次の日、僕は昼休みに田辺のところへ行って、自宅に来ないかと誘ってみた。普通に誘ったら、絶対に来ない田辺なのだが、彼はサーフィンが趣味なので、自宅にいらないボードがあるのでよかったら貰ってほしいと言って誘い出す事にした。最初、僕がサーフィンのボードを持ってること自体に疑っていた田辺だが、事前に調べていたサーフーボードのメーカー名をだしたところ、目を輝かせて話に喰い付いてきた。
「本当にいいんすか? 買ったら高いんだよね」
「田辺さんが、気にいったら、持って帰ってくださいよ。僕あまりサーフィンいく時間ないですし、田辺さんに使ってもらったほうがボードも喜ぶってものですよ」
「それで、根黒さん。いつボード取りにいっていい?」
「明日の金曜日仕事終わってからってことにしませんか」
 僕は田辺にそう言った。
「俺はボードがいただけるのだったら、いつでもいいっすよ」
「それじゃ、明日ってことで、田辺さんお願いします」
 そうして、僕は田辺をおびきよせる事に成功した。その日は作業が遅れても田辺は文句も言わず、僕の作業を手伝ってくれた。全く人ってのは、げんきんなものだと僕は思った。
 
 僕は帰宅すると早速、母さんに報告した。
「母さん。明日、僕をいじめてる奴つれてくるよ」
「そうかい。それはよかったね」
「でも、僕、あいつに嘘ついちゃった。サーフボードなんか持ってないよ。どうしよう? 母さん」
「気にすることないよ。お前は母さんに紹介するだけで……」
 母さんは、またもニタニタ笑っていた。その後、僕と母さんは、昨日に引き続き激しく愛しあったことは言うまでもない。

 金曜日の朝になった。
 昨日は興奮のあまり、なかなか寝付けなかったが、目覚めは最高である。いつものようにアイスコーヒーを飲みながらテレビの天気予報を見た。予報によると、今日は猛暑日になるとのことだった。このところの京都は真夏日や猛暑日が連日繰り返され、夜になると熱帯夜という地獄のような日々である。いつもの僕なら予報官がいってる暑さを意味する言葉を聞いただけで、うんざりと気分が滅入るのだが、今日の僕の気分は、外の天気のように雲ひとつなく快晴であった。工場にいってからも、仕事は作業に追われることなく順調に進み、気がつくと退社時間になっていた。
 僕は、田辺の車の助手席に乗り込み、自宅までの道案内をしていた。
「はい、次の信号を右に曲がってもらったら、マンションが見えますので」
「はいよ、右折するのね」
 田辺はサーフボードが貰えるとあってご機嫌である。
 車が右折して、しばらく走ると、僕達親子が住んでるマンションが見えた。
「今、見えてるマンションです。それから田辺さん、よかったら晩飯、母さんが用意してくれてますので一緒にどうですか?」
「いいんですかぁ、ちょうど俺、腹へってるんでいただきますよ」
「それは、良かった。母さんもいつも二人で食べてるので喜びますよ。車は来客用の駐車場がありますので、そこに停めてもらえますか」
 僕と田辺は車から降りてマンションのエレベーターに乗った。僕は四階のボタンを押した。エレベーターの扉が閉まり、ゆっくりと上昇していった。エレベーターから僕達は降りると、薄暗い廊下を進んだ。途中まばらにある天井に設置されてる蛍光灯には、光を求めて虫がいっぱい群がっている。
「ここですよ。田辺さん」
「へぇ、結構いいところに住んでるんすね」
「いえいえ、賃貸ですけどね」
 僕はそう言って玄関の扉の鍵をあけた。
「どうぞ、田辺さん、汚いところですけどお入りください」
 とりあえず、僕は母さんの支度が出来てるのか心配だったので、自室に田辺を案内した。
「田辺さん、ここが僕の部屋なんですよ。食事の準備が出来てるか、母さんに聞いてきますので、しばらく、ここで待っていてください」
「あぁ、おかまいなくね」
 田辺はそう言って、僕のベッドの脇に腰かけた。
 僕は母さんの様子を見に居間にいった。ドアを開けるとエアコンの稼動音がブォーンブォーンとしていて、激しい冷気を吹き出している。
「母さん、あいつを連れてきたよ」
「そうかい、そうかい。食事の準備が出来てるので、早くこの部屋につれてきなさい」
 僕は居間のテーブルを見た。テーブルの中央には、メインデッシュであろうか、美味しそうな父さんの生首が置いてあり、頭部が見事にスパッと開かれていて、父さんの脳みそが露出していた。他の料理も、父さんの内臓を料理したものであろう。父さんの長い腸が綺麗に調理されて皿に盛り付けてあった。
「母さん。凄い豪華じゃないか!」
「夏なのでスタミナつけないと思って、腕によりをかけて作ったのだよ」
 僕はあまりの豪華さと、興奮のあまり恥ずかしながら勃起してしまった。僕は勃起してしまった一物を片手で押さえながら、田辺を呼びにいった。
「田辺さん。食事の用意が出来てますので、母さんのいる居間に来てください」
 僕は興奮のあまり、声を裏返しながら田辺に言っていた。
 田辺は腰を上げて立ち上がると、居間に向かって僕のあとをついてきた。
 僕はゆっくりと居間のドアを開ける。中からは、ブォーンとエアコンの音がなっている。
「さぁ〜、田辺さん、遠慮せずに部屋の中へどうぞ」
 僕は押し出すように、田辺の背中を軽くおして、田辺を居間の中に入れた。
 田辺の第一声は寒いだった。
「田辺さん。母さんですよ!」
 僕は椅子に座ってる母さんを田辺に紹介した。
「うわぁぁぁ〜、何だよ、これは……」
 田辺は、何故だか分からないが、母さんを見て絶叫して、腰を抜かし、居間の床が田辺の失禁によって汚れてしまった。
「田辺さん、どうしたのですか? 母さんですよ」
 僕は母さんの座ってる椅子の後ろに回った。
「こんばんわぁ、田辺さん。いつも息子がお世話になってます」
 と言って母さんは田辺にあいさつした。田辺はあわぁあわぁしていたが、ようやく、か細い声で言った。
「母さんって……どう見たって死体じゃないかよ! それにどうして、お前が喋っているんだよ!」
 僕は田辺のいってる意味がよくわからない。母さんが死体だって? 今も元気に生きていて、あいさつしたじゃないかよ! 
「田辺さん、一体どうなされたの?」
 母さんは再び、田辺に語りかけるように聞いた。
「だから、どうして、お前が喋ってるんだよ! お前の母さんはミイラみたいに干からびて……」
 その時、僕の頭の中で母さんの声が響いた。
「こいつを、殺せ、殺せ、殺せ!」
 気づくと僕は、ハンマーを田辺の頭に何度も振り落としていた。母さんの部屋は田辺の血と脳みそが散乱していた。
狂気の世界は後編に続きます。
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