表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄鋼車にて異世界へ  作者: 詩月凍馬
異世界にて
10/57

異世界の日常② 「マジですか、女神さん・・・」

 朝食を終え、幸せそうに味の余韻に浸っているクーリアを横目に、俺はこの後何をしようかと考える。


 って言っても、出来る事なんてマローダー内で出来る事に限られるんだけどね。


 そりゃぁ、亜空間車庫でも開ければ他にも選択肢は増えるけど、それだけの為に態々ってのも少し考えもの。

 どうせその内、嫌でも開く事になるのは解ってるし。


 だって、マローダーの中にトイレとかないしさ。

 この豪雨の中、そこらの岩陰で済ますとかちょっと無理がある。

 そうなると、亜空間車庫に何故か付いてるトイレの出番って訳で。


 ま、そのタイミングで風呂とか入ってくれば良いし、そう言う意味では都合がいい。


 何せあの亜空間車庫、態々外に出て~、とかマローダーごとなんてしなくても、人が通れる位の扉はマローダー内に開けられる。


 あぁ、ちなみに外で開いた場合はイメージ的にシャッターだ。

 車庫の名の通りの巨大なシャッターが出現し、俺の魔力を鍵として一気に上に滑り上がって入り口が開くってのが、通常の亜空間車庫の開閉風景。


 室内で開く場合の扉はアレだ。

 デカイ車庫とかにある、人間が出入りする為のドアだと思えば良いって事なんだろ。


 って、それはまぁ良いとして。


 どっちにしろ、亜空間車庫にあるものなんて風呂とトイレ、後は何故か搬入出来た、そして動かせた洗濯機を除けば車両関係位なもん。

 クーリアには始めて見るものだろうけど、今更亜空間車庫の中見てたって退屈なだけだ。


 なら、そうだな・・・と考えて、ふと女神さんからのメールの内容を思い出した。


「あぁ、そう言やパソの方に色んな機能入れたとか言ってたっけ?」


 突然の独り言に、クーリアがコクンと小首を傾げるけど、こればっかりは言葉で説明ってのは難しい。

 女神さん関係は兎も角として、PCだのメールだのは文明レベルが違い過ぎて流石に無理な気がしてならないんで、兎に角便利なもの位に思っといて貰えば良いかな?


 そう思いながらテーブル脇の棚から取り出した、キーボードとマウスをUSBジャックに接続して、モニターの電源を入れる。


 その間に直ぐ隣まで移動してきたクーリアが、興味深そうに覗きこんでくる。

 ただ、やはりこれが何かってのは当然解っていないんで、覗きこんでいるのが手元。

 それじゃちょっと意味がない。


「クー、見てるのは良いけど、手元見てても意味無いよ? ほら、見るのはこっち」


 そう言ってモニターの位置を指さして上げると、


「え、えぇ? 何です、これ・・・? 壁に何だか写って・・・」


 クーリアが視線を向けた瞬間に、タイミング良くモニターが映像を映し始めたものだから、それを確認したクーリアはビックリしたみたいだ。

 ただでさえ大きな目を見開いて、唐突に映し出された風景に固まっている。


 答えを行っちゃえば、単なるデスクトップ画面で、映っているのは背景設定した画像なんだけど・・・それを知らない彼女からすれば、今まで黒い壁だった所に行き成り見た事もない風景が映った様に見えるんだろうね。


 いや、解る様に説明って言うと難しいけどさ。


「これはモニターって言ってね。えっと・・・これ、見えるかな? この中に色んな絵だと何かが記憶されてるんだけど、それを映し出すものなんだ」


 うん、言ってて自分でも思ったけど、説明不十分甚だしいな、この説明。


 けどなぁ・・・。

 魔法文明で育ったクーリアに、機械文明の結晶の一つであるコンピューターを解り易く説明とか、どうやるんだって話。


 ぶっちゃけ、俺がこっちの魔法文明で作られた魔導具の説明とかされたって、多分欠片も解らない自信があるぞ?


 何せ、今の段階じゃ理解する為に必要な知識自体がゼロだしね。

 魔石を使ってどうのって言われても、魔石って何、魔力って電気とどう違うのさ、なんてレベルの俺に、高度な魔法技術の結晶とかもはや理解の外でしかないってのと同じで、機械の機の字も知らないクーリアに説明するとか無理だろ。


 こっちに似た様な魔法道具があれば別だけど、そもそもそんなのがあるのかどうかさえも解らないし。


 兎に角、細かい理屈だとかを抜きに、そう言う物なんだって思って見て貰うしかないので、クーリアにもそれで納得して貰う。

 別に秘密なんじゃなくて、どう説明して良いか解らないからそれで納得してくれて言ったのが功を奏したのか、彼女が頷いてくれて助かった。


 なんで、取りあえずデスクトップ画面に浮かぶアイコンを調べて見ると、見知らぬアイコンが4つ程。


 え~っと・・・・。


 『ステータス:イツキ・ヤムラ』

 『ステータス:車両』

 『検索エンジン異世界版』

 『女神チャット』


 ・・・・・・・・・・。


 って、何よこれ。


 いや、前三つは何となく解るよ?

 こっちの世界にはステータスって概念があるってのは聞いてたし、カードなんて言うそれを確認する為のものもあるって言うし。

 検索エンジン異世界版は・・・まぁ、アッチで言うグーグルだとかヤフー何かみたいな奴だろうしさぁ。


 ただ、この女神チャットって何だよ?


 え、何?

 チャット出来んの?

 女神さんと?


 ・・・訳が解らん。


 うん、後回しだ後回し・・・って、だから後回し何だって!

 何で着信してんさ!?

 しかもFrom女神って、オイ!?


 そんな風にやや混乱しつつも、着信を伝えてくる女神チャットなるアイコンをダブルクリックし、通信画面を開く。

 すると――


『どうやら繋が・・・あら、映像が出てきませんね?』


 と左手を顎先にあて、小首を傾げる女神さんの姿・・・・って、しかも映像つきの音声チャットなのか、これ!?

 慌ててモニターの左端辺りに付いているカメラと、モニターの下の方に付けられているマイクの電源を入れる。


「お、お久しぶり、女神さん・・・」


 あ、あぶねぇ。

 改造屋の親父さんが好意で付けてくれた、カメラとマイクが予想外な所で役に立った。

 ぶっちゃけた話、後ちょっとで異世界行く俺には使い道がないだろって思ってたんだが、こんな形で使う事になるとは思わなんだ。


 ・・・改めて、親父さんに感謝しておこう。


 そんな俺の内心を知らない女神さんは、にこやかに微笑んで返してくる。


『はい、お久しぶりです樹さん。とは言え、先程もメールを送らせて頂きましたので、余り適切な表現ではないかも知れませんが』


 メールは兎も角顔を合わせて話すが久々なら、久しぶりで良いと思うよ?

 いや、まぁ、口には出さないけどね。


 どうやら女神さんも同じ様な事を考えたらしく、小さく笑うと言葉を続けてくれた。


『この女神チャットもそうですが、色々樹さんには説明しなければならない事がありますので・・・。お忙しかったのであれば謝罪致します』


 いやいや、全然暇してましたよ。

 ってか、何でそんなに腰低いのさ女神さん。


「あぁ、いや、全然忙しくは・・・。こっちじゃ大雨なもんで、土地勘無い以上今日はここでノンビリかなぁって思ってトコなんで」


 ・・・って、ん?

 これ、女神さんが腰低いんじゃ無く、俺が馴れ馴れし過ぎんのか?

 一瞬、そんな考えたが浮かんだものの、まぁ、女神さんも気にしてないみたいだしって事で良いにする。

 女神さんも女神さんで、気にした様子もなく話を続けてくるしさ。


『なら、丁度良かったですね。まず、樹さんが転生された世界ですが、『セイリーム』と呼ばれています。一応、この世界の世界樹に宿る神格である私、リネーシャが治める世界になりますね』


 って、何サラリと爆弾発言してますかこの女神さんは!


「ちょっ、え、何? 女神さんが治める・・・って、女神さん、この世界の主神な訳!?」


『えぇ、そうなります』


 だから!

 アッサリ肯定するなと・・・。


 流石に二の句を失う俺の隣では、根っからのセイリーム産まれのセイリーム育ちなクーリア嬢が、画面越しとは言え突然目の前に現れた主神様に完全硬直。

 声を出すのも忘れて女神さんに見入ってる。


 いや、まぁ無理もないけどさ。


 しかし、そんなこっちの様子には気付いていないのか、女神さんは手元の資料に目を落しながら言葉を続ける・・・・って、資料片手に情報のやり取りって、案外神界もオフィスな感じしてるんかね?


『今樹さんが居られるのがアルクート王国の東の外れになります。こちらは後で検索装置内の地図で確認して頂ければ、どの辺りかは解ると思います。二つのステータスアイコンに関しては、特に難しい物ではありませんし、使って頂ければ解るかと・・・どうしました?』


 漸く資料から目線を上げた女神さん――もとい、リネーシャ様はこっちが驚愕に固まってるってのにようやっと気付いた様子。


 うん、すっごい美形だからそんな風に小首傾げてるのも絵になるけど、正直こっちはそれどころじゃないから、今。


 って言っても、言わなきゃ気付かなそうなんで、仕方なく口を開く事に。


「どうしたもこうしたも・・・リネーシャ様、貴女確か生死を司る神の一柱って言ってましたよね? それが実は世界樹に宿る神格でこの世界の主神だとか、驚愕の事実がポンポン出てきてるんですが」


 そう、驚愕の事実過ぎて、ちと思考が止まっちまいそうな程に驚愕ものの事実がポンポンと。

 これで固まるなとか、それこそ無理だから。


 が、そこはリネーシャ様。

 なんて言うか、始めて見た時の印象と違って結構天然入ってるのか、成程とは頷きつつも、ふわりと笑ってこう仰る。


『えぇ、世界樹に宿る神格でもありますが、今は神力の増大に伴って昇格しまして、複数世界での生死を司る神の一員でもありますから、間違ってはいませんよ? 元々、世界樹の役割の一つには魂の循環と言うのも在りますし、その延長と言う事にになりますね。この世界の主神と言う事に関しても、別に意識する必要はありません。呼び方も今まで通り『女神さん』か、もしくは『リネーシャ』と呼び捨てて下さっても宜しいですよ』


「って、主神呼び捨てとかんな無茶な!? それ、貴女の信者が聞いてたら即袋叩き決定じゃないっすか!」


 宗教ってのはマジで怖いんだぞ!?

 神が絡むと日頃温厚で虫も殺さない様な人でも、何の罪の呵責も無しに人を殺す様になったりする。

 昔、地球でも起きた宗教戦争が良い例だ。

 そんなんに巻き込まれるとか、マジで勘弁だぞ、俺は!


 そんな俺に、リネーシャ様は笑顔のままに再び爆弾を落す。


『まさか。私の寵愛と祝福を受けている樹さんを害す等、それこそ神敵の烙印は免れません。それが解らない信者の方はいないと思いますよ?』


 ・・・・・・。


 どうやら俺、女神さんの加護と寵愛持ちらしいですよ?


 これ、どうしたら良いものやらと一瞬考え――


 諦めた。

 あぁ、うん。

 もう良いやって感じで。


 だって、今更どうこうってのもアレだし、善意でやってくれたんだろう女神さんを責めるのも何か違う気がするし。


 ただ、こう・・・・。

 この女神さんが心底天然入ってるってのは確信したよ、うん。


 だってさ、こっちがこんなんだってのに


『それに、所詮私等この世界の主神というだけです。同じ世界樹の神格である母は、昇格に昇格を重ねて、今や神界に置ける世界樹・・・神聖大樹へと昇格しています。それに比べれば、私等まだ端役に過ぎませんよ』


 なんて笑顔で説明していらっしゃる。


 っつか、女神さんの御母上って今は『神界を支える世界樹』になっちまってるとか、俺にどう反応しろと?

 凄過ぎて、もはや理解不能の領域にいっちゃってるんですが。




 正直、その後は女神さんと何を話したのか、断片的にしか覚えてない。


 だってさぁ、あの女神さん。

 こっちが『驚くのを通り越して冷静になった』所を、更に通り越して驚かせる様な事を時々言ってくるもんで、感情の振れ幅がそれはもう凄い事に。


 取りあえず、女神さんが伝えたかったって情報は聞けたし、まぁ、良いとしとこう。

 そう考えないと、俺の脳みそと心が追い付かない。


 なので俺は一端中座させて貰い、運転席で一服中。


 その間女神さんはクーリアと話すからとの事だったのだが、そっちでも何か爆弾発言が飛び出さないかと戦々恐々してますよ。


 例えば、貴女には私の加――


『そうですね・・・。確かにハーフエルフは精霊魔法への適性は余り高くありませんが、いずれかの神の加護を授かっていれば、その限りでは在りませんよ? もしクーリアさんが宜しいのでしたら、私の加護を授けますが』


 って、来ちゃったよオイっ!?


 いや、精霊魔法の適性が低いってはクーリアも気にしてたみたいだし、いざって時にクーリアが自分の身を守れる様になるっては嬉しいけど!


「ほ、本当ですかリネーシャ様! はい! お願いします! ですから、私に樹様の助けになれる力をお与えください!」


 あぁぁ・・・クーリアも!


 受けるのは良いけど、まずは自分を優先しようよ!? 

 既に一回、家族と村を全滅させられた上攫われるなんて、ヘビーな目にあってるんだからさぁ!


 頭を抱える俺を余所に、居住区の方から暖かく、それでいて何処か荘厳な緑色の光が溢れてくる。


 これ、確実にクーリアがチート化したよね?



 そんなこんなで、異世界二日目、豪雨の午前は驚愕と混乱、そして諦観の内に過ぎて行った。


 こんな調子で果たして午後はどうなるんだろ?

 願わくば、平穏に過ぎて欲しいんだけどなぁ。


 何故か意気投合し、和気藹々と話し合うクーリアと女神さんの会話を運転席から聞きながら、俺は煙草の煙を溜息と共に吐き出した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ