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鉄鋼車にて異世界へ  作者: 詩月凍馬
運び屋ヤムラ起業
29/57

運び屋稼業開始 「さてと、働きますかね・・・」

 如何なる経緯か、クーリアのみならずネリンさんとも一緒に暮らす事になって早数日。


「あ、お早うですよ、イツキさん」


「あ~、うん、おはよう・・」


「それじゃ、顔洗ってきますんで、ご飯の用意宜しくですよ~」


 朝もはよから元気漲る挨拶を交わし、スタタタ~と言う擬音でも付きそうな様子で洗い場・・・というか亜空間車庫の扉を潜るネリン嬢。

 彼女の辞書には、寝惚けるとか低血圧とかって言葉は、間違いなく載ってなさそうだとふと思う。


 一方、この世界に来た当初からの同居人であるクーリアはと言うと・・・


「イツキ様、お味噌汁の濃さはこの位でしょうか?」


 朝が苦手なのは相変わらずだけど、頑張って俺と同じに起きて、朝食の準備に勤しんでいたりする。

 そんな彼女が差し出す小皿を受け取り、少量を注がれた味噌汁を啜って味見。


「うん、この位で良いと思うよ? あんまり濃くし過ぎると体に悪いし、出汁の味も消えちゃうからね」


「良かった・・・。はい、頑張ります!」


 俺から返された小皿を受け取って、満面の笑みを見せるクーリアを見ていると、こっちもつい笑顔になってくる。


 ちなみに新しく借り受けた我が家のキッチンでは、薪を使った竈は使われていない。

 そう、言うまでもなく俺が地球から持ち込んだ、キャンプ用の簡易ガスレンジが活躍している訳だ。


 簡易と侮るなかれ。

 最近のキャンプ用品は凄いからね。

 物によっては火口が三つもあって、家でガスレンジを使っているのと同じ感覚で扱えるものだってある。


 俺が持ち込んだのもそれだ。


 一応、自炊歴の長い身として、余り長期間に渡って外食ってのはイメージ的に不健康って考え方がどっかにあってさ。

 やっぱり、日常的に食うなら自炊はしたいって思ってた訳よ。

 そんな時に見つけたのが、季節外れになりつつあったキャンプ用品のコーナーに、ひっそりと置かれたコレだった訳で・・・。


 速攻で買ったね。

 レンジ本体と、専用ガス三本+予備で三本。

 うん、今思い出しても良い買い物でした。


 実際、こうして役に立ってくれてるしね。


 で、理由はこう・・・なんか釈然としないものもないではないが、家を手に入れた以上はある程度の近代機器を置いて生活を楽にしたいと思うのも自然な事。

 その辺り、『辺に文明を進歩させたくない』とか言ってた口で何をほざく、とか言われそうな気はしないじゃないが、それはそれ、これはこれである。


 社会全体の進捗に干渉してしまうと、色々と――予想内、予想外含めて――ありそうだけど、飽くまで身内で使ってる分には俺が確り管理すれば良いってだけだし。

 信じて仕様を許可した人に裏切られるなら、それは俺の人を見る目が曇ってたってだけの事だ。


 いや、まぁクーリアとかネリンさんが、そんな事するとは思えないけどさ。


 それとガスレンジの他にこの家に持ち込んだのが、22L入りのコック付きタンク一つと調味料各種、包丁・・位かな?

 炊飯器は当然ながら電気なしでは動かないんで、相も変わらず亜空間車庫で炊いてから持ってこないといけないけど、それ位はまぁ、我慢のしどころだろう。

 一々飯盒炊飯とか、余計に面倒くさい訳だしね。


 食器関係なんかは、一応こっちの店で買い求めた。


 ただ、どうしても飯茶碗と味噌汁碗はなかったんで、これはマローダーから持って来たけど、そこら辺は食文化の違いだから仕方ない。


 と、そんな感じで中途半端ながらも近代化した我が家のキッチンで、最近は朝夕と食事を作っている訳だ。


 そしてそうなると、黙っていないのが料理好きなクーリア嬢。

 俺の料理を食べてからと言うもの、地球の料理に興味深々な彼女は苦手な朝も気合で乗り越え、俺から料理を習おうと頑張っていて、やり始めて数日が過ぎた今、米を炊いたり味噌汁を作ったりなんかは、もはや手放しで見て居られる位には上達した。


 おかずの方は・・・まぁ、これは元々見た事も聞いた事もない料理な訳だし、覚える事が沢山な訳で、そうそう一人でって訳にはいかないからね。

 まぁ、メモ帳片手に一生懸命覚えようって姿を見てると、そう遠くない内に一人で大抵のものは作れる様になりそうな気がするけどさ。


 そんな事を思いながら、俺は今まで揉んでいたビニール袋から手を話し、中身を深皿にあける。


 中身は食べやすい大きさに切った、キャベツと胡瓜で作った浅漬けだ。

 いやぁ、浅漬けの素って便利だよね。

 適当に野菜切って袋に入れて、素ぶっかけて揉み込めばそれだけで出来ちまうんだからさ。


 なんて事を俺がやってる間にも、クーリアは手慣れてきた感のある手つきで人数分の卵焼きを仕上げていく。


 そうして食卓に並んだ本日の朝のメニューは、ご飯と大根の味噌汁、卵焼き、キャベツと胡瓜の浅漬け、ヒジキの煮付けと言う和風なもの。

 しっかりと食べられて、だけどそこまで重くないと言う和食は、俺のみならずクーリアも結構お気に入りだったりする。


 顔を洗うついでにネリンさんが持ってきてくれていた炊飯器から、見事に炊きあがった白米を茶碗に盛り付け、味噌と出汁の良い匂いをさせている味噌汁を注げば、それで朝食の準備は完了だ。


「ん~、美味しい! クーリアさん、また腕上げましたね」


「それはその・・毎日作らせて頂いてますし・・でも、まだまだイツキ様には及びませんから」


「おぉぅ、頑張り屋さんですねぇ。これは私もうかうかしてられませんね」


「・・・ネリンさん、料理で来たのか?」


「ちょっ!? わ、私だって女ですよ? 料理の一つも・・・って、あぁ、イツキさん達と暮らし始めてから、そう言えば一度も料理してませんでしたか」


 ネリンさんが増えた分、以前よりも賑やかさを増した食卓。

 他愛のない会話と、美味しい食事。

 そして楽しそうに笑う二人の笑顔。

 うん、今日も一日頑張れそうだ。

 楽しそうな二人を見ながら、俺は人知れず気合を入れる。


 そう、なんたって今日は――


 『運び屋ヤムラ』の本営業初日なのである。




 ホットパンツの成功と、その過程における『運び屋ヤムラ』の功績を引っ提げて出向いた商業ギルドで、事業申請と営業許可を取り付けてから今日で5日が経っている。


 まぁ、行き成り最初っから仕事が回ってくるなんて、都合の良い事は考えてなかったし、ある程度の“待ち”は予想の内だ。

 幾ら実績のあるネリンさんの証言付きとは言え、今まで見た事も聞いた事もない様な神代機器――それも神級指定のものを幾つも所有し、全てを操って見せるなんてそうそう信じられるもんじゃないし、馬よりも早く安全にって言われたって戸惑うのは当たり前。


 そんなある日、運良くと言うか何と言うか、とある場面に出くわした事で、俺達の初仕事が決定した。

 その日、依頼がないかと確認しに訪れた俺達の耳に木霊する、ギルド全体に響くのではないかと思われる程の大音声。


「だから! そこを何とかお願いって言ってるじゃない! 資材はちゃんとお金を払って買ったし、輸送費も払う!」


「ですから、お金の問題ではなく不可能だと言っているのですよ。ギルド所属の荷馬車は限られていますし、全てを貴女の為に割り振る事は出来ません。前もって予約されていた方もおられますし、それを断るのはギルドの信用にも関わります」


「けどっ! このままじゃ冬になる前に家が建てられないのよ!? 真冬の寒さの中、女子供と老人達に家なしで過ごせって言うの!? 資材さえ運んでくれれば! 後は自分たち」


「それが不可能だと言っているのです。貴女は、荷馬車もなく我々にどう運べと言うのですか? まさかギルド職員総出で担いで運べとでも?」


「それは・・・そうだけど・・」


「こちらとしても、割り振れる最大限の荷馬車はそちらに割り当てていますし、事情が事情ですので資材の最大購入の上限を上回っての購入も認めました。可能な限りの譲歩はして居る筈ですよ? それ以上を求められても、金銭の以前に物理的に無理なんです」


 何事かと思ってみれば、ギルドのカウンターに手を着き、身を乗り出して何かを嘆願する女性と、困った様に受け答えるギルド職員の姿。


 どうやら、女性は買った資材を一刻も早く運びたいと訴えている様だが、ギルド側はそれに答える事は出来ないと言うのが、話の内容らしい。


 如何にも切羽詰まった感じの女性を見ていると、流石に放ってはおけないし――

 下世話な良い方をすれば、これは運び屋ヤムラとしては丁度良い案件だとも言える。


 大量の資材を一刻も早く。

 これ程、俺達向きな仕事はないだろう。

 そう思った俺は、二人に声を掛けて見る事にした。


 その結果解ったのは、女性――イルワさんと名乗った――の住んでいた村が、土石流の被害を受けたのだと言う。


 幸い、村の人達は豊作を感謝し、次の年の豊作を祈る神事とやらで村から少し離れた高台にある『守岩様』と呼ばれる岩が祀られた場所に居たらしく、人的な被害こそ出ずにすんだものの、家屋は壊滅状態。

 これから寒さの厳しくなるこの時期、急いで壊滅した家屋を建て直さなければ、村人揃って凍死の危険性が高い。

 なので、必死の思いで掘り起こした金銭を纏め、村の代表として村長の娘であるイルワさんが最も近い街であるバナバへと資材の購入に出向いたのだとか。


 バナバのギルドとしても、村の事情を汲み取り、個人最大上限を上回る資材の購入を認め、来期の作物の優先取引と引き換えにある程度の優遇措置を提案した。


「それは嬉しいんだ。あぁ、有難いよ。村には今、売れるもんもないからね。これ以上にお金が掛かるってんなら、何人かの娘に身売りして貰うしかないんだ」


 そう言った理由もあり、そこは素直にギルドの温情に感謝したのだが、そこで問題が発生した。


 そう、輸送手段である。


 個人商人ではなく、ギルド所有の荷馬車もあるにはあるが、それも流石に数に限りはあるし、全てをイルワさんの依頼に動かす事は出来ない。

 町全体の商業を取り仕切るギルドとしては、やはり緊急の事態に備えて何台かの荷馬車を手元に残す必要があるし、かと言って個人商人を別途に雇うとなると、それこそ金が掛かる。


 使える資金に限りがあるイルワさんとしては、個人商人に頼ることなくギルドの荷馬車で済ませたいのだが、それでは時間が掛かり過ぎて冬に間に合わない。

 それで何とかならないか、と交渉していたのがさっきの光景なのだそうだ。


 うん、事情は解った。


 けどさ、イルワさん?

さっきのあれはもう、交渉じゃなくて泣き落としとかってレベルだよ・・。

そりゃ、村の為に必死なのは解るけど、職員の話、全部ぶった切ってお願いしてたよね?


 村の為に必死な余り、周りが見えなくなる程だったイルワさんと、その対応に追われ、疲労困憊な様子の職員を見て、小さく嘆息。


「まぁ、話は解ったよ。それでなんだけどさ・・・イルワさん、俺達を雇う気はあるか? セイリームに置ける最速の速度で、最大の荷物を運んで見せる自身はあるよ?」


 俺がそう言うと、イルワさんは疑わしそうな目で俺を眺め、俺達を知っているらしい職員は成程とばかりに頷いた。


「あぁ、確かヤムラさんは『運び屋』を始められたんでしたな。でしたら、良い機会です。ギルドからも依頼と言う事でお願いしましょう」


 その言葉に、イルワさんが職員さんへと勢い良く視線を向ける。

 その瞳には、良く見積もっても正気を疑っている様子が見て取れた。


 うん、まぁ、俺の特典を知らなければ当たり前の反応だよね。


 で、そんなイルワさんの瞳を真っ向から見て、職員は続けた。


「まぁ、疑うのも結構ですが・・・当ギルドとしては、もはやこれ以上の交渉には応じられませんよ? ヤムラさんに頼まず、飽くまでギルドとしての輸送にこだわるのでしたら、先程から言っている様に、貸し出せる荷馬車は2台まで。これは変わりません」


 それを聞いて悔しそうに顔をゆがめるイルワさんを視界の隅で捕らえつつ、頭の中でざっと計算。


 荷馬車の積載量って言うと、確か路面状態が良ければ一トンは行ける・・んだったかな?

 それが2台だから、合計で2トン。 

 こっちの最大積載量が二トンと360キロだから、量的には大差ないか・・。

 ただ、その辺りは移動速度で補える訳だから、結果的に見れば馬車2台でのピストン輸送に頼るより、よっぽど早く運びきる自信はあるな。

 まして、全てを人力でこなさなければならない積み下ろしを、ユンボで簡略化出来る俺達なら、その辺りでも優位に立てる。

 まぁ、後の問題は村の距離と荷物の全量な訳だけど・・・


 俺がそんな事を考えている間に、イルワさんは散々葛藤していたのだろうが、その末に縋る様な視線を俺達に向ける。


「なぁ、アンタら・・・本当にギルドに頼むより早く、荷物を運んでくれるのか?」


 ギルドからこれ以上の譲歩はないって言われた以上、より早い方に頼むしかない訳だから、確認したくなるのも当然だな。


「取りあえず、イルワさんの村まで距離はどれ位? 後、荷物の全量は?」


 恐らくは「あぁ、簡単に運べるよ」的な断言が欲しいんだろうイルワさんに、まずは確認。

 ってか、それが解らないんじゃどれだけの時間が掛かるのか、とか計算出来んし。


 イルワさんもそれは解っているのか、小さく溜息を吐きながら答えてくる。


「・・・村までは馬車で大体1日・・買い込んだ資材は全部で馬車10台分だよ」


 ふむ、成程。


 って事は、馬車の最大移動距離の8キロと仮定して、走れるのは五時間そこらって所だから大体40キロ。

 距離的には大した事ないな。

 道さえ悪くなければ、一、二時間で簡単に行ける距離だ。

 で、荷物全量が馬車十台・・・最大積載量の一トンで計算して10トンって事は、形状にもよりけりだけど、最低3回、多くて4回って位かな?

 積み下ろしの時間をそれぞれ約一時間と仮定しても、往復で四時間。

 まぁ、一日二往復は可能だろう。


「まぁ、その位なら最低二日・・・長くて三日で全部行けるね」


 計算を終え、アッサリと言った俺にイルワさんはがバッと顔を上げ、一応は俺を知っているらしい職員も驚いた様な表情を浮かべた。


 と、ここでイルワさんが口を開いたら、更に話が長くなったんだろうけど・・・。


「いやはや、流石は『寵愛』の加護持ちと言う事ですかな。リネーシャ様より賜った神代機器とやらは、恐ろしい程のお力をお持ちなようで」


 幸いな事に職員の方が先に口火を切ってくれたんで助かった。


 その後は言うと、交渉自体は意外とあっさり進んでくれた。

 やっぱり『リネーシャの寵愛』の効果は凄まじいものがあるらしく、それを持った俺が言うなら、少なくとも嘘ではないのだろうとイルワさんも判断したみたい。


 結局、俺自身の信用ではなく女神さんの信用で取れた様な契約だけど、まぁ、最初だしね。

 これから実績を上げて、女神さんの名前なしでも信用を取れる様にしていけば良いだけの事。


 取り合えず、まずは引き受けたこの仕事を全うする事からだ。

 さぁて、気合入れて頑張りますか!


調子に乗って連続投稿・・・。

毎日投稿の安全マージン、ストックを使いきってまで何をしてるんだとは思いますが、まぁ後悔はないので良しとしよう。

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、」アウトドアのベテランの私から言わせると 燃焼器具は燃料の統一が長期の場合大事だよ? マローダーや軽トラはレギュラーガソリンだから レギュラーガソリンを使えるガソリンストーブと ジェリ…
[一言] 前から思ってたのはこの頃のヨーロッパでは海塩は 不味いと敬遠されてたのだよね!原因は 酸化マグネシュウム毎製塩したので 苦汁酸化マグネシュウムの結晶は塩より遅い性質を 知らないため苦汁出しを…
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