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鉄鋼車にて異世界へ  作者: 詩月凍馬
異世界にて
12/57

街への道中 「さぁて、いっちょ行きますか・・・」

 異世界三日目の朝。

 昨日の豪雨が嘘の様に青空が広がり、絶好のドライブ日和と相成った。


 そんな中、俺はマローダーを街へと向けて直走らせる・・・事無く、今まで来た道を逆行していた。


 クーリアの話と検索エンジン異世界版で表示した地図を見る限り、今まで走っていた方向に向かえば、さほど時をおかずに街に着くんだけど、どうにも気になる事があってねぇ・・。


 それは――


「ま、確実に厄介事が待ってるよなぁ。あの街って」


 とこう言う事。


 運転席でハンドルを握り、咥え煙草のままに呟いた俺の言葉を聞いて、助手席に座るクーリアが小首を傾げる。


「厄介事、ですか?」


 シートベルトを締めている為、顔だけこっちに向けて尋ねるクーリアに、俺は短くなった煙草を吸殻入れに捨てながら頷く。


「そ。クー、嫌な事思い出させる様でアレだけどさ。あの奴隷商人、今までどこの町にも寄らなかったのに、あの街には寄ろうとしたんだろ?」


「え? あっ、はい・・・。本当なら、ここに来るまでに幾つか街や村がある筈なんですが、どうやら意図的に避けていた様で・・・。あの馬車の中から外は見えませんでしたけど、町や村に入る為に必要な積み荷の検査何かが無かったので確かだと思います」


 少し自信なさそうに言うクーリアだけど、まぁそれは仕方ない。


 あの馬車は外が見えるタイプじゃなかったし、クーリアはずっと檻の中だった訳で、馬車の外を知る方法はなかっただろう。


 ただ、検問がなかったって事から考えれば、街や村に寄ってないってのは確かな事だと思うんだよ。

 もし寄っていれば、馬車の積み荷なんかは絶対に検査されるだろうから、クーリアはその時に憲兵なり何なりを見てる筈だし。


 ま、検問と言う検問を全て、賄賂かなんかで強行突破ってのも考えられない訳じゃないけど、もしそんな方法で検問を突破したとしても街なんかならそこで暮らしてる人の喧騒なんかが聞こえてないと可笑しい。


 現に、道中では護衛の連中がクーリアを出汁に話していたって言う、下卑た話なんかも丸聞こえだったらしいから、街中なんか通ってれば売り子の掛け声だとかは聞こえてる筈だからね。


「そうなると可笑しいんだよ。クーリアが閉じ込められてた馬車ってさ、そこまで大きな代物じゃないし、檻で半分位使っちゃってるから荷物だってそんなに詰み込めないだろ? そんな状態で旅をしてるんじゃ、街や村には確実に寄って食料なんかを補充するのが普通じゃない」


 そう、それが普通。


 地球みたいにアッチにコンビニ、コッチにスーパーなんていつでもどこでも買い物が出来るって環境じゃないんだから、食料なり何なりは補充できる時に補充するもんだろ。


 こっちの道路事情考えても、町や村の間が馬車で三日なんてのは近い方だってのはクーリアも言ってた事だし、それ以上を移動しようっ点なら毎回とは言わないまでもある程度の規模の街なんかによってなきゃ可笑しい。


 食料の問題以外にも、旅暮らしの野営で溜まった疲労だって馬鹿にならないんだ。

 物資の補充も兼ねて街で一晩休みを入れる、位はリスクマネージメントの観点から言っても当然の事だろう。


「なのに、その普通をやってないってのが気になるんだよ。なるべく街に寄りたくないのは、多分、クーリアって言う非合法の商品を見せたくないからって考えれば解るんだけど、そこまでして避けて来たのに、次の街だけ寄ろうとか、ちょっと変だと思わない?」


 そう尋ねる俺に、クーリアは顎先に手をやって少し考えてから


「確かにそうですね・・・。性奴隷スキルを持っていない、加えて性奴隷調教官への調教同意書がある訳でもない私を憲兵に見つけられれば、その時点で違法奴隷を疑われます。幾ら憲兵が基本的に奴隷事情に関わらないと言っても、明らかにおかしい場合は調査の対象になりますから」


 と答える。


 うん、段々気付いて来たみたいだね。


「だろ? なら何で次の街には寄るんだろって考えると・・・多分、あの街にクーの買い手が居るって事なんじゃないかって思った訳」


 つまりはそう言う事。


 今までの街を危険を冒してまで迂回してきたのは、クーリアって言う違法性奴隷の犯罪証拠を見せない為だろう。


 それなのに次の街には寄るってんなら、その街ならクーリアを見つけられても問題ないって事で・・・・。

 それが個人――憲兵を黙らせる事が出来る程の力を持つ貴族や豪商なのか、それとも街ぐるみで非合法商品のオークションなんかを開催しているのかは解らないけど、どっちにしたってクーリアを安全に売りさばける状況な街って考えると納得が行くんだよ。


 で、そんな所に理由はどうあれ、本来購入予定だったクーリアを伴って行こうものなら、『面倒事カモン!』とか大声で叫んでる様なもんだってのは間違いない。


「まぁ、それが依頼発注って形でクーを連れてこさせたのか、それとも単に近々ハーフエルフが手に入るって聞いて買いつけたかは兎も角、違法奴隷を買いつけようって奴がそう簡単にクーの事諦めると思う?」


「いえ、それはないでしょうね。確かに法的な問題で言えば、商隊を襲ったオークを討伐して、生き残りであり商品である私を見つけたイツキ様は、間違いなく私の所有者と言う事になりますけど・・・。違法と知ってなお性奴隷を求める人物なら、何らかの言いがかりを付けてくると思います」


 だよなぁ。


 解り易いっちゃ解り易いけど、それが問題なんだよ。

 まさか『パターンだよなぁ』なんて笑って済ます訳にも行かないし。


「だよなぁ。考えられるパターンだと・・・問答無用で俺の事『お前が商隊を襲い、皆殺しにした強盗犯だ。そこにいる奴隷がその証拠だ』とか決めつけて牢屋行きにしようとするか、でなけりゃ・・・」


「『その奴隷は既に売約済みであり、お前が引き連れているのは違法だ』、と法律を捻じ曲げて私を連れて行こうとするか、ですね」


 と、ここまでくればもうクーリアにも予想はついてるって事で、俺の言葉にすぐさま続けてみせる。


 ま、クーリアはちょっと純朴過ぎる所もあるけど、基本頭は悪くないみたいだし、その位は簡単に予想できるだろう。


 胸糞悪くなる話なだけに俺は新しい煙草を取り出して、火を付けながら言葉を続けた。


「そのどっちか・・・またはそれ以外って事もあるだろうけど、無事に街に到着、役所に言ってクーとの奴隷契約を無事正式なものにってのは、まず無理だろうなぁ。あの街じゃ」 


 死んだあの商人が寄ろうって位だから、恐らく検問を通れるだけの何かはあるって事だろうし、って事は下手したら街ぐるみで共犯者って可能性が高い訳で。


 そんな街で『襲われた商隊を見つけて、生き残りの奴隷が居たから登録お願い』とか言い出しても、『はい、解りました』なんて素直に登録出来る筈がないと思ってた方が良い。


 そう言った諸々を合わせて考えた場合、態々そんな街に寄ろうって気なんか当然起きる筈もなし。


 なら話は簡単だ。


 別の街に行けば良いってだけの事。


 別に街はそこだけって訳じゃなく、この街道を逆に走ればそこにだってそこそこの大きさの街があるんだ。


 しかも、奴隷商が避けて通ったって事を考えれば、共犯ってのはないと考えて良いだろうから、そっちに向かう方が普通に無難。

 後はその街でクーリア関係の手続きを完全にしてしまえば、一先ず安心は出来るだろう。


 まぁ、だからって完全に気を緩めるってのは悪手極りないから、当然それなりの警戒はするけどね。


 そんな事を考えながら、PCと同期させたカーナビを見やる。


 これも女神チートの一環なのか、検索エンジン異世界版でダウンロードしたセイリームの地図は、SDカードを通してカーナビで使用する事も出来るらしい。

 とは言え、現代日本みたいに交通網が発達してる訳じゃないんで、地図の上に点在する町や村の間に一本道が繋がってるってだけで、詳細表示とかする必要すらない位だ。


 って言っても、ないのに比べると、よっぽど運転するのも楽になるのは確かなんだけどさ。

 ほら、沼地だの川だのっては表示される訳だし。

 後は、街道沿いにひたすら一本道を進むだけで済む。


 後の問題はって言うと――


「今の所、最大の敵は眠気だわな・・・」


 そう、眠気が襲ってくるのだ。

 何せ、道はひたすらに一本道、信号があるわけでもなく、見通しの悪い交差路もない。

 その上、人影なんて全くないと来ればもう、眠気も猛威を振るってくるってもんである。


 いや、一応眠気対策の一環として音楽もかかってるけど、こうも平坦な道が続くとちょっとなぁ。

 幾ら進めど見えてくるのは一面の荒野だけで、視覚的にも飽きがくる。


 まぁ、不平不満を言った所でこればっかりはどうしようもないし、また一昨日みたいに魔獣と遭遇とかも簡便な訳だけど。


 と、そう考えるとクーリアと話でもして眠気を紛らわす位かな、方法なんて。


 そりゃぁ時間が有り余ってるなら、眠気が強くなった時点で軽く一眠りなんてのも手だけど、残念ながらそこまで余裕がある訳でもないんだよなぁ、これが。


 何でかって言うと、原因はクーリアに嵌められた奴隷の首輪。

 これがやっぱり原因な訳で。


 どうやらこの首輪、『三年間は外せない』って以外にも、幾つかの縛りがあるんだそうな。


 その縛りの一つに、『一定時間、奴隷として相応しい行動を取っていない場合、装着している奴隷に何らかのペナルティを与える』ってのがある。


 まぁ、元々奴隷ってのは犯罪者に対する一つの刑罰――『奴隷刑』が始まりだった事を考えれば、ある意味当然と言えば当然の事。

 重犯罪者に対する、『強制的な重労働による緩慢な死刑』こそが奴隷刑って刑罰な訳だから、最低限の睡眠や食事なんかの生命維持に必要な時間以外は、労働に従事しなければならないんだけど、そこはほら、人間って怠けたがる生き物だからね。


 ほっといたら影でサボってるなんて奴が出てきかねない。


 かと言って、二十四時間常に見張りが張り付いてってのは、人的な問題もあるので無理に近い。


 その対策として組み込まれたのが、この縛りなんだそうだ。


 そして犯罪奴隷以外が嵌める首輪にもこれが適応されているのは、奴隷って言う身分とそうなるに至る経緯に理由がある。


 クーリアみたいな違法奴隷を除けば、借金が返せない、税金が払えないとかの理由があるからこそ、奴隷に身を窶す訳だ。

 金銭を得る為に、自ら望んで身売りする場合もこれに含まれると考えて良い。


 で、そう言った身分からすれば、買ってくれた主ってのは抱えている借金を肩代わりしてくれている相手でもある訳で、『自分が返せない借金を肩代わりして貰って置きながら、のんべんだらりと生活するとかあり得んだろ』ってのが、通常奴隷なんかの首輪にもこの縛りが適応されている理由な訳である。


 まぁ、その事は良いんだけど、その縛りがクーリアにも適応されてるってのが問題なんだよねぇ。


 クーリアはスキルこそ取らずに済んでいるけど、登録上の区分は性奴隷。


 首輪の縛りで発生するペナルティーは基本的に区分に基づいた、適切な行動を強制を取るまで、緩慢な――って言っても我慢できる限度って位らしいけど――苦痛を与え続けるってもの。


 それを鎮める為には、『奴隷として適切な行動』――つまりは、主に対して性的な奉仕を行わなければならなくなる。


 俺としては、その状況は避けたいってのが本音である。


 まぁ、これでも男だからね。

 クーリアみたいに可愛い子にエロい事して貰うってのは興味あるけど、だからって首輪の縛りでクーリアとそう言う事をするってのは躊躇われる。


 出会ったばかりとは言え、俺はクーリアの事は嫌いじゃないし、クーリアも俺を慕ってくれてるのは知ってるけど、そう言う関係になるのはもっと後で良いんだよ。

 日々を重ねて互いを知って、その上で愛し合う事が出来たなら、その時はって事。


 だもんで、例えヘタレと言われようが何だろうが、回避できるなら回避するぞって事で、俺はマローダーで街道を直走っているのが現状だ。


 ったく、それを考えるとすぐ近くにあるあの街に寄れないってのは、やっぱり結構な痛手だよなぁ。

 地図を見る限り、マローダーで飛ばせば半日位で着くってのに、そこには寄れないって言うもどかしさ。


 反対側にある街には、地図の縮尺からざっと計算しても、マローダーでも後二日は掛かる。


 となると後はもう、クーリアの首輪に掛けられた縛りが3、4日位の余裕を持ってる事を祈るしかない。


 まぁ、そんな状況なんで『眠くなったら寝れば良いじゃん』なんて言ってられないこの現状。

 十分な睡眠は安全運転の上でも必要不可欠なんで夜は寝るにしても、日中はなるべく距離を稼ぎたいのだ。


 すると、そんな俺の内心に気付いたのか、クーリアは若干表情を曇らせて口を開いて来た。


「あの・・イツキ様? 私の為にそこまで気づかって下さるのは嬉しいのですが・・・無理はしないで下さいね? もし首輪の罰則が起きてしまったとしても、相手がイツキ様であれば私は・・・」


 あぁ、うん。


 そう言ってくれるのは有難いけど、そこはやっぱりねぇ・・。


「まぁ、そう言ってくれるのは有難いけど、俺的にはちょっと譲れないかな? じゃなきゃ、もしいつかクーとそう言う仲になった時に、『あの時もっと頑張ってたらなぁ』とか後悔しそうだし」


 まぁそう言う事。


 このまま日々を重ねていつか愛し合う様になったとして、その時に首輪のペナルティーで既に初体験は済んでいた、とかちょっと違う気がするし。

 いざ発動されてしまえば、それは俺だって覚悟を決めるけど、それでも良いやって妥協だけはしたくない。


「って事なんで、俺の我儘だと思って眠気覚ましの会話に付き合ってくれよ。どうせ、そうじゃなくたって運転中にはそれ位しか楽しみはないんだしさ」


 うん、これも本当の事。


 運転中に出来る事なんて、流れてる音楽を聞くか、同乗者とのおしゃべり位なもんである。

 今回はたまたま、それに時間制限なんて余計なものが付いちまってるってだけで、流れる風景を眺めながらの会話はドライブの醍醐味の一つだ。


 そう言ってやると、漸くクーリアの顔に笑顔が戻る。


 その後は時間制限の事は一端忘れて楽しく会話しながら、セイリームに来て初めての本格的なドライブを楽しむ事にした。


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