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チートあるけどまったり暮らしたい のんびり魔道具つくってたいのに 作者:なんじゃもんじゃ

3章

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094 オリオンの落日1

 

 神聖暦514年11月、俺は僅かな兵と供にブリュンヒルを目指す。
 イーストウッドからブリュンヒルまでは船での移動だ。
 元々イーストウッドは湖に浮かぶ湖上都市であり、その湖からキルパス川に接続する川が流れているのでブリュンヒルまで水上移動が可能なのだ。
 もっとも川には水棲の魔物だけではなく、大森林の中を横断しているので様々な魔物の襲撃が予想されるので水上移動も安全ではない。
 俺でなければね。

 俺たちは名も無き川を下り、キルパス川に入って港湾都市クジク経由でブリュンヒルへ向う。
 今はフェルク砦からのイーストウッドへの街道を整備してあるのでイーストウッドからブリュンヒルまでは馬車だとフェルク砦を経由して18日ほどの道程だが、この光月(・・)によって水路を使う事で6日で移動ができるようになった。
 この6日と言う日数は光月だから実現できる話であって、通常の船であれば倍近い11日はかかる事になるだろう。
 それでも陸路よりは時間短縮ができるのは間違いない。

 水路の活用は大量の物資を一度に運べるようになるだけではなく、位置的に水路の窓口がブリュンヒルとなるので、ブリュンヒルではイーストウッドに向う商人の数が増えるだろうし、船の建造などの設備投資も増えるだろう。
 更に南部の各都市は水路で繋がっている事が多いので人の行き来が他の都市へも波及する可能性は十分にある。
 ブリュトゼルス辺境伯家にとっても利益がある事は父上も分かってくれているし、水路の周辺では家臣の中から功があった者に土地と資金を与え開拓をさせれば南部は更に繁栄するだろう。
 そして土地の開拓が上手く行けば、その家臣に爵位を与える事も可能だ。
 つまり南部はブリュトイース伯爵領だけではなく、ブリュトゼルス辺境伯領でも開発ラッシュが訪れる可能性があるのだ。

 船での旅は順調で湖を抜けて川に入り大森林を横断する。
 この川の(ぬし)はエンペラークロコダイルと言うワニ型の魔物でランクSに指定されている凶悪な魔物だった(・・・)
 イーストウッドを湖の上に建設する時に湖に接続するこの川の調査も行った時に見つけ、かなり抵抗されたのを覚えている。
 そんなエンペラークロコダイルに対して俺も大人の対応をして棲家を奪ったり殺したりはしなかった。
 だって、せっかく強力な魔物が住み着いているのだから湖や川の治安維持に一役かって貰おうかと思ったわけですよ。
 つまりエンペラークロコダイルを俺の眷属にして湖を中心とした川の管理を任せたわけです。
 いや~、眷属にするには苦労しましたよ。
 殺さないように俺の力を見せ付けて力の差を分からせるのには微妙な力加減がいるのですよ。

 そんなわけで、湖や川で俺の旅を邪魔するのは居ません。
 ん?
 大森林を横断するのだから湖以外にも魔物が居るだろって?
 そりゃ~居ますけどね・・・まぁ、エンペラークロコダイルの教育(OHANASI)が功を奏しているのでしょう。
 だってワニって地上でもそれなりの活動できるのですから。





 ブリュンヒルに着いたのは予定通り6日後だった。
 途中港湾都市クジクに寄港した時もそうだが、俺の船が珍しいのか最初は奇異の目で見られてしまった。
 まぁ、この世界の船は帆船や手漕ぎ船が一般的なので、それらの船と比べれば俺の船は間違いなく常識外れの船なんだろう。

 父上は港付近の防衛指揮所で俺を迎えてくれたが、やはりあの船を見て目を白黒させている。

「クリストフ、あの船は何だ? 帆がなくオールも見当たらない。どうやって動かしているのだ?」

「父上、あれはホエール級1番艦『光月(こうげつ)』と言う魔導船です。魔導船は帆もオールも必要なく動力として魔力炉と言う機関を搭載しており船自体を魔法の効果により動かしているのです」

 あまり小難しい話をしても父上たちは理解できないだろうから、掻い摘んだ説明に留めておく。
 このホエール級1番艦は船体が銀色に輝いているので光月と名付けている。
 ホエール級の魔導船は全長が93m、全幅26m、排水量12,500トン(満載時14,000トン)、最少操船者数は25人(最大乗員数540人)、最大速は55ノット、巡航速度は32ノット、魔導砲3門、連射型小型魔導砲40門というスペックだ。
 巡航速度の32ノットは約60Km/hなのでこの世界の船としては破格の速度であり、風や人力に頼る必要もないので運航スケジュールは予定から大きくズレる事はない。
 この世界の船でこれだけの速度を出せる船は存在しないどころか、あり得ない事だ。
 魔導砲3門の砲弾は3種類用意しており、『爆炎弾』『氷柱弾』『重力弾』を状況に応じて使用する事になるし、連射型小型魔導砲にも数種類の弾を用意している。
 因みに今まで神聖バンダム王国で最も大きな船はブリュトゼルス辺境伯家が所有している全長60mのアクレス級なのでホエール級は全長で1.5倍となっている。

「・・・魔導船? ふむ、よく分からんがクリストフだからな・・・あの甲板上に設置されている物は何なのだ?」

 父上、よく分からない事を俺だからと言って無理やり納得しないでくださいな。

「あれは大きいのが魔導砲で、小さいのは連射型小型魔導砲と言う武器ですね。あれにより魔法使いや魔術師が居なくても魔法攻撃が可能になります」

「何とっ! 魔法使いや魔術師が居なくても魔法が使えるのか?!」

「明日にでも訓練を兼ねてあの魔導船の実力をお見せしましょう」

「そうかっ! 楽しみにしているぞ!」

 その後は父上と領主館へ赴き母上に挨拶をしてイグナーツを抱っこする。
 この領主館はブリュンヒル城の敷地内に建設されている館で平時はこの領主館で政務が行われている。

「イグナーツはちょっと見ない間に重たくなったな。元気そうでお兄ちゃんは嬉しいぞ」

「クリストフは軽かったのでとても心配でしたが、イグナーツはしっかりとお乳も飲みますし安心ですね」

 俺は生まれつき病弱だったそうだから母上の心労も大きかったでしょう。
 しかし、今では殺そうとしても簡単には死なない体になりましたから!
 何たって神様ですから!






 翌日、ホエール級1番艦である光月による戦闘訓練を行う前に集結している南部貴族やブリュトゼルス辺境伯家の主要人物を集め軍議が開かれる。

「皆、よく集まってくれた。今回の聖オリオン教国の動きはいつも以上に迅速で来月中頃にはジルペン湖に到達するだろう」

 父上からの聖オリオン教国の動向が伝えられると室内が騒然とする。
 騒然となった理由は簡単で父上が伝えたように聖オリオン教国の動きが早いからだ。
 これまでの戦いでは聖オリオン教国が動いたとしても時間的には2ヶ月ほどの余裕があったのだが、今回はあと1ヶ月でジルペン湖に到達する事になる。
 これは貴族たちの予想よりも半月から1ヶ月も早い。
 ただ、元々聖オリオン教国の動きに合わせて準備を整えていたので多少の動揺ですんでいる。

「此度の戦には私の代理として次男であり、先ごろ陛下より伯爵位に叙爵されたクリストフを出征させる事にした。経験が浅いが皆でもり立ててやってほしい」

「クリストフ殿がランクCのビッググリズリーを指先一つで瞬殺された場に某もおりました。誠に頼もしきご子息をお持ちでアーネスト殿がお羨ましい」

 俺を持ち上げているのはベセス伯爵だ。
 ベセス伯爵はジンバル湖を挟んでブリュンヒルの反対側一帯を治める貴族で、元々はブリュトゼルス辺境伯家の分家だったが、数代前の国王の時代に大きな戦功をたて断絶してた名門ベセスの姓を名乗る事が許され独立している。
 現在の当主はアカイザーク殿で年齢は55歳、右頬に傷があり『The将軍』って感じのオッサンだ。
 アカイザーク殿は俺が陛下(タヌキ)の陰謀でビッググリズリーと戦ったあのチャバンを観戦していたようで結構俺をリスペクトしてくれているし、父上はアカイザーク殿を兄のように慕っているらしい。

「アカイザーク殿にそう言って頂けるのは嬉しい限りだ。しかし戦場では甘やかさないでやってほしい」

「その必要はないでしょう。それでももし不安であれば某が命をかけて諫言致しましょう」

「うむ、頼りにしておりますぞ」

 この会話は歴戦の猛将であるアカイザーク殿が俺を総司令官として認めたと言う既成事実を作る為の父上とアカイザーク殿のお芝居であるのだが、そのおかげで南部の貴族諸侯は俺の事で否と言える雰囲気ではなくなった。
 そして話は移り、2日後にアカイザーク殿が指揮するべセス家の200隻と王家直轄軍の100隻がジルペン要塞に向けて先発する事になった。
 俺が率いるブリュトゼルス辺境伯家の本体500隻も10日後には出発するのだが、その前に光月による戦闘訓練を行う事になっている。

「今回の旗艦は光月とする。巨大な軍船でありその船体も銀色に光輝いており旗艦としてはこれ以上の威容はないだろう」

「某も光月の威容を目にしましたぞ。長い間戦場で生きてきましたがあのような戦艦を見たのは初めてですし、死ぬ前に一度で良いので乗艦してみたいものですな」






 ブリュンヒルは巨大な都市であり、神聖バンダム王国でも屈指の大都市である。
 そんなブリュンヒルにも他の大都市同様にスラム街が存在しているのだがそれでも治安は他の大都市と比べてもかなり良い。
 そんなスラムの一角に集まる人影があった。
 その胸には剣に絡みつくヘビのシンボル、彼らがスネパスと呼ぶオリオン教のシンボルが輝いていた。
 彼らは今回の聖オリオン教国の出兵に伴った情報工作員たちである。
 しかし、彼らは未だ成果らしい成果をあげれずにいた。
 それはブリュトゼルス辺境伯家の警備隊による妨害があったからである。

「ブリュトイース伯爵が寄港したぞ」

「うむ、あの船を見たか? あんな物が戦に投入されれば我が国は甚大な被害を被ることになるぞ!」

「あの船の情報を本隊へ届けねばなるまい。ベズカとサイモンは至急飛んでくれ」

 彼らの指揮官と思われる者が光月の情報を遠征軍へ届けるように指示をした。
 その時である、彼らの集まる家屋が爆音と閃光に包まれたのだ。

 ブリュンヒル警備隊は彼らがこうして集まるのを待っていたのだ。
 早くから聖オリオン教国の情報工作員がブリュンヒルに潜んでいる事を突き止めていたのだが、彼らは予想以上に慎重でこうして十人に近い数が集まる事が殆どなかったのだ。
 警備隊はこの機を逃さず聖オリオン教国の情報工作員たちを一網打尽にするべく動いたのだ。








 光月を旗艦とした南部諸侯軍の本隊500隻がブリュンヒルを発ち港湾都市クジクを経由してジルペン要塞に到着したのは出発してから8日後の事だった。
 この時点で聖オリオン教国がジルペン要塞に到着するのは凡そ10日後である。

「情報によればゴルニュー要塞には1500隻以上が集結しており10日後にはこのジルペン要塞にまで迫るでしょう」

 ジルペン要塞に先乗りしていたベセス伯、アカイザーク・フォン・ベセス伯爵は既にジルペン要塞の戦力を掌握し情報収集も怠ってはいない。
 流石は歴戦の猛将であるとクリストフは舌を巻く。

「サガラシ王国は150隻、キプロン王国は180隻、先鋒を務めると思われますな」

 サガラシ王国とキプロン王国は神聖バンダム王国と聖オリオン教国に挟まれた小国で、現在は聖オリオン教国に従属している為に今回のように神聖バンダム王国と聖オリオン教国の間に一旦事が起これば聖オリオン教国に従い軍を派遣する。
 彼らとしても大国同士の戦争に関わりあいたくはないのだが、日和見を決め込んでいては生き残れない地域なのだ。
 小国ゆえの悲しい状況であり、神聖バンダム王国と聖オリオン教国による数百年に渡る戦に巻き込まれてきた悲しい国々である。

「此度の戦では聖オリオン教国の侵攻を退けるだけでなく、ゴルニュー要塞を攻略する。よって、サガラシ王国とキプロン王国には我らの陣営に組み込む必要がある」

 アーネストがクリストフに指示した内容は至極簡単である。
 1、聖オリオン教国を退ける。
 2、聖オリオン教国の前線基地でもあるゴルニュー要塞を陥落せしめること。
 3、ゴルニューに至る道程で必ず通過する事になるサガラシ王国とキプロン王国を自陣営に取り込む。

 これまで難攻不落を誇っていたゴルニュー要塞を落とせというのだ、最初にそれを聞いたベセス伯などは息子に無茶振りをするアーネストを暫く凝視したほどだ。




 
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