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チートあるけどまったり暮らしたい のんびり魔道具つくってたいのに 作者:なんじゃもんじゃ

4章

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128 魂を弄ぶ復讐者2

 
「ブリュトイース公爵に援軍の依頼を!」
「本気ですか!?」
「ああ、本気だ。ゾンビは夜に蠢き我らを攻撃し朝になる前に近くの森の中に隠れ、そして夜が明ければ狂信者どもが攻めて来る。我らは昼夜を問わず攻められ疲弊するだけだ」

 クジョウ侯爵の言う通り夜はゾンビ、昼は聖オリオン教国軍に攻められ既に3日が過ぎた。昼間に攻めて来た聖オリオン教国兵が死ぬと夜にはゾンビとなって動き出すと言う悪循環が神聖バンダム王国と協力をしている国々の兵を精神的に追い詰める。
 この状況下では長期間にわたり戦線を維持することができないのは自明の理だ。だからと言って打って出るのは危険だ、とクジョウ侯爵だけではなく主だった首脳陣は人をゾンビに変えるような聖オリオン教国と言う狂信者の集まりを恐れているのだ。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 人間がゾンビとなって襲ってくる。
 この報はブリュトゼルス辺境伯が指揮するキルパス川方面軍、そしてクリストフが指揮するオリオン北部方面軍に齎された。それと同時にクジョウ侯爵の名でクリストフに援軍の要請があった。
 この要請を受けクリストフはすぐにベルム方面軍に援軍を差し向ける。

 ベルム方面軍とオリオン北部方面軍との距離は騎馬を潰す気で走る速度を維持して一日中走っても8日は掛かってしまう。しかも2つの方面軍の間には神聖バンダム王国の勢力下ではない、つまり敵である聖オリオン教国の支配下にある土地であることを考えれば実質的に援軍がベルム方面軍と合流するのは1ヶ月以上どころか2ヶ月掛かっても合流できるか分からないのが実情だ。

 クリストフの指揮下にあり武力もそうだが、何より移動速度が速い部隊はジャバンが指揮する竜騎士隊である。
 竜騎士隊であれば空を飛び、どんな騎馬よりも早くベルム方面軍に合流ができる。邪魔をするのは飛行可能な魔物程度だが、その魔物もクリストフの加護を受けた竜騎士隊に近付くことはまず無いだろう。

「ジャバン、頼んだぞ!」
「は、この命に代えて!」

 クリストフは命に代えなくて良いのでベルム方面軍を救い、ジャバンたち竜騎士隊も無事に帰ってきて欲しいと思うが、口には出せない。その言葉を口に出せばジャバンたちを侮辱したも同然なのを分かっているからだ。

 ジャバンたち竜騎士隊を見送るとクリストフは何かを決意したような神妙な顔になり、後方に控える多くの部下たちの中でクリストフの護衛であるフィーリア以外で最もクリストフに近い場所に居る親友に強い口調で公言する。

「ペロン、侵攻速度を上げる。これからは一切容赦しない」
「……了解しました。そのように各部には通達致します」

 人前なのでペロンは改まった喋り方をする。
 その場にはカルラ、クララ、プリッツだけではなくフェデラーやウィックなどのブリュトイース公爵家の直臣、そして白色軍を預かるキクカワ中将の姿もあった。

 翌日、クリストフの号令の下にオリオン北部方面軍の進軍が開始される。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 神聖バンダム王国ベルム方面軍に対する聖オリオン教国軍はゾンビを創り出しベルム方面軍を追い詰めていた。
 4日目の夜には正門が破られゾンビが街中に雪崩れ込んで来たのを始め、朝には聖オリオン教国軍が街中に陣取る。
 街は4つの区画に分けられていた為に他の3つの区画は何とか死守したベルム方面軍だったが、それもいつまで持つか分からないのが実情だ。
 既にヒの国やゲンバルス半島の諸国はこの状況に浮足立っており、クジョウ侯爵やアカツキ子爵は内部分裂を起こさないように調整に苦慮していた。

「正門が破られたのは痛かったな……ヒの国は兎も角、ゲンバルス半島の諸将はかなり浮足立っている」
「確かに状況は悪いですな」
「貴殿は相変わらずだな。もう少し慌ててはどうだ?」
「慌てて何とかなるのでしたら喜んで慌てますが?」
「ふ、確かにな……ブリュトイース公の援軍はどうなっているのか?」
「直ぐに送ると返答を頂きましたが、聖オリオン教国の東と西、真逆の場所に居りますれば簡単ではないでしょう」
「それでも何とかするのが我が孫だ」
「……そうですな、援軍が来るまで何としても持ちこたえましょう」

 軽口を言えるほど状況は良くないが、ここで悲観して騒いでも仕方がないとクジョウ侯爵は落ち着き、アカツキ子爵も同様に冷静に対応をする。

 5日目の夜明け前、何とか守り切ったと神聖バンダム王国兵が安堵した頃にそれは起きた。
 守り切ったと思っていた隙を突いてゾンビが第3区画の門を破って侵入してきたのだ。

「やられたな」
「悠長に構えて居られませんぞ! 第2区画を防衛せねば第2と第1区画もすぐにゾンビで埋め尽くされてしまいます!」
「ああ、分かっておる。内部区画の防御はそれほど高くはないからな」

 クジョウ侯爵の片腕であるアカツキ子爵が前線で防衛網の立て直しをしているので、今のクジョウ侯爵にはバロー男爵が補佐に就いている。
 アカツキ子爵が冷静な男だった為に忘れていたが、普通はバロー男爵のように顔を青くし騒々しくするのが普通なのだと、改めて気付いたクジョウ侯爵だった。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「そろそろゾンビどもを後退させねば陽の光に当たり消滅してしまいますぞ」
「構わん、ゾンビなら幾らでも作れるのだ。神聖バンダム王国の兵どもを殺して殺して殺しまくって消滅させれば良い。次の夜には神聖バンダム王国の兵がゾンビとなって味方だった者たちを襲うだろう」

 副官として付けられた壮年の男の言葉を無視してゾンビを使い潰すブレナン将軍。
 そんな将軍に対し狂気を見る副官や首脳陣。

「死者を弄ぶような行為を神は御赦しになるだろうか……」

 神国である聖オリオン教国に侵攻してきた邪悪な存在に対しての防衛策とは言え、死者を冒涜するような将軍の行動は赦されるのだろうか、と考えている副官の呟きは多くの聖オリオン教国兵の心の声でもあった。

 その時、ブレナン将軍始め首脳陣が見つめる街に大きな光の渦が発生した。
 まだ朝日が出るには早い時間帯なので光の渦が何なのか首脳陣には分からなかったが、そんな首脳陣を横目にブレナン将軍だけはその光の意味をある程度理解していた。

「く、まだ足りないのに!」

 ブレナン将軍が呻くように言葉を発する。

「将軍、あの光を御存じなのですか?」
「……」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ブリュトイース公爵家の竜騎士隊が昼夜を徹して飛んで現地に到着したのは夜明け前の頃だった。
 ワイバーンの上から見る地上は悲惨な状態だった。多くのゾンビによって汚染された大地、そして街中に入り込んだゾンビ。

 ゾンビの攻撃を防ぐ神聖バンダム王国軍の姿を見つけた。必死にゾンビを押し返そうとしている。

「押し返せぇぇぇっ!」
「ここで逃げても死ぬだけだ!」

 必死に兵を鼓舞し指揮する者たちの声が響き渡りジャバンたちの耳にも届く。多くの兵に聞こえるように必死に声を出しているのが分かる。

「ゾンビを蹴散らす! 突撃!」

 ジャバンが竜騎士隊に突撃の合図を送ると、急降下を開始する。
 急降下の勢いのままゾンビに鎌鼬のブレスを吐く。ゾンビは胴体が2つに切り裂かれて動かなくなるが、その光景を見ていた神聖バンダム王国兵もその場で立ちすくむ。

「わ、ワイバーンだっ!」
「た、助けてくれ~」

 ワイバーンはランクBに指定されるほどの魔物でゾンビよりもよほど恐怖の対象だ。そんな魔物が現れれば混乱するなと言うのは無理な話だ。
 しかし現れたワイバーンが狙うのはゾンビばかりでよく見るとワイバーンの上に誰かが乗っているのが見えた。

「これは……援軍なのか?」

 アカツキ子爵が素早く状況を把握する。

「逃げるな! ワイバーンは援軍だ!」

 アカツキ子爵の判断によって崩壊寸前だった前線が立て直される。
 ジャバンの竜騎士隊は第2区画に入り込んだゾンビと入り込もうとするゾンビをある程度間引くと地上で指揮を取っていたアカツキ子爵の傍に降り立つ。

「私はブリュトイース公爵家家臣、竜騎士隊隊長のジャバンと申します。クジョウ侯爵閣下にお目通りを」

 アカツキ子爵はジャバンと軽く挨拶を交わすと指揮を別の者に任せ直ぐにクジョウ侯爵の元にジャバンを連れて行く。
 クジョウ侯爵も竜騎士隊の活躍を遠目で確認していたのでスムーズに話が通る。

「よく来てくれた。感謝する」
「は、勿体なきお言葉! 主、ブリュトイース公爵閣下よりクジョウ侯爵閣下への書状をお持ちいたしました」

 ジャバンは手紙を間接的にクジョウ侯爵に渡す。その手紙を読んだクジョウ侯爵は1度頷くとジャバンに声を掛ける。

「うむ、ジャバンと言ったか、直ぐに取り掛かってくれ。魔術師を直ぐに集めよ」

 クジョウ侯爵の命令で取り出した木箱の封印を解くジャバン。
 中には厳重に梱包された赤子の頭部ほどの大きさの水晶と魔法陣が書き込まれた金属板があった。それらを木箱から取り出したジャバンは恭しく水晶を魔法陣の中央に置くとクジョウ侯爵が集めた魔術師を5角の星形の魔法陣の端に配置する。
 そして魔術師たちに魔法陣に魔力を流すように言うと自分も魔法陣に向かって詠唱を始める。

『我ら、従順なる魔技(マギ)(しもべ)なり。我ら、人であり無力な者である。故に我ら、至高の存在に請い願う』

 魔法陣に対し呪文を唱えるジャバンを見る魔術師たち。
 本来、魔法陣は詠唱の代替えとなるものであり、詠唱が不要なのだ。なのに5人の魔術師が魔法陣に魔力を注ぐとジャバンが詠唱をしているのだ、本来不要な詠唱をする彼の意図は何なのか?と疑問に思うのだった。

『一は全、全は一、魔技は我らを誘う』

 詠唱が進み魔法陣が光り出す。そして魔法陣の中央に置かれた水晶が赤色、黄色、緑色、青色などの様々な色に変化する。
 そして魔法陣の発光が更に光量を増し、空中にも魔力で出来た魔法陣が浮かび始める。
 空中に浮かぶ魔法陣は最終的には3層となりそれぞれが違う光を放ち回転を始める。
 圧倒的な光が魔法陣を中心に発生し皆が目を開けておれなくなると、最後に魔法陣から光の柱が天空に放たれる。
 圧倒的な光の奔流が周囲を支配する。

『おお、神よ……』

 光りの柱が空に浮かぶ雲を突き破ると暫くして光は収まって消えていく。

「どう……なったのだ?」

 クジョウ侯爵は失敗か、と5人の魔術師とジャバンに懐疑的な視線を送る。神聖バンダム王国の将軍たちも失敗かと浮足立つ。

『罪深き人の子よ……』

 雲の切れ間から現れた存在に目を見開き凝視するクジョウ侯爵たち。

『我は魔技神が(しもべ)なり……不浄なるものに神聖なる光りの浄化を……』

 その直後、夜明け前の闇が切り裂かれ地上を埋め尽くしていたゾンビを暖かな光が包み込む。

「おお、神よ……ゾンビどもが……消滅して……いく」
「あ、あれは……エンジェル……なのか?」
「神の御使い様……」

 地上を闊歩し生者に死を齎していたゾンビは天空より現れた天使族(エンジェル)が放った浄化の光によって全て消滅する。
 そしてエンジェルの見据える先には聖オリオン教国軍があった。

『死者を弄び、死者の魂を冒涜する者どもよ、神の怒りをその身で受け永劫なる懺悔(ざんげ)の炎に焼かれるが良い』

 次の瞬間、聖オリオン教国軍の足元の地面が崩れ去ると兵らを飲み込んでいく。さながら地獄の大釜が口を開け聖オリオン教国兵を飲み込んでいくようだ。
 全ての聖オリオン教国兵が逃げようともがく中、その場から唯一離脱する者がいた。

「ち、予定が狂ったじゃねぇか! 何でエンジェルが現れるんだ!」

 毒づきながら転移の魔法陣に魔力を流すブレナン将軍。その姿は縋りつこうとする首脳陣をあざ笑うかのように消え去る。

 
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