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日常と非日常と
9話(改) 僕と戦乙女と
「資格を持つ者……?」

 僕は訳が分からなかった。だってそうだろう? 行き成り目の前に見たことも無い装備をして天使の羽を生やした女の人が出てきて、お前は資格を持つ者だって言われて、これで理解しろって言う方が無理だ。

「長かった……本当に長かった……。どれ程この時を待ち詫びた事か」

 漆黒の鎧を纏った女の人は、感極まった様子で天を仰ぎながらそう呟いている。

 そして何分か、何秒経っただろうか。彼女は徐に僕を見つめた後、ガルド達に向き直ると、こう伝えた。

「紹介が遅れたな。私はブリュンヒルデ。主神であるオーディン様に仕える戦乙女だ」

「「「「「戦乙女!?」」」」」

 当然、驚かないはずが無い。無論それは僕だって例外ではない。

 でも、今までの情報で少なからず判明した事実がある。

 恐らく、戦女神はNPC。現れたタイミングからして、僕を向かえに来たのだろう。


 瞬間、僕の頭上にポップアップウインドウが開き、新しいクエストの始まりを知らせる文面が現れた。


―――新規クエストを開始します。

クエスト内容:宮廷魔導師への転職、及びハイエルフへの転生

 っっっっっ!!! 隠し職が解禁されたのか!!!

 僕は生まれて初めて、体全身が歓喜にうち震えるという感覚を味わった。僕が、このゲームで初めての隠し職の到達者なのか!?

 その感覚をもっと味わっていたかったが、ブリュンヒルデの一言で一気に霧散した。ああ……もうちょっとでいいからこの感覚を味わっていたかったよ……

「エルフの少年よ。お前の名前を教えて欲しい」

「あ……カズキです」

「カズキか……良い名だ」

 見惚れる様な優しい笑みを浮かべながら、ブリュンヒルデは僕の名前を褒めてくれた。

 うわっ、うわ、なんだ、これ! 一気に顔が熱くなって!

「カズキよ。お前に頼みがある。私と共にヴァルハラへ来てほしい」

 やっぱりアースガルズへ行く事になるのか。という事は、新しいマップの実装ってアースガルズマップの事なんだな。

 ガルド達は、展開の速さについていけず、そしてブリュンヒルデが放つ圧倒的なカリスマを前に、言葉を発することができないみたいだ。

 正直、隠し職への転職はとっても嬉しいけど、この世界に戻って来れないと言うのなら僕はずっとマジシャンのままでいい。確か、ヴァルハラってアース神族のお城だよね? ここと世界が違うじゃん。

 だから、僕はこう答える。

「えっと、僕はこの世界が好きです。もう帰ってこれないと言うのなら行きたくありません」

「安心しろ。差し当たっては、他の神々に顔合わせをし、オーディン様の元へ赴いて挨拶をするだけだ。それが終わったらすぐにこの世界に戻すと誓おう」

「本当ですか?」

「戦乙女の名に誓って」

 自分の名誉を傷つける様な事はしないはずだ。……よし、決めた。

「ガルド。それにドラゴンフォースの皆」

「……はっ! あ、ああ。どうしたカズキ」

 なんとかガルドだけは現実に戻ってこれたらしい。それ以外の皆はまだ呆けてら。

「ちょっと転職してきますね。……終わったら連絡します」

 と、ガルドと話をつけていたとき、行き成りブリュンヒルデの真横に大きな光の玉が出現した。って、またかよ!?

「ブリュンヒルデ! 「資格を持つ者」は此処ですか!?」

 現れたのは、ブリュンヒルデと瓜二つの鎧を装備した女性だった。ただし、今現れた女性の鎧の色は済んだ青。それにブリュンヒルデに比べてかなり柔らかい印象を受ける。

 ブリュンヒルデの髪は肩に届くか届かないかという位の金色ストレートで、始めこそ冷たい、それこそ背筋が凍ってしまうのではないかと言うほど冷たく美しい表情をしていたが、僕に対してだけは優しい笑みを浮かべてくれる。

 一方、新しく現れた……まぁ、こっちも戦乙女なんだろうな。この人は全てを温かく癒してくれそうな表情をしている。

 急いでこっちに飛んできたのだろう。腰まで延びる綺麗な銀髪が所々跳ねている。

 それに気付いたのか、一瞬ハッとすると慌てて手櫛で髪の毛をとかし、一つ咳払いをした後に此処にいる全員を見渡した。

 そして僕と目が合うと、一瞬驚いたみたいだが、優しい笑みをこちらに向けてくれた。

「なんて力強い生命力……あなたが「資格を持つ者」ですね。初めましてエルフの少年。私はヒルドと申します」

 ヒルドと名乗った戦乙女は、剣を鞘に納め、スカートの両端を持ち上げながら恭しく挨拶をした。

「あ、はい。カズキです」

 こっちもとりあえず挨拶。ぺこり。

「詳しい話はブリュンヒルデから聞きましたか?」

「はい、ヴァルハラへ行く事になったらしいです」

 僕から同意を得た事が余程嬉しかったのか、先ほどのブリュンヒルデ同様今にも泣きだしてしまいそうなほど歓喜に内震えていた。

「ようやく……ようやく一人目の「資格を持つ者」が現れたのですね……」

 ……成程、これで確信が持てた。僕がこのゲーム初めての隠し職到達者って訳だ。

「ああ……だが油断は出来ないぞ。今回はアース神族の手で保護することができたが、これ以降ヴァン神族が確保しないとも限らないからな」

 彼女らの言葉を察するに、ヴァン神族の手に落ちたら色々とまずいことになりそうだ。……まてよ?それじゃ、今この状況ってまずくない? だってここでヴァン神族が来たら……。

「居たぞ! 「資格を持つ者」だ!」

あ、死亡フラグ立った。



 僕はエレナを揺さぶり、正気に戻させるとヴァン神族の刺客の情報をスキャンして貰った。 だけどそれ以降はオロオロするばかりで、戦闘には役立ちそうもない。


モンスター名:ヴァン神兵
種族:神族
HP:120000
MP:????

弱点:闇
耐性:聖


 なるほど、ザコとしては強い。雑魚でHPが6ケタに到達する存在は、今の所こいつらだけだな。さて、どうやって倒すか……。

「ヒルデ! お前は「資格を持つ者」を連れて先に行け! 私はこいつらを足止めする!」

「っ! 分かりました。さ、早く行きましょう」

 神族だか何だか知らないけど、様はザコでしょ? ……ああ、戦乙女達もNPCだったなぁ。……よし、ガルドにも手伝ってもらおう。

 僕はアクセサリーをイフリートの指輪からタリスマンへと変更した。万が一ここで死んで、クエスト未達とかなったら目も当てられないからね。

「どうしたのです! 早く逃げないと!」

 ヒルドはかなり焦っているが、ひたすら推奨レベル90台のダンジョンでソロをしてた僕の腕を見くびって貰っては困る。

「……ガルドさん、ちょっといいですか?」

「ああ、どうした?」

「ちょっと、足止めをお願いします……くははっ!」

「了解だ!」

 先手必勝。命が掛った戦闘に卑怯も糞もない。

 僕が移動しながら詠唱を始めたのを確認すると、それに合わせてガルドがヴァン神兵に突撃を掛けた。

 想定外の事態で相手も焦ったのだろう。逃げ出すだろうと思っていた相手が自分に牙を向けて来たのだから。

「おおおおおおお!!」

 ガルドが一人の神兵に肉薄する。さすが竜人族。ヴァン神兵と互角以上にやり合い始めた。

 戦乙女達も馬鹿ではない。好機とみたブリュンヒルデやヒルドも、他の神兵に向かい突撃を掛ける。

「っはぁ!」

「やぁ!」



 当然、ヴァン神兵は遅れを取る。目の前に目的の存在がいるのに、手が届かない歯がゆさも手伝ってか、防戦一方になっていた。

 さて、皆もお分かりだろう。そんな隙だらけの相手を、僕が、みすみす逃すと思うかい?

 とんがり帽子からミラージュティアラへ装備を変更し、アローでラッシュを掛ける。さぁ、どれだけ持つかな? 

「っその杖は……!」

 予想以上にミズガルズの住人が強かったのか、ブリュンヒルデが驚いている。まぁ、その中でも僕はイレギュラー無存在だけどね。

「な、なんでその杖がここに……!」

「くそっ……目の前に資格を持つ者がいるのに……!」

「がぁっ!」

 足止めを食らった神兵達は隙を突かれ、至近距離から弱点部位に魔法を次々に喰らっていく。HPバーの減りは少し遅いけど、これならMPを消費しきる前に討伐できそうだ。……ドロップ何出るかなぁ?



 ブリュンヒルデはミズガルズの住人を侮っていた。

 彼女は、ミズガルズの住人で戦力になるのは資格を持つ者くらいしかいないと思っていたのだ。

 だからヴァン神兵が現れた時、ヒルドにカズキを逃がす様指示を出してこいつらを足止めしようと思った。

 しかしどうだ、いざ戦い始めると、資格を持つ者に「ガルド」と呼ばれた竜人族の青年はヴァン神兵と1対1で互角以上にやり合っていたではないか。

 更に、資格を持つ者の援護射撃が入った。

 その美しさは筆舌し難い。

 予約されていた魔弾はまるで吸い寄せられるかの様に矢次早にヴァン神兵へと迫って行く。魔弾が一つ命中する度に彼らの表情は苦痛に歪み、時折うめき声を上げる様子から、決して威力も低くはないと容易に推察できる。

 そして、インファイトに持ちこめたと思ったら零距離からカウンター気味に魔法を放ってくるのだ。

 彼らが魔弾の直撃を食らってよろめく度に、隙をついた戦乙女達とガルドが斬りかかり、戦乙女達に対応すれば容赦なく横から魔弾が直撃する。

 戦闘開始1分も立たずして、ヴァン神兵のHPバーは既にレッドゾーンに突入していた。

 しかし彼らのHPに反比例して、資格を持つ者の弾幕は更に苛烈になって行く。

 カズキは魔弾を至近距離で発射しながら、頭上に魔法陣を溜め始めた。彼の代名詞とも言える魔法「一斉射撃」だ。最大まで溜め終えた魔法陣をそのままに、カズキは通常射撃に戻る。



―――あの魔法陣から一体どれほどの魔法が放たれるのか



 ヴァン神兵は気が気ではなかった。既に戦意は喪失。如何この状況から逃げ出してこの事をヴァン神族の頂点であるスルトに報告するか、その1点に絞られていた。

 しかしその願いも空しく、カズキは頭上に重ねた両手を掲げ、一斉に魔法陣を解き放った。

 それに合わせてガルドと戦乙女達は退避する。

 放たれた魔弾は、空腹のまま放置され餌を目の前に置かれた猛獣の如く一気に襲いかかった。

 次々に巻き起こる魔力の奔流、それは見る者の視界を奪い去る。

 恐らく既に息は無いだろう。しかし、行き場を無くした魔弾達は、彼らが最後に立っていたであろう地点目がけて次々に着弾する。






一斉射撃が終わり、土煙が晴れたそこには、彼らが装備していたであろう剣と鎧しか残されていなかった。



 ふぅ、終わった終わった。土煙で何も見えないや。……さて、ドロップは何かな~?

 ちょっとやり過ぎた感があるけど、こっちもクエストの成否がかかってたから、まぁ、あのヴァン神兵には悪いけど消えてもらわないとね。

「……まさかこれほどの戦力とは」

「資格を持つ者……オーディン様があれほど重要視する理由が今はっきりと分かりました」

 何か戦女神たちが言ってるけど、さてドロップは……おおっ! なんか見たこと無い剣と鎧がある! 早速拾ってどんな装備か確認しないと!

「しかし、カズキの仲間の……ガルドと言ったか。彼も中々の力を持っているぞ」

「そうですね。ヴァン神兵と1対1で互角以上にやり合うとは、これもオーディン様に報告しなければなりません」

「ガ、ガルドさん! 新しいドロップが!」

「本当か? 見せてくれ!」

「「「……はっ! 私達は一体何を!」」」

 ……おいおい、どんだけフリーズしてたんだよ。昔のPCじゃあるまいし。

 何なに? ヴァン神族の剣と、ヴァン神族の鎧? うわ、名前そのまんまじゃん。

「あ、あれ? カズキ、もう転職してきたの?」

「それにしては、以前とあまり変わっていないように見えるがのぅ」

「あれ~?おかしいな~?」


 ……いやいやそれはさすがに巻き戻り過ぎだろう。さすがに現状を教えてあげないと可哀そうになってきた。まぁ、3バカはまだ硬直してるから放置でいっか。

「……まだ行ってないです」

 僕が戦乙女達を指さし、彼女の方へと向きやると、二人は相談事をヒソヒソと内緒声で行っていた。

「……とりあえず一旦カズキを連れて戻ろう。話はそれからだ」

「ええ、そうですね。私としても、カズキにはもっと力を付けて貰いたいものですし」

 ……聞こえてるよお姉さん達。別に良いけどさ、元から行くことは決定事項なんだし。今更嫌だって言っても恐らくオーディンか何かの声が聞こえてきて、強制転送されるんじゃない? そうしないと何時まで経ってもクエスト終わらないっぽいし、このクエストだってそもそも予定調和っぽい。僕があの時ヒルドと一緒に逃げたとしたら、ブリュンヒルデが適当な所で切り上げて、追跡振り切って~とかシナリオ作られてそうだよね。

「……話は終わりましたか?」

 僕が戦乙女達に話しかけると、彼女達は何やら気まずそうな笑みを浮かべた後に此方に歩み寄って来た。……さっきのカリスマどこいったの……。

「ああ、済まない。とりあえずカズキは私達と共にヴァルハラへ向かう。問題ないな?」

「大丈夫です。……転送の羽はヴァルハラに行っても使えますか?」

 実はこれが一番の問題。異世界間で転送の羽やら帰還の羽。つまり転送系のアイテムが使えないとなると、少々厄介だ。

「……単刀直入に言うと、無理だ。だが、私達には世界を超える力がある。カズキが望めば、何時でもミズガルズに送り返すことはできるぞ?」

「ええ。神々はアースガルズとミズガルズを超える能力を持っています」

 それを聞いてちょっとだけ安心した。でも、何時か自力で戻ってこれる様にしたいなぁ。まぁ、それは追々考えて行けばいいか。先ずは転職だ!

「えっと、それじゃ転職してきます」

 僕はドラゴンフォースの元へと戻り、皆に挨拶をした。

「ああ、行って来い。楽しみにしているよ」

「カズキ! 大丈夫だとは思うけど油断するんじゃないわよ!」

「カズキよ 有事の際にはわらわにWISをするが良い」

「カズくんいってらっしゃ~い」

 さて。皆と挨拶もしたし、後はヴァルハラに行くだけかな?

「お待たせしました」

「挨拶は済んだ様だな。それでは行くぞ」

「ブリュンヒルデ。私は先に行ってオーディン様に報告しておきます。二人分の移動は大変だと思いますが、くれぐれもカズキ様に怪我の無いようにお願いします」

「え、ちょ……怪我とかするんですか?」

「……ん? そんな心配そうな顔をするな。私が失敗などするはずが無いだろう。任せておけ」

 ……なんか随分フランクになったなぁ。これも僕達がクエストのシナリオをぶち壊したからかな?

「それでは行くぞ! しっかり捕まっておけよ」

 ブリュンヒルデはそう言うと、屈んで僕の背中と膝の裏に手を添えた。何するんだろ? てそのまま見てたらさ、気づいたらブリュンヒルデに横抱きにされてたんだよ。

 この世界の住人は子供を運ぶ時はお姫様だっこをするっていう決まりでもあるの!? もう僕のライフはとっくにゼロだよ!?

「は、放してください!」

「暴れるな。落ちたら助からないぞ?」

「ぐっ……」

 畜生! 何か負けた気がする……!


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