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鉄鋼車にて異世界へ  作者: 詩月凍馬
運び屋ヤムラ起業
38/57

騒ぎの後、戻ってきた日常 「平穏って、良いなぁ・・・・」

この場を借りて御礼申し上げます。

PV68000突破、ユニーク8200突破が叶いましたのは、読者の皆さまの御蔭です。誠にありがとうございます。


それでは、本編をお楽しみください。

 イリアさんの爆弾発言から今日で三日目。

 バナバに戻った俺達は漸く落ち着きを取り戻していた。


 いや、あの後は本気で疲れたよ・・・。


 ただ、まぁ、爆弾発言に驚いてたのは俺だけだった、ってのが更に驚いたけどさ。


『何言ってるんです。イツキさんの仕事ぶりに対する報酬となると、その位は行っちゃいますよ? 普通にお金でお支払い~なんて言ったら、それこそ白金貨で何枚の世界です。今のキリグ村にそんな余裕があると御思いで?』


 とはネリンさんの言葉だが、残念な事に否定は出来ない俺が居た。


 資材運搬から始まって、村の宅地整理に食料の提供、技師さんの送迎・・・と細かい事を上げればそれこそ結構な数になる訳で、塵も積もれば~の諺じゃないけど全部の報酬を足すと相当な額になるのは確かな事。


 そして今のキリグには金銭的な余裕がなくて、差し出せるのは娘位・・・となれば、


『そうなれば当然、最も高額が付くだろう娘さんが差し出される訳ですから、そう言う意味ではイリアさんが一番適役って事ですね。整った容姿で礼儀作法を修め、交渉事を任される程の学もある。更に言えば魔法適性持ちな訳です。ここに彼女の種族(・・)の希少性を加味すれば、それこそ最低価格は白金貨の世界になりますからね』


 って事になってしまうのも頷けるんだ。


 にしても・・・・。


「ハーフエルフのクーリアだけでも目立ってたのに、今度は純血の妖精族(フェアリード)かよ・・・」


 そう、イリアさんは妖精族なのだ。


 あの日、あの爆弾発言の後で突然来ている服を緩め始めたイリアさん。

 何をしてるんだと混乱しているこっちを置き去りに、後ろ開きになっている服を緩めて背中を露出させると、少し力む様に眉を寄せた。


 その次の瞬間、ミギーさんとはまた違う蝶の様な羽根がその背に現れたのである。


 流石にこれには、俺のみならずイリアさんの譲渡を予測していたらしい皆も驚いてたよ、当然の如くね。


 だってそうだろう。

 俺達は『年齢の割に賢くて礼儀正しい才女』だって思ってた訳で・・・。

 それがまさか、俺と同い年の妖精族だなんて思っても見ないっての。


 姉のイルワさんも父親の村長さん、更にはその奥さんにも会っているけど、どっからどう見ても純血の人族だったし、なのに妹のイリアさんは妖精族とか、普通は思う訳もないだろう。


 まぁ、その辺りにはイリアさんの事情ってもんがあったみたいだけどさ。


『私と家族の間には、お気づきの通り血の繋がりは御座いません。元々私は、棄児だったのですよ』


 最も捨てられた当時の記憶は、余りにも幼すぎてイリアさん自身にも残っていないらしいので、自分が捨てられたのか、それとも何かの犯罪に巻き込まれる等して拐されたのか、それ以外に何か理由があったのかは解らないものの、物心付き、キチンと記憶に残る年齢になった頃にはイルワさん達一家の下で、次女として生活していたそうだ。


『勿論、種族そのものが違うのですから、気付かないと言うのが無理な話。羽根、なんて解り易い違いもありますから、余計にですね』


 とまぁ、自分は血が繋がってないんじゃないかってのは、この言葉からも解る通り早い段階で気が付いた。

 そして父母に思い切って尋ねた所――


『全て包み隠さず、教えてくれました。私は狩りに出た父が川の畔で拾って来た子である事、その時の私は身に纏う服も無く、身元を示すものも何一つ残されていなかった事等です』


 幾ら自然との共生に長けた妖精族とは言え、幼い身の上で更には衣服の一つもないままにそんな所に放置すれば、待っているのは死だけなのは確実。

 それで村長さんはその子――イリアさんを自宅に連れて帰り、暫く世話をする事にしたのだそうだ。


 そしてある時、村に訪れたエルフの冒険者に請うて精霊との会話を頼み、イリアさんの両親の行方かなにかを知らないか、尋ねて貰ったらしい。


『父としては、もしかしたら沐浴等に来ていた際、何らかの原因で少し場を離れただけ、もしくは、私が川に流されたか何かで、産みの両親が探している筈だと考えた様です』


 まぁ、自身も子を持つ親として、そう考えるのは当り前だろうと思う。

 地球でもそうだけど、真っ当な親をやってる者からすれば、自分達が望んで産んだ筈の子を虐待したり、捨てたりする親の心境なんてもんは、完全に理解の外。


 拐された場合なら尚の事、行方の解らないイリアさんを探している筈だと思うのが普通だろう。


 ただ、残念ながら精霊達との会話で得られた情報からも、イリアさんのご両親を示す手がかりは何一つ得られず、また、他の妖精族がイリアさんを探している様子もないと言う結果しか得られたかった様だ。


『それを知った両親は、血縁を失った私を自らの子共として引き取る事にしたのだそうです。例え血が繋がらず、種族が違おうとも、この家に住む以上は自分達の実の子共である、と』


 そう語るイリアさんは、どこか誇らしげな笑みを湛えていた。


 ま、その気持ちは俺にも解る。

 孤児だった俺を引き取り、実の子同然に育ててくれた矢村の両親に感じていたものと同じだろう。


 まして、彼女の場合は血筋どころか種族そのものが違う。

 誰が見ても血の繋がりがないと解る彼女を、『それでも我が子だ!』と言い切れるってのは、一人の男として、一人の親父として凄い事だってのは間違いないし、腹を痛めた訳でもない娘に対して、実の娘と変わらぬ愛情を注いできた村長さんの奥さんも、一人の女、一人の母として、間違いなく立派な人だって訳だ。


 そしてそんな両親の間に産まれたイルワさんも、行き成りやってきた種族の違う妹に戸惑う事も無く、極々自然に『やんちゃで落ち着きはないけど、優しくて頼りになるお姉ちゃん』してたそうである。


 ・・・個人的に、落ち着きがないのに頼りになるってのはちょっと矛盾してる様な気もしたけど、まぁ、解らないでもないかな?

 きっと、イリアさんをアチコチ引っ張り回して困らせたりもするけど、それでもいざとなったら体を張ってでも助けてくれる、そんなお姉さんだったんだろう。


 とまぁ、そんな話を聞いた訳だが、ある意味、だからこそ今の状況に繋がってるって訳で――


『種族が異なるにも関わらず、私を護り育んでくれた父と母、そして姉。それに村の皆もただ一人種族が違う私にもそんな事等関係ないとばかりに接してくれました。この度のヤムラ様への譲渡は、そんな私が出来る村への恩返しでもあるのです』


 なんて事を聞いちまったら、それこそ『要らん!』なんて言えやしない。

 ルリィの時もそうだったけど、ここで断っちまったらイリアさんが正式に身売りして、そのお金が報酬として払われるんだろう、どうせ。


 そんなん、今の話を聞いた後に受け取るとか、どんな精神的な拷問だよ?

 だったら謝礼なしのがナンボもマシだっつーの!


 とは言え、今後の事も考えるとマジで『だったら今回はタダでも良いよ』なんてのは言っちゃいけない言葉な訳で・・・・。


 結局、俺はイリアさんを迎え入れる事にした訳だ。

 っつーか、それ以外の選択肢が取れる奴が居たとしたら、ソイツは結構な外道か後の見通しも出来ない様なアホのどっちかだと俺は思う。




 そんな訳でイリアさんを迎え入れた俺達だが、それからの三日は忙しかった。

 あぁ、それも本気で。


 今回の依頼で俺達が達成した常識外れの戦果――って言い方も変な気はするが――を受けて、ギルドの方では結構な騒ぎになってるらしい。

 っと、別段悪い意味じゃないぞ?


『これだけの事が出来るなら、○○を任せればもっと街の発展に繋がるのでは?』


 なんて意見が数多く錯綜してて、連日会議がされてるんだそうな。


 まぁ、ギルドなんて言ったって結局は商人の集団な訳で、より利益を上げられる様にって考えるのは自然な事。

 特に商業ギルドはそれぞれの分野に置いて『服飾管理課』『彫金管理課』『奴隷管理課』etc・・って色々課が分かれてるからね。


 そうなりゃ当然、どの課であっても『我らの所に優先的に!』って考えがある訳で、その辺りの利益計算なんかも働いて中々会議は難航してるみたいだ。


 対して商業ギルドではなく、治安維持を引きうけている衛兵にも動きはある。

 マローダーの常識外れな機動力を生かせば、それこそより広い地域をより早く見回れる訳で、それは犯罪や事故の早期発見につながるし、キリグ村でやって見せた宅地整理の技術を使えば、傷んだ街道なんかの補修も素早く出来るってんで、こっちもこっちで色々と話し合いが持たれてるって訳だ。


 なんで、今の所俺達『運び屋ヤムラ』は事実上の開店休業になっちまってる訳だけど、まぁ、こればっかりは仕方ない。

 ここで下手に『お前らの都合なんざ知らん、俺達は勝手に営業するぜ!』なんてやらかせば、それこそ面倒くさい事になるのは解ってるしね。


 ギルドも衛兵さん達も、極力こっちの事情を優先するって言ってくれてるし、飽くまで『依頼』って形で仕事を頼む事になるって言ってるから、別段問題もないし。

 だって、『依頼』って事は拒否権だってある訳だしね。


 まぁ、断る為の正当な理由ってのはいるけどさ。


 じゃぁ、何で忙しかったのか?

 簡単だ。

 家の変更やら引っ越しやらに追われたって事。


 最初に契約したあの借家の間取りは、一階がキッチンにトイレ、リビングとルリィ達に割り振った一部屋、二階が俺とクーリアの部屋とネリンさんの部屋で二部屋って具合なんで、イリアさんに割り振れる部屋が無い訳だ。

 ルリィ達の部屋はただでさえ二人で一部屋を使って貰ってる訳で、そこに更にイリアさんを押し込むなんてのはちょっと無理がある。


 俺とクーリアの部屋も似た様なもんだし、唯一一人部屋なネリンさんも服飾関係の資料だとか、商品の試作なんかをしたりする事もあるんで、実は結構な物持ちだったりするからね。

 そこに加えてイリアさんの分のベッドだとかまでは、ちょっと入らないって状態なんだ。


 あぁ、心配しないでもネリンさんの部屋はただ物が多めってだけで、散らかってたりなんて事はないよ?


 しっかり整理されて気持ちのいい空間になってるけど、例の『魔法式ミシン』みたいな場所を取るものもあったりするからね、ベッドをもう一つって言う余裕がないんだ。


 まぁ、そんな訳なんで彼女達の衣食住を保証しなければならない俺としては、早急にもう一段階大きな家を探さにゃならんかった訳だよ。


 法的な意味合いで言えば、ただの同居人――ってのは失礼な言い方になっちゃうけど――であるネリンさんには、俺が衣食住を保証する義務はない。

 けど、それ以外の皆――俺の奴隷であるクーリアとルリィ、所有権の移譲が行われ『譲渡奴隷』って言う特殊なカテゴリーではあるものの、立場上は奴隷なイリアさんなんかは俺が衣食住を保証しなければならない義務がある。


 奴隷の主ってのは、奴隷に対しての大きな権利をもっちゃいるけど、それに比例して背負う義務もまた大きい訳だ。

 最低限の衣食住の保障、人頭税の支払い・・・と、細かく上げて行けば結構な数になる。


 勿論、これは正規奴隷を買い取って、正規の扱いをするのならばって事だから、まともに護ってる奴がどれだけいるかは解らないってのがネリンさんの意見だけどな?


 その辺りの法律には、お店で奴隷を使ってるだけあって、ネリンさんが当然詳しいんだよ。


 まぁ、そんなネリンさんをしても――


『イリアさんの奴隷身受けは予想の範囲内でしたが、まさか『所有権の譲渡』なんて形を取るとは・・・』


 って驚く位に『譲渡奴隷』ってのは珍しいらしい。


『人はそれぞれ、自分の『所有権』を持ってます。で、金銭を対価にそれを他人に売り渡したのが『通常奴隷』、罪を犯した結果、法的な拘束力で取り上げられたのが『犯罪奴隷』な訳ですね。イリアさんの場合は、その『所有権』そのものをイツキさんに『譲渡』した訳でして、言うなれば身受け金の発生しない奴隷な訳です』


 と、まぁここまでは特に問題もなさそうだなぁ・・と思ってましたよ。


 一応、ルリィ達の一件で、俺の奴隷嫌い――って言うか、奴隷に対する考え方も幾らか軟化してはいるからね。

 だからって積極的に買いに行こう、やら、『はっはっは、だったら美少女奴隷を集めてハーレムだ!』とか言い出す程には、地球的な価値観が壊れちゃいないけどさ。


 って、そんな事は兎も角として。

 こっから先が問題だった訳だよ。


 そう――


『問題は『所有権を譲渡』するって事でして。奴隷が自分を買い戻せるのはその為の権利があるから、な訳ですが・・・譲渡の場合、その『自らを買い戻す権利』まで含めた、あらゆる権利が譲渡されてしまうって事です。つまり、イリアさんは自分を買い戻す事が出来ないんですよ』


 それを聞いた俺はマジで頭を抱えたね。

 いや、本気で。


 解放できない奴隷とか、マジで地球の植民地時代的なそれじゃねぇか。

 確かに扱い自体は、こっちのが遥かにまともだけどさぁ。


 って具合に頭を抱える俺に、ネリンさんは何だか何かを悟った様な笑顔でこう言った。


『解放したいんでしたら、結婚すれば良いんですよ。所有権を譲渡した主との婚姻を結び、その人の家名を頂く。それが譲渡奴隷が解放される唯一の方法な訳です』


 ・・・うん、何だか別の意味で余計に頭を抱えたくなる情報だったよ。


 ってか、ネリンさん。

 その後ついでとばかりに


『良いじゃないですか。クーさんに私、それにイリアさん。クーさんとイリアさんは言わずもがなですし、私だって自分で言うのもなんですが、確りしてると自負してますし、結構尽くす女ですよ?』


 とか言い出すのは止めて下さい。


 地球で織絵を覗いて『モテない街道』を直走っていた俺には、正直今の状況だけでも一杯一杯なトコがありますんで・・・。

 流石にね、こぅ・・・『っしゃぁ~っ! もて期到来とか、俺の時代が来たぜぇ!』とか言える程におバカしてないんですよ、はい・・・。


 ってか、マジに軽いノリと神様チートを頼りにホイホイハーレム作って『うははははは』とか笑ってられる様な、テンプレ主人公君ってどうなのよ? と本気で思う。


 異性とお付き合いするって、そんな軽いもんじゃないだろう?

 特に肉体関係を結ぶとか、結婚とか、それこそ一生に関わるんだからさぁ。


『特典貰って俺強い、だからお金持ち、だったら当然ハーレムOK!』なんて思考はどっから出てくんのよ。


 そんな騒ぎに晒されたからだろう。

 今の俺には、こうしてリビングでノンビリ茶を啜ってる時間が、溜まらなく愛おしく思えるのですよ、えぇ。


 爺臭いと笑わば笑え。

 ヘタレと言う言葉も甘んじて受け入れようじゃないか。


 だから・・・。


「はぁ、平穏っていいなぁ・・・」


 この平穏が少しでも続いてくれと、思わずにはいられない俺だった。


そろそろ真面目に『ハーレムタグ』を付けるべきか悩んでます。


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― 新着の感想 ―
[一言] 中世のハーレムって未亡人が主体の、社会制度で中世では 男の死亡率が高く社会に未亡人のシングルマザーが多くて 彼女等の救済制度が、」妻妾な訳だよ?武士団なんかも 戦死や病死で逝った部下の未亡人…
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