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鉄鋼車にて異世界へ  作者: 詩月凍馬
本格運営と樹の歪み?
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アルマナリス神官の依頼①

 家族について話してから、数日が過ぎた。


 あの日暗かったクーリアも、俺が帰ってくる頃には明るさを取り戻していたんで、取りあえずは一安心。

 ただ、俺がいない間に何があったのかは解らないものの、皆が妙に張り切っている気がしてならない。


 それまでは俺が地球で学んできた数学なりの勉強がある位だったのが、その日の夜からはネリンさん、イリアさんを教師としたセイリームにおける商売や法と言ったものに関する授業が始まったし、個々人で持つ権利なんかについてはそれこそ事細かに説明してくれている。


 まぁ、こっちの世界に疎い俺には大助かりなのは確かなんだけど・・・妙に力が入ってるのは何でなんだろう?


 それと、もう一つ決まったのは、今後運び屋ヤムラの経理・・・って言うか、報酬交渉なんかはイリアさんが担当する事になった。

 俺としてもこっちの法律なんかに詳しいイリアさんに担当して貰えるのは有難いんで、それは即座にOKしたよ。


 下手に俺が交渉した結果、この前のキリグ村みたいに娘さんでお支払いとはちと困るしね。


 そんな訳で、俺達は運び屋稼業をこなしつつ、空いている時間や朝夕の食事の用意を使って、料理屋台を任せる予定のルリィに料理を教えるって日々を過ごしている。


 まぁ、そんな訳もあって、我が家のリビングは一家の寛ぎの間としての役目以外にも、運び屋ヤムラの依頼交渉の場としても使われ初めてる訳だ。

 ギルドにカウンターを設けるってのも一つの手ではあるけど、こうして家を事務所代わりにも使えば、女神さんのお茶で回復したとは言え、体力が落ちてるコニィを一人にする事もなくて済むから丁度良い。


 変な客が来ないかってのだけが心配ではあるけど、まぁ、いざとなったら亜空間車庫開けて逃げ込めば良いしね。

 基本、コニィはルリィとワンセットで動かせる積りでいるんで、例え勉強がある程度出来てきてもコニィが自由に動けるまでは、ルリィも自宅待機な訳だから亜空間車庫への非難は可能だろう。


 で、そんなリビング兼業の運び屋ヤムラ事務所では、現在、青い法衣に身を包んだ60歳位の女性が交渉の席についていた。


 取り決め通り、基本的に交渉を行うのはイリアさん。

 普段から俺がいるとは限らないし、今回みたいに同席していても『~~は可能か』『~~をやるならどれ位の時間が掛かるか』等を尋ねられた時以外は、基本的に口を出さない事にしてる。


 俺がいない時の交渉で解らない部分があれば、俺が帰宅した後に確認の上で、改めて返事をするって感じでやってるみたいだ。

 今の所、そのやり方で苦情は来ていないし、報酬の方もキチンと『○貨で何枚』って具合に請求してくれてるし、まぁ、問題はないんじゃないかな?


 っと、話題がそれた。


 今回いらした依頼人は、このバナバの街で孤児院を開いているアルマナリス神殿の神官さんで、依頼内容は――


「子供達が安全に遊べる場所を作りたい・・ですか」


 と言うもの。


 話を聞けば、孤児院は神殿の敷地内にある為、安全って意味では問題はないらしい。

 まぁ、神官戦士の皆さんが交代で見回りもしているし、神聖魔法の使い手もいる神殿なら、街中に比べればそりゃぁ安全だろう。


 ただ、詰めている神官の殆どは幼い頃から信仰に生きてきた人が殆どである為、子供が伸び伸びと遊んでいるか・・・って言うと、やっぱり疑問なトコはあるらしい。


「子供達と触れ合うとは言え、我々にとっては神書――こっちの世界での聖書――を読み聞かせるか、神官騎士としての鍛錬を通して触れ合う以外では、余り良い案が思い浮かばないのですよ。勿論、鬼ごっこの様な遊びを共にするなどはありますが、出来れば遊びを通して協調性や規則の大切さなどを学べる遊びはないものか、と・・・」


 そう考えている時に、異国から来た男が運び屋稼業を始めたと言う噂を聞いて、足を運んだのだと言う。


 まぁ、後付け加えるなら、コニィが診て貰っていたのって実はここの神官さんだったらしく、往診に来た際にルリィの勉強兼コニィの暇潰しで作った昔話を見たのも理由の一つっぽいけどな。


 曰く、様々な立場から見る事で、色々な事を考える事が出来るこれらの物語は、孤児たちに読み聞かせるには最適だ、って事なんで一つの話に付き銅貨10枚で印刷して上げた事がある。


 ちなみに、銅貨10枚でそれなりの――パンにサラダ、スープって食事が一食分って所かな?


 マローダーに戻ればコピー用紙は幾らでもリロード可能だし、単に記録したファイル開いて印刷するだけなんで10枚でも高い気はするんだけど、向こうがそれ以上の値引きには同意しなかったんだよ。


『紙の値段は考慮しなくて良いとの事ですが、それを除いても物語を考えたのはヤムラ様です。その“創作”に関する対価として、既に銅貨10枚は安過ぎるのですから、これ以上値引きして頂く訳には参りません』ってね。


 噂に加えて、そんな経緯もあったもんで、俺なら何か知らないかって来た訳だ。


 で、そう言われて俺がパッと思い浮かぶものと言ったら、まぁ、スポーツかな?

 アレはルールを守らないと、ちゃんとした試合にならないから楽しめないし、団体競技なら仲間とのチームプレーなしじゃまともな勝負にならないし。


 ついでに言えば、運動して体も鍛えられるから一石二鳥って理由もある。


 流石に俺がやってた水泳は無理にしろ、スポーツなんてそれこそ幾らでもある訳で、そんな中でパッと思いつくのって言うと――


「まぁ、バスケとか? あれなら五人で一チームだし」


 だろうなぁ、やっぱり。


 サッカーとか野球も良いんだけど、あれ、一チームに必要な人数が多いからるルールに則ってやろうとなると、ちと孤児院の子だけじゃ人数足りなさそうだ。


 それ以前に野球とか使う道具も多ければ敷地も広くなきゃいけない訳で、神殿の敷地内でとちょっと不向きだろう、アレは。


「その、ばすけ? と言うのは・・・」


 何気なく言った俺の言葉に、神官さんは身を乗り出して喰いついて来た。


「俺の故郷のスポーツ・・・運動の事ですね。球を使うんで球技になりますけど、五対五に分かれて得点を競うんですよ」


 そう言って、手近にあったコピー用紙にバスケットコートの絵を描いて、軽く説明。


「・・・・で、この輪っか――ゴールって言うんですけど、そこにボールを入れたら得点って事になります」


「成程・・。シュート、でしたか? ボールを投げる場所によって得点が変わり、時間内により多くの点を入れた方が勝ちですか・・。これは良いですね。より多く点を入れようと思えば、チーム全員で協力しなければなりませんし、勝敗も解り易い。木剣等も使わない分、安全でもあります」


 うん、そこが一番大事な所。


 剣術なんかでキチンと訓練して、その中で怪我する分には兎も角、遊びで怪我するのは出来るだけ避けたい所。

 まぁ、それでも怪我する時は怪我するけど、木刀なんかを使ってチャンバラごっこするよりはよっぽど安全なのは確かだろうし。


 ついでに言うと、作るのが比較的簡単ってのもある。


 今回の依頼で言うなら、作るのはバスケのコートとゴールだけだしね。

 ・・・流石に体育館みたいな形で作るとなると一仕事どころじゃないけど。


 まぁ、遊びで使うって位だし、丈夫そうな丸太と板を使ってゴールの胴体と板を作り、木枠、もしくは金枠と網をつかって輪っかの部分を作れば良い訳だ。 

 後は確りと固めて地均しした場所にコートを作れば良いし、スリーポイントみたいなエリアの線は、大丈夫なら芝生かなんかを植えれば恒久的にひけるだろう。


 別にその度その度書くんでも良いだろうけどな、面倒じゃないならさ。


 ボールの方は拠点が出来て、仲良い奴が増えて来たらやろうと思って持って来たスポーツ用具が幾つあるんで、バスケのボールもその中に入っている。

 ダース売りで買い込んだアレは、箱の中に空気を抜いて畳んだボールが十枚程入ってるって奴なんで、一個くらい上げた所で特に問題なし。


 実を言うと、ゴールの方も持って来たかったのは確かなんだけど・・・流石にマローダーの収納には入らんから諦めた。


 異世界に行こうってのに、武器より先に『どんなスポーツなら出来そうかなぁ』なんて考えが出た辺り、俺も根っからの運動好きって事なんだろう。

 だって、普通に考えたら『自分にはどんな武器なら使えるか』って方が先に立つ筈だし。


 まぁ、基本スタイルが『逃げるが勝ち』ってのは、変わらないから良いんだけどな。


 と、依頼の事に話を戻そう。


 敷地面積なんかを見てみないと正確な事は言えないけど、コート一面分の設置費用はそう高くはならないと思う。


 ゴール用の木材の加工と金枠、ネットの代金と設置費用、整地に加えて芝生なんかで恒久的にコートを敷くつもりなら、それが追加代金になる、と。

 で、それらにプラスされるのが人件費な訳だけど、ユンボを使えばそれもかなり抑えられる訳だから・・・。


「・・金貨50枚、でどうでしょうか? 勿論これは、素材等に掛かる費用を全て含んだものですので、私ども運び屋ヤムラが実際に受け取るのは、40枚前後になりますね」


 即座に計算を弾きだしたイリアさんが、そう言って神官さんに視線を向ける。


「全部で金貨50・・ですか。神殿の側としても蓄えはありますが、少々キツイ額ではありますね・・」


 難しい顔をする神官さんだが、まぁ、そうだろうなぁとは思う。


 セイリーム世界での金貨一枚ってのは、一般市民で言う所の約一カ月の生活費にあたる訳で、大体4年半近い分のお金を一気にってのは難しいだろう。


 特にこの世界での神殿の収入って、あくまでも信者からのお布施と街からの寄付金、後は医療神官達が行う魔法医療の報酬な訳だしね。

 地球と違って、お守りだとか奉納してる仏像なんかの見物料とかがある訳じゃない分、資金面での余裕は余りない筈だ。


 調べた限りじゃ、成人式に当たる15歳の洗礼は基本無料らしくて、それぞれが進行する神様を祭った神殿に出向き、洗礼を受けるんだそうだ。


 この理由は、『神の信仰厚く、自らを律した者への神殿からの祝い』ってのが、成人の洗礼の意義だから、らしい。

 だからって誕生日を迎えた奴から好きに来いってんじゃ、流石に神殿側でも都合が付かないんで、三か月に一度、15の日に洗礼を行うんだそうだ。


 まぁ、やる事って言っても成人を迎えた新成人に、神官が神書の一節を読み聞かせ、『新成人として、仕事に励み、より良い日々を過ごす様に』ってな事を言って終わりらしいけどね。


 と、神殿側の収入源はそんな感じなんで、特にお金持ちって訳ではない。


 女神さん――リネーシャ神やアルマナリス神、マナリアースを祀った神殿は、祀っている神様がメジャーな分、資金的な余裕があるにしろ、それぞれが教義にしたがった慈善事業を抱えてるんで、そっちにお金がまわってる。


 目の前の神官さんが所属する神殿が運営してる、孤児院がそれだね。

 何しろ、アルマナリス神は『正義と真実』の神様であると同時に、『孤児達の守護者』な訳だから、当然、信者としては孤児達の救済に力を割く、と。


 取り敢えず、今目の前で難しい顔をしている神官さんに、俺は一つの提案をする事にした。


 それは地球で言う所のローン制度・・って言うとちと語弊があるか。

 あれはローンを汲んだ分、返済時には幾らかの利息が付く訳だけど、こっちではそれはなくても良いだろうって思ってる。


 まぁ、材料費なんかは最初に一括で貰うけど、それ以外の――人件費やらの部分は分割で払って貰おうって事。


 実はこれ、イリアさん達と話し合って決めた、『奴隷譲渡でのお支払い』を避ける為の手段だったりする。

 キリグでは調査不足もあって、イリアさんの身柄でお支払いされてしまったけど、今後もそれじゃぁちと困る。


 無節操に人だけ増えて行っても養い切れないし、全員に全員仕事を割り振れるかって言うと、無理だとしか言えないし、かと言って、お支払いされた奴隷を売り払って金に変えられるか、と問われると多分俺には出来ないだろう。


 なら全額一括で、ってのもキリグ村が良い例な訳だけど、そこまでの余裕がない所だって多い筈。


 その点さえクリアしてしまえば、キリグ村みたいな復興事業だとかって、仕事の内容としてはウチ向きだからね。


 具体的に言えば、『正義と真実』を司るアルマナリス神の神官に契約未届け人になって貰い、依頼人と作業者である俺達運び屋ヤムラ、そして神殿に保管する分の三枚の契約書を作る。

 その後、分割支払い分を依頼人はアルマナリス神の神官を通じて俺達に支払うって形になる。


 当然、経由する事になるアルマナリス神殿には、中間マージンとして報酬から何割かを渡すしかなくなるが、司る教義が教義だけに報酬をちょろまかすってのは考え難いし、もしやられたとすれば、女神さん経由でアルマナリス神にご報告願えば良い。

 厳格で有名なアルマナリス神だけに、信者のそう言った不正は絶対に許すまい。


 後、ついでに言えばこれ、女神さんからの依頼でもあったりするんだ、実は。


 オッサンが良い例になってしまうけど、『○○神の名に賭けて』ってのを自分の都合の良い様に解釈して使ってる者も居ない訳じゃないんで、アルマナリス神はそこらを綱紀粛正しときたいらしく、このアルマナリス神殿を挟んだ分割支払い制度ってのは、そう言った意味でも都合が良いって訳だ。


 と、そこらの事情を伏せながらではあるけど、制度について説明すると――


「成程。それでしたら、何とかなりそうですね」


 と、納得の表情。


 その後の話し合いで、手付金として材料費を含めた金貨12枚を一括で支払い、その後、残りの38枚は月に金貨2枚ずつの19回払いと言う事で纏まった。


 ちなみに、今回はアルマナリス神殿からの依頼なんで、中間マージンは発生してない分、普段よりは若干割引されてる事は話しておく。


 すると、神官さんは頷きながら、


「それに関しては問題ありません。私ども自身が依頼人ですので、中間マージン・・でしたか? それを頂く訳には参りませんので」


 と微笑みながら答えてくれた。


「では、交渉は成立とさせて頂きます。この後、正式に契約書を作成しましたらこちらから伺わせて頂きますので、書類を確認後、互いの烙印をもって正式に契約。手付金の支払いを確認後、作業を開始する事になります」


「承知いたしました。それでお願い致します」


 そう言って握手を交わすイリアさんと神官さんを眺めながら、俺は実際に行う際の工事計画を練る。


 兎も角、キリグ村に次いでの大仕事、頑張るとしますかね。


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