村の顛末と運転練習① 「平和って良いよなぁ・・」
オルガ村から帰って来て数日が経った。
あの日はマローダーを出た途端、予想外過ぎる歓迎が待っていて驚いた訳だけど・・・。
何があったのかと問われると、理由は案外簡単な事。
そう、単純に『俺が持ってる加護がバレた』と言うだけなんだわ。
より正確に言えば、昨日俺が疲れから周囲を気にせず、マローダー呼び出して居住区に籠った後、一騒ぎ起きたらしい。
まぁ、そりゃ一騒ぎも起きるわな。
村にやってきたよそ者が、見た事もない神代機器を何もない空間から呼び出して、その中に籠っちまった訳だし。
で、『この見た事もない神代機器は何だ』って騒ぎになった後、当然話の行先は俺達と一緒に来たネリンさんしかない訳で。
そのネリンさんとしても、詳しくこのマローダーについて知っている訳ではない。
ネリンさんが言えた事と言えば、『人と荷物を載せて凄まじい速さで走る事の出来る神代機器』であると言う事以外では、既に聞かされて知っている事、つまりは『リネーシャ様に寵愛の証として授かった』って言う、ある意味での建前しかないって事だ。
そして、その結果が目の前に広がる『コレ』な訳である。
寵愛の加護持ち――それもセイリームに置ける主神であり、セイリームの大地を支える女神さんに寵愛を授けられた人物を、村の人間が一方的に――それも殺す勢いで――ボコボコにしてしまった。
しかも、後々聞いてみればボコられた方――つまりは俺――に原因はなく、ボコった方――ボガディ氏の勘違いによる暴走が原因であり、更に言えば終始一貫してボコったボガディ氏は自らの非を認めず、まともな謝罪をして居ない訳で・・・。
それを知った村長、並びに村の住民たちが大激怒。
『テメェは自分の勘違いで村を潰す気かゴルァ!』
と大挙してボガディ&ミギーさんの自宅に押しかけたんだそうな。
で、ネリンさんの話を聞く以前に、俺の一件に関して知っているミギーさんとしては、もはや庇う気もなく、未だ壁に向かって何やら呟いていたボガディ氏をさっさと村の衆に引き渡し――
その結果、簀巻きで吊られた元凶と、村の衆総出での土下座謝罪と言う光景が出来あがった、とまぁこう言う事なんだそうだ。
「そりゃぁね。神様の御名を冠した加護持ちってだけでも希少だし、色々優遇されてるもんなのよ? なのに名付きの上に『寵愛』・・・そんな加護持ってる人相手に不義理を働くって事は、遠まわしに加護を与えた神様を侮蔑してるって事になる。ましてや、主神であり、この世界を支える世界樹に宿る神格でもあるリネーシャ様ともなれば、こうもなるわよ」
何とも大げさなと思った俺だが、実際にそれを裏付ける様な出来ごとが以前にあったそうな。
昔――今はもう既に滅びた国のとある町で、神の名を冠ざれた加護を持つ少女が産まれたらしい。
で、その加護の御蔭もあったのか、すくすくと美しく成長したその少女は、自らが手がけた小料理屋も軌道に乗り、愛する男も出来て正に順風満帆と言った毎日を過ごしていた。
と、まぁ、ここまでくればある程度予測も付きそうなものだが、美しく聡明で誰にでも優しいその少女に、どこぞのバカ貴族のボンクラ息子が目を付けたって言うお約束。
その後はお約束通り、求愛を拒む少女を策を巡らし権力を使ってトコトンまで追い詰め、奴隷の身分に貶めて愛する男から引き離した訳だ。
漸く少女を手に入れたボンクラ息子は、今までのうっ憤を晴らすかの様に手酷く少女を犯し始め、果ては街中の衆人環視の中を裸で連れ回して辱め、時には数日間に渡って仲の良い貴族仲間と輪姦し続ける事もあったらしい。
まぁ、そんな環境に無理やり叩き込まれれば、当然少女の精神が持つ訳もなく。
風の便りに愛した男が貴族の手の者によって殺害されたと知った少女は、自らを嵐の荒れ海に投げ込んで命を絶った。
と、ここで終わってしまえば貴族の非道を伝えるだけの、それこそどこにだってある話で終わってしまったのだろうが、そうはならなかった。
彼女に加護を与えていた神が、自らの名を加護として与え、見守っていた少女の運命を捻じ曲げて壊し尽くした、そのボンクラ息子に怒ったのだ。
結果、そのボンクラ息子と少女を犯していた貴族仲間の領地では、その神の力を借りて行う魔法と言う魔法が全て使えなくなった。
加えて、正確には解っていないものの、どうやら少女に加護を与えていたのは『水』に属する神だったらしく、幾日も降り止まぬ豪雨と荒れ続けて治まらぬ海、水かさを増やし続け、氾濫する河川・・・と解り易い神罰が下った訳だ。
で、結局その後はって言うと、ボンクラ息子のバカ親・・・ではなく、更にその親。
つまりは先代領主さんに、孫と息子可愛さの余りに息子夫婦がしでかした少女の一件が発覚。調査してみれば、少女が名付きの加護持ちだった事は出身の街では有名だったらしく、その一連の経緯から『加護持ちの少女を、我欲に任せて食い物にした連中に対する神罰』だと結論付け、息子夫婦と元凶である孫を処罰――神の怒りを鎮め、少女の受けた苦痛の一割でも味あわせる為にと荒れ狂う海へと放りこんで処刑した、と。
まぁ、それで何とか静まったとか言う話しらしい。
「その話を知ってる奴なら、誰だって名付きの加護持ちにはそれなりに対応するもんよ。まぁ、下にも置かないなんて余りに謙った事はしないけど、少なくとも誠意を持って相手するものね。で、貴方はそれすら越える『寵愛』持ちな訳だから、ここで何もしないで放っておけば、その昔話以上の神罰もあり得る。幾ら村の連中にはあれの暴走は何時もの事って言っても、それを知ってて『まぁたバカディがやらかしたか』とか笑い話で済ませると思う?」
うん、無理だと思う。
ってか、それで笑い飛ばせたら逆の意味で凄いわ、その人。
・・・ちなみに。
俺をボコった際にオッサンが口にしていた『アルマナリス様』だが、その神様はリネーシャ様の叔母に当たる血族神で、『正義と真実』を司る判決の神であると同時に『孤児の守護神』でもあるそうな。
で、ものっ凄い厳格な女神さんで有名であり、『厳格に身を律してアルマナリス様を崇め、弛まぬ信仰と修練を欠かす事のない正規の神官であっても、そうそう神託を受ける事は出来ない』らしく、更に言えば『アルマナリス様から個人名を指しての討伐指定とか、相手が魔王か邪神でもない限りはあり得ないわよ』だそうだ。
じゃ、あの時のオッサンはと言うと・・・
「あれは単なる思い込み。コイツ、見ての通りに直情思考でこうと思い込んだら、それが世界の摂理だ! って奴だから。自己補完って事で内なる自分が囁いてるんでしょうよ、多分」
うん、聞きたくない情報ありがとう。
内なる自分が囁いて自己補完って、完璧危ない人だよね、精神的に。
ってか、ヤバい薬でも常用しとんのか、あの人は。
何だろう、知れば知る程頭が痛くなってくる人とか、俺初めてだ
わ・・・。
「あの、イツキ様? どうかされましたか?」
っと、いけね。
余計な事思い出しててクーリアほったらかしちまったよ。
反省せねば。
んじゃ、気を取り直して、と。
あの災厄のオルガ村来訪から既に三日の時が経ち、バナバの街に戻ってきた俺達はと言うと――
ネリンさんの交渉も、俺達の方の交渉も上手く行き、それなりの金銭は期待できそうだってのが現状。
ま、今回は実績作りが主だし、ネリンさんに持ち込んだホットパンツとニーソックスもどれだけ売れるかは、それこそ神のみぞ知るな訳だから、間に入る運び屋としての収入はそう高いものじゃないけど、取りあえず問題はないだろうな。
服自体のアイディア料で幾らか入ってくるってのもあるし、今後、ファスナーが一般化すれば、そっち関係でもアイディア料で回してくれるらしいから、運び屋自体の料金はある意味度外視しても、それなりの収益は期待出来る訳だし。
で、ファスナーの試作を請け負ったミギーさん・・・と、宙づり状態のままミギーさんに頷かされていたオッサンが、まずは一週間を試作期間として提示してきたので、それを受けた俺達はバナバに戻ってきた訳だ。
ただ、ここで困るのが一つ。
そう、やる事がないんだよ。
ネリンさんは自分の店があるからそっちに行くけど、未だ運び屋として動く事が出来ない俺達は、基本が待機になってしまう。
かと言って、バナバの街はそこまで大きな街って訳でもないんで、毎日毎日見て歩いても楽しい場所ってのはそんなにない。
宿に籠ってるのは不健康すぎるし、マローダーに籠って持って来たデータ漁って暇潰しってのもなぁ。
これからもっと寒くなってきたり、それこそこの前みたいに豪雨で動けないって日もあるだろうし、それを思うと今此処で態々不健康な暇潰しをしなくてもねぇ。
と、そこまで考えて思いついたのが、クーリアの運転練習である。
どうせいつかは教える気だったんだし、この際だから丁度良いだろうって思ったんだよね。
ただ、まぁ、話した時には『幾らなんでも神級神代機器を扱うのは』って、クーリアが反対して来た訳だけど・・・。
ぶっちゃけ、これから先も運転出来るのが俺だけしかいないって方がマズイ気がするんだよなぁ。
だって、この前のオッサン襲撃事件みたいに、俺が動けないなんて状況だってないとは言えないし、そんな時に俺しか運転できないんじゃちょっとマズイ。
クーリアが運転できれば逃げる事だって出来るけど、そうじゃないんじゃ亜空間車庫、もしくはマローダーに逃げ込んで籠城するのが関の山だ。
分厚い装甲と窓、頑強なタイヤとでC4爆弾ですら耐えきるマローダーだけど、だからって完全無欠って訳じゃない。
アッチの世界に科学で作られた兵器があった様に、コッチの世界には魔法があるんだ。
中にはC4を上回る威力の魔法だってあるかもしれないし、ドラゴンみたいなとんでもない魔獣に出くわす事だってあり得る訳で・・・。
そんな時、俺が倒れてて逃げられませんでしたとか、本気で笑えない。
俺自身も気を付けるし、これから身を守る術の方も覚えていくけど、それだけってのはちょっと慢心が過ぎるだろう。
より安全に気を配るなら、俺だけじゃなくクーリアも運転は出来た方が色々と良い筈だし。
そんなこんなをクーリアにも話して、納得して貰った訳だ。
なんで、バナバの街からちょっと出た辺りにて、亜空間車庫から始めた搬出した軽トラ使って練習中な訳である。
ん?
何でそこで軽トラなんだって?
まぁ、普段から使ってるマローダーのが良いのは確かなんだけどねぇ・・・。
ほら、ぶっちゃけマローダーって乗り難い部類の車だからさ。
車体がデカい分視界は高くて見通しも聞くけど、その分死角も増える。
その上、車体後部は完全に居住区仕様で後部ドアも潰し気味になってるから、後方確認は左右のサイドミラーだけが頼り。
それと、これが一番デカイんだけど・・・最小回転半径18mって言う小回りの利かない足回り。
普通に考えて最小回転半径で18mも使うとか、相当曲がり難い訳だ。
で、俺の場合は大免まで持ってるし、一応会社時代に10tトラックとか運転させられた事もあるからね。
一応、小回りの利かない車を運転するのも、慣れてはいるんだ。
そんな俺でも、ちょっと慣れるまで掛かった位に、この車の曲がりは悪い。
最初っからそれに慣らしてしまうって手もあるけど、そうすると今度は軽トラなんかの小回りの利く車に乗せた時に切り過ぎてしまったりって言う心配があるわけで・・・。
その辺りを考えると、やっぱり地球の教習通りに普通車に乗れる様になってから、大型やら特殊車両やらって方が安全だろうって判断した訳だ。
いや、まぁ見渡す限り何もない、こんな荒野で何をぬかすと言われればそれまでだけど、これからもずっとそうだって保証もないし。
目的地によっては、大型車でカーブを曲がる為のテクニックを駆使して漸く・・なんてトコもあるだろうって事を考えると、軽トラで慣らしてからマローダーに乗せる事で、『この車は小回りが利かないんだ』って、頭だけじゃなく感覚で覚えて貰った方が安全だと思う。
って言うのも、だ。
会社時代に居たんだよ、バカが。
ソイツも大免持ってはいたんだけど、持ってるだけのペーパー状態な癖して『大丈夫っすよ! オレ、運転上手いんスから!』とか抜かし、細い通りに突入。
結果、予想通りに曲がるに曲がれず、バックも出来ず・・なんて典型的な嵌り方をしてくれましたとも。
近くに住んでる人らは様子を身に集まってくるわ、道塞いじまってるから車は愚か自転車も通れないわで大騒ぎ。
だってのに、その運転手君は自慢した揚句に失敗したって事と、予想と現実の腕の差に混乱してパニック状態。
そのまま運転席に座らせてたんじゃ、いつ自棄になってアクセルベタ踏みとかやらかすかも解らんので、さっさと運転席放り出し、俺が運転する嵌めになった訳だ。
ったく、元々の予定じゃその少し前の大きな通りに停めて、軽トラに積み替えて荷運びする予定だったってのに、ソイツが余計な欲を掻いた御蔭で大幅に時間オーバー。
注文先からは、盛大な文句を喰らう羽目になったともさ。
その間も運転手君はパニック起こしたまんまで、そっちも俺が処理するとか、本気でやってられん。
クーリアの性格を考えれば、まぁそこまで馬鹿な運転するとは思えないけど、そんな前例を知ってる以上は慎重に行きたい所である。
それにどっちみち、クーリアには軽トラを使える様になって貰った方が、色々幅が広がるってのもあるんだよなぁ。
例えば水路掘りなんかを受けたとして、俺がユンボ使って掘りだした土をクーリアには軽トラ、もしくは2tダンプで運んで貰うとかね。
荷物によっては、ユンボで吊らなきゃ詰み込めないってのもありそうだし、そこら辺を考えても、まずはダンプ系に乗れる様になって貰った方が有難い。
まぁ、運転が簡単ってのが一番でかいのは確かだけどさ。
と、そう言う訳で、確り運転教えましょうか!
改めてそう決めて、
「うん、それであってる。で、発信する時はクラッチを・・・」
クーリアに説明を続ける事にした。
前半と後半で一気に変わり過ぎですかね?
その辺りのご指摘もお待ちしております。