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第四十九話 ドリントルの内政1

 用意できた部屋にダルメシアが二人を案内した。

 ローラが姉のルーラと同じ部屋を希望したこともあり、二人部屋にすることにした。

 二人の着替えについても、既にダルメシアがメイドに買ってくるように指示をしていた。

 さすが優秀な執事だとカインは微笑んだ。

 一人になった執務室で、カインは決裁が済んでいない書類に目を通していく。

 先ほどルーラの想定外の告白には驚いたが、これからアレク兄様と一緒にドリントルのために、頑張ってもらいたい。但し、ルーラは奴隷扱いとなっており、今後の内政に支障をきたす可能性があった。

 カインは早々に奴隷から解放するつもりでいた。

 奴隷は基本的に首元に奴隷の魔法印が刻まれており、常に見える状態にしておくという義務がある。

 決済を進めていくと、アレク、ダルメシア、ルーラ、ローラの四人が執務室に入ってきた。

 中央のソファーにカインが座り、横にはアレク、その対面にルーラとローラを座るように促す。

 ダルメシアは部屋の隅で紅茶の準備をしている。


「アレク兄様、二人をこの屋敷に住まわせる事にしました。姉のルーラはアレク兄様の助手として内政官をしてもらいます。妹のローラはこの屋敷のメイドとして、ダルメシアに任せたいと思っています」


「ルーラです。アレク様、よろしくお願いいたします」

「ローラです。よろしくお願いいたします」


 二人は一度立ち上がり頭を下げてアレクに挨拶をする。


「アレク・フォン・シルフォードだ、カインの兄ではあるが、次男なのでそこまで気にしなくていい。二人ともよろしく頼む」


 挨拶が終わったところで、ダルメシアが順番に紅茶を淹れたカップを置いていく。


「まずは二人を奴隷から解放しようと思います。ルーラはアレク兄様の手伝いがありますので、奴隷の身分だと問題が出ると思いますので、奴隷から解放してシルフォード家に雇われているという形にします。ルーラは建築の知識がありますから、きっとアレク兄様の助けになると思います」


 アレクはカインの言葉に頷いた。

 そして、カインはルーラとローラが座っているソファーの後ろに立つ。


「そのまま少しじっとしていてくれるかな」


 カインはそういうと、ルーラの首に手を当てた。


奴隷解放(リリース)


 カインが唱えると、ルーラの首にあった奴隷紋が、何もなかったように消えた。


「えっ!」


 奴隷紋の施術に関しては、奴隷商の専売特許である。奴隷商に登録している商会だけの秘匿魔法となっており、いきなりカインが奴隷解放の魔法を使用したことに、アレクが驚くのも無理はなかった。


「思った通りだ。次はローラを解放するよ」


 同じ手順でローラも奴隷から解放した。カインは試したことはなかったが、解呪と同じ原理だとわかっていた。

 二人はお互いの首の奴隷紋が消えたことで、涙を流して抱き合い喜んでいた。数年間に及ぶ奴隷生活を送っていたのだ、やはり大変だったのだろう。しかも出合った時は四肢が欠損している状態で半ば諦めた表情をしていた。

 二人が立ち上がり、カインに頭を下げる。


「カイン様、奴隷から解放していただき、ありがとうございます。今後も姉妹でカイン様に尽くさせていただきます」

「カイン様、私も仕事頑張ります。ありがとうございます」


 二人の言葉にカインは頷く。


「まったく、マグナ宰相が言っていた『規格外』というのが良くわかったよ」


 アレクはため息をつき、紅茶に口をつける。

 そして後ろには、少しだけ笑みをこぼしたダルメシアが二人を見つめながら控えていた。



 

 カイン達は馬車に乗り街中をゆっくりと走り抜けていく。ダルメシアが御者を行い、馬車の中にはカイン、アレク、ルーラの三人が乗っている。

 ローラはメイド見習いとして、屋敷のメイド達に預けてきた。

 ドリントルの街の人口は三千人しかいない。しかも領民は千人程度だ。残りは冒険者となっており、別名『冒険者の街』とも言われるくらいに冒険者が多い。

 魔物がいる森やダンジョンの方角である西門付近は冒険者向けの宿屋や武器屋、道具屋などが多い。もちろん酒場や娼館もこの地区に集まっている。

 その中を西門に向けて馬車は進んでいく。


「本当に冒険者用に作られた街という感じですね」


 ルーラは馬車の窓から外を眺めながら呟く。


「うん。その通りだね。ただ、西門から南側の裏通りに行くとスラムがあるんだ。ケガを負って冒険者を引退した人や、孤児などが集まっている。闇ギルドもあったけど、それはもう潰したから大人しくなっていると思う。この地区をなんとかしたいと考えている」


 カインは外を眺めながらルーラに告げた。

 馬車は西門付近につき、外壁越しを南に向けて進み始める。

 大通りとはまったく違い、ボロボロの建物が立ち並び、浮浪者とも思える片足しかない人や、孤児たちが集まっている。


「……ほんとにスラムなんですね」


 ルーラは悲しい顔をしながら返事をする。

 スラムを貴族の馬車が進むことは珍しい。孤児たちは豪華な馬車を眺めて話し合っている。その中を馬車は南門へ向けて進んでいく。

 南門をそのまま通過し、東門へ向けて馬車はさらに進んでいく。東門から南門は鍛冶屋やこの街の領民が住むところになっており、ある程度区画され通りも綺麗になっている。ただ、外壁に囲まれた中ということもあり狭苦しい感じがする。


「カインと僕は、外壁を広げてもう少し街を広くしようと考えている。そして領民が住むところを広げたい。同時に学園や孤児院を建てたいと考えている。孤児を教育することによって、色々な将来性を教えてあげたいんだ」


 アレクの言葉にカインは同調する。三人は馬車の外を眺めながら街を一周し、領主邸に戻ってきた。

 執務室では今後のドリントルについて考えをまとめていく。


「やはり、今のままではどうにもなりませんね。建物を建てるスペースすらありません。スラムを潰してしまっては、スラムの住民達が溢れてしまいますし。やはり外壁の拡張が一番先だと思います。そこに、住居や孤児院、学園を建てることによって、スラムの人たちに転居してもらってから、スラムを整地していけばいいと思います」


 ルーラの率直な意見にカインとアレクは頷く。


「よし、明日まず外壁を拡張してみよう」


 カインの一言に、二人は驚く。外壁の拡張はそんな簡単なことではないからだ。モノを作るには金と人と材料が必要だ。

 それをカインは何事もないように言う。


「そんなに簡単なことでは……」


 ルーラが呟くが、アレクが手で制す。


「カインのことだから、何かあるんだろうよ、きっと……。明日を楽しみにしよう」


 アレクが笑顔をルーラに向ける。ルーラも理解し頷く。


「ルーラはこれから建てる建物の設計をお願いできるかな。簡単な道具なら創れると思うから。スペースを作っても何も建てないのでは仕方ないから」


「わかりました。では、書くものと紙が欲しいです。あとは定規になるようなものがあれば……」


「うん、すぐに作っておくよ」


「定規?」


 アレクは聞きなれない言葉に首をかしげるが、説明できないことなのでカインは流して話しを進める。

 前世でも技術の授業があり、簡単な製図は行ったことがあったのでイメージはつく。さすがにパソコンとCADソフトが欲しいと言われたら困ったが手書きを行う道具程度なら問題なく創り出せる。

 昼食を取りながら内政についての話をさらに進めていった。もちろん製図に必要な道具を創造制作(クリエイティブメイク)で創り出してルーラに渡してある。道具一式を渡した時のルーラは「随分基礎の道具ですね」と言って苦笑いをしていたが、前世では高校生までの経験しかないこともあり仕方のないことだった。

 ルーラが作業をする部屋を一つ与え、そこにはドラフターを設置した。図面を書くための台みたいなものだ。ルーラは目を輝かせ道具一式を持ち部屋に篭ってしまった。

 カインとアレクは苦笑いし執務室に戻る。すでに造りたいものはルーラに伝えてある。後は出来上がった図面を見せてもらえばいいだろう。


「少しずつだけど進みそうですね」


 カインの言葉にアレクは頷いた。



 次の日の朝、既に前日に外壁周りには近づかないように領民には伝達してある。領主からの言葉に領民たちは首を傾げながらも頷いていた。

 カイン達が乗る馬車は、西門から出たところで止めた。門から森に向かって数キロの道が続いている。整地したわけではないが、冒険者達の大半が、森で狩りを行って生計を立てていることもあり、魔物の素材を運ぶために馬車で行き来するうちに自然と整地されていったそうだ。


「この辺でいいかな」


 カイン達は門から二キロほど森に向かった場所にいる。


「ここら辺に外壁が出来れば、十分なスペースができますね」


 ルーラが同調する。


「危ないから少し下がっていてくれるかな」


 カインの言葉に、アレクとルーラがカインから離れて馬車の近くに寄っていった。

 カインは二人が離れたことを確認してから、地に両手を付き魔力を流し始める。そして頭の中でイメージしていく。


「魔物の氾濫が昔はあったと聞いたから、ある程度の高さがあったほうがいいよな。そして外側には堀。水を流しておけば問題ないだろう」


創造魔法(クリエイティブ):天地創造』


 カインが魔法を唱えると、土が動き始め次第に盛り上がっていく。長さは数百メートルに渡り、次第に城壁のような形を作り上げていく。しかも十メートルほどの高さまで上がった。


創造魔法(クリエイティブ):硬化維持』 


 土で出来た城壁が次第と硬化していき、石で出来たような壁に仕上がった。

 カインは出来栄えに満足して、汗を拭い振り返る。


「こんな感じでどうかな?」


 振り返ると、アレクとルーラは口をポカンと開け固まっていた。


「……さすがにここまでとは……」

「……チートですね」


 カインの規格外の魔法に、さすがに二人とも呆れていた。馬の世話をしているダルメシアだけは笑顔のままだ。

 そのあとは新しく出来た城壁越しに馬車で移動し、ひたすら同じ魔法を繰り返し城壁を造り続けた。

 夕方になる頃にはドリントルの街を一周囲うことが出来た。ドリントルは高さ十メートルの城壁で囲んだ城砦となっていた。

 普通の魔法使いでは出来ることではない。カインもファビニールで修行する前なら、魔力切れになり倒れていることだろう。ただ、カインは既に亜神だ。人間の域を超えているからこそ出来る所業だった。

 城壁を造ったことにより出来た外側の深さ五メートルの堀には、カインはさらに大量の水を魔法で創り流し込んだ。そして最後に橋を造った。


「これで一先ず大丈夫かな」


 カインは満足した顔をしていたが、一日カインの魔法を見ていたアレクとルーラは、既に諦めており何も言うことはなかった。

 そして馬車に乗り領主邸に戻っていった。


 

 王都や他の街から行商にきた商人たちは、新しく出来上がった城壁に腰を抜かして驚いていた。


 「一夜城だ」


 城壁を見た商人たちは口々にそう言った。

 もちろん、ドリントルは王都から馬車で二日の距離である。王城まで噂が届くのにはそう時間がかかるものではなかった。



いつもお読みいただきありがとうございます。

投稿初期の頃を見直ししているのですが、まったくもって恥ずかしい限りです。

執筆投稿&見直しは結構大変ですね。三人称で書いているつもりが、いつの間にか一人称が入っていたりと、まだ安定しておりませんが、時間があるときに他作を読ませていただき勉強しております。

いつになったら上手に書けるのでしょうかね(^_^;)


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― 新着の感想 ―
ついつい時間を過ぎるのも忘れて読み込んでしまう
[気になる点] 世界辞典があるんだから製図の道具も作れるでしょ?せっかくの世界辞典なのに全く使わないよね。あんなに便利なスキルなのに。 土魔法じゃなくてなんで創造魔法を使ったんだろう? この場合の創造…
[一言] 読み返すといつも思ってしまう ルーラがルーラー(定規)を欲しがった
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