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鉄鋼車にて異世界へ  作者: 詩月凍馬
運び屋ヤムラ起業
34/57

キリグ村再建へ① 「うぉぅ、何か増えてる・・・」

「聞いてるんですか、ボアランさん!」


「だ、だから俺はお前の為を思ってだ」


「私の為を思ったら、どうしてイツキ様を攻撃する事になるんですか! ただ単にボアランさんが気に食わないだけでしょう!? それも、勘違い込みの八つ当たりが原因で!」


「い、いや! 違うぞ!? 何ならアルマナリス様に」


「誓わないで下さい! 本当のアルマナリス様じゃなくて、ボアランさんの心の中のアルマナリス様なんかに誓われても迷惑です! どうせそれが真実の証明だ! とか騒ぐのが解ってますので、余計にダメに決まってます!」


 またものっけからカオスな光景が・・・・。

 もはや会話で理解されてそうな気もするけど、一応説明すると、だ・・・・。


  俺とクーリアがオルガ村に到着。

     ↓

  マローダーを亜空間車庫に搬入。

     ↓

  オッサン来襲。

     ↓

  予測済みなので回避。

     ↓

  かわされたオッサンがヒートアップし、攻撃が更に苛烈に。

     ↓

  オッサンの背後から近づいたクーリアが、スタンロッドでオッサンを無力化。

     ↓

  縛り上げての大説教会開催中


 とまぁ、こんな経緯な訳でして。


 俺の加護だとかそんなもんは全て、完全に理解の外に吹っ飛ばして『クーリアを奴隷にしてやがるテメェだけはぶっ殺す!』と、毎回毎回襲撃を仕掛けてくるオッサンに好い加減堪忍袋の緒が切れたらしいクーリアが、遂に実力行使に打って出た、と。


 まぁ、そこでスタンロッドって言う非殺傷武器を使う所は、クーリアらしいトコなんだけど、なんかこう・・・言いたい事が積りに積もっていたらしく、クーリア主催の説教会は開始から一時間を経過して、未だ終わりの様子を見せていない。


 いや、うん、まぁ相手があのオッサンなんで、中々話が前に進まないってのも大きな理由の一つではあるんだけど・・・・。


 クーリアとしては好い加減、俺に襲いかかるのは止めさせたいと何度も言ってたからね。

 丁度良い機会と言うか、どうやって説得しようかと思ってた所で、まぁたやらかしたもんで、もはや許す気もないらしい。


 うん、アレはもう『今後一切、ヤムライツキに攻撃はしません』って確約を引き出すまでは止まりそうにないっぽい。

 ・・・取り合えず、オッサンの冥福を祈っておこう。


 で、何でまた俺らがオルガ村に居るかってぇと、これも依頼の一環な訳だ。


 昨日、予想より路面状態もよく、俺とクーリアの体力的にも問題なかったんで、三走目を敢行した訳だけど・・・。


 予定よりも進んだ資材の運搬状況に、イルワさんが暴走を開始した訳だよ。

「これだけ資材があれば、建て始める事も出来る。建てるんだったら、技師さん呼ばないと!」ってね。


 思い立ったら吉日とは言うけれど、イルワさんの思考形態はある意味それ以上。


 思い立った時点で相手も含めて了承済みって事になってるらしく、今日の作業の反省なんかを話しつつ、さぁ、帰ろうかって俺達に「じゃあ、明日はオルガ村でお願いね」とか言いだす訳さ。


 何の事か解らないんで尋ねて見れば――


「え? 何言ってるのよ。さっき前倒しで技師さんを呼ぶから、オルガ村に行くって事になったでしょ?」


 いやね、そんな『何忘れてるの』的な言い方されてもさ、何時なったのかまるっきり知らんのだが、俺達。


 で、良く良く聞いて――イルワさんの妹さんも含めて――みれば、資材の運搬状況を見たイルワさんが技師を早めに呼ぼうか、と呟いていたとの事で、妹さん曰く


「姉さんはそうやって口にした時点で、もう交渉を終えて決定したと思っている事が多々ありますので・・・。恐らく、今回もそうなのではと」


 ・・・良いのか、キリグ村の村民諸君? そんなの村長に添えちゃってと思ったのは、多分間違いではないと思うんだ、俺。


 それが解れば当然、こっちとしても抗議はいれる。


 ぶっちゃけ、初依頼でイルワさん以外の依頼は受けてないからね。

 まぁ、『別に良いですよ』って受けても良いっちゃ良いんだが・・・ここで変な前例作られても困るんですよ、はい。


 ここで受けた結果、『運び屋ヤムラは突然の依頼変更にも文句なく対応』なんて噂が広がられちゃうと、今後の仕事に支障が出かねんし。


 午後から別の依頼があるってのに、『じゃ、次はコイツも頼むな。なぁに、予定にはなかったが、別に良いだろう』とか言われても困るんだ。


 依頼内容とかの変更、なんてもんは仕事がらあり得る話だからね。

 別に運搬する貨物が増えて、一走分増えるとかは良いんだ。


 ただ、こっちに確認も無く決定されちゃうとかは大問題。

 他の依頼内容とすり合わせ、何時なら走れるとか答える訳だから、その辺りは要相談って事にしておかないと。


 なんで、今後の事も考えてその姿勢は崩さない。


 人の良いクーリアなんかはちょっと困惑気味だったけど、その辺りは帰りの車中でフォローすれば良い。

 人が良い、優しいってのは美徳だけど、仕事となるとそれだけじゃ回らないもんなのだ。


 そして、こっちが抗議を入れた結果、正式な手続きを踏んでの依頼変更って事で落ち着いた俺達は、今日、こうしてイルワさんを連れて技師が居るって言うオルガ村に来た次第。


 ただ、オルガ村って時点で嫌な予感はしてたんだが・・・結果は、まぁ御覧の通りって訳だね。


 ちなみに、件の建築技師さんってのは、なんとミギーさんの事だったりする。

 あの人、知識欲旺盛な妖精族(フェアリー)の血を引いてるだけあって、色々な資格みたいなもんを持ってるらしいんだわ。


 で、今現在、依頼人のイルワさんはミギーさんとの交渉中。


 相棒のクーリアはオッサンの粛清に忙しく、結果、俺は暇を持て余してるって訳だ。

 まぁ、昨日の騒ぎの余韻もあるんで、暇な分には良いんだけどさ・・・。


 そう思いながら、昨夜の騒ぎに思いを巡らす。


 


 何だかんだとあった初依頼初日を無事に切り抜け、我が家へと帰った俺達を待っていたのは――


「おっかえりなさいですよ、旦那様、クーさん」


 朝同様にテンション高めのネリンさんと


「お、お帰りなさいませです、ご主人様、クーリア様!」


 14そこらだろう、初見の少女のお出迎え。


「じょ、状況が見えん・・・」


 そんな言葉が俺の口を吐いて出たのも、無理はないと思うんだ、うん。


 で、取りあえずリビングのテーブルで、お茶を飲みつつ話を聞いてみれば、今日、休日で散歩中のネリンさんに少女――ルリィが『私を奴隷にして下さい!』と出会い頭に先制攻撃をしかけたのだとか。


 しかけられたネリンさんとしては、全く状況が解らないので取り合えず話を聞く事から始めた、と。


 その結果、彼女――ルリィの家は母と妹、そしてルリィの三人暮らしなのだが、唯一の稼ぎ手である母親が既に三か月近く返ってこないらしい。

 まぁ、元々放浪癖があり、ふらりと居なくなっては一カ月近く空ける事も珍しくない母親だそうなんで、ルリィも『またか』位に思っていたらしいんだが・・・今回は三カ月たった今になっても帰ってこない。


 母親が残して行った金を何とかやりくりして生活していたものの、既にそれも底を着き、病弱な妹の薬代もなく、当然今日を凌ぐ食事代も心もとない。


 それでどうするか、と思ったいた所にネリンさんを見かけ――


「突撃した、と?」


「は、はい・・・」


 手っ取り早く纏まった金が居る彼女としては、身売りも覚悟の上ではあったのだが、それでは病気の妹の看病が出来ない。

 それなら、お店の店員として奴隷を使っているネリンさんに買い取って貰えれば、身売り金として当座の資金が手に入る上、この街に職場があるのだから仕事のない時間ならば妹の面倒も見れる。


 これは一石二鳥・・・と意気込んだは良い物の、その考えの甘さをキッチリとネリンさんに絞られ、憔悴した所に奴隷契約に関する規約――奴隷商を介さず、個々人間で売り手と買い手を決めた上で、奴隷商に契約を頼む事は出来ないって様なルールがあるんだって事を教えられ、更にガックリ。


 ただ、まぁ、そこにも抜け道・・・と言うか、ルールの穴がある訳で。


「実際に買い取り交渉されちゃいましたから、私は買い取る事が出来ませんけど・・・イツキさんが買う分には可能ですしね。奴隷商に身売りしたとして、実際に売りに出されるまで数日ある訳で、その間にイツキさんの方から交渉して貰えれば、って訳です」


 成程、身売りしたルリィを奴隷商に出向いた俺が買い取れば良いと。

 売りだしまでの間に『こんな子来てたら売って欲しいんだけど』と言うのは、直接交渉に当たらないからOKと、そう言う訳ね。


 ネリンさん自体は、もう既に『買い取ってくれ』って直接交渉された所を結構な人に見られてるからアウトだけど、俺なら問題ないって事で俺が返り次第交渉してみるよ、って事にしたんだそうな。


 ただ、ネリンさん曰く


「イツキさんは優しいですから、そんな事を聞いて『そんなん知らね』とか言える人じゃないですし、多分、買い取って貰えるだろうなぁって」


 との事。


 ・・・うん、まぁ事情を聞いて知らんぷり出来る程、割り切れる性格してないのは確かなんだけどさ。

 もう既に把握されてるとか、俺って結構底が浅かったのか? と若干落ち込んだね。


 いや、もう良いけどさ。


 なんで、俺の出すだろう解答に想像が付いてるネリンさんは、その辺も含めてルリィに提案、それを聞いたルリィも一縷の望みを掛けて受け入れたんだと。


「まぁ、イツキさんがどうしても嫌って言うなら、最悪、私がお金は出しますんで買い取り人として出向いて下さいって頼む積りだった訳ですけど」


 うん、一応、断られた場合も想定もして、次善の策は用意していたらしい。


 ただ、そのつもりで言ったギルドの奴隷管理課で、ちょっと予想外の出来事があったそうな。


「えっと、イツキさん達・・・何だか今日は盗賊に妨害を受けたとか聞いたんですが、それ関係でして・・」


 つまりはこう言う事。


 第一走目が終わった後、バナバに戻って来た俺達は当然の如く、そのままの足で兵士詰め所へ直行。

 あのテンプレ臭漂う盗賊さん達について通報した訳だけど、その話はギルドの方への伝わっていたらしい。


 まぁ、明らかにギルドで解雇した元役員が絡んでるのは確かなんで、そりゃぁ話も行くだろうさ。


 俺達にしてみれば、それは予想の内なんで特に問題ないんだけど、ギルドとしちゃぁ大問題。

 既に解雇され、元とはギルド役員がギルドに寄せられた依頼に関しての情報をリークする、なんてのは地球で言う所の政治汚職なんかと同じで、ギルドへの信頼を損なう可能性が高い。


 そこに更に追い打ちを掛けたのが、毎度の如くの俺の加護『リネーシャの寵愛』と『世界中の祝福』な訳だ。


 以前、オッサンの一件で出た話は当然ここバナバの街でも知られているから、『ギルドの職員が寵愛持ちにやらかした』なんて話が広まると、それこそ大問題になるのは目に見えている。

 幸い、今回はマローダーの桁はずれな走破性で事無きを得たとは言え、キチンとした謝罪を行って誠意を見せねばならない。


 と、そう考えている所に、ネリンさんがルリィに関しての話を持って行った、と。


 ギルド全体の問題とは言え、直接問題を起こしたのは役員が居たのは『奴隷商管理課』な訳で――


「つまり言い方は悪いですけど、ルリィは奴隷商管理課からのお詫びの品って事ですね。ルリィの身受け金と今年度の人頭税はギルド持ちで支払いましたんで、イツキさんが支払う必要はありません。その上で、譲渡って形をとってルリィの所有権をイツキさんに移した、とこう言う訳です」


 ルリィの身受け金額は金貨で6枚。

 成人前――セイリームでの成人年齢は15歳だそうな――の女性なので、人頭税は年間で金貨1枚。


 合計金額金貨7枚の奴隷をタダで譲渡する事で、お詫びの品と受け取ってくれって事らしい。


 まぁ、それとは別に今回の依頼が終われば、正式に謝罪に来るって話だそうだけどさ。




「あれには本気で参ったぞ・・」


 何せ、知らない間に所有する奴隷が増えてるって状況な訳で、俺にとっては正に寝耳に水。

 かと言って、『要らん』とでも言おうものなら、ルリィを売りに出して得られた金銭が『お詫び』として改めて届けられるとか、マジで勘弁。


 既にルリィの事情を知っちまった今、ルリィを売った金が届くとか後味が悪い所の話じゃないっての。


 まぁ、仕方ないんで最終的には認めましたよ、えぇ。

 ネリンさんからも、『奴隷購入は奴隷に身を窶した人達への自立支援』だって考え方も聞いたんで、まぁそれならって納得したともさ。


 幸い・・・っていう言い方は変だけど、クーリアも変に気にする事無く


「イツキ様の下でしたら、もう大丈夫ですから。安心して下さい」


 なんて笑顔でルリィを励ましてたし、夜、ベッドに入ってからも普段通りな様子だったからね。


 ・・・気のせいか、何時もよりくっつき具合がパワーアップしてた気もしないじゃないが。


 ま、まぁ、そんな感じで受け入れてくれたっぽいんで、一階にある空き部屋をルリィとその妹――コニィの部屋って事にして、取りあえず昨日はそれでお終い。


 今日、店員さんに事情を話し、もう一日休みを取ったネリンさんの手配で、ベッドなんかの生活必需品を揃えて、コニィを迎えに行く事になってる。


 それで、肝心のルリィの扱いはどうするかってぇと・・・。


「ま、一カ月位は勉強だわなぁ・・」


 この世界じゃ珍しくもないが、ルリィもまた、その御多分にもれずに文盲で、計算も本当に簡単な足し算引き算の初歩・・・の初歩位しか出来ない。


 そんな状況じゃ何をして貰うにも不都合があるし、俺とクーリアは運び屋、ネリンさんは自分の店と日中は家を空ける事が多い俺達にとって、家事労働だけってのはちょっと・・・ってのもある。


 なんで、ここ暫くは妹の看病も兼ねて家で勉強をして貰い、ある程度の学力が付いたら前に話が出た食べ物屋台でも任そうかって考えてる。


 別に無理に働かせる事もないんだが、そうなるとルリィへの給料が発生しないんで、何時までたってもルリィが自分を買い戻せないんだよ。

 ルリィはそれでも良いって言ってるけど、流石に俺としてはねぇ・・・。


 その後も俺のトコで働いてくれるかどうかは別としても、解放できるんなら解放したい訳でして・・・。

 都合良くアッチの世界の料理、なんて売れそうなものがあるんだから、それを使ってルリィの稼ぎ場所を作ろうって訳だ。


 まぁ、どっちにしろ、今回の依頼が終わってから本格的に決める事にはなってるんだけどな?


 さて、そんな理由もあるんで、俺としてはさっさと依頼を進めたいんだけど――


「良いですか!? 大体ボアランさんは・・・・」


 うん、クーリア嬢の説教大会は未だ収まる気配なし、だね。


 で、もう一人の暴走癖持ちなイルワさんの方は――


「確かに早く建てたいってのは解るけど・・・予定が早まるにしても事前連絡位は欲しい所よ。それに今日聞いてさぁ、今から来いってのは・・・」


「お願いっ! そこを何とか! ね? 村を助けると思って・・」


 ・・・あぁ、こっちもこっちってトコだわな、うん。


 ってか、交渉する所か・・・今これから連れてく気だった訳かイルワさんよ?

 流石にそれは無理ってもんだろ。


 ミギーさんにも予定ってもんがあるんだし。


 まぁ、そこら辺が一切抜け落ちるのが、イルワさんの思考形態なんだって妹さんから聞いたけどさ・・。


 喧々囂々とやり合う二組を眺めつつ、俺は煙草で時間を潰す事にした。


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