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チートあるけどまったり暮らしたい のんびり魔道具つくってたいのに 作者:なんじゃもんじゃ

4章

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131 進撃のペロン3

 

 勇者を捕獲した夜。僕たちはまた夢を見た。でもこの夢はあのエンジェルの夢とは違っていた。
 聖オリオン教国の勇者が聖剣を破壊され倒されると言う夢だ。僕たちが見ていた光景が再現されている。
 最初はあの光景が強烈だったので夢に見たのかと思っていたけど、そうじゃなかった。皆が同じようにあの光景を夢として見たのだ。
 これもクリストフ君の嫌がらせの一つなんだろう。オリオン信者が不信感をドンドン募らせるのが分かるほどに聖オリオン教国の防衛戦力はガタガタになって行った。

 程なくして僕たちは聖オリオン教国の教都であるクリセント・アジバスダを望む場所まで進軍していた。
 教都の南にはキルパス川があり、そのキルパス川にはブリュトゼルス辺境伯が率いるキルパス川方面軍が教都を伺うように布陣している。
 さらに僕らの居る北西側とは反対の北東側にはベルム方面軍も布陣しており、僕たちは3方向から完全に教都を包囲している。その数は100万人を超える。

 方面軍の到着は僕たちが一番遅かったけどブリュトゼルス辺境伯とクジョウ侯爵は教都を半包囲するにとどめ、僕たちのオリオン北部方面軍を待っていたようだ。
 距離的にはベルム公国から進軍したベルム方面軍が最も短いが、一番最初に教都に到着したのはブリュトゼルス辺境伯のキルパス川方面軍だった。船の移動速度は馬鹿にならないと言うかクリストフ君のマジックアイテムで風を操っていたので船は常に風下へ移動するように風が吹いていたはずで最大船速で移動出来たと思う。
 そして僕たちが教都近郊に布陣して4日後にクリストフ君も到着した。

「ペロン、ゲール、エグナシオ、皆、ご苦労だった」

 クリストフ君は僕たちを労うと捕獲したエルフの勇者と面談した。

「貴方の名を聞かせて貰えるかな?」

 勇者は答えない。僕たちもいままで何度か尋問したけど彼は口を開こうとしなかった。尋問自体はそれほど厳しい物ではなかったけど彼が口を開くことはなかった。

「その首輪……奴隷か」

 確かに勇者の首には金と銀の細かな彫刻が施されているチョーカーが嵌められていたけど、それが奴隷の首輪だなんて気付かなかった……。
 流石と言うべきか、やっぱりクリストフ君なんだな、と思ってしまう。
 クリストフ君は縄を打たれ跪かされている勇者に近寄る。フィーリアが止めるがそれを「大丈夫」と言い勇者の首に手を延ばすと、僅かに手が光り輝く。
 次の瞬間、勇者の首から奴隷の首輪がほろりと落ちる。

「ペロン、縄を解いてやってくれ」
「し、しかしそれは……」
「構わないよ。仮に彼が私を襲おうともフィーリアが居るしね」

 クリストフ君は勇者よりフィーリアの方が強いと言っているのだろう。
 確かにフィーリアの強さは僕やカルラでさえ軽くあしらうほどだけど、それでも相手は勇者なのだから……と言ってもクリストフ君は聞かないか。溜息が出る。
 僕は仕方なく勇者の縄を解くように指示をする。この縄は魔力を吸収し強化されると言うクリストフ君お手製の拘束具なので勇者の力をもってしても引き千切られることはなかった。その縄を解いたら勇者は自由の身になってしまう……。
 パサリと縄が解ける。これで彼は自由の身になった。

「……」

 勇者は本当に自由になったのか確認するように体を少し動かす。

「逃げるのは無理だから無駄なことは考えないように」

 クリストフ君が勇者に言うと彼は肩をピクリとさせる。どうやら逃げようと考えていたようだ。

「さて、改めて自己紹介をするよ。私は神聖バンダム王国の貴族でクリストフ・フォン・ブリュトイース公爵です。オリオン北部方面軍の司令官を拝命しています。貴方の名前を聞かせてくれるかい?」
「ビザズドル・ムスクルス」
「ではムスクルス殿、お互いの自己紹介も終わったところで本題に入ろうと思いますが、私に仕える気はありませんか? 聖オリオン教国に忠誠を誓っているわけではないのでしょ?」

 勇者はクリストフ君を睨みつけると、口を開く。

「あのような国に忠誠など誓うわけがなかろう」
「では私に仕えて貰えますか?」

 勇者の無礼な言葉使いを気にすることなくクリストフ君は続ける。寧ろフィーリアが今にも勇者に飛び掛かりそうな雰囲気を醸し出している。

「……それはできない」
「何故ですか?」
「……」
「力になれるかもしれませんよ。……そうだ、貴方に会わせたい方が居ります。……中に」

 クリストフ君は諭すように勇者に語り掛け、誰かを会わせようと部屋の中に入るように指示をする。
 扉が開き女性が部屋の中に入って来る。確か彼女はカルラの部下で魔法師団員の……そうだ、ミバネと言うエルフだ。
 同じエルフ族だから彼女にムスクルス殿の説得をさせるのだろうか? それとも彼女とムスクルス殿の間に何か関係があるのだろうか?
 エルフ族は総じて美形が多いけど彼女も非常に美形だから色仕掛け……なわけないか。

「っ!」

 ムスクルス殿が目を大きく開き驚く。どうしたんだろう、先ほどまで堂々としていた雰囲気だったのが落ち着かない感じになっている。
 ミバネがツカツカと進み出てムスクルス殿の前で膝を付くと次の瞬間、パシンと乾いた音が響く。彼女がムスクルス殿を平手打ちにしたのだ。
 それを見ていた僕たちは一瞬呆けてしまったけど、クリストフ君とフィーリアだけは変わりないようだ。

「この大馬鹿者がっ!」

 ミバネが怒りと言うよりは慈しみを持った声でムスクルス殿を叱責する。そしてムスクルス殿を抱きしめた。

「……は、母上」
『えっ!?』

 僕だけじゃなく、その場にいた多くの人が声を出して驚いた。クリストフ君は悪戯(いたずら)が成功したと言う感じで皆の反応を楽しんでいる。ちょっと腹が立つ。フィーリアは……まぁ、いつも通りだね。

「取り敢えず感動の対面なので2人きりにさせてあげよう」

 クリストフ君はそう言うと僕を含め全員を部屋の外に追い出す。確かに母子(ははこ)の感動の再開シーンなので2人きりにしてあげたいけど、相手は縄を解かれた勇者だから!

 クリストフ君に説明を求める。
 何故勇者であるビザズドル殿の母親がここにいるのだろうか、と思いクリストフ君を問い質す。
 数年前、クリストフ君が伯爵となってイーストウッドを築く直前の時期に現地視察を兼ねてブリュトイース地域や周辺を見て回っていた時に偶々大森林の中で魔物に襲われていたミバネたちを見つけ助け保護したと言う。
 その後はイーストウッドの最初の住人として、そして今ではブリュトイース公爵家の魔術師団員としてクリストフ君に仕えるようになったと言う。
 端折りすぎな説明を有難う御座います!

 ミバネがビザズドル殿の母親ってことは少なくても僕よりは年上だよね……やっぱりエルフの年齢は見た目ではわからないや。これからはミバネさんと呼ぼう。
 小一時間経った頃、ミバネさんはビザズドル殿を伴いクリストフ君の前で共に膝をついている。

「我が子、ビザズドルの不始末は全て母である私の罪で御座います。どうか私を罰しビザズドルにはご慈悲を……」

 ミバネさんが涙ながらにクリストフ君に許しを請う。
 確かにビザズドル殿は僕の部下だった兵たちを何人も殺し、多くの兵に怪我を負わせたけどクリストフ君は最初からビザズドル殿を罪に問うてはいない。
 それでも許しを請うのは事実を受け止め、その事実の重さ故なんだろう。

「ビザズドル殿は今後どうしたいと思っておいでか?」

 クリストフ君は彼の罪を問う気はないし、奴隷とされていたことから罪に問うのは酷だとも思っているようで、彼の今後の話を聞く。

「許されるのであれば、ブリュトイース公爵閣下の下で働かせて頂きたく存じます」

 俯きながら語るビザズドル殿。
 しかしクリストフ君はそんな彼に不満のようで、あからさまに表情を曇らせた。

「復讐心に囚われているようですね」
「……ブリュトイース公爵閣下のお陰を持ちまして母上と僅かな一族の者は助かりましたが、教国に父上を始め多くの一族を殺されました」
「だから教国に復讐をすると?」
「はい!」

 後日、しっかり聞いたのだけど勇者であるビザズドル殿はエルフ族の族長の息子だったが、勇者である彼を見つけ出した聖オリオン教国は彼の住む村を大軍で包囲した。
 そして彼が投降し奴隷となれば村には手出しをしないと言うことからその約束を信じ投降したのだが、エルフ族を亜人とか下級種族などと蔑む聖オリオン教国がその亜人との約束を守るわけもなく、投降した彼を奴隷とした翌日に村を攻撃した。
 彼は既に村から遠く離れた土地に連れていかれる途中だったので村が襲撃されたとは知らず今まで一族を守る為に唯唯諾諾として聖オリオン教国に従っていたそうだ。
 そして村が包囲されている頃のミバネさんは他のエルフの部族との交易の為に30人ほどの一族と村を離れていたので助かったが、聖オリオン教国の手は彼女たちにも及び仕方がなく大森林に逃げ込んだそうだ。
 大森林には聖オリオン教国も追手を差し向けなかったが、大森林は高ランクの魔物が闊歩する土地なので彼女たちは直ぐに疲弊し死を覚悟した。
 その時にクリストフ君によって助けられたと言う。だからではないけどビザズドル殿が聖オリオン教国に復讐を誓うのを誰も咎めることはできないと思う……クリストフ君は除いて。

「復讐心は力となります。しかし復讐に身を焦がす者は鬼となりましょう。そんな者を部下にするわけには行きません」
「なっ、ではどうすれば!」
「控えなさい!」

 声を荒げるビザズドル殿を一喝するミバネさん。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ブリュトゼルス辺境伯とクジョウ侯爵との会談の場に移動したクリストフ君に従い僕も移動をする。
 父であるブリュトゼルス辺境伯、祖父であるクジョウ侯爵、2人ともクリストフ君にとては肉親であり、そして神聖バンダム王国の南部総督と東部総督と言う重職に就かれている国の重鎮でもある。
 僕は義勇軍司令官の役職はそのままで再び幕僚総長に任命されたので、こ会談の場にも同席する。

「お久しぶりです。お2人はお代わりありませんか?」
「息子が優秀でな、おかげで思いのほか楽ができた」
「うむ、婿殿の言うように私も孫が優秀で最大の危機を救ってくれたぞ」

 軽口が言えるほどに今の状況は良い。
 教都を100万以上の兵で包囲しているのだから当然と言えば当然だ。

「しかしあのエンジェルには恐れ入った。エンジェルのお陰で我らは命を救われ、しかもこの教都までの道が開けたのだ」
「うむ、我らも風向の鈴によって常に追い風となり常に最大船速で進めたのだからな」
「それは良かった」

 クリストフ君は飄々とお2人の話を受け流す。

「さて、本題に入ろうか」

 近況報告を踏まえての家族の雑談をブリュトゼルス辺境伯が終了させ真剣な眼差しを2人に向ける。

「明朝、夜明けとともに我が艦隊が砲撃を開始する――――」

 ブリュトゼルス辺境伯が進行役をし大まかな打ち合わせが行われた。
 教都の中の民間人の多くは周辺の土地に避難をしているようで残っている民間人は熱狂的なオリオン教徒ばかりだとプリッツから報告を受けている。
 あとは……奴隷が30万人も確認されている。また肉壁にする気なのだろうか?

「砲撃は城壁を破壊したら中止する。その後は上陸部隊が突入する」
「了解だ。ブリュトイース公は問題ないかな?」
「ええ、問題ありません。ただ……」
「「ただ?」」

 クリストフ君は難しい顔をし、2人の重鎮に視線を投げる。

「何か企んでいる様に思えるのです」
「企むか……。予想はつかないのか?」
「残念ながら……しかし何かが起きると私の勘が訴えているのです」
「ブリュトゼルス辺境伯、ブリュトイース公でも分からぬことはあるだろう。何が起きても対応できるように警戒は怠らないようにするしかないだろう」
「そうですな。さて、重要な話は終わったことですから昼食を一緒にいかがですかな?」

 ブリュトゼルス辺境伯がクリストフ君とクジョウ侯爵を昼食に誘い、2人はそれを受ける。久しぶりの祖父、親、孫の3人が水入らずの食事だ。ユックリ楽しんでほしい。

 
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