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鉄鋼車にて異世界へ  作者: 詩月凍馬
異世界にて
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異世界の街① 「ほぅ、これが・・・」

 さて、マローダーを走らせる事凡そ二日。

 そろそろ目的の街が見えてくる頃だ。


 幸いな事にクーリアの首輪はまだ沈黙を保ってくれているが、あまり楽観視する訳には行かない。


 なのでさっさと街に入りたい所ではあるんだが・・・。


「流石にこれで乗り付けたら一騒動だよなぁ・・・」


 マローダーを停車させてギアをニュートラルに戻した俺は、ハンドルに頬杖をついてそうごちる。


 隣からは


「それはそうですよ・・・。この大陸の何処を探したって、こんな神代機器

(アーティファクト)を持っている人なんていませんし。下手をすれば私の事ではなく、これが原因で問題が起きます」


 とクーリアも同意の声を上げてくる。


 それを聞いてそうだよなぁと思いつつも、頭をガックリと落した。


 予想通りっちゃ予想通りだし、元々街が近づいて来たらマローダーを降りて歩く予定だったとは言え、ちと気が重い。

 あぁ、歩くのが面倒くさいって意味ではなく、その間で魔獣なんかに襲われたら対処の仕様がないって意味でな。


 何せこちとら現代日本出身のもやしっ子。

 水泳こそやっていたものの、切った張ったの命のやり取りは愚かまともな武道経験もない俺に、直接戦闘とか完璧無理。


 クーリアも冒険者をしていた両親から、簡単な護身術位は習っていたらしいけど・・・軽い訓練程度で戦闘経験はないって言うし、この前貰った女神さんの加護の方も神殿によって技能覚醒ってのをしない限りは、単なる潜在技能でしかないらしい。


 まぁ、それ以上に問題なのが、マローダー内部には武器になりそうなものがないって事だね。


 クーリアが習っていた護身術――と言うか戦闘術は60cm程の杖を使うもので、この世界では短杖術って言うらしいけど、それに使えそうな棒なんか詰み込んで来てないし、ある物と言えばオークを引き殺した後に持ちだしたスタンロッド位なもので、それはそれで騒ぎのネタになりそうな気がしてならない。


 だってクーリアに言わせれば、スタンロッドの方も立派な神代機器らしいしね。


 ちなみに『神代機器』ってのは、現在の技術では作り方も解らない技術で作られたものの事で、この中には古代魔法文明の遺産から果ては神々から賜った神器までと幅広く含まれている。


 その品物によって3級から一級、更にその上の特級、神級とランク分けされているらしいけど、スタンロッドなら3級、マローダーに至っては神級指定で間違いないだろうと言うのがクーリアの評価である。


 まぁ、その評価をした後に


『私は所詮、冒険者だった両親が見聞きした神代機器の内容から推測しているだけですので、正確なものとは言えないのは確かなのですが』


 と言っていたけど、まぁ妥当な所なんじゃないかと俺は思う。


 何せ、馬代わりにゴーレムとか言う自動人形が引っ張る馬車が一級指定されてる位だ。

 それよりも安全性と操作性に加え、積載量でも優っているマローダーがその上を行くのは確実だろうし、細かい点を加味していけばそれ位はいってしまってそうな気がするからね。


 そんな理由があるんで、じゃぁどうすかと少し悩んだものの、結局はスタンロッドを持って行く事に決める。


 何でも神級は問題外として、3級神代機器は数こそ少ないもののそれなりに出回って入るらしく、それなりに実力があり、金回りの良い冒険者や商人辺りなら持っている事もあるんだそうだ。

 運よく冒険で見つけたのか、それとも買えるだけの金があるのかは兎も角として、金があれば買えるってレベルなのが3級神代機器って事になる。


 その上になると手に入れられる人物がどんどんと狭まって行き、1級で王国の騎士団長クラスの一部か有力な貴族、特急や神級になれば宝物として王城や神殿に祀られているってのが相場だと言う。


 まぁ、闇ルートまで見れば、決してその限りではないんだろうけどさ。


 と、取りあえず方針が決まったので、俺は最低限必要だろう荷物をリュックに詰め込み、スタンロッドと一緒に持ってマローダーから下りる。


 この四日近くの殆どをマローダーの中で過ごしていた身としては、エンジン由来の微かな振動のない地面ってのにちょっと違和感を感じたけど、一度大きく背伸びする間には無くなってくれた。


「んじゃ、行くか」


 亜空間車庫を開いてマローダーを搬入させた俺は、クーリアの方を向いてそう促す。


 ちなみにクーリアは今、ジーパンにTシャツ、その上に袖まくりしたカラーシャツを羽織った恰好だ。


 クーリアの銀に近い色素の薄い金髪と緑の目には、ダークブルーのシャツはちょっと合わない気もするけど、この辺りは仕方ない。

 元々が俺が自分で着る為に持って来た服でしかないし、まさか異世界の女の子に着せるとか想定して選ぼう筈もない訳で。


 取りあえず、街に着いたら服屋に寄るのは確定だな。


 余りクーリアには似合ってないってのもあるけど、男物な上にサイズもあってないから上はブカブカ、下はダボダボで見るからに動き難そうだ。

 下着だけは織絵先生の機転の御蔭でサイズの合った物を渡せたけど、服は買ってあげないといけないね、これは。


 後、靴も。

 今は持ちこんだ履物の内、サイズが違っても一応履けるサンダルを履いて貰ってるけど、これもサイズが大き過ぎて酷く歩きづらそうなので、服と合わせて早急に買い揃える必要があるな。


 そんな事を考えながら歩く事暫し。


 見えてきた街は高い壁で周囲をぐるっと囲んだ城塞都市で、街道に面した壁に大きな門が設置され、鎧姿の兵士が左右に立っている。

 どうやらこれが、この世界で言う『普通の街』の姿なんだそうだ。


 ま、一歩街の外に出れば大型肉食獣は愚か魔獣の類が闊歩していて、場合によっては山賊なんかも珍しい存在ではないこの世界では、極力街の防衛を意識した作りになるって事だろう。


 で、このバナバの街――地図に表示された名前によれば――はセイリームの歳基準で言う小規模な街に辺り、街道沿いにある事で旅の中継点としての機能は果たしているものの、これと言った特産品はない様で、あくまで旅人相手の商売で成り立っていると見て良いだろう。


 実際、検問近くには入出の承認を待っているのだろう、旅人の姿がそれなりに見て取れる。

 その内の多くが一台の馬車と数人の護衛らしき武装持ちで一チームって形で、俺達みたいにその身一つで軽装のままってのは殆どいない。


 殆どってだけで一人二人はいる・・・って、アイツら正気か?


 幾ら武装してるとは言え、ここから次の街まで野宿しながら歩いて行くとか、どれだけ時間がかかるやら。

 え~と、マローダーを平均60キロの速度で大体一日8時間ペースで走らせてここまで2日。

 更にそこから半日の距離に町があったから、バナバの街から次の街までは約376キロ・・・って、それをマジに単独走破する気か、アイツ?

 あの少ない荷物で?


 一瞬そう考えて良く分からない寒気を感じた俺だったが、何の事はない。


 3級神代機器には『収納の~』と名前が付くアクセサリーがあり、そのシリーズを持っていれば別の空間に荷物をしまえる――つまりはゲームなんかで言う所のアイテムボックス的な代物があるんだそうな。


 それを聞いた俺はホッと一息。


 あ~・・・、一瞬、マジであの軽装のままに376キロを単独で歩き切る積りかと思ったぞ。


 って、あぁ、そうか。


 俺がこんな軽装で歩こうとした時にクーリアが止めなかったのは、その神代機器があるからって訳か。

 そうじゃなきゃ、荷物はどうしたとか騒がれるのは確実だし。


 そう納得した俺に、クーリアがもう一つ教えてくれた。


 余程の事がない限り、個人所有のアイテムボックスの中を調べる事は、憲兵と言えど犯罪なのだそうだ。

 元々、馬車の積み荷なんかを調べるのは違法品の所持もあるけど、魔獣の卵や幼獣の持ち込みを警戒してのものなんだと。


 けど、じゃぁアイテムボックスに入れとけば違法品でも持ち込み放題かって言うと、実はそうでもない。

 アイテムボックスには生きてるものを入れる事は出来ないし、そもそもが違法品と名の付くものの大半が特有の魔力反応を示すそうで、収納シリーズを特定の魔法機器で鑑定する事で違反品がないかは確認できるらしい。


 うん、イメージ的に地球で言う所のⅩ線検査に近いかな?


 ま、そんなものがあるんで、一々ボックスを出して中身を見せろってのはまず無いと思って良いそうな。


 で、中には個人スキルとしてアイテムボックス的なものを覚えている人もいるらしく、そう言った人はカードを件の魔法機器に通す事で、収納シリーズと同じく確認できる、とこう言う事らしい。


 と、そこで気付く。


 これって、俺ヤバくないか?

 亜空間車庫の中にはマローダー以外にも数台、向こうから持ち込んだ車両があるんだが・・・。


 内心、そんな不安を抱えてたんだけど、門についていざ検査となって拍子抜けしたよ。


 だって、違反品の反応はなしって事で、すんなり通してくれたし。

 いや、やけに強い神代機器反応がって驚かれたはしたけど、俺のカードに表示されている『リネーシャの寵愛』『世界樹の祝福』を見て納得されてしまったのだ。


 神格からの加護を貰ってる人は、個人所有の高ランク神代機器を持ってる事もあるって事と、セイリームを支える世界樹の神格である女神さんは公明正大を美徳とする事で知られているらしく、それに背く行為をすると一度与えられた祝福なんかは即座に消滅してしまうのだと言う。


「だと言うのに、祝福所か寵愛の加護持ちだ。これを疑ったとすれば、こっちの方が詐称罪を疑われるレベルだよ」


 検査を受け持つ兵士はそう言って笑っていたが、つまりは女神さんの信用がそのまま俺を保証してくれたって訳だ。


 一応、街に入る前にここから馬車で十日程の場所で奴隷商の馬車が魔獣に襲われていた事、奴隷商と御者、護衛は全員が魔獣に殺されて生き残りは馬車の中で捕らわれていたクーリアだけだと伝えた。


 すると、すこしだけ顔をしかめながらも了解してくれたが、クーリアのカードを見て表情を険しくして俺達を詰め所らしき場所に案内した。


 カードには名前と年齢、出身地の他には職業と職業レベルが表示される。

 勿論、これは検問やギルドなんかでの身分証明に際しての表示であって、本来は――自分で確認すると――職業と職業レベルに基づいたスキルなんかも表示されるんだけど、それは兎も角。


 俺のカードについてはまぁ、問題ない。


 内容なんて


  イツキ・ヤムラ

  種族:人族

  年齢:18歳

  出身地:不明

  職業:ドライバーLv3

  リネーシャの寵愛・世界樹の祝福


 ってなもんだし。


 対してクーリアの方はと言うと――


  クーリア

  種族:ハーフエルフ

  年齢・16歳

  出身地:ニミル村

  職業:イツキ・ヤムラの所有奴隷

  奴隷区分:性奴隷

  奴隷スキル:

  リネーシャの加護


 なんて表示な訳だから、そりゃ問題にもなるだろうさ。


 まずハーフエルフってだけで珍しいのに、それが奴隷――それも奴隷の中での特殊で珍しいカテゴリーである性奴隷。

 更には正規の性奴隷なら必ず持っている筈の性奴隷スキルは未収得。


 これ、『私は違法奴隷です』って全力で言ってる様なもんだよなぁ。

 まぁ、だからこそ検査に当たった彼は表情を険しいものにしてる訳だけどさ。


 その兵士の彼は暫く険しい顔で考えていたものの、やがて大きく息を吐いてから口を開いた。


「成程・・・、大変だった様だな。ただ、悪いが俺達は奴隷事情に踏み込めない規則だ。現行犯なら兎も角、今から現場に向かったとしても君が違法奴隷だと立証する事は恐らく出来まい」


 それはつまり、クーリアはこれから最低三年の間は奴隷のままと言う事で。

 解っていた事とは言え、少し気が重くなる。


 その一方で当人であるクーリアは表面上は気にした様子も見せず、


「いえ、それは覚悟してましたから・・・。幸い、イツキ様はお優しいお方ですので、お仕えするのに否はありません。奴隷区分の方も通常奴隷に書き換えて頂けるとの事ですから、私の方は大丈夫です」


 と答えている。


 なら俺に出来る事は、彼女がなるべく不自由しない様に、そして嫌な思いをせずに済む様に努力するしかないんだけどね。


 まぁ、そんな経緯の後、俺達は門を通る事が出来た。


 一応、次からはそう言った場合――魔獣の襲撃に出くわし、犠牲になった商隊なんかを見つけた場合――には、一時的に引き返してでも最寄りの街か村に寄ってくれと念をおされたが、これに関しては俺達の推論――奴隷商達の行動ルートとそれから予想されるクーリアの買い手の存在――について言うと、彼は再び大きく溜息を吐いてから頷いた。


 どうやら、あの街は軍の間では黒い噂が絶えないんだそうで、俺達の推測に関しても恐らくはそうだろうと言うのが彼の意見でもあったんで、それらの事情を考慮して今回はお見逃し、って形に。


 詰め所から出た後はその兵士――どうやら、この街の守備隊長だったらしい――に頭を下げながら門を潜る。


 そして見えたのは雑多な人ごみが行き交い、露天や商店らしき建物の立ち並ぶ石畳の通り。


 その活気もそうだけど、何より色とりどりの髪色、それに人ごみに混じって見えるネコやら犬やらと言った獣耳が目についた。

 中にはエルフやドワーフの様な人も少ないながらも見てとれて、あぁ、成程、種族差別がないってのは本当だったかと大いに納得したね。


 隣を見れば、クーリアの方も少し興奮気味だ。 


 耳がピクピクと小刻みに動いてるし、頬も活気に当てられたのか少し赤い。

 一瞬、首輪のリミットが来たのかと焦ったけど、その眼に浮かんだ好奇心と期待の色を見て一安心。


 さて、それじゃこの街を楽しむ為にも、まずは役場を探すとしますかね。

 そう決めて、俺はクーリアと並んで歩きだした。


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