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日常と非日常と
1話(改) 僕は魔法使い
「ふぅ……やっと98かぁ……長かったなぁ」

 僕は今、とあるVRMMORPGの世界で遊んでいる。




―――アースガルドオンライン




 日本だけで稼働している、北欧神話をモチーフにしたVRMMORPGだ。

 プレイヤーは人として生を受け、冒険者となる。

 多種多様な職業から一つを選んで、成長していくのがこのゲームの楽しさだと思う。

 稼働初期こそ数千人しかいなかったけど、口コミによってプレイ人口はじわじわと増え、今じゃ万単位の人がこの世界で好き好きにあそんでいる。

 一人で黙々と狩り、高みを目指す者、クランを立ち上げて皆で仲良く遊ぶ者、生産系のスキルを伸ばして商売に勤しむ者、様々だ。

 僕はというと、一人で黙々とレベルを上げるタイプに該当する。

 何故かって? 他人とコミュニケーションを取るのが苦手だからさ。

 運営側は、多人数プレイを前提としてこのゲームを作ったらしいけど、僕から言わせて見ればそんなもん関係ない。どうやってこのゲームを楽しむかは個人個人の自由だと思っている。

 だから僕は、郊外に一軒家を設けて細々と暮らしながらコツコツとレベルを上げているんだ。




―――僕は友達が少ない。というか居ないに等しい。

 ゲームという空想世界に逃げ込むのもそう遅い時期ではなかったと思っている。

 だってそうだろ? 遊ぶ相手が居ないなら、自分で他の道を探すしかないんだからさ。

 頑張って友達を作るっていう手段も、今考えてみると悪くは無かったと思う。でも、もう遅いんだ。

 だって、中学校に入ってから先生以外と会話した事なんて皆無だったんだから。

 学校が終わったら、家に直行してすぐこのゲームを始める。 

 晩御飯の時間は決まってるから、その時間になるまでは部屋に引きこもってずっとアースガルドオンラインの世界に逃げ込んでるって訳だ。

 ……正直、良くない傾向だとは思っている。学校の成績だって、決して良くはない。一応休み時間は予習復習の時間に当ててはいるけど、そんなんじゃたかが知れている。


 まぁ、そんな訳で。僕は世間一般で言うネトゲ中毒という奴なんだ。このゲームを始めてもう5年になる。小学校低学年から高学年に移る辺りからこのゲームにハマったっていうんだからお笑い草だ。

 時間もたっぷりあった訳で、僕は2キャラ目のレベルカンストを目指している。


剣士
闘士
魔法使い
僧侶
弓師
盗賊
商人


 等々。これで全部じゃないけど、根幹となる職業を選んで育てていく。条件を満たすと、上位職になれる訳だ。

 更に、職業だけではなく種族も選べる。

人族
エルフ
ドワーフ
吸血鬼

竜人

 等々。こちらは選んだ種族によってパラメーターの成長率が異なる。更に、選んだ職によって職業の名前も変わるのだ。

竜人族が騎士になったら竜騎士に。鬼が騎士になったら鬼武者に。

 噂では神族なんて職業もあるらしいが、真偽は定かではない。

 ヒューマンを選べば平均的に成長し、ドワーフを選べば攻撃力や体力が成長しやすい。エルフならば魔力や知力の上昇率が高いといった具合だ。



 そんな中、僕はエルフと魔法使いという、正に後衛火力としてのキャラを選んだ。



 1キャラ目も同じ魔法職だ。でもこっちはヒューマンを選択してしまったため、器用貧乏になってしまった。魔法使いから魔導師になった所でレベルが99に。これ以上の成長はなかったから放置している。育て方によっては古代魔導師エンシェントウィザードまで育ったんだろうけど、まぁ、満足している。

 2キャラ目、こっちは少々変わり種。レベル98まで来ているけど、転職することなく魔法使いで止めている。ステータスも、INT(知力)をカウントストップまで成長させた後は保存している。まぁ、いわゆるネタキャラという奴だ。

 あ、ちなみに僕は♂アカウントだから。というか、アカウント登録は住民票が必要で、それに基づいてアカウントの性別が決まっちゃうから、ネカマとか出来ないんだよねこのゲーム。

 
 このゲームは、スキルの熟練度を一定数、一定値以上上げて、初めて転職できる。




 当然、上位職の方が見た目は格好が良い。だから皆こぞってレベルを上げ、転職に必要なスキルの熟練度を上げたらさっさと転職してしまう人が多かった。

 年限が経つに連れてゲームが解析され、各職業の育成ルートが構築されると、熟練度を最大まで上げる人は居なくなった。皆無と言っても過言じゃないかもしれない。

 でも、僕は自分が作ったキャラクターに愛着がある。

 ベースレベルがカンスト近くまで上がった魔法使いの全てのスキルは熟練度MAX。上位職への転職条件を満たしているけど、今のところ特に転職しようとは思っていない。



 そんな僕は、今日も今日とて学校から帰ってすぐにアースガルドオンラインにログインして、ネタキャラを育てている。



 長期連休に入っても、僕のやることは変わらなかった。郊外で一人細々と暮らし、単身ダンジョンに潜っては敵を倒し収集品を倉庫に溜めて、必要な分だけ売り払ってコツコツとマジシャンを育てていた。


 ―――しかし、ここで転機が訪れた。


 このゲームは現実のインターネットと連動している。そのサイトで有料でクジが引けるのだが、これがまた高い。

 廃人達はレアアイテムを求め、何十万円もこのクジに投資するらしい。

 中学生の僕にとっては大きな痛手だったけど、現実世界で特に欲しい物もなかったから、駄目元で一回クジを引いてみたんだ。


―――獲得アイテム:スタッフオブグリント(S)


 手の震えが止まらなかった。

 装備要求レベルが98とぶっ飛んでいるけど、移動詠唱と二重詠唱が可能になる杖だ。

 このゲームの魔法は命中率が高い。それこそイメージするだけで勝手に追尾してくれる。

 その代わり、詠唱中は移動をすることが出来ない。つまり前衛に守って貰わないとあっという間にデスペナルティを貰う事になる。

 僕は迷わず溜めていたステータスポイントをAGIに全部振り、今まで溜めに溜めた素材を売り払って精神力回復剤を大量に買い込み、ずっとダンジョンに籠り続けた。

 殲滅力は一気に上がった。一撃で倒せない相手、つまり反撃を食らってしまう可能性が高い敵でさえ、この杖があれば逃げ回りながら殲滅する事が出来たから。

 代償としてMPポーションが凄まじい速度でなくなっていったが、それに見合う、いや、それ以上の経験値効率を叩きだす事に成功した。



 このゲームは、上限こそ99だけど必要経験値の上がり方がおかしい。80台まではサクサク上がるけれど、90を超えてから必要経験値が指数関数的に増えて行く。

 98から99になるための必要経験値なんて、目も当てられない。なんせ1から98までの必要経験値を超えてしまっているのだから。

 それを踏まえたとしても、一日5%も経験値が稼げるのはクジで当たったこの杖のおかげの他ない。

 楽しかった。今までの世界観がひっくり返るくらい楽しかった。楽しさの余り、人目を気にしないで戦ってしまったのだが、今となっては少し後悔している。

 どうしてかと言うと、買い出しに主要都市に出かけた時に、僕の事が噂になっていることを知ったからだ。

 なんでも、凄まじい速度で敵を翻弄しながらゼロ距離で魔法をモンスターぶち込む魔法使いが、高レベルダンジョンで単身戦っているとかなんとか。

 下級職、しかも前衛がいなければ何もできないような職業のプレイヤーが高レベルダンジョンでガチンコしてるんだから、まぁ、おかしいっちゃおかしいか。

 始めこそ遠巻きに見物人が居た程度だったけれど、時を重ねるに連れてついに話しかけてくる人が出てしまった。

 こういう時、僕は何も言わずに帰還の羽を使ってセーブポイントまで戻る事にしている。どうせ皆下心しかないだろうから。




 そして99まで後わずかという時、大型アップデートが来ると行き成り発表された。運営側からのサプライズだろうか。

 新ダンジョンの追加、新マップの追加、新しい町の追加、新しい属性の追加、既存装備の見直し、ダメージ計算式の見直し、職業補正値の見直し、等色々あったが、そんなもんどうでもいいと言える程注目する項目があった。


 ―――新職業の実装と上限レベルの引き上げ


 このゲームが稼働して既に5年。ヘビーユーザーは勿論ライトユーザーまでレベル99持ちがチラホラ見えてきたから、運営側が危機感を抱いたのだろう。

 上限レベルは120まで解放された。経験値テーブルはまぁ、お察し。目も当てられない。まぁ、これは僕には余り関係はない。

 それより新職業だけど、どうやら下位→中位→上位の流れから派生する、特殊上位職が実装されるらしい。後、隠し職。

 隠し職は、根幹となる職業それぞれに用意されているらしいが詳細は不明。頑張って探してくれとの事だ。

 僕に新しい目標が生まれた。とりあえず、この隠し職ってのを探してみるかな。


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