家を借りよう 「何でこうなったかなぁ・・・」
服飾店『森の衣』でホットパンツとニーソックスが売りだされてから、今日で一週間。
ネリンさん曰く「売り上げは悪くないですよ。少ない日でも数着は売れてますし、この街の規模を考えれば結構な出だしだと思いますね」との事。
まぁ、態々ファスナー仕様の高級品と、ボタン仕様のお手軽品まで作ったわけだし、売れてる分には嬉しいもんだと思う。
ただ、客層に関して言えば予想がまるっきり外れたのだとか。
「私としては、客商売の御客さんが多いかなって思ってたんですよ。ほら、スカートだとどうしても中を覗かれた~ってのも多いって聞きますし。かと言って裾を長くすると動き難いしで、ある程度は仕方ないって割り切ってたようですしね。その点、ホットパンツは覗かれる心配とかない訳ですし」
成程、食い物屋とかも結構出向いてたけど、そう言えば働いてる女の人ってミニ・・とは行かないまでもスカートは短めだったな。
決して飽食とは言えない世界だからか、太った娘って少ない訳で、そんな子がスカート姿で働いてれば、中にはセクハラに及ぶバカも出てくると。
世界は変われど、働く女性の悩みは変わらないって事見たいですな。
大学時代にも飲み屋なんかでバイトしてるって女の子はいたけど、酔っ払った客に尻を触られた~とか、お皿を下げに言ったら露骨に視線を感じる時があるとか愚痴ってたしなぁ。
その子の場合は店で制服が決まってるんで、流石に服装で対応って訳には行かなかったみたいだけど、こっちの世界じ制服なんてもんが無い訳だから、対応しようって子もいるだろうと予測してたと。
「それが蓋を開けて見れば、これがビックリ。小さい女の子は兎も角として、一番多いのが冒険者のみなさんだった訳ですからね・・・っと、イツキさん、これお代わりです」
そう言って茶碗を差し出すネリンさん。
えぇ、ネリンさんも一緒にご飯食べてますよ。
って言うのも、この間企画した食事会に端を発する訳でして。
楽しそうで良いじゃないかってノリに乗って準備した食事会は、予想通りに大成功を修めた。
カレーにシチュー、鶏のから揚げ、ハンバーグステーキ・・・・果てはマローダーの冷蔵庫から出した鮭の切り身を使ってマリネなんてものまで並べて、そんなに狭くはない筈の軽トラの荷台を埋め尽くす勢いで並べた料理。
その時の為にとクーリアと二人で選んだ曲をカーナビ使って流しつつ、取り皿を幾つか用意しての立食スタイルで行ったんだ。
ま、二トンダンプのあおりも外して、食べる時はそこに置ける様にはしたけどね。
で、準備を終えた俺達は、前もって約束を取り付けていたネリンさんをご招待。
見た事もない料理と食べた事もない味に驚いていたけど、ネリンさんも『美味しい』って喜んでくれて、楽しい時間を過ごせたと思う。
ただ、そのせいで地球の料理にすっかり嵌ってしまったネリンさんが、二、三日置きに食材持参で食べに来る様になっちゃったんだよねぇ。
あぁ、いや、別に嫌ではないよ?
参加費用だって言って食材も持ってきてくれるし、楽しく食事が出来るのはこっちとしても嬉しいしさ。
それに男的な意見を言えば、ハーフエルフなクーリア嬢とウサ耳美少女なネリンさんの二人が、楽しそうに食事を食べてながらお話をしてる姿ってのは、見ていて飽きないし。
なんだけど、正直宿で向けられる視線が事の他痛い。
まぁ、そりゃぁね、ハーフエルフとウサ耳な美少女二人を伴って、ツインでもないダブルの部屋に凱旋してお籠りとか、目立たない訳がないんってのは解ってるけどね?
俺だって逆の立場なら、『随分とまたモテる野郎だ』位の視線は向けるだろうさ。
まさか自分が受ける立場になるとは思わなかったけどな、正直。
宿の女将さんからも『おや、今日はお楽しみかい? 構わないけど、あんまり盛り過ぎないどくれよ?』なんて言われる事もあるんで、そろそろ居づらくなってきた今日この頃である。
「っつーかアレか。これはさっさと借家かなんか借りろっつー事な訳か?」
差し出された茶碗にご飯をもってやりながら、思わず口を吐いて出た言葉。
うん、後になって思えばこれ、思いっきり地雷だったわ。
何せ、その言葉を聞いた瞬間――
「あ、それ良いですね! よっし、だったら私も一緒に住みますんで宜しく!」
と即座に食い付いたネリンさんが宣言し、
「私も賛成です。宿と違って人目を気にしないで済みますし、今まで以上にイツキ様と仲良くなれそうです」
と満面の笑みを浮かべるクーリア。
えーっと、これをどうやってかわせと?
いや、お金的にはホットパンツとニーソックスの売り上げの何割かは来てますし、宝石売った金もあるんで、まだ余裕はありますがね?
美少女二人と同棲とか、こう倫理的にどう・・・
「良いじゃないですか~。ほら、イツキさん達が運び屋で出てる時は、私がしっかり家を護ってますし。それにほら、私的にも家に男手があった方が安心なんですよ」
「あぁ、ネリンさんは兎人族ですものね。女性の・・・それも兎人族で一人暮らしはちょっと危ないって聞きますし」
なんだって、追い打ち掛けてきてますね、君等・・。
「そうっ! そうなんですよ~。兎人族なんて耳が良いのと足が速いの除けば、普通の人族よりも身体能力低い位ですからねぇ」
「解ります。ハーフエルフもそうですけど、兎人族の女性って綺麗な人が多いですからね。中にはそれを専門に狙った強姦犯も多いって、両親から聞いた事あります」
「それが本当の事だから、始末に負えないんですよねぇ。全く、勘弁して欲しいですよ。私だって女ですからね、始めては好きになった人が良いです。強姦犯に無理やりとか、まっぴらごめんですって」
「当然ですね。女は玩具じゃありません。商売で納得してやっている人なら兎も角、誰だって好きになった方に愛情を持ってされる以外は嫌なものです」
おぉぅ、攻勢かけてくるねぇ・・・。
ってか、これで「あっそ、頑張ってね」とか言い出したら、俺完全に悪役じゃね? って位に追い打ち掛けてますよ、この二人。
あぁ、もうっ・・・。
「わぁった、解りましたよ、もう・・・。この宿も居づらくなってきたし、今度ギルド行って良さ気な案件探す事にしますよ、はい」
降参、とばかりに両手を上げて言う俺に、ネリンさんとクーリアはハイタッチ・・・うん、君等それ、どこで覚えたのさ?
そんなこんなで、やってきました商業ギルド。
「では、立地面での条件は・・・・」
「はい。で、部屋数は・・・で、キッチンの方ですが・・・」
目の前で張り切って交渉を行っているネリンさんを眺めつつ、何でこうなったのかなぁと一瞬思う。
そりゃ、いずれは拠点を・・って思ってたけど、まさか最初の街で家を借りる事になるとはなぁ。
いや、クーリアに加えてネリンさんと暮らすのが嫌って訳じゃないけどさ。
って言うか、俺も男な訳でして、その辺りネリンさんは気にならないのか・・・ならないんだったね。
昨日、ドサクサまぎれに『何だったら、私もクーリアさんみたいに家族認定して貰えます? これでも良い奥さんになるって言われる事も多いんですけど』とか言われちゃったし。
クーリアはクーリアで『私だって良いお嫁さんに慣れる様に頑張りますよ? だからネリンさん、二人で頑張って良いお嫁さんになりましょう』なんて言い出してた訳で。
ぶっちゃけ、地球時代に織絵以外にモテた覚えのない俺としては、何を言えば良いのか解らないんだけど、この状況。
何?
マジで俺なんかした?
ってか、何で俺なんぞがこんな状況になってる訳さ?
・・・本気で解らん。
クーリアは・・・まぁ、解らんでもない。
危ない所を助けたなんて経緯もあるし、今まで解り易い位に好意を示してくれてたからね。
理由はって言うと解らないけど、それでも彼女が俺を好いてくれてるのは何となくわかるさ。
今の所、織絵の事が引っかかってて答える事は出来てないけど、いずれはそうなるのも良いって思ってたし、マローダーでも宿でも一緒に居るんだ。
それが借家に変わるってだけで、そこまで大きく変わるもんでもないし、宿と違って人目を気にしなくていい分、クーリアだって過ごしやすくなるのも解る。
それは良いんだ。
けど、ネリンさんかぁ・・・。
こっちは本気で解らないんだよなぁ。
やった事と言えば・・・ホットパンツとニーソックスのデータ提供だろ?
ファスナーと生地の件でマローダーに乗っけて移動して、時々仲良くお茶したり、この前一緒に夕食会して・・・。
うん、このどっかに好きになる様な要素ってあったりするか?
こんなん、一般的な友達の範疇だと思うんだけど・・・。
「っと、お待たせしました。これから下見に案内してくれるみたいですよ・・・って、イツキさん? ちょっと、お~い、聞こえてますか~? 旦那様~?」
「って、誰が旦那様か!?」
「あ、漸く反応してくれましたね」
何か聞き逃せない言葉を聞いて反応した俺に、ネリンさんはよしよしとばかりに微笑む。
その隣では
「ネリンさんは旦那様ですか・・・。なら、私は貴方って呼ぶべきなのでしょうか? それとも・・・」
と小首を傾げるクーリア嬢。
・・・いやね、クーリアさん?
ネリンさんもそうだけど、君もその反応はちょっと違うと思うよ?
はぁ、ま、良いや・・・。
いや、結婚を認めたって訳じゃないけど、この人――ネリンさんはこんなノリなんだって納得しとこう。
何だかんだで、一緒に居て楽しい人なのは間違いないし。
地球でなら『リア充』呼ばわりされそうで、そこらは非常に気になるトコではあるけどさ。
その辺りは文化の違いと割り切ろう。
地球と違って収入さえあれば一夫多妻が可能なこのセイリームでは、複数の妻を娶る事はそう珍しい事でもないらしい。
だもんで、お付き合いの段階から複数人と付き合ってるって男もいるんだそうな。
流石に貴族なんかだと正妻を娶ってから、第二夫人を娶るまでに数年を開けるみたいな習慣はあるみたいだけど、それは貴族としての家格とメンツによる体裁どりな訳で、単に裕福なだけの一般市民にはそんなものはない訳で。
所謂『互いの愛があればOK。ただし、お金はいるよ? 君、あるの?』って言うある種のフリーダムっぷりが出来あがってると。
『村や町の有力者・・なんて人達はその辺りも大っぴらですからねぇ。お付き合いしてる女の方も、私と誰はあの人の恋人だ! って公言しちゃいますし。ま、言ったもん勝ちなトコはありますね。実際に結婚まで行き着くかはまた別ですが』
なんて昨日も力説されたばかりである。
『それにぶっちゃけて言ってしまいますと、恋人持ちって事になってる方が安心なんですよ。特に私は商売柄、基本丁寧に接しますからね。中には勘違いされてしまう方もいる訳で・・・そんな時に『私は誰々と付き合ってますから』って言うのは断り方としても無難ですし、それでも~なんてしつこい人は衛兵に付き出せますから。まぁ、それでも好きでもない人の名前だすのも嫌ですし、今まではちょっと苦労しましたよ』
そんな話を聞いて、『オイオイ、出汁にされる俺は良いのかよ』と一瞬思ったのは内緒である。
まぁ、どうしたって女性の方がこういう面では被害が大きい訳だし、盾代わりになるって言うなら何とかしよう。
って言っても、俺の戦闘力なんてマローダーにでも乗ってない限りはないも同然なんで、一応護身用にスタンロッド渡したけどさ。
ん?
これ、何か外堀から埋められてる?
気付いた時には普通に奥さんとして収まってそうな気が・・・・。
「ほらイツキさん、反応してくれたと思ったら、何をまた考えこんでるんですか。案内の人が言っちゃいますよ?」
「イツキ様? 借家とは言え、私達の家になるんです。下見は大切ですよ?」
そんな言葉と共に、俺の左右の手はそれぞれ柔らかい手に握られ、あれよあれよという間に連行体制が整った。
うん、仲良くなったのは知ってたけど、この頃連携も上手くなって来たよね。
特に俺に対して適応されるってのがアレだけどさ。
そうして二人に手を引かれつつ、案内の人に連れられて行った先にあったのは、二階建て、キッチン、トイレ付きの木造住宅。
ちょっと古いけど、作り自体は確りしていて定期的に掃除もしていたのか、そこまで目立つ汚れもない。
ベッドや何かの家具も安く都合してくれると言うし、物件としては悪くないんじゃないかな?
まぁ、難点としては水場である井戸まで少し距離があるって位だけど・・・亜空間車庫の水道を水場に使える俺達にはさして重要な問題ではないし、近くに教会があってそこに常駐している神官騎士もいるって事を思えば、俺とクーリアが留守にしている間のネリンさんの安全も確保出来るし。
案内されるまま中を見て見れば、一階はキッチンとリビング、客室にでも使っていたらしい8畳程の部屋が一つとトイレ。二階には10畳程の個室が二つと5畳位の部屋が一つと結構広い。
当然の如く風呂はないけど、これは亜空間車庫のを使えば良いだけだしな。
あぁ、成程。
そう言えばネリンさんが俺達の所に食事に来る時は、決まって風呂も借りてったなと思い出す。
いや、一度風呂の魅力を知ってしまえば、それなしで過ごすのは結構キツイのは解るんだけどね。
実際、俺のトコに来て風呂に入る様になってから、クーリアもそうだったけどネリンさんも見違える様――ってのはある意味失礼な気もするけど、タダでさえ綺麗だったのがドンドン綺麗になって行った訳で。
そのせいか、ネリンさんは香水の類を一切使わなくなったって経緯がある。
『私みたいな獣人族って、結構嗅覚が鋭いですからね。出来れば香水とか遠慮したいんですよ。商売上、お客様に不快な思いをさせる訳には行きませんので使ってましたけど・・お風呂に入って体を綺麗に出来るなら、使わなくても済むんで良いですよねぇ』
アレはお風呂信望者が一人増えた瞬間だったな。
まぁ、香水の類の匂いが苦手な俺としては、大変に有難い訳ですがね、はい。
地球時代に問題になっていた匂い関係の問題――所謂『スメルハラスメント』ってのがあったけど、俺から言わせればキッツイ香水の匂い振りまいて、ご満悦な顔してる女の方がよっぽど性質が悪いと思ったもんである。
そりゃぁ、風呂嫌いで二、三日風呂にも入らないで汗臭さ全開な野郎とかは問題外だけど、普通に風呂に入ってキチンと対応してて、それでも消せない加齢臭だとか仕事で掻いた汗の匂いとかで『臭いです! スメルハラスメントですよ、これ!』とか抜かす女は訳が解らなかったなぁ。
じゃぁ、お前がつけてるクッサイ香水は何なんだと言いたい所だ。
幸い俺は年齢的にも加齢臭が気になる歳じゃなかったし、一応営業で客商売で気を付けてたから、制汗剤使う位で騒がれなかったけど、会社には何かにつけて『~ハラスメント』とか騒ぐ女が居て、汗っかきな社員なんかは結構やり玉にあげられてたもんだよ。
まぁ、他人事とは言え余りに喧しいんで、俺もブチ切れて『じゃぁ、お前の香水もスメルハラスメントだよな? 多少なら兎も角キツ過ぎんだよ匂いが! ちったぁ自分の匂いも自覚しろ!』って怒鳴ったんだけどさ。
その点、クーリアとネリンさんはそんな部分がないから良いなぁってのが個人的な感想。
クーリアとは毎日同じベッドでくっついて寝てる訳だし、ネリンさんも最近は結構距離が近い事もある訳で。
そんな時にキッツイ香水の匂いとかは本気で勘弁願いたいんで、微かに漂うシャンプーやリンスなんかの匂いな彼女達なら問題なし。
なんて事を俺が考えている間にも、クーリアとネリンさんは色々見て回りながら楽しそうに感想を言っている。
「あ、この部屋なんか寝室にピッタリですね。窓も南向きで温かいですし。クーリアさんはやっぱりイツキさんと一緒に寝るんですよね? ここならダブルのベッド位は楽に置けますよ」
「その、少しくらい狭くても私は・・・」
「あはは~、熱愛中ですねぇ。熱い熱い」
「ちょ、ね、ネリンさん!? 余りからかわないで下さい!」
・・・本当に楽しそうで結構だよ、うん。
だからね、売人さん
「いやぁ、あれだけの綺麗所二人に好かれるのは男冥利に尽きますな? どうです? いっそ三人で寝られるベッドを都合しますかな?」
その意味ありげな笑みは勘弁して貰えませんかね?
そんな事を思いつつ、俺はそっと溜息を零した。
これはもしかして『ハーレムタグ』を入れるべき何でしょうかね?