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鉄鋼車にて異世界へ  作者: 詩月凍馬
運び屋ヤムラ起業
37/57

キリグ村再建へ④ 「何その爆弾発言・・・」

 ドンッと重く鈍い音を立てながら、最後の岩がダンプの荷台から滑り落ちた。


 その瞬間――


「うおっしゃ~! 終わった~!」


 俺は快哉を上げて両手を天に突き上げた。


 一週間に渡る整地作業も、今日この時を持って終了の運びと相成った訳で、俺のみならず皆の顔も明るい。


「イツキ様、お疲れ様です!」


 運転していた2トンダンプのエンジンを止め、運転席から降りて来たクーリアが満面の笑みを浮かべて駆け寄ってくる。

 何だか仕事完了の満足感も込みで、今日の笑顔は何時もより輝いてる感じがするね。


 そんなクーリアに俺も笑顔を向けて


「クーもお疲れ様。今回の仕事はクーも一杯頑張ってくれたからね。本当に助かったよ」


 とねぎらいの言葉を掛ける。


 うん、本当に助かった。

 クーリアが軽トラと2トンを運転してくれてなきゃ、今頃まだまだ作業は半ばって所だったんじゃないだろうか。


 俺の言葉を聞いたクーリアはちょっと照れ臭そうにしながらも


「いえ、そんな・・・でも、そう言って頂けると私も嬉しいです!」


 って嬉しそうに笑ってくれる。


 そんな俺達に


「おう、兄ちゃんに嬢ちゃん。二人とも、ホントに有難うな!」


「いや、本気で助かったぜ! 兄ちゃん達が手伝ってくれてなきゃ、それこそここらはまだ荒地のまんまだったからな」


 なんて声を掛けてくる男衆の顔も、全員がやり遂げた感溢れる笑顔でそれこそ見てるだけでこっちも嬉しくなってくるってもんだ。


 働いていた皆でワイワイやっていると、その様子を見ていたらしいイリアさんが近づいて来た。


「お疲れ様です皆さん。そして、改めて有難うございました、ヤムラ様、クーリア様」


 そう言ってくるイリアさんの顔も、やはり皆と一緒で明るいものだ。


 このイリアさん、実はあのミギーさんの一件以来イルワさんに代わって、俺達との交渉役をしてくれていたんだ。

 まぁ、資材を確り手配したってお手柄は兎も角、そこから先の暴走が過ぎてこのまま交渉役を任せるには問題ありって、現村長の親父さんが判断したんだそうな。


 うん、さもありなん、と即座に納得した俺は悪くない。


 そんなイルワさんはそれから何を・・・って言うと、親父さんのお傍付きみたいな感じで村長教育をやり直しさせられているっぽい。


『当然と言えば当然ですね。ヤムラ様の様な加護持ちに対する接し方もそうですが、加護をお持ちにならないとは言え、ミルギニーナ技師は私どもが請うてお力添えを願った身。そんな方に対しての礼を失した対応・・・次期村長候補として許されるものではありません』


 イリアさんはそう言っていたが、まぁ、俺としてもそう思う。


 村に対する情熱は十分以上なものがあるんで、後はあの超直線的な暴走思考をどうにかすれば、恐らく立派な村長さんになってくれるだろう。

 ノリに乗ってる時は兎も角、落ち着いてる時は普通に頭も悪くないし、色々細かいトコに気が付いたりもする様だしね。


 とまぁ、そんな運びでイリアさんが交渉役に収まった訳だけど、この子、幼い外見に似合わず相当に確りしていらっしゃる。

 変に感情的にならず理性的に応対してくれるんで、交渉事もスムーズに進むし、何かあった時の対応もキチンとしている。


 ・・・これ、イルワさんよかよっぽど村長適性高くなかろうか、そう思ったのは俺だけではないだろう。

 まぁ、自分が住む訳でもない村の事情にまで口出しする気はないんで、口にはせんけどさ。


 さて、そんなイリアさんだが今日は何時もの様な依頼人としての態度ではなく、単に村の復興が一歩進んだ事を喜ぶ村娘って立場みたい。

 嬉しそうに笑みを浮かべて整地を終えた予定地を眺めた後、再び俺達――村の男衆も含め――の方を向いて笑顔を見せた。


「今日はささやかながら、宴の用意をさせて頂いております。存分に食べ、飲んで今日までの疲れを癒して下さい」


 そう言った瞬間、男衆からワァッと言う歓声が木霊した。

 一応、俺とクーリアは材料を手配する関係上、知らない訳には行かなかったので、当然事前に連絡を受けて知っている。


 ここらで景気の良い催しをと聞いていたので、ささやかながらも俺達も協力させて貰った。


 それが――


「はいはい、沢山ありますからた~んと食べて下さいな」


 ネリンさんが大皿に山盛りにして持ってくる鶏のから揚げや、


「あぁっ、だ、ダメですよ。せめて置くまで待って下さい。おち、落ちちゃいますから」


 同じくルリィが持って来た、大皿に山盛りになっている天ぷら各種なんかを始めとした地球の料理を御提供した訳だ。


 今日の宴は事前に知っていたので、それに参加する俺達はバナバに帰る事は難しい。

 だって、お酒飲んじゃったらマローダー運転できないしね。


 俺的にも折角の宴なのにお酒も飲めないとかはちょっと寂しい気もするし、だからってクーリアに我慢させるのも・・・って、例えクーリアが飲まなかったとしても、彼女はまだマローダーは運転できないんで、結局帰れないんだけどな?


 まぁ、そんな訳なんで、今日の所はコッチで泊まる事にはなってたんだ。


 で、それを知ったネリンさんは


『でしたら明日は私も行きますから! 人手も居るでしょうし、何より旦那様達全員向こうで、私一人とか寂し過ぎです!』


 と熱烈に主張。


 どうやら、毎日の会話なんかからある程度の予測をつけて、終了予定だろう辺りにお休みを入れてたっぽい。

 そこまでして宴会やらなかったらどうすんのさ、と思ったんだけど・・・


『それならそれで良いじゃないですか。旦那様達との~んびりって言うのも、休日の過ごし方としては十分贅沢ですよ~』


 なんて言われてしまいました、はい。


 まぁ、別に拒む理由もないからね。

 こうして一緒に来て貰った、って訳だ。


 そうなると、夜寝る所は問題かな?

 流石にマローダーのベッドで全員が寝るとか、明らかに無理があるし。

 一応、用心には用心を・・・と言いつつ、実はノリと勢いで買い込んでしまったテントもあるんで、そっちで寝る事になりそうだ。


 そうだなぁ、まだ体調的に快調とは言えないコニィは当然として、そのお世話になれたルリィを居住区のベッドに、俺と・・・後は申し訳ないけどクーリアとネリンさんにはテントで寝て貰う事になるな。


 なんで今日は、こっちに来て直ぐにテントを張らせて貰う事にした。

 そこまで量を飲む様なバカはしない積りだし、今まで飲んだ連中からも変な酒癖を指摘された事は幸いにもなかったけど、酔いがまわってからテントを張るとか無理そうだしな。


 ただ・・・。


 あぁ、俺はあの時の俺に向かってこう言いたい。


『何でキャンプのキャの字も知らない癖して、ツールームハウスなんつー明らかに上級者向けのモン買ってんだよ!』と。


 いざ組み立てってなってから本気で参ったぞ、アレ・・・。

 何せ、説明書片手にウンウン唸ってやっとこ完成した頃には、ある意味一仕事終えました的な疲労感を覚えた位だ。


 いやぁ、ノリと勢いで買って良い代物じゃないよな、キャンプ用品って。

 それが骨身に沁みて実感出来たよ。


 別に普通のドームテントでも良かったろうに、何故にツールームハウスなんぞ買い込んだんだろう。

 しかも一番デカイ奴なんかを。


 ・・・あの時の俺は、どっか頭がおかしかったんじゃなかろうかと本気で思う。


 今はクーリアにネリンさん達も居るからあれだけど、こっちに来る当初の予定じゃ暫くは一人だった筈なのに、大型の家族用買い込むとか頭悪いとしか思えん。

 かと言って、一人用を別に用意して単に人数増えた時用に・・なんて考えた訳でもなく、ただ単に『あ、何かこれデカくてカッコイイかも』なノリで買った訳で・・。


 うん、アホだったな、マジで。

 まぁ、四苦八苦させられたけど、一応建てられたから良いけど。


 ちなみに言うと、こっちの世界にもテントってもんは当然存在してる。

 まぁ、冒険者だったりと旅をするなら必需品な訳だから、これはある意味当然の事。

 ただ、そんな中でも俺の持ち込んだテントは明らかに異質なんで、テント自体の存在には慣れているキリグ村の住人達の目から見ても、非常に目立つ結果になった訳だ。


 ・・・まぁ、そこら辺はもう今更な気もしないじゃないが。

 マローダーやらで散々目立ってきてる訳だしなぁ。


 とまぁ、何だかんだとありはしたものの、寝床の確保は出来てる訳で、そうなれば俺らとしても宴を楽しまなきゃ損って訳だ。


「イツキ様、どうぞ」


 そう言ってクーリアが差し出してくれた皿には、から揚げを始めとする幾つかの料理。

 どうやら俺が少し物思いに耽っている間に、気を利かせたクーリアが俺の分まで持ってきてくれたらしい。


「あ、ありがとな、クー」


 何となく嬉しくなって頭を撫でてやると、クーリアは擽ったそうな笑顔を浮かべて嬉しそうだ。

 当然、そうなると黙ってないのが――


「あぁっ! またしても二人の空間を作ってますね!? ちょっ、私も仲間に入れて下さいよ~!」


 と、襲撃を掛けてくるネリンさんな訳でして。


 お酒の注がれたグラスを手にして、「撫でて撫でて~」と言わんばかりの目を向けてくる訳ですな。

 正直、俺より年下のクーリアやルリィなんかは兎も角、同い年――いや、まぁ、肉体的にはって事だけど――のネリンさん相手となると、気恥ずかしさが先に立つんですが・・・。


 ・・・あの期待に満ち満ちた眼差しには勝てん。


 そうそうに敗北を悟った俺は、こみ上げてくる恥ずかしさに耐えつつ、ネリンさんの頭を撫でる。

 クーリアとはまた違った、でも細くて滑らかな白い髪はしっかりと手入れがされていて撫で心地が良い。


 ただ、こう・・・ね。

 そうやってウットリした目を向けられると、俺としましても気恥ずかしさが・・・。


 なんで、軽く数回撫でた後はさっさと食事に逃げる事にしましたよ。

 うん、解ってるからヘタレとは言わんで貰いたい。


 最近・・・っていうか、一緒に暮らす様になってからの様子を見てて、どうやらネリンさんも本気で俺の事好いてくれてるらしいって事は気付いたけどさ。

 モテた経験もない俺からすると、やっぱり戸惑いのが先に立つ訳でして。

 まぁ、クーリアみたいに家族として仲良くしつつ、ゆっくり行きましょうとしか言えんのですよ、はい。


 一応、ネリンさんの方も友人以上恋人未満、兼家族な今の関係を楽しんでくれてるらしいんで、お互いに急いだりしない事にはなってるけどね。


 取り合えず、今日は一緒の寝床な上に酒も入るんだ。

 いつも以上に確りせねば。

 酔った勢いで男女の一線越えちまうとか、流石に不実が過ぎるしな。


 うん。

 だからさ、ネリンさん?

 さっきからアルコールばっか進めてくるのは止めようか。

 しかもそれ、度数の強い奴だよね?

 俺がマローダーで持ってきたバーボン・・・それも、ロックだよね?


 俺は確かにウィスキー派・・それもバーボン好きだけどさ。

 流石に長時間に渡って飲もうって言う宴会で、ロックのままで飲み続ける程酒豪じゃないからね?


 そんなネリンさんが差し出してくるバーボンのロックを、出来るだけさり気なくスルーしてマローダーから持ち出した冷えた缶ビールを煽る事にした。


「・・・・むぅ」


 いや、そんな詰まらなそうにせんでもさ・・・。


 そんな俺達のやり取りをクーリアとルリィ、そしてコニィは楽しそうに眺めてる。

 うん、楽しそうなのは結構だけど、助けてくれると嬉しいかな、俺。


 そんな俺の思いが通じたのか、ルリィがニッコリと笑って頷く。


「ご主人様は強敵ですけど・・・ネリンさん、頑張ってください! ルリィは応援してます!」


「コニィも~!」


 ちょっ・・・!?

 ここに来てまさかの増援とか、マジか!?


「うぅ~、ありがと~。ルリィ、コニィ・・・。私、頑張りますとも!」


 なんてやり取りを交わしながらも、宴を楽しんでいると


「お楽しみの所を申し訳ありません。私もご一緒させて頂いても宜しいですか?」


 と声を掛けてくるイリアさん。


 見れば、料理の盛り付けられた皿の他に、エールの注がれたグラス・・・・って、おい。

 良いんかい、未成年者の飲酒って。


 ん?

 そう言やぁ、こっちの世界での酒精法ってどうなってんのか知らんな、俺。

 もしかしてこっちの世界じゃ大人子供関係なく飲めるのか?

 ・・・うん、今度検索エンジン異世界版で調べてみよう。


 とまぁ、気になる所はないでもないが、別段イリアさんが加わる事に否はないんで、即座に了承。

 あれから作業の日々を通して、ここに居る殆どの連中とは仲良くなってるからね。

 別に中に入られたって、気分を害すなんて事はないさ。

 勿論、俺以外の面々も笑顔で了承の言葉を掛けている。


 クーリアは仕事以外でも年が近いって事もあって仲良くなっていたし、ルリィとコニィも似た様なもの。

 ネリンさんは元々人付き合いが良い方だし、大抵の人とは仲良くなれる性格の持ち主だからね。

 どうやら宴の準備をしてる間の短い時間で、すっかり仲良くなったみたいだ。


 そんな俺達にイリアさんは嬉しそうに笑って――


「そうですか、良かったです。この宴が終われば、私の所有権が正式にヤムラ様に譲渡される訳ですし、皆さまと仲良く出来るのならばとホッと致しました」


 特大の爆弾を落としてきた。


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― 新着の感想 ―
[一言] イリアの処遇当然だね!対外的に この方法しかないでしょう? 対価で払えるのもうイリアだけでしょう? 真逆加護持ちから料金踏み倒したら!村に又土 石流が襲いかかって村人全員が犠牲になっても 不…
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