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鬼の遊び 後編
作:秋之


あれほど凝視してしまった存在が、いとも簡単に否定されるだなんて。
吉継のショックは相当なものだった。
けれども、そんな吉継に気付かないのか、それともショックを受けている彼を気遣ってか、伝は努めて明るく振舞う。
「それよりさ、ごはんごはん。俺はさっき食べたからいいけど、君、昨日の昼から食べてないっしょ」
そう言って立ち上がった伝は、そそくさとキッチンに立つ。ぼんやりとその動作を眺めていると、美味そうな香りがしてきた。じゅうじゅうと音を立てているフライパンの中身は、いつ下ごしらえをしたのか、全て切り終わった後の野菜だった。その手際の良さに、目をむいているうちに、それは出来上がっていた。
昨日の昼食にしようとしていた、焼きそば。
「どうだ、美味いだろ!」
「あぁ、人並にな」
「人並みかよっ!」
短く会話しながらも、あっという間に空になった皿と箸を台所に持って行った吉継は、ふと神棚を見上げた。そういえば、今日はさっきまで眠っていたおかげで、神棚の物を変えていない。
食器を水につけてから、踏み台を持ってそれを変えようと手を伸ばす。すると、急に電話が鳴った。
「俺でる!」
電話に出ようとしたのか立ち上がりかけた伝に、自吉継は声をかける。キッチンと居間、玄関に近い位置にある電話には神棚のある部屋の方が近い。
神棚に軽く手を合わせてから、吉継は電話を取った。
「はい、もしもし? 神ですが」
『……』
「もしもし? どちらさまですか?」
『………』
「あの……」
じじじ、という、ノイズになりきれない雑音の沈黙に、吉継は眉を寄せる。無言電話の悪戯にしては、受話器を置く気配がない。それに、吉継自身、受話器を置く気が起きなかった。聞いていたい、そう思う沈黙。

『鬼ノ鬼ごっコ』

沈黙の中に落ちるように声は言った。鬼ごっこって何だ。伸びたテープの中のような奇妙な抑揚の声は、不思議に緩やかに吉継を拘束する。聞き逃すことを許さないように。
『紛れ鶴と目隠し亀ノ隠れンボ。導の灯。僕はココ。ずっとココ。ココはどこ? ココは灯。そこトここの、返り道。気を付けて。牙が爪が。後ロノ正面だぁれ……?』
沈黙。
吉継は口を半開きにしたまま、その声に聞き入っていた。棒読みで、言っている意味が分からない。誰だ、これ。なんだ、これ。そればかりが頭を駆け巡り、視線は一点だけを見つめる。声は、そのまま、歌を歌いだす。
“かごめかごめ”
きっと吉継が受話器を置くか、電話機自体を壊すまで唄は流れ続けるだろう。もしかしたら、ずっとずっと歌い続けているのかもしれない。聞こえなくなっただけで、あの擦り切れてしまった声で、延々。
「……ちょ、大丈夫?」
「!?」
背後から声をかけられ、吉継は息をのんで驚いた。その声が伝だったにも関わらず、必死の形相で彼を見てしまった。さすがの伝もそれには驚いたようで、半歩下がって瞳を見開いている。
「……悪い、ちょっと驚いた」
「そ、そっか。それなら、いい」
少しばかりぎこちない会話をして、居間に戻った吉継だったが、結局電話のことは伝には話せずじまいだった。失念していたが、太陽はまだ高い位置にある。先ほど遅い朝食を取ったばかりなので、まだ午前だ。
それなのに、あの電話口で感じたのは、純粋な寒気だった。朝であることを忘れるほど、不気味で暗い声。機械か何かで変えたと言われればそうとも考えられるが、吉継にはそんなことをされる覚えはない。
「……昼のごはんどうする」
ふと、正午近くに始まる料理番組を眺めていた伝が聞いてきた。吉継ははっと顔を上げて、首を左右に振る。
「さっき焼きそば食ったばっかだし……気分じゃないから」
「そっか」
少しばかり残念そうにする伝に申し訳なく思ったが、本当にものを食べようと思える精神状態ではなかった。あの電話。昨日のこと。兄のこと。
いっそすべてを話してしまえたら。
そう考え、吉継はふと思った。どうして話そうとしないのだろう。自分はどうして伝に相談しようとしていないのだろう。話そうと思うと、なぜか嫌な焦燥を感じる。じりじりとした、不快な感覚が。
と、不意に伝が立ち上がった。
どうしたのかと向いてみると、彼は携帯電話を開いて話し出す。誰への、誰からの電話かは知らないが、ずいぶんと楽しそうに話している。しかし、その言葉が聞こえない。
聞こえないというよりは、自分でそれを理解しようとしていないといった言った方がいいか。完全に、空虚な気分だった。真昼だということなんて関係ない。気分だけが落ち込んでいく。
兄は気をつけろと言っていた。夢の中で、二十歳の年には気をつけろと。しかし、どう気をつけるべきかは教えてくれなかった。どうしてだろう。
「吉継、悪いんだけどさ、俺、ちょっと家に帰っていい?」
「は? 何で……?」
このタイミングでその申し出は吉継の心に刺さった。すっと胸の中が冷えてゆく。それは、怖いという感情なんだろうと思う。
だが、それを表情に出すことのない吉継は、とりあえず理由を聞く。
「なんか、ちょっと人手がいるとか何とかでさ。何するんだか分かんないけど」
思うのだが、伝はあまり自分の家のことを理解していない。それが彼の不勉強さからくるのか、何も教えていない彼の親のせいなのかは分からない。
自分は兄に教えられていたから、分からないことはほとんどない。覚えていないだけで。
でも、考えてみればそうだった。吉継しかいないのだ。“かごめかごめ”の鶴という隠し名をもつ神は、吉継しかいない。失踪した兄が生きているならば、二人だが、それしかいないのだ。彼の家系の人間は、例え入ってきた者であっても短命だ。全員が全員、二十歳周辺で命を失っているらしい。
『亀の呪いは怖いから』
兄はそう言って苦笑した。本当は、はやく結婚しないといけないんだけれどね。
そう言って。そしていなくなった。
「たぶん、五時くらいには戻ってくるから」
「分かった……」
玄関先で軽く手をあげながら、吉継は口まで出かかった できるだけ早く という言葉を言うことができなかった。矛盾している。早く帰ってきてほしいと思うのに、はやく帰ってこられては困るというような感覚。
がちゃん、と無機質に扉が閉まる。その音が意外と大きく、吉継はそれだけで、自分がどこかに閉じ込められたような気がしてならなかった。
けれども、外へでる勇気もない。
電話の声が蘇るのはなぜだろう。どうしようも対処できない恐怖。自分しか抱えることのできない重石。
気がつくと吉継は神棚の下で膝を抱えていた。
二十歳の人間がするには余りにも幼稚な格好のように思うのだが、それでも安息感があった。小さく小さくなっていれば、自分の温もりを感じていられる気がして。
「兄貴……」
心細くて呼んでみても、帰ってくる言葉はない。その代り、瞼が重くなってきた。目が乾いていくような感覚があって、吉継は何度か瞬きをして、完全に目を瞑る。
そして、寝ているようなそうでないような感覚で夢を見た。
それは、兄が安堵した表情を浮かべて、自分に何かを差し出した夢。受け取ったはずなのに、それが何なのかが分からない

『間に合ってよかった』

兄には、そう言った。
『ここがどこだかよく覚えておいて。僕と君が会えるのは、もうここしかない。ここは間。そう、死者を迎える、灯のような場所。記憶は、その灯と同じなんだよ? さぁ、心を強く。………ここで全ての縁を断ち切る方法は、君が死ぬこと。神が途切れれば終わる。けれど……僕は君に生きてほしい』
これは、鶴と亀の命をかけた遊びなのだろうか。命をかけて、だからこそ、一生懸命になれる。ここにいることを、喜べる。
兄は、言った。そう言ってたじゃないか。あの、電話でも。何を怖がっていたのか。そう考えているうちに、兄の姿は無くなっていた。
『死者はどれだけ親しい人物にも、恐怖を与えるものだよ。だって、死そのものなんだから』
プルルルルルルルルルルル ルルルルルルルルル
少しばかりエコーのかかったようなぼんやりとした兄の声。それをかき消したのは、電話の呼び出し音だった。
その音に吉継はびくりと体をはね上げ、四つん這いのまま慌てて受話器をとる。そして寝ぼけた声のままで言った。
「はいもしもし、神ですが?」
『……』
この電話も無言電話だった。けれども、吉次に恐怖はない。先ほどの電話の主が兄だったと気がついたからだ。加えて先ほどまで兄の夢を見ていたために、吉継は肩から力を抜いて苦笑した。
「兄貴?」
そう呟いた瞬間だった。
『ケラケラケラケラケラケラッ!!』
「!?」
それは耳をつんざくような笑いだった。子供の笑い声にしては、愛らしさが足りない。狂気すら感じる声音に。吉継は受話器を投げ出すところだった。しかし、その笑い声に紛れるようにして、見知った声が聞こえてきた。
『よしケラケつケラケラぐくケラケラケラん、しラケラらかわくのケラケラにケラきをつけろケラケラッ………あぁああぁぁぁっケラケラケラッ!!』
「え……?」
偶然紛れ込んだノイズのように、とぎれとぎれの言葉に驚愕すると共に、ゴトンとかドスンとかいう音と共に切れてしまった電話の向こう側に吉継は恐怖した。
あの声は、伝の父親のもの。笑いに呑まれたのは、きっと彼の最後の言葉。自分の影が、赤い橙に染まった壁に黒く落ちる。大きく、長く。その様はさも不気味で、気持ち悪い。
「待ってくれよ……おい、冗談だろ? なぁ」
呟きながら、吉継は受話器をとり落とし、そして止まった。
伝が、昼に向こうに行ったことを思い出し、更に胸の奥が冷えた。間違いなく、伝は訳の分からない惨事に巻き込まれたはずだ。
耳にこびりついて離れないのは、あの笑いなのか、それとも伝の父親の断末魔なのか。
そう思った瞬間、吉継は受話器を本体に置き、必死にボタンを押していた。数字の羅列が表すのは、伝の携帯番号。彼の家の電話はもうだめだ。せめてもの望みをかけて、吉継は呼び出し音を聞き続ける。
すると。
『はい、もしもし〜……あれ、吉継だよね?』
伝はごくごく普通に電話口に出た。安堵と同時に、頭が混乱する。
「あ、さっき、お前の親父さんから電話きたんだけど……」
『えぇ? 電話? 何の?』
「電話…電話がかかってきたんだ、とりあえず」
『うん。電話は分かったって。落ち着きなよ』
「あぁ。そ、そうだな、落ち着く……」
伝えの言葉にほだされ、深呼吸した吉継は大きく息を吐いた。それから、きちんと整理して伝える。
もう頼みの綱は伝しかいない。
「向こうから電話がかかってきたんだ。それでとったら、変な笑い声が聞こえて……」
と、説明しながらも、その笑い声を思い出して、吉継はぞっとする。寒気がして、そして身震いをした。はっきり言って、怖い。
「それから、し……シラカワクノに気をつけろって」
『しらかわ、くの? へぇ』
少し笑みを含んだ声がした。伝はどうやら、吉継がどのような状況に置かれているか、全く理解していないようだ。
それに軽く苛立ちを感じながらも、吉継は伝を頼った。本当に、怖かったからだ。今まで、電話で笑い声をきくようなことは何度かあった。しかし、今回のようなことはない。最後に、見知った人の、生きていた人の断末魔が入るようなことは、なかった。
「そしたら、親父さんが……」
『あの鳥さんがどうしたって? ケラケラケラッ!!』
「え?」
『どうしたって、吉継君! 僕、教えてほしいんだけど? ケラケラケラケラ』
「ちょ、どうしたんだよ、何だよ、それ……伝!!」けら
瞬間、息を飲んだ。
『「後ろの正面だぁれだ?」』
冷たい手が、吉継の首をつかむ。
そして、吉継は……今までにないような悲鳴をあげ、玄関から飛び出した。
「何なんだよ、何なんだよ! どうして……伝が!」
走りながら吉継は混乱していた。携帯を片手に、笑いながら自分の後ろに立っていたのは、確かに伝だった。姿は伝だった。不気味な笑顔で立っていた。後ろに。
どこへ逃げようというのか、吉継はただガムシャラに走っているだけだった。
それでも、その逃げは、鬼の前では全く通用しない。
「どうして逃げるの? お兄さんとは大違いだね」
「……お、お前」
姿形は伝そのものなのに、表情が違う。伝はそんな笑顔にはならない。作り物めいたその顔には、余裕の表情が浮かんでいる。
「僕が白川 クノだよ? 亀で鬼だ。分かる? 大丈夫?」
笑ったままの表情で、それは吉継を追い詰める。
相手は吉継を簡単に思い通りにできる。しかし吉継は、一つだって、逃げる方法すら知らないのだ。
「どいつもこいつも馬鹿だよね。自分の代で終わりにできると思って、何にも教えてないんだから。可哀想な伝くん。何も知らないばっかりに、まんまと僕につかまっちゃって……あ、もう助けられないよ? 食べちゃったから」
くくく、と笑う口元には、人間には必要ないほどに鋭利にとがった牙が見える。そして、吉継は悟った。鬼は喰らった人間に化けることができるのだ。そして、兄は……。
「ねぇねぇ、君は誰に殺されたい? 伝くんでいい? お兄ちゃんの方がいいかなぁ?」
言いながら、次々と姿を変えてゆくそれは、一歩一歩吉継に近付き、その肩に手を置く。
吉継は、動けなかった。
「ねぇ、誰がいい?」
そうさらに近づいた顔が、また違う誰かに変わろうとした時だった。目の端に、灯が映った。それは、迎え火。先祖の霊を迎えるための、導きの炎だった。
それを見た瞬間、吉継は思い切り手をふり払っていた。まるで、刀か何かで薙ぐようにして、思い切り腕をふるう。その振った軌跡で、鬼の姿がぱっくりと斬れた。
幸い、知らない人物の姿だったので、衝撃はなかったが、グロテスクな事に変わりはない。恐怖を感じると共に、とどめを刺さなければと思い、吉継は恐る恐る、うずくまるそれに近づく。
『吉継……』
その声に、動きが止まる。顔を上げたのは、兄だった。苦しそうに表情を歪め、傷に手を当てている。血なんて出ていないけれど、変りに黒い何かが、傷口を染めて、その掌も染めている。そう、壊死した人の肌のような色。
「……嘘だ。兄貴じゃない」
『吉継。……あぁ、でも仕方がないか…忘れてもいいって、言ったもんね』
その言葉に吉継の心が揺らいだ。苦しそうなのに、無理して笑った表情も、忘れていいと言った言葉も。兄、そのもの。
そして、吉継はハッとした。瞬間的に、恐怖ではなく違う感情のせいで体中の血が冷えてゆく。

『死者はどれだけ親しい人物にも、恐怖を与えるものだよ。だって、死そのものなんだから』 『僕と君が会えるのは、もうここしかない。ここは間。そう、死者を迎える、灯のような場所。記憶は、その灯と同じなんだよ?』

自分は目の前の兄に恐怖を感じている。そしてここには、迎え火が灯がある。ここで兄に会えるのは不思議なことではない。
これは、兄。
「そう、おバカさんだね、吉継は」
背後から声がした。後ろの正面から声がした。
「後ろの正面誰っていうのは、今みたいなのを言うんだよ。ほら、僕は君の後ろにいるでしょう? これは……僕が君に勝てるってことさ……ふふふ、あは、ははは、ケラケラケラケラケラ!」
それはとても冷たい感触だった。背後から抱きつかれているとも取れない図だが、手の位置が明らかにおかしい。かは、と乾いた空気と一緒に、生暖かい血が滴る。
だが、本来傷口があるであろう場所から血が溢れることはない。それは、体の内側だけを傷つけているだけのようで、外目には全く分からない。
「本当、馬鹿馬鹿しいお遊びだよ。飽きちゃったし…ここら辺で終わらせたいな、なんて」
その声が余りにも近い。けれども、そんな時に限って、吉継の感覚は奇妙にも冴えわたっていた。それは、相手の為にわざと負けてやったような感覚に似てる。意図して感覚を鈍らせていたような。目隠しを取られたような気分だった。
目の前で、兄が苦笑している。
その唇が『ごめんね、大丈夫だから』と、動いた。はらはらと黒い光を散らして、あの傷口から徐々に消えていっている兄の姿は、それでも兄でしかない。死者への恐怖は、すでになかった。
「終わらせたいなら、終わらせればいいじゃないか」
「?」
「終わらせたいなら、お前がいなくなればいい」
ぎょっとしたような鬼の反応。後ろから回された腕を掴むと、感触だけを残して、その腕は消え去る。先ほど、振り払っただけで兄すら切り裂けたように、。
「……俺は、お前を殺して、それでも、生きてみせる」
振り返った吉継の目の前にいた鬼は、伝の姿をしていた。それに怯むことはない。罪悪感がないわけでもなかたが、体が勝手に、心がそれを思う前に動いたのだ。
そして吉継の拳は、思い切り鬼を薙いだ。




+++++++++++++




夢を見た。またかごめかごめの夢だった。
中心にいるのは吉継で、年甲斐もなくしゃがみこんで一生懸命に目を瞑っている。
くるくると回る足音。歌が終わり、後ろの正面だぁれ? と問われた。けれども、答えたくない。
どうしてそう思うのかと、ふと胸に生まれた不安に、吉継は顔を上げ、後ろを振り向いた。
『……』
振り向いた先にいたのは、真っ白な布を被った兄。よく見ると、自分の周りをまわっていた者全てが布をかぶっている。
そんな中、吉継の後ろに立っていた彼は、優しく微笑んで、そっと胸に手をあてた。
つられて胸に手をあてた吉継は、自分の体に違和感がないことを知った。鬼に穿たれた、二つの傷。あの痛み。そして、兄を傷つけてしまったこと。
『君には、生きていてほしいんだ』
けれども、兄はその全てを背負い、許す笑顔で、すっと輪から退いた。それを追おうと手を伸ばした吉継を阻むように、白い布を被った者が、また手をつないで回りだす。
その輪の中心に立ちながら、吉継は三年前のあの日以来、初めて泣いた。大声で、子供の癇癪のように、泣いた。

兄は、輪廻という輪から抜けた。自分を生かすために、魂すら犠牲にして、何年越し、何百年越し、何千年越しの再会すら、もう出来ない。




+++++++++++




朝、毎日のように目が覚めて、吉継は思う。
自分が一人になった事を思い出す。何も残らない。何も残らなかった。
残ったのは、“かごめかごめ”の歌だけ。
鬼がいなくなった代わりに、兄も、友のいなくなった。それに連なる人間だって、もういない。
だけれど、吉継は生きることをやめない。それが、自分の為に消えた者の、兄の望みだったから。
今でも、思い出せば泣いてしまうような、癒えない傷であるけれど、それでも。
胸に手を当てて、空を見上げれば、そこには太陽があって、アマテラスの光明が見える。太陽は希望。
兄が、昔言っていた。
『僕は、この歌を伝えるためにいるんだ。この歌が、君の希望になるんだから』
かごめかごめ。
吉継は、思う。
この歌は、きっと絶望にとらわれた人間に、希望を与える歌なんだと。


かごめかごめ
絶望にとらわれた人間は、いつになったら出てくるのやら
胸の中の一番真っ暗な場所で、絶望の中から希望を見つけ出せるだろう
背後の光に気付かずに、どうして濃く深い自分の影だけ見るのだろう。
後ろには、希望の光があるというのに。


今、ここにいる事に、吉継は喜ぼうと、自分に語るように胸に手を当て、太陽の光に目を細めた。
いつか、兄のように全てを受け入れて、笑えるように。





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前編後編に分かれていましたが、読んでいただけなたら幸いです。 お疲れ様でした!













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