異世界の街④-2 「女性の情熱は世界を問わないのな・・・」
こちらは何時も通りのイツキ編。
クーリア視点は一種の番外編、イツキ視点が本編という扱いになっていますのでご了承ください。
店内はここに着くまでにチラリと見えた古着屋に比べ、明らかに高級感をイメージした作りになっていて、商品自体もそれを意識した並べ方になっている・・・らしい。
まぁ、現代日本のデパートなんかと違って、服を見せる為のマネキンだとかも珍しいってのがこの世界での服屋みたいだから、綺麗目な服を着せた人形が1,2体あるだけでも古着屋とのグレードの違いが出ている様で、それを見たクーリアの興奮が再燃したみたいだ。
「いらっしゃいませ。森の衣へようこそお越し下さいました。宜しければ商品の説明をさせて頂きますが、どうなさいましょう?」
店に入って来た俺達を見つけて近づいて来た店員に
「お願いします。この子の服を探しに来たんですが、お願いできますか?」
と返す。
この辺りは織絵との買い物で、ある程度は慣れたものだ。
そもそもが男の俺には女物の流行り等解らない訳だし、流行を知っている店員さんの進めるものの中から、似合っているなと思ったものを選ぶ方が無難だし。
いや、織絵からすれば自分の彼女に着せたいって服位、雑誌かなんかで調べておけばいいんじゃないかっていたけど・・・。
察してくれ。
女物のファッション雑誌を野郎一人で買いに行くとか、マジで難易度高いんです。
特にランジェリー特集付きとか、マジ勘弁して下さい。
そんなん買いに行った日には、店員さんの目が、ね?
こう・・・、『あぁ、コイツエロ雑誌買う勇気もないんだなぁ~』とか、生ぬるい訳ですよ温度が。
これが見るからにイケメンで女にゃ不自由してないぜって奴なら、『ちっ、リア充しやがってイケメン野郎が』ってなやっかみ半分羨み半分な視線な訳で、笑い飛ばしてやる事も出来るんだろうけど、俺みたいな極々平凡な人間には無理なんです、はい。
なんで、義妹時代から服の買い物に付き合わされた事は多々あるし、選ばされたのもそれなりにあるけど、その時は決まってこうしてたって訳。
特に今回なんか、性別や世代所か世界自体が違う訳だし、日本産まれの日本育ちな俺にこっちの世界の流行だとか解る筈もなし。
だから無難な所で、店員さんのお勧めをお聞かせ願おうって訳だ。
まぁ、一番優先するべきは結局クーリアの意見なんだけどね。
そんなクーリアは、奴隷相手でも丁寧な接客態度を変えない店員さんに少し戸惑いながらも、紹介された服を手に取って見たりして結構楽しそうだ。
何だか見ている限りでは、肌の露出の少ない服を選んでるけど・・・それが好みなのかな?
ただなぁ・・・。
時折、ちらちらと視線が流れる先にあるのが、ミニスカートなんかの活動的な服ってのを考えると、本当の好みはあっちなのかも。
って、そう考えて何となく解った気がした。
ここまでの二カ月を男達の無遠慮な視線に晒されて過ごした所為で、人前に肌を晒すって行為に恐怖があるのかもしれない。
ま、考えて見りゃそうだよな。
愛し合い、互いに身も心も委ねた相手に自ら望んで体を晒すんじゃなく、押し付けられた環境で望まないままに肌を晒されす事を強制され、好奇と興奮に満ちた視線を浴び続けたんじゃ、どうしたって恐怖心と嫌悪感が刻み込まれてしまうのは無理もない。
取りあえず、数着程肌の露出の少ない――長めのスカートと質の良いブラウスの様な服を選んだみたいだけど、やっぱりチラチラと向かう先にはミニスカートの類。
「あ~・・成程。こっちにゃホットパンツとに―ソックスとかないもんなぁ」
あれだったら活動的な上、大きく動いたら下着が見えてしまいかねないミニスカートと違って安全だ。
足の露出も膝上まであるオーバーニーソックスなんかを履けば、殆ど隠せるし。
ついつい口を吐いて出た言葉に、クーリアと店員の視線がこっちを向く。
「あの、イツキ様? そのホットパンツとニーソックスって言うのは?」
小首を傾げながら聞いて来るクーリアに、俺は口に出してたのかと思いつつ頭を掻く。
「あらら、口に出してたか・・。えっとホットパンツってのは凄く短いズボン・・そうだね、この辺りまでしか丈がないズボンの事で、ニーソックスってのは・・・、靴下は解るよね? あれの膝上まで来る様なやつを言うんだよ」
説明が難しいので、ここまでと自分の腿の付け根辺りを指しながらホットパンツの説明をすると、クーリアが少し顔を赤らめる。
「それは・・・随分と短いですが、大丈夫なんですか? その、下着が見えたりとかは・・・」
あぁ、成程。
ついつい地球基準で考えてたけど、こっちの世界で下着って言ったら基本的にドロワって言うヤツみたいだしね。
あの腰と裾を絞ったトランクスみたいな。
「その辺の心配はないよ。ショーツ・・・クーリアが履いてる下着なら、裾から下着がでたりって事はないし、そもそも短いとは言えズボンなわけだから、ミニスカートよりその辺は安全だと思うよ?」
説明の都合上、クーリアの履いてる下着とか言っちゃったけど、セクハラとか言わないで欲しい。
だって、そうでもしなきゃ説明できないんだよ。
ブラとショーツなんて下着はこっちにないみたいだし、クーリアだってショーツって言われて直ぐにピンとくる程馴染んでる訳じゃないしさぁ。
そんなある意味自爆覚悟の説明が功を奏したのか、大体こんなもの位には解って貰えたらしい。
ただ、それに興味津津に――クーリアだけじゃなく、店員まで――なられるとは思ってなかったけど。
その如何にも見て見たい! って視線に耐えられず、俺は内心で溜息を吐く。
いや、でも待てよ?
これって商売のチャンス?
ここで売り込めれば、アイデア料って事で商売が出来るかも知れない。
そう思った俺は、一旦クーリアを招いて内緒話。
内容は当然今思いついた事、そしてその為に一旦亜空間車庫のマローダーに戻って現品や写真何かを持ってくるって事だ。
女性用下着同様、こっちも織絵様のご意見である程度の衣服は持ってきてるからな。
参考品って意味で渡す位は問題ないだろう。
ん?
現品があるなら男物のズボンなんぞ履かせてないでそっち渡せって?
そんなのはクーリアと出会った状況を思い出してから言ってくれ。
つい数十分前まで真っ裸で檻の中~なんて扱いを受けてた女の子に、露出多めの服を渡すとか出来ませんって。
それに今だって本来の好みよりも、肌を晒さないって言う点に重点おいて選んでたし、普通に考えてトラウマもんなのは解るだろ?
とまぁ、その辺りは置いとくとして、俺の考えを聞いたクーリアは少し考えた後に口を開いた。
「良いと思いますよ? これも両親からの又聞きになってしまいますが、流行に左右される服飾商・・その中でも新品の衣服を扱う店では自らが縫製を手掛ける事もあって、人脈も広く商人同士の繋がりも深いそうですし」
あぁ、良いね。
予想以上に良い条件だ。
広い人脈と商人同士の繋がりがあるってのが特に有難い。
噂話って形で他の街の情報を持ってたりもするだろうし、この店でホットパンツのアイディアを売り込む事が出来れば、他の街へ行った時に同じ様に衣服のアイディアを渡す事で資金の足しに出来るかもしれない。
現代から中世に至るまで、時代時代で流行った服装に関するデータは資料として持ってきているから、提案できるものは結構な数がある。
それを考えると、これは結構良い商売になるかもしれない。
いや、まぁ、現段階では取らぬ狸の~なんで、逆上せ上る訳には行かないけどさ。
ま、そうと決まればやる事は一つ。
クーリアにちょっと待ってて貰える様に言うと、店を出て脇の路地に駆け込む。
周囲に人気がない事を出来るだけ慎重に確かめると、亜空間車庫へと続く扉を開き、一目散にマローダーの居住区へ。
衣類関係が纏められている収納の一つから、ホットパンツを三着とニーソックスを5足位引っ張り出して、再び店に戻る。
あぁ、勿論亜空間車庫は閉じてきましたよ?
俺以外だと、クーリアみたいに魔力登録した人間しか入れないって言ったって、無警戒に空けっぱなしにする程バカじゃないですって。
店に戻った俺がホットパンツを手渡すと、渡されたクーリアは興味深そうにホットパンツを広げて確認している。
「これが・・・。確かにイツキ様の説明の通り、随分と裾が短いですが・・・」
うん、まぁ、実際に見て見ればそんな感想だよね。
「そう言う服だしね。で、足を出したくない場合は・・・ほら、このニーソックスを履けば結構隠れるでしょ? まぁ、それでも幾らか出るのは出ちゃうけど、そこが嫌ならタイツとかって手もあるし」
ちなみに、日頃からホットパンツを愛用していた織絵はタイツ派だった。
性格的に活動的な恰好が好きだったから、ホットパンツは結構早い時期から愛用してたんだけど、その下には大体黒いタイツを履いて晒される筈の脚を隠してたって訳だ。
まぁ、『幾ら足とか腕とかでも、お兄ちゃん以外の男の人に肌を晒すのは嫌だし』って言って、夏でも薄手の長袖を着て顔や手以外は極力肌を晒さないなんて徹底ぶりだったんだから、アイツの貞操観念はある意味筋金入りだと思ったね。
とまぁ、そんな理由もあるんで活動しやすい服装って言うと、俺の中ではホットパンツが真っ先に浮かんだ訳で。
クーリアは暫くの間ホットパンツとニーソックスを見比べていたのだが、
「お客様。試着室をお貸しいたしますので、一度お試しになって見たら如何でしょう」
それを見かねたらしい店員さんが割って入る。
「えっと、良いんですか?」
尋ねるクーリアに店員さんは笑顔で頷く。
「はい。それに正直申しまして、私も始めて見る御衣裳でして・・。実際に来てみるとどの様なものか、気になっているのですよ」
そう言って笑う店員さんは、本当に楽しげだ。
それを見て、何となく解った。
この店員さん、本当に服が好きで服屋に入ったんだな・・・。
本当に新しい服を見れるのが楽しい、嬉しくて仕方ないって顔してるし。
ま、そう言う理由もあるし、着てみても良いと思う。
いや、そんな風に言えるのは、この店員さんが若い女性だからだけどさ。
もしこれが若い男とかだったら、ちょっと考えるね。
だって、実際にホットパンツを着た時の露出度とか知ってる訳だし、男の視線にトラウマ持ってるクーリアの事考えたら、それはちょっと・・・って所。
あぁ、うん、俺の独占欲も混じってるのは確かだけどさ。
と、俺がそんな事を考えてる間に話が纏まったらしく、俺が渡した服を抱えたクーリアが試着室に入って行った。
そうなれば当然、着替えを待つ間俺は手持無沙汰になる訳だが、そこは流石に心得たものなのか、歩み寄って来た店員さんが話しかけてきてくれた。
「旦那様は随分珍しい御衣裳をお持ちの様ですが、異国の出で?」
あ~・・、これ、もしかしたら暇潰しも兼ねた情報収集かな?
まぁ、別に知られて困る事って言ったら、転生者って事位だから良いけど。
「うん、まぁ、そんな所ですね・・・」
うん、間違った事は行ってない・・・って言うか、これ以外に言い様がない。
だって、流石に異世界から来ましたとか言えないしさ。
結果、何となくお茶を濁す様に答えた俺に、店員さんは納得した様に頷く。
「やはりそうでしたか。旦那様は御髪も瞳も黒くていらっしゃいますし、そうではないかと。この国には黒髪なんて殆ど見かけませんからね」
ん? 殆どって事は少しはいるのか?
しっかし、髪色かぁ・・・。
これもその内どうにかしないと、目立ったりするんだろうか。
そんな事を考えながら店員さんと話していると、クーリアの着替えが終わったらしく試着室のカーテンが開いた。
「あの・・イツキ様、これで宜しいのでしょうか?」
そこに居たのは、当然ホットパンツにニーソックスを身に付けたクーリア。
どうやら俺が渡したものの内、ジーンズ風のホットパンツに黒いニーソックスを合わせたらしいけど、元々肌の色が透ける様に白いクーリアには思いの外似合っていて驚かされた。
「あぁ、うん・・。正直、想像以上に似合ってて驚いた・・・」
ハーフエルフであるクーリアは元々スレンダータイプの美少女な訳だから、こう言う活動的な服装は似合うってのは解ってたけど・・・これはちょっと想像以上かな?
惜しむらくは上が俺の貸したTシャツって事で、色もそうだし大きさ自体がちょっと大き過ぎていてボサっとして見えてしまってる。
でもまぁ、その位なら・・・
一つ思いついた俺は、クーリアに一言断って彼女の長過ぎるTシャツの裾を腰元で纏めて結ぶ。
これで全体的なシルエットがスッキリした。
もう一度見直したクーリアの姿は、さっきまで野暮ったい印象を与えていた長いtシャツの裾がなくなり、ホットパンツが見る様になった事で全体的にスマートな感じに。
うん、織絵がやってた事のサル真似だけど、上手くいったみたいだし、何だかクーリアも気に入ってくれたみたいだし、良かったかな?
ただ・・・・。
店員さん、感心してくれるのは嬉しいんですが、俺、女物ファッションは素人ですからね?
ファッション雑誌なんか見たら、もっと綺麗な着こなしが色々載ってるんですよ?
しきりにうんうんと頷く店員さんを見ながら、この後、ファッション雑誌を見せるのが何となく憂鬱になる俺だった。
思っていたよりも服屋編が長引きましたが、次から少しずつ話が進んでいく予定です。