屋台の顛末と俺、受難
今回は少し短めです。
幸運にも大好評の内に初戦を飾れた我らがバーガーヤムラ。
っても、色々問題点は挙がってるけどな?
人材の不足に関しては・・・まぁ、当面は様子見って事になった。
あの屋台ってルリィ一人で切り盛りするのが前提になってたんで、料理人増やしたってどの道スペースがない訳だし。
かと言って料理人増やす為だけに屋台をもう一つとか、もはや解決策にもなってない。
少なくとも、俺が見てた範囲では商品の提供が遅いとかって苦情は出てなかったし、ルリィ自身もこの数日で大分慣れてきたらしく、捌き方が手馴れてきつつある。
付け加えると、唐揚げって料理の物珍しさが行列の原因の一つでもあるんで、まぁ、暫くすれば落ち着くだろうってのが商売慣れしたネリンさんの意見な訳だ。
『ただ、物珍しさは兎も角として、味自体も美味しいですからね。それなりに固定客は取れると思うんで、忙しさがなくなるかって言うとちょっと疑問ですが』
とも言われたが、うん、それは仕方が無いって言うか、まぁ、望むところではあるわな。
何であれ店を営む以上は繁盛してくれた方が、ありがたいし嬉しい訳で、そこらは店主のルリィも同意見。
『はいっ、そうなるように頑張ります!』
と元気に気合を入れていた。
んじゃ、何が問題なんだってぇと、まずはあの行列。
おバカな方向に勘違いしたアウトローもどきがそれなりに居るんで、年頃のルリィとちっちゃなコニィだけで裁くのはちと難しい。
一度なんか注意したルリィをそのまま引っ張ってどこか行こうとした、誘拐未遂犯も出かけたしなぁ。
ってぇかさぁ・・・。
ルリィってまだ14な訳で、そんな年の娘を無理やり宿に引っ張ってこうとする中年ってどうよ?
いや、こっちじゃ15で成人な訳で、そういう意味じゃお年頃なのも解るけどさ、年の差あり過ぎ。
ロリコンか、お前は。
当然、スタンロッドで撃沈→簀巻き→衛兵さんに御連行のコンボを食らって貰ったともさ。
正直、そんなんじゃ屋台も考えるしかないかって思ってたんだけど・・・。
以外と言うか何と言うか、頼りになる味方がついてくれた。
それは、仲良くなった神官騎士の皆さんである。
元々、以前の依頼からこっち結構仲良くさせて貰ってたんだ。
ほら、俺はこっちじゃバスケの創始者な訳だし、元々運動大好きなんで日本でも良くバスケはやってたからね。
身体能力的なもんじゃ勝ち目はないけど、だからってそうそう負けない程度にはテクニックもついてる訳さ。
だからアレからも時々アルマナリス神殿のコートに出向いては、神官さん、子供たちへの指導なんかは継続しているし、休みともなれば『ちょっと一戦やらんか?』みたいな感じで試合を挑まれたりもする。
いやぁ、One on Oneとかやったりすると、結構楽しいのよ。
と、それは良いとして。
兎に角、そんな風に仲良くさせて貰ってる神官騎士のみんなも、俺が――正確にはルリィが、だけど――屋台開いたって言ったら、お祝いがてら来てくれたんだよね。
で、買って食べて見たら『こりゃ旨い!』とかなり気に入ってくれた様子で、中には常連になってくれた人もいる。
まぁ、こうなれば予想も着くだろうけど、そんな彼らの前でルリィをしつこくナンパしてた馬鹿を発見。
鎮圧から連行を済ませた後に事情を聞いて、『だったら俺らも見回ってやろう』と言ってくれたんだよ、ありがたい事に。
お礼として、神殿側でイベントがある時は手伝いに出るって事と、時々神殿の調理手伝いなんかをやるって事で契約成立。
ルリィ達の安全もこれで一応は確保出来た、って所かな?
とは言え、万全、だとか完全なんてもんはこの世にはないんで、ルリィ、コニィには何かあったら即亜空間車庫に逃げ込む様にって言い聞かせてるけどさ。
あぁ、ちなみに。
女神さんの『私が手伝いましょうか』は却下させて頂いた。
つーか、普通に有り得んだろう。
世界を治める主神様が屋台でお仕事とかさぁ・・。
ぶっちゃけ、雇う側の精神が持たんよ。
例え今までの行動から『世界で一番偉い主神様』ってよりは、もはや『神出鬼没で美人な友人』に俺内ランクが変動しかけとるとは言え、流石にそれはない。
ついでに言えば、あの後、お父上に叱られたんだそうな。
『『唯でさえ現界する回数が多い上に、更に現地で人に混じり働こうとは何事か。貴様は摂理を砕く気か?』と・・。怖かったです・・。父は激昂する事こそないのですが、常からの無表情を更に無表情にして、周囲が凍るかの様の雰囲気で淡々と言葉を紡いできますので・・・正直な話、全身が氷付けにされた様な感覚でした・・』
とは、またしてもいつの間にやら我が家の食卓に来ていた女神さん談な訳だが・・。
うん、そりゃ確かに怖いと思うよ、俺も。
しかも、司ってるのは『創造と破壊』とか言う桁外れなものな訳で、そんなお方にそんな怒られ方されるとか、俺なら心底勘弁願いたい。
特別強心臓って自信もないんで、多分俺なら心臓発作起こして逝ってると思われる。
そんなこんなで女神さんとしてはションボリしてたけど、俺としてはまぁ、ある意味予定調和って言うか、下手にオッケー出てなくて一安心と言うか。
『リネーシャ様元気出して~』
と、何故かコニィに頭をよしよしと撫でられて元気付けられていた女神さんの絵はレアではあったけどな。
・・・・。
うん、気を取り直して次行こう、次。
次に問題になった・・・って言うか、これは要望か。
『持ち帰りが出来るようにして欲しい』
うん、まぁ、ある意味予想通りではあったかな、これは。
ただなぁ。
地球と違って紙が高級品って時点で、包み紙とか使えんってのが痛い。
他に手頃なのって言うと、皮か布、または大き目の葉っぱなんて事になるんだけど、皮や布は綺麗・・・って言うか、清潔なものを使おうと思うとそれなりの値段がするし、葉っぱは葉っぱで衛生的にちと怖い部分もある訳で。
結果、屋台では籠に入れてお手渡しって事にさせて貰ってる。
この籠だけど、屋台通りには数箇所でこの籠の貸し出し、回収を行っている場所があり、言ってしまえば通り全体で使う公共物だ。
ま、食べ物だけでもそれなりに数ある屋台を巡るなら、入れ物がないと困るってのはあるしね。
食べ物用・アクセサリー用・食器用みたいな感じで色分けされて貸し出されてるし、貸し出し場所は井戸の近くで毎回洗ってから貸し出ししてるんで、一応は清潔と言える。
地球的な衛生感からすると、ちと思うところもないではないけどさ。
兎も角、その貸し出し籠に注文の数だけバーガーを載せてお引渡しってのが、バーガーヤムラだけではなく、屋台通り全体でのスタイルな訳なんだけど、この籠は屋台通りからの持ち出しが禁止されている。
通り自体は抜け道もない一本道なんで、通りの中以外にも両端の回収ポイントで確実に返却ってのが決まりなんだ。
ただ、そうなると家に持ち帰ろうって言うのにちと困る。
特にうちの唐揚げだとか、他の店の串焼きみたいのだと持ち帰って夕食のおかずにって人も結構いるみたいで、『持ち帰れる様にして欲しい』って要望が出て来たわけだ。
取敢えず、要望自体はおかしなもんじゃないし、商売にもなるからありがたいんで、ウチとしては『持ち帰りようの容器持参の方に限り』って形で唐揚げ、唐揚げのチリソースがけの単品発売も始める事にした。
中には『持ち帰り容器も店で用意しろ』ってのも居たが、それは無視だ。
地球と違ってパック容器が大量に安く仕入れられる訳でもなく、こっちで言う器は大抵が木製で一個それなりの値段はしてしまう。
持ち帰り用として販売すれば良いかって思うかもしれないけど、そうなると同じ屋台通りで食器を扱う店との兼ね合いが問題になってしまう。
この屋台通りは色んな店がある訳だけど、食品なら食品だけ、食器なら食器だけみたいな住み分けをして区分をつけている面があるんで、幾ら持ち帰り用だからって食器を用意するには、食器を扱う店と話し合う必要がある訳だ。
後、これも重要な理由として、大概が木製である食器を大量に置かせない事で、火事の可能性を下げるって面もある。
屋台自体も結構な審査があって、火事がなるべく起こらない様になって入るけど、どうしたって高温の油を使う以上は火事の可能性はゼロじゃない。
危険性を下げる為にも、極力必要外の木製品は排除したいってのが街としての意見なんだろう。
ちなみに、陶器やら金属やらの器は、規則云々以前に利益的な面で問題ありだ。
木製品以上に高い陶器や金属の器を用意したとしても、それ込みで販売するとなるとそれこそ料理屋行くのと変わらない値段になっちゃうし。
その時点で屋台の利点の一つ、安さがなくなっちゃうからね。
後は・・・。
あぁ、そうそう。
うちの店の売り上げを見て、真似しだした店があったんだけど、そこの店主が色々突っかかってきてるって事くらいかな?
唐揚げって料理自体は酷く簡単な訳で、鶏肉に粉つけて揚げれば見た目似た様なのは出来る訳だろ?
で、さぁ、うちも売り上げアップだ! と意気込んだらしいんだけど、当然、その作り方だと味も何もない訳で。
あぁ、いや、油で揚げられた鶏肉の肉汁が衣で閉じ込められてる訳だから、それなりに旨いとは思うよ?
けどさ、から揚げの何が旨いって、確りと付けられた下味があるから旨いんだ。
醤油ベースにニンニク、生姜、七味唐辛子を入れた漬け汁に一晩付け、衣にも適度な胡椒、塩を利かせて揚げるから揚げの味に、単なる衣つきの素上げが勝てる筈も無い。
と、まぁ、これだけなら真似をしようとして失敗した店主の話で終るんだけど、その店主がちょっとばっかり問題だったんだよ、うん。
売り上げが中々伸びない時点で、さっさと作り方に問題ありと気づけたのは良いとして、『うちでもその唐揚げとやらを売る事にした。だからさぁ、自分に作り方を教えろ』ってのはないと思うんだ、俺。
しかも、香辛料の類が使われてるのも解ったらしく、それも『分けろ』と来た。
いや、さ、香辛料が高級品な世界で普通に使ってる俺も悪いんだけど、だからってただでよこせはないだろう。
買うからよこせ、でもちと問題ありなのは確かだけどさ。
っつーか、商売に使ってる仕入れのルートなんてのは、商売人としては命綱な訳で、これを教えろとかあり得ないと思うんだがなぁ。
第一、『じゃぁ、貴方は自分の仕入れルートを教えてくれるんですか?』って聞いたら、『お前は商売人の命綱を人に教えろってのか!』とか切れだすし。
あれ、何なんだろうか本気で。
う~ん、このバナバの街って気の良い人が多いなぁって思ってたけど、中には居るんだな、やっぱあんなのも。
あのまま突っかかり続けてると、その内屋台通り出禁食らいそうだな、あの人は。
と、まぁ、こんな感じで色々問題も出つつも、バーガーヤムラの運営はそれなりにやれている。
ルリィも楽しそうに屋台の仕事について食事時に話してくれるし、コニィもなんだか楽しそうだ。
それを見て女神さんが『私もやりたかったなぁ』って顔してる時もあるが、それは兎も角として、一応、現時点では成功と言って良いだろう。
この調子で冬があければ、また俺達運び屋ヤムラも本格始動って事になるし、これも我が家は平穏って言って良いんだろうなぁ。
「って、聞いてますかイツキさん?」
・・・・。
って、現実逃避位させてくれよな、女神さん。
うんうん、お父上が怖いのは解ったけどさ?
怒らせたの女神さんじゃん。
ってか、このセイリーム世界で主神なんて立場の女神さんですら怖がってるのに、転生者とは言え一小市民な俺にどうしろと?
「ですから~、こんど女神チャットで話す機会を設けますので、私も屋台に参加させてやって欲しいって頼んで貰えると・・」
「無茶言うなぁ、おい・・・。しかも、女神さんが働くのは俺も反対だから。その辺、解ってる?」
「うぅ~・・・、ルリィちゃんもコニィちゃんも楽しそうですし、私も一緒にやりたいですよぉ~・・」
「あぁ、もう、何か今日は・・・・って、ちょっと待とうぜ女神さん!? あなた何時の間に酒飲んでますか! しかもウィスキーロックで!」
「あはは~、お父様の部屋から持ってきちゃいました~」
「しかも俺のじゃなくて、神界から・・・それも戦神様なお父上のパクって来るとかマジかよっ!?」
「い~じゃないですかぁ~、私だって酔いたい時もあるんですぅ~」
「それは解るけど・・・って、そうじゃないからね!? そもそも問題点そこじゃないから!」
うん、酔ってる時の女神さんはいつも以上にノホホンと言うか、ほんわか口調だってのは解ったけどさ。
これ、俺にどうしろと?
あぁ、どんどん女神さんから威厳が消えていく・・・。
あの日夢の中で出会った、凛として美しかった女神さんはいったい何処に・・・。
再び軽く現実逃避しつつ、俺は女神さんの酒盛りに付き合う事になった。
ほんと、何でこうなったんだろうね?