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鉄鋼車にて異世界へ  作者: 詩月凍馬
運び屋ヤムラ起業
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幕間 女神さんとお茶会

『っしゃ、女神来た! これで転生チーレム確定!』


『漸く来たか。良いか、俺が望むチートは・・・』


『まず超絶美形で身体能力もすんごい高く! で、産まれは貴族の家で・・』



「・・・と言う訳でして」


 そう言って深々と溜息を零す女神さんに、俺はどう言ったものかと頬を掻くしかなかったり。


 今日も今日とて開店休業中の我らが『運び屋ヤムラ』。


 そろそろ暇も持て余して来たんで、何かすっかなぁ・・・なんて考えて所で、玄関の呼び鈴がなる。

 ギルドか衛兵さんかと思いつつも、扉を開けた俺の目に映ったのは、豪奢な金髪に銀色がかった緑色な瞳の超絶美少女――


 つまりは女神さんだった訳でして・・・。


 一瞬、世界が止まったかと思ったね。

 何をどうすれば、一応転生者とは言え一民間人に過ぎない俺の所に、この世界の主神様が来ると思えるよ?


 女神チャットで交流のあるクーリアも、画面越しですらないリアルでのご対面に凍り付き、その辺りの事情を知らないルリィにイリアさんは神像そのままの姿の少女の登場に、唖然としたまま動けない、なんて状態になったし。


 まぁ、俺としても驚いちゃいるんだが、女神さんの天然ぶりはある意味解ってたんで、取りあえずはお茶でもとリビングに通した訳だ。

 そしてルリィが入れてきてくれたお茶を飲みつつ、話を聞いてみれば――


 元々、世界樹に宿る神格で魂の循環の管理者でもある女神さんは、今はご存じの通り昇格に伴って、複数世界での生死を司る神様もやってる訳なのだが、最近、頓に変な輩が増えてきて困っているのだとか。


 その内容を聞いて、呆れたと言うか何と言うか・・・・。


 死者の魂を来世へと送る段階で、少なくとも一度は死者と顔を合わせる事になるそうなんだけど、そのタイミングで何故か『チートくれるんですよね!』なんて人が多くなってきたと、そう言う事らしい。


 うん、それ明らかに異世界転生ものの影響受けまくったオタク君だわ。


 っつーか、良いのか日本。

 かつての技術大国から、オタク大国なんて呼び直されつつあるのは知ってたけど、そこまで現実と妄想の区別が付かん輩が増えてきているとか、マジで危険な方向行ってないか?


 いや、実際に神様転生なんてしちまった俺が、言って良い事じゃないって気もするけどさ。


 ・・・本気で日本は何処へ向かってるんだろう、なんて思えてきた。


 まぁ、女神さんとしても一々本気に取る訳にも行かないんで、来世に送るのは確かだけれど、確りと輪廻の輪を潜っての転生なので記憶の保持だとか、特殊能力の付加とかはないんだって説明だけして、輪廻の輪に送りこんでいるらしいのだが――


「どう言う訳か、そう言った方々は『嘘吐き! 女神が出て来たんだからチーレムさせろよ!』ですとか、『何を戯けた事を言っている! 俺が死んだのは貴様等のミスなのだろう!』等と、抵抗してくる事も多いので・・・対応に時間がかかるのもそうなのですが、それ以上に輪廻の中に持ち込まれる悪感情が多くなっていまして。我々としても頭が痛い所なのです」


 と額を抑えて溜息を吐く女神さんに、取りあえずは同情・・・。


 ただなぁ、それを俺に聞かせてどうしろというのだろうか。

 向こうに戻ってなんとか・・・なんて言われても、社会全体を変えるとか一市民の俺にゃ出来んぞ?


 いや、まぁそれ以前に向こうに戻る事すら不可能だろうに。

 アッチに居ちゃマズイからってんで、このセイリーム世界に送られた訳だし。


「あぁ、大丈夫、安心して下さい。別に樹さんに何とかして下さいって言うつもりはありませんから。ただ、その事を母に相談しましたら・・・・」


 ほぅ、あの今や神聖大樹とか言う、神界の世界樹やってる御母上に相談したと。


「『最近お気に入りの方がいらしたでしょう? 少し話してみれば、気も紛れるんじゃないかしら』と言われまして。それで・・・」


「・・・俺ん所に愚痴りに来た、と」


「はい」


 いや、そんな清々しいまでの笑顔で言われてもさ・・・。


 うん、愚痴を聞いたり位、別に良いのよ。

 女神さんには世話になってる訳だし、色々職務上のストレスってもんもあるだろうし。

 俺と話して少しは解消できるってんなら、それに付き合う位問題ないともさ。


 ただ、さぁ・・・。


「それ、女神チャットじゃ駄目だったの?」


 うん、それが気になる所なのだが。

 別段、女神チャットでもお話は出来るんだし、取りあえず数日に一度のペースでチャットもしてるんだから、別にそれでも良かったのではなかろうか。


 俺がそう尋ねると、女神さんはちょっと困った様に笑って答える。


「それが・・・チャットでお話をしていると、どうにもお仕事な感じがしてしまって・・お友達とノンビリって感じにはならないので・・」


 その割に、普段のチャットの時から結構寛いだ感じはしてたよーな・・・・?


 ってか、俺って女神さんにお友達認定されてたんかい。

 いや、『寵愛』の時点で、結構気に入られてるんだなぁとは思ってましたけどね?


 にしても・・・高校卒業以前を抜かせば、それ以降になって初めて出来た友達が女神って、うん、どうなんだろう。

 あぁ、嬉しいのは確かだけどね?


 ・・・・・・・。


 取り合えず、素直に喜んでおこう、うん。

 ってか、変に考えこむと、ちと怖い事になりそうな気がしてならん。


 なんで、取りあえずは話題を変えてしまう事にしよう。


 そう考えた俺の目に留まったのは、お茶の注がれた湯呑――あぁ、丁度良いものがあったじゃんと内心で頷く。


「それにしても・・・随分と美味しいお茶だよね。初めて飲む味だけどさ」


 このお茶は女神さんが持ち込んだもの。

 折角なんでルリィに頼んで淹れて貰ったんだけど・・・滅茶苦茶美味いんで本気で驚いた。


 まぁ、注いだお茶の色が緑銀・・・って言うのか?

 銀色がかった緑色で、何だか女神さんの瞳の色を連想させる。


 最初こそ見た事もない色に戸惑ったけど、飲んで見れば砂糖も入れてないのに確りとした甘みが感じられるし、その割に飲み終わった後のサッパリ感は緑茶以上で、何だか飲んでいるだけでも体の悪い所が治って行きそうな――


「あっ、それでしたら良かったです。それ、私の宿り木の・・あぁ、宿っている樹の事ですが、その新芽を摘んで作ったんですよ」


 ――って、だからかいっ!


 え?

 何、これ・・・世界樹の新芽で作ったお茶な訳?

 ぜ、贅沢すぎやしないか、そのお茶・・・・。


 女神さんの言葉に、俺含め全員が飲んでいたお茶を凝視して固まっているが、やはり女神さんはノホホンな感じを崩さない。


「世界樹の新芽はエリクサー等の原料としても使用されますし、滋養はたっぷり、更には世界樹が取り込んだ魔力も内包してますから、お茶にすると美味しいんですよ」


 おいおい、エリクサーの材料とか、普通に伝説クラスのレアアイテムじゃねぇか、それ。

 ・・・このお茶を売り出したら、グラム単位で白金貨どころじゃ済まん気がしてならんのだが・・・。

 ヤバい、これ、世界で最高級に高いのは確定だわ。


 そんな俺達に女神さんは笑顔で更に追い打ち。


「宜しければ、こちらも試してみて下さい。こちらの袋に入っているのがマナリアース・・・私の母の宿り木の新芽を使ったもの、そしてこちらがアルマナリス・・叔母様の宿り木の新芽を使ったものです。それぞれ、やはり司るものが違いますから、味の方も違っていて面白いですよ」


 うぉぃっ、神聖大樹な御母上まできちゃったよ!?


 ってか、アルマナリス神って正義と真実を司るって女神様だよな?

 え? 何、アルマナリス神もどっかの世界樹に宿ってるとか、そっち系な訳か?


 混乱する俺を見て女神さんは少し小首を傾げていたが、やがて思い到ったのかポンと両手を打ちならして言葉を続けた。


「あぁ、そう言えば樹さんは知らないんでしたね。私の母と叔母――マナリアースとアルマナリスは元々、樹界リネアムと言う二本の世界樹を抱く世界の神格なのです。慈愛樹と呼ばれた母、マナリアースが宿る世界樹と、立法樹と呼ばれた叔母、アルマナリスが宿る世界樹にて支えられた世界でして、それぞれが昇格に伴って他の世界でも神として祀られていますが、本質は私と同じ世界樹の神格なのですよ」


 いや、あの、女神さん?

 何だか毎度毎度衝撃の事実ってのを連発してくれてますが・・・俺らの精神も適応できる範囲ってもんがあるんですよ?


 特に驚きとか。


 見ろ、クーリア達なんか今にも卒倒しそうになってるし。


 ・・・これ、神殿関係者が知ったら驚く所じゃないんだろうなぁ、と半ば現実逃避。


「母は兎も角として、叔母様が本当は世界樹の神格だと言うのは余り知られていませんからね。この世界での母は私の血族神であり『慈愛』を司る母神とされていますし、叔母様は『真実と正義』の神と言うのが一般的な解釈ですから」


 うん、取りあえず、女神さんの家系はとんでもないってのは解った。

 この分じゃお父上も凄いんだろうなぁ。


 なんて思っていたら、


「父は元々人族からの転生神ですが・・・余りに強大な力を得るに至った事で、妄りに名を出す事も出来ません。ですので、この世界でもただ『白銀』とだけ呼ばれていますね。一応、区分としては創造と破壊を司る戦神です」


 と、嬉々として説明して下さいました、はい。


 あ~・・・女神さんと話すと毎回ではあるんだが・・・。

 やっぱ感情面での振れ幅が偉い事になるな、うん。


 もうアレか?

 女神さん関連では『常識』とか『固定観念』なんてもんは、全部投げ捨てとくしかないのか?

 いや、それでもなんかその更に斜め上とか、普通に来られそうな気がしてならんが。


 ・・・・・・・。


 うん、も、良いや。

 なんか驚くのに疲れた。

 今後、全てに置いて『女神さんだし』で済ませよう。

 そうした方が精神衛生上良さそうだ、マジで。


 そう開き直った俺は、それから先は当たり前の様に女神さんとの会話を楽しむ事にした。


 友達だって言ってくれてる相手に、一々会話の度に固まってるとか失礼過ぎるし。

 そんな俺を見て、クーリア達も何とか気を取り直したらしく、少しぎこちないながらも会話を交わす事が出来ているし、そんな皆に女神さんも本当に嬉しそうにしてるから、それで良いだろう。

 ってか、ダメとか言われても他に何も出来んのだし。


 と、開き直った事で落ち着いたからか、このお茶を飲ませればコニィも元気になるのでは、と思いつく。


 コニィのアレって、正確には病気って訳じゃないと思うんだよなぁ、俺的に。


 ルリィの話を聞いてる限りじゃ、元々ロクなもん食ってなかったみたいだし、年齢的にも小さい訳だから、栄養不足からくる免疫力の低下って奴なんじゃなかろうか。

 帰ってこないとか言う母親も、ルリィ達にはノータッチでロクに世話らしい世話してないっぽいし、栄養に加えて愛情もまともに受けられてないなら、精神的なストレスとの相乗効果で大きく体調を崩したんだと思うんだが・・・。


 取り合えず、それについて女神さんに尋ねて見れば、御母上のお茶を試してみる事を進められた。


「私のものでも良いのですが・・・やはり神としての各が高い分、母のものの方が効き目は良い筈です。結局、支える世界の豊かさがそのまま世界樹としての力に繋がりますから。産まれた世界であるリネアムを含めた幾つかの世界群と、神聖大樹として支える神界の分の神力が宿っていますので、エリクサー等より余程上等なのではと」


 あはは、エリクサー以上ですか、このお茶・・・。

 まぁ、女神さんからのお墨付きなら、これ程安心出来る事もないだろう。

 今コニィはお休み中なんで、起きた時にでも飲ませてあげるとしよう。


 コニィの回復にも目処がたったからか、そこからの会話は更に弾む。


 そして次に話題に上ったのが、オッサンことボガディ氏である。


「兎に角、好い加減に止めて貰わないと・・・・。今は『寵愛』保持者の意を汲む形で村の方々も抑えてくれていますが、その内イツキ様がどう庇おうとも庇い切れない様になると思いますし・・・」


「成程。イツキ様の『寵愛』もそうですが、名付きの加護持ちの意を汲まず、村の判断のみでの制裁は危険だとの自戒はされているのですか。確かに言い伝えの様な自体になってしまえば別ですが、そうでない場合の加護持ちとのトラブルは、加護持ちの方のご意思が尊重されるのが通例。しかし、それでも度を越してしまえばそうも言っていられなくなってしまいますね・・」


 クーリアとイリアさんの話を聞きながら、オッサンって実は滅茶苦茶立場がヤバいではなかろうかと再認識。

 今までの段階じゃぁ、被害者の俺の意見を優先してくれてたけど、これからもあの調子じゃそれで済ます事も出来なくなる、と。


 まぁ、加護持ちの意見が尊重される理由ってのには、加護を授けた神様の方でも加護持ちの意見を無視してまでの神罰は中々ないってのが理由らしいね。

 逆に加護持ちが『出来る限り穏便に』って言ってるのを無視して、『加護持ちに比例を働いたからには死あるのみ!』なんて対応をした相手に、逆に神罰が降ったって前例があるとか。


 っつーか、そこまでして加護持ちの意見が尊重されるとか、加護を与える神様ってのはよっぽど注意して加護持ちの事を見てるっぽいね。

 そうでもなきゃ、加護持ちがどう言う対応を望んでいるか、なんて気付けないだろ。


 そして、それを裏付ける様に


「我々神の方でも、出来得る限り当人の意思を尊重する事にしておりますが・・・余りに度を超えてしまいますと、当人の意思を無視してでも神罰を下さねばならなくなります。イツキさんの場合、『寵愛』と言う加護以上に私との結びつきが強いものを持っていますから、村の方々も抑えているのでしょう」


 とのお話が。


 あぁ、やっぱそう言う事な訳な。

 女神チャットとかで話すと、結構俺の事良く見てるっぽいからそうじゃないかとは思ってたけど。


 そして、女神さんは少し考えこんだ後――


「では、こうしましょう。イツキさん、今から言う言葉を復唱して下さい」


 そう言って紡がれたのは、


『そは偉大なる白銀の系譜にして、慈愛樹の血統に連なる者。黄金の髪をたなびかせ、緑銀の眼にて遍く全てを見守る者。世界樹に宿りし御魂よ、我が声に応えて姿なせ。汝が名はリネーシャ也』


 と言う呪文っぽい言葉・・・・って、ちょっと待て!


「なぁ、女神さん・・・・それってさ、もしかして召喚の呪文だったりする?」


 何となく見当は付いているものの、そうじゃない事を願って尋ねてみると、満面の笑みを浮かべて頷く女神さんが。


「はい。私の召喚呪式になりますね。とは言え、その呪文はイツキさん専用に組んだものですから、イツキさん以外が唱えても私が召喚される事はありませんし、そもそも起動すらしませんので、ご安心下さい」


 だ・か・ら!

 安心できねぇっての!


 ちょっ、何?

 女神さん召喚出来んの?

 え?

 俺、女神召喚師?


「後でカードを確認してみて下さい。加護の欄に『女神の呼び手』と言う称号が追加されている筈です。叔母様も『真実ならざる虚構の証明に使われては堪らん』と仰っていましたから、次にそのドワーフの方とお会いした時にでも呼び出して頂ければ、私からも説得致しましょう」


 うわ~・・・オッサン関係って滅茶苦茶話デカなっちまったよ・・。

 説得すんのに、遂に女神さんまで出張ってくるとか、これ、かつてない事態だよな、間違いなく。


 そんな女神さんの優しい気遣いに感謝しつつも、何だかエライ勢いで加護がパワーアップして行く事態に、俺はただただ、頭を下げるしかなかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 女神さまそういう馬鹿は来世は隣国で生まれたいか? と聞けば黙りますよ?3つ隣国あるけど?直ぐ隣行きたい? と聞いてみると間違いなく大人しくなるよ?
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